※この作品はR-18です。

盈虚の華燭〜嫁巫女は双子のような義兄に溺愛される   作:朱河なつめ

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弓張月の章④

 ささやかな燭火が明滅するように震えている。

 項垂れていた伊織は面を上げると、祠の破壊を失敗した後の出来事について語り出した。

「喜世を守れなかった私に残されたのは、息子の透悟だけでした。廃嫡処分となった私は透悟を連れて祁月家の屋敷を出て、山師として生計を立てながらがむしゃらに息子を育てました」

 閉鎖的な集落の中で、伊織達親子は村八分のような扱いを受けていた。

 それでも透悟少年は野山を駆け回ってすくすくと成長し、成人すると父親の跡を継いで山師として働くようになった。

「透悟が分別のつく年頃になると、私は祁月家の因習や喜世の死の経緯について包み隠さず話しました。あの子は境遇に僻む事も私を詰る事もなく……一度だけ『親父には悪いけど、同じ轍を踏まない為に俺は家庭を作らない。絶対子供を持たない。呪われた血筋は俺で終いにするべきだ』と言われました」

 凌は困惑の滲む眼差しを祖父に向けた。

 伊織は苦笑いを浮かべると、「透悟も本気だったんだろう。凍鶴さんに出会うまでは」と言った。

「あれは前の祭から二年経った夏でした。透悟と共に入った山中で、足に怪我を負った遭難中の女性……凍鶴さんを発見したんです」

「遭難?」

「ええ。凍鶴さんは二年前から行方不明になっている双子のお姉さん……真鶴(まづる)さんを探して沢鳴の里を目指している途中でした。麓の町で、旅行中の真鶴さんが里の男に声を掛けられて車に乗り込む所を目撃した人がいたと話していました」

 そよぐの心臓がギュッと縮こまった。

 凌も嫌な確信に至ったのだろう、険しい表情で呟いた。

「里の連中に攫われて巫女にされたんだな?」

 伊織は重々しく頷いた。

「ああ。村八分状態の私と透悟は祭には一切関わっていなかったから、真鶴さんが無事がどうか定かではなかったが……一先ず彼女の手当てをして、私たちが所有する山小屋に匿った」

 姉が巻き込まれたであろう忌まわしき祭の実態を知らされた凍鶴は、身も世もなく泣き崩れた。

 聞けば、彼女は早くに両親を亡くし、真鶴がこの世でただ一人の肉親なのだという。

「怪我が癒えたらすぐ山を下りて、真鶴さんの事は忘れて生きるよう彼女に言いました。祭が行われていなければ山を下りる事は容易ですから……」

 山小屋に匿われた凍鶴の世話を引き受けたのは透悟だった。甲斐甲斐しく介抱してくれる朴訥な山育ちの青年に、悲しみに暮れていた凍鶴は少しずつ打ち解けて笑顔を見せるようになった。

「透悟は胸の裡を口にはしませんでしたが、凍鶴さんに一目惚れしたようでしてね。遅咲きの初恋だったからか……凍鶴さんを前にすると、父親の私が見ていて恥ずかしくなるほど初々しい有り様でしたよ」

 当時を思い出したのか、伊織は口元を綻ばせて凌を見遣った。

「凍鶴さんも透悟を憎からず思っている様子でした。しかし、いつまでも彼女を山小屋に留めておく訳にもいきません。凍鶴さんが回復した頃、再度山を下りるように勧めましたが……」

「お袋は拒否したのか?」

 凌の問いに、伊織は嘆息を漏らした。

「ああ。真鶴さんに一目会えるまでは帰れないと言い張って……当然と言えば当然だがな」

「親父はお袋を引き留めようとはしなかったのか?」

「むしろ、何としても彼女を里から遠ざけようと必死に説得していたよ。最後には凍鶴さんを担いで山から下りると言い出して……」

 伊織の右目がじっと虚空を睨む。堪え難い感情を飲み込むように俯き、着流しの腿の上で拳を握り締めた。

「凍鶴さんを説き伏せた時には遅過ぎた。……祭(・)が(・)始(・)ま(・)っ(・)て(・)し(・)ま(・)っ(・)た(・)ん(・)だ(・)」

「え?」

 凌が戸惑ったような声を上げた。

「おかしいよ。前の祭から二年しか経ってなかったんだよな? 里にいる嫁巫女の数に左右されるにしても間隔が短過ぎる」

「その夏、里から嫁巫女が一人もいなくなったんだ」

 伊織の答えは冷然に響いた。

 象牙色の面の上で滑る火明かりに、そよぐは瞳を眇めた。

「嫁巫女になった真鶴さんが……亡くなったからですか?」

 凌がハッと口を噤む。

 伊織は苦渋に満ちた顔で頷いた。

「ええ。全ての巫女が嫁巫女となる訳ではないように、嫁巫女の中でも身に宿す変若水の容(・)量(・)に差が生じるのです。容量が少なければ少ないほど早くに水は涸れ果て……盃である嫁巫女は命を落とします」

 真鶴は八尋の手で嫁巫女となった末、皮と骨だけになるまで変若水は搾り取られた。

 更に、彼女は八尋の子供を身籠っていた。子供を惜しんだ八尋の指示で、瀕死の真鶴は腹を切り開かれ……胎児を取り上げられると同時に絶命した。

 無惨な仕打ちに言葉も出ず、そよぐは口元を両手で覆った。

 凌は恐る恐る伊織に尋ねた。

「その、伯母さんが産んだ子供って……」

「本家の嫡男の要人(かなめ)だよ。私にとっては腹違いの弟で、お前にとって父方では従叔父……母方では従兄になる」

「あの気狂い野郎が従兄!? マジかよ……」

 押し潰されたカエルのように呻く凌の様子に、そよぐはおずおずと口を挟んだ。

「そんなに嫌な人なの……?」

「父親そっくりな、爺ちゃんの弟とは思えねぇぐらいの下衆だよ。餓鬼の頃から何かと絡んできて、暇さえあればぶん殴られた」

「えっ」

 凌は首の後ろをガシガシと掻き毟り、げっそりした顔で続けた。

「我儘放題で育てられた若(・)様(・)の遊び相手と言えば聞こえは良いけど、要するにサンドバッグだよ。昔は要人の方が体もでかかったし力も強かったからな……俺が本格的に山師として働くようになってから、顔を合わせたら嫌味言われる程度になったけど」

 凌の立場では本家の嫡男に歯向かう事は許されず、また伊織も表立って孫を庇う事も出来なかった。

 孤児だったそよぐには理解出来てしまう。

 じっと歯を食い縛って嵐が過ぎ去るまで耐え忍ぶしか術がない時も、人生の中であるのだと。閉ざされた村社会で生きていくのなら尚更だ。

 思わず凌の手に手を重ねると、彼はちょっと目を丸くしてから苦笑した。

「俺は大丈夫だよ。俺の頑丈さは、そよぐもよく知ってるだろ?」

「……うん」

 しっかり手を繋ぐと、伊織は眩しいものを見たように目を伏せた。

「話を戻しましょうか。……山小屋に身を潜めていた私たちはあの男が率いてきた里人に取り囲まれ、真鶴さんの死と共に祭が始まった事を告げられました。そして、凍鶴さんを新しい巫女として引き渡すよう要求されました」

 逃げ場のない山小屋の中、凍鶴は震える声で透悟に尋ねた。

 ――透悟君。貴方が良いって言ったら……わたしを抱いてくれる?

 透悟は喉元に刃を突きつけられるような顔で頷き、凍鶴を抱き締めた。

「透悟が桂男役ならば大人しく巫女の役に就く……凍鶴さんの条件を、あの男はすんなりと受け入れました。凍鶴さんが真鶴さんの妹だと知って、嫁巫女となってもそれほど容量が期待出来ないと値踏みしていたのでしょう。……実際には、凍鶴さんの容量は真鶴さんを遥かに超えるものだったのですが」

 凍鶴は透悟と共に祁月家の屋敷に入り、地獄のような蜜月を過ごした。

 月が盈ちて――凍鶴は無事に嫁巫女となった。

 同時に透悟と結婚し、広大な屋敷の片隅でひっそりと暮らし始めた。

「息子夫婦が所帯を持って間もない頃です。ある日、透悟が青褪めた顔で家にやって来ました。……凍鶴さんの前に哭女様が現れた、と」

 哭女は喜世の時と同じように哭女ヶ淵へ来るよう凍鶴に呼びかけ、祠を壊して自分を解放するよう訴えた。

「どうすれば良いのかと透悟に問われ、私は何も答えられませんでした。どう答えれば良かった……今も分かりません」

 喜世は哭女に同情し、同調したが――凍鶴はきっぱりと哭女を拒絶した。

「透悟は凍鶴さんの意思を尊重し、哭女様の存在をなかった事にしました。どれほど訴えられても目を瞑り、耳を貸さず……息を潜めるような幸せを、息子夫婦は選びました」

 最初から壊れる事が決まっていたような、儚いガラス細工のような幸せだった。

 一年二年と月日が過ぎ、凍鶴は透悟の子供を身籠った。

「同じ頃、あの男はようやく自分がとんだ見当違いをしている事に気付きました。真鶴さんよりも潤沢な変若水の泉を凍鶴さんが宿している事に……そして透悟に、子供が生まれた暁には桂男役を自分に譲れと命じました」

 坂道を転げ落ちるように幸せは崩れ去り、砕け散った。

 伊織はふー……っと息を吐き出した。

 呼応するようにゆらゆらと火明かりが揺らめく。

「透悟は凍鶴さんを連れて、里を抜け出しました。辺りの山を知り尽くした自分なら逃げ切れる可能性が高いと踏んだのでしょう。私も共に来てほしいと頼まれましたが……喜世が眠るこの地を離れる気にはなれませんでした」

 伊織に別れを告げた二人は手に手を取って山に入り、一路麓を――外の世界を目指した。

「数日経ってあの男に呼び出された私は、凍鶴さんを逃がす為に追手と揉み合いになった透悟が嬲り殺されて哭女ヶ淵に沈められた事、その支流の一つに凍鶴さんが飛び込んで流されてしまった事を知らされました」

 凌の手がギュッとそよぐの手を握り締める。

 そよぐは泣きそうになりながら、凌の手を力強く握り返した。

「後は凌からお聞きになった通りです。当初、凍鶴さんは生死不明の扱いでしたが、執念深いあの男が何年もかけて生存を確認し、居所を突き止めて里に連れ戻しました」

 再び地下牢へ囚われた凍鶴の許に駆けつけた伊織を、彼女は驚くほど穏やかな笑みで迎えた。

 ――もう良いんです、お義父さん。

 ――子供は無事です。元気な男の子です。絶対見つからないように遠い街の、捨て子を保護してくれる慈善事業をしている病院に託してきました。

 ――息子は一人じゃありません。可愛い女の子と一緒です。

 ――友人の娘です。本名かどうか分からないけど、シーリアと名乗っていました。わたしと同じように身重で、頼れる人がいなくて、外国から逃げて来たんだって話していました。偶然知り合って、ずっと一緒に行動していました。

 ――訳ありの女の子を匿ってくれるシェルターみたいな場所があって……そこに転がり込んで子供達を生みました。でもシーリアはひどい難産で、赤ちゃんを遺して亡くなってしまって……。

 ――シェルターの管理人のママさんは子供達が大きくなるまで居てくれて構わないって言ってくれたけど、一ヶ所に留まっていたら見つかっちゃうと思ったんです。

 ――シーリアも何かに追われていました。息を引き取る間際、わたしに言ったんです。『イヅル、アタシの娘を隠して。アタシの代わりに守って』って……。

 ――わたし、約束したんです。姉さんも透悟君もシーリアも助けられなかったけど……わたし達の子供は絶対に守るって。

 ――息子もシーリアの娘も見つかっていないなら、わたし達の勝ちです。だからもう……後は透悟君の所へ行くだけ。

 凍鶴の後ろに冷然と佇む哭女の姿に、伊織は全てを悟った。

 明くる日、凍鶴は地下牢から忽然と姿を消した。

 捜索の為に山へ分け入った里人が哭女ヶ淵に辿り着くと、哭女に手を引かれた凍鶴がゆっくりと水の中に沈んでいったそうだ。

「だが凍鶴さんの願いも空しく、あの男は凌の存在も探し当ててしまった。……幼い凌と引き合わされた時に抱いた絶望と喜びは、今日の事のように思い出せます」

 伊織は静かにそよぐを――突然出生の秘密を知らされて動揺する娘を見つめた。

「凍鶴さんが残した情報によると、ご友人はシーリア・バーンズ嬢と仰る英国籍の女性だったそうです。小柄で、茶色がかった金髪の……ちょうど貴女のような薄緑色の瞳をしていたと」

「その人が……あたしの、本当のお母さんなんですか……?」

「ええ、おそらく。シーリアさんは亡くなった後、お世話になっていたシェルター近くの無縁墓地に埋葬されたそうです。詳しい場所は分かりませんが……探せば見つかるかもしれません」

 凌の両腕が優しくそよぐを抱き寄せた。

「そよぐ」

 火影に明るく輝く栗色の髪を撫で、打ち震える体を何からも守ろうとするように抱き締める。

 そよぐは顔をぐしゃぐしゃにして凌にしがみついた。

「お……お兄ちゃん……凌ちゃん」

「うん」

「あたし……あたし、捨て子じゃなかったんだって。あたしもお兄ちゃんも捨てられたんじゃなくて、ちゃんとお母さんがいて、あっ、愛されてたって。守る、為に、手っ、手放したんだって……ッ」

「うん」

 凌の目から涙が一粒流れ落ちた。

「俺達、要らない子供じゃなかったんだな」

 幼い凌とそよぐは、世界に二人ぼっちだった。

 お互いだけが味方で家族だった。お互いしかいなかった。

 ――生まれる前から、自分達は二人ぼっちではなかったのだ。

 生まれて初めて、息をするように。

 そよぐは声を上げて泣いた。

「お……かあさ、ん……お母さん、お母さんお母さんお母さんッ!」

 顔も温もりも子守唄の歌声も知らない、命と引き替えに自分をこの世に送り出してくれた母親を求めて、小さな子供のように泣きじゃくった。

 そよぐを抱擁する凌は、涙に潤んだ目を祖父に向けた。

 伊織は深く微笑んだ。

「お前の成長にどれほど私が救われていたか――言葉を尽くしても、お前には伝わらないのだろうな」

「爺ちゃん……」

「お前も立派な一人の男だ。もう私が守ってやる必要もない」

 凌と、祖父は孫の名前を祈るように呼んだ。

「お前とそよぐさんが決めた事なら、今度こそ私も力を尽くそう。そよぐさんを連れて逃げたいのなら逃げなさい。哭女様の望み通り祠を壊すのなら……遠慮なく打ち壊してしまいなさい」

「良いのか?」

「構わないよ。……桂男とは本来、月にある桂の木を伐り続ける罪人の男を意味するんだ。しかし桂の木の傷は立ちどころに塞がってしまうせいで、男は永遠に桂の木を伐り倒す事が出来ない」

 月桂の杣人――哭女が凌を指して口にした呼称を、そよぐは思い出した。

 月桂は月にある桂の木、杣人は樵を意味する。驕慢なる月桂を伐れという言葉も踏まえれば、桂男の化身である虚ろ桂を伐り倒せ、桂男の業を以て桂男の罪を雪げと命じたのだ。

 吾子と呼んだ、己の末裔たる凌に。

「だが、偽りの神話は永遠ではない。罪人の子孫である私達の手で、神を騙り神を囚える桂男を今こそ打ち倒さなければならないのだろう」

 伊織は粛然と尋ねた。

「父祖殺しの覚悟はあるか? これまで以上に呪われ、祟られ、惨めな死に様を晒すかもしれない。お前に出来るか?」

「やる」

 凌は迷いなく即答した。

「出来る出来ないじゃなくて、必ずやる。俺が伐る。祟られる? 上等だ、末代が祟(・)り(・)返(・)し(・)て(・)や(・)る(・)よ(・)」

 そよぐを抱く腕に力が籠もる。黒曜石のナイフのような双眸が剣呑な光を放った。

「そよぐを守る為なら、神様だって呪い殺してやる」

「お――お兄ちゃん……」

 あまりに苛烈な言葉に呆けていると、凌はそよぐの頬に片手を添えてうっそりと微笑んだ。

「そよぐは誰にも渡さない。俺だけのものだ」

 ――吾が内侍に成るぞ。

 夢の中で聞いた哭女の言葉が甦る。そなたは必ずわたくしの内侍に成るのですよ、と囁く女神の声が。

 ――おそらく事前に凌を説得しないと、彼は本気で哭女を殺そうとするに違いない。

「あの……お兄ちゃん?」

「ん?」

「ちょっと相談したい事が……えと、哭女様が、ね」

 凌の表情がストンと抜け落ちた。

 そよぐは悲鳴を押し殺しながら、しどろもどろに夢の中での哭女とのやりとりについて説明する。

 伊織は驚いた様子で隻眼を瞠った。

「哭女様がご自分の内侍になれと?」

「なれと言うか、もう決定事項だから宜しく〜……ぐらいのノリでした。結局内侍ってどんなものなのかよく分からないままで……」

「喜世や凍鶴さんも同様に内侍と呼ばれていました。凍鶴さんの死後に色々と文献を調べてみたのですが……内侍と言うのは巫女の呼称の一つだそうです」

「巫女の?」

「ええ。ある神社では水に纏わる女神に奉仕する巫女を内侍と呼び習わしていたそうです。哭女様もまた水神ですから、巫女を内侍と呼んでいるのでしょう」

 伊織は顎に手を添え、小さく唸った。

「哭女様のお言葉から察するに、単なる分霊の憑坐ではなく正式な巫女となる事で哭女様そのものを身に降ろし、解放された暁には本来の御座所を見つけ出して連れて行ってほしいと言う事でしょう」

「あたしにそんな事が出来るんでしょうか?」

「哭女様の仰る『異国の同胞』の血が巫女の素質として発現したのかもしれません。嘆けたる仙女……嘆きの妖精……バンシーの事か?」

 バンシーとは、アイルランドやイギリス北部に伝わる女妖精だ。人間の死を予言し、取り憑く家系から死者が出ると大声で泣き叫ぶのだと言う。

「バンシーを日本語訳すると『嘆きの妖精』、もしくは『泣き女』となります。バンシーも水と関わりの深い妖精で、起源を遡るとケルトの古い女神に行き着くそうです」

「あたしのお母さんがバンシーの血筋だったっていう事ですか?」

「推測の域を出ませんが、おそらくは……シーリアさんの出自を水に縁深い、落魄した女神の血族だと考えれば、哭女様がそよぐさんをお気に召してご自分の巫女にと望まれたのも頷けます。あるいは祁月家が祖である月神を信仰してきたように、シーリアさんもバンシーの起源である女神に仕える巫者の家系のお生まれだったのかもしれません」

 伊織は一旦言葉を切ると、先程から沈黙している孫をちらりと見遣った。

「そよぐさんは、哭女様のお望みの通りに?」

 凌の全身から放たれる怒気がピリピリと肌を刺す。

 そよぐは逡巡した末、こくりと頷いた。

「暫く待ってあげるって言われましたけど、多分、断る事は許されないと思います。それに……祠を壊すなら、あたしが哭女様の内侍になった方が上手く行くんじゃないかなって」

「……そよぐさんには申し訳なく思いますが、私も同じ考えです」

 一度は祠を壊そうとして失敗した伊織の言葉は重く響いた。

「凌」

 祖父に呼ばれた凌は視線だけで応えた。

 頑なな孫の無表情に眉尻を下げ、伊織は諭すように告げた。

「お前の気持ちも分からなくはないが、あまり意固地になってそよぐさんを困らせるのではないよ。何が一番大事なのか……二人でよく話し合いなさい」

 青年はフイッと顔を背けた。

 そよぐは溜め息を飲み込み、そろりと凌の腕に身を委ねた。




次こそは久しぶりのスケベ回です。
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