姉と世界に2人だけ取り残されたので、姉をお嫁さんにした弟が、神様を目指すために神のダンジョンに挑む物語 作:XX(旧山川海のすけ)
矛が伸びてくる。
それが俺にはスロウに思えた。
……クラスの能力じゃ無いな。
それぐらい、今の俺は集中しているんだろ。
由宇……
最初は数年ぶりに見た、自分と同年代の女性。
第一印象は騒がしい感じだな。
それで。
兄妹相姦カップルと知って、だいぶ驚いた。
正直言うと、ギョッとした。
言って無いけどな。
彼女には。
流石にムカつかれるだろうし。
お前が言うな、って。
でも……
互いのセックスを見せ合う試練を過ぎたあたりからか……
いつもバカみたいに明るくしているけど、根は真面目て、真っ直ぐなのが分かって来た。
性質があれなんだよな。
お前さん、少年っぽいんだ。
女性の嫌な部分が薄い。
……修司さんは良い奥さんを持ってるよ。
修司さん……
あの人の第一印象は、大人の男性。
これだった。
だからちょっとだけ
「紗耶香がこの人に惹かれたらどうしよう?」
そう、思ったことがある。
初めての夫婦喧嘩をしたときに、言いかけたことだけどさ。
だからあのとき、本気で言い合いになりそうだったんだよな。
紗耶香は由宇に俺が惹かれるんじゃないのかと思ってたみたいだし。
……由宇。お前さんのところは多分、そう言うの無かったんだろうな。
想像できないから。
修司さんと一緒に修行したとき。
俺より一歩も二歩も先を行ってる男性だって思い知った。
だから正直、憧れた。
夫として、俺の目標だったんだ。
……男の悩みも共有してくれたしな。
奥さんに装飾品を贈りたいとか。
子供たちにプレゼントをしてみたいとか。
……1番目はともかく、2番目は親の悩みでは無いのか?
そんなことも言われたっけ。
この迷宮踏破の過程で、お前さんたちはとても大きい存在になった。
なったんだ……
だけど……
俺は由宇の武器・天沼矛を注視していた。
正確には……その長さを。
元々は大体1メートル30センチくらい。
穂先の部分が30センチくらいで。柄の部分が1メートルくらいだから。
それが今は、3メートルはありそうに見えた。
それぐらい伸ばしているんだ。
俺に突き刺さるときに、伸びる速度の最高速度と、矛を突き出す動作がシンクロする。
それを意識して伸ばしているんだろう。
……今だ。
今、俺は勝利する。
俺は……
念じて、
その切っ先が俺の身体の外に向くように。
「え!?」
由宇の驚愕の声と表情。
驚いたのか……
手持ち武器は金遁の術の対象外。
そう思っていたのかな。
……もし対象内なら、まず自分から矛を奪うはず。
そういう判断か。
……その判断は間違って無いよ。
普通はやりそうだしね。
でも、俺は違うんだよ……
最初から、試していないんだよね。
忍具の数の少なさの関係で、試してすらいなかったんだ。
敵から武器を奪うために使う、って使い方。
だからぶっつけ本番。
ただそれでも、知恵は絞った。
1つは、ゲイボルグを否定して、逆に「投げなければ金遁の術を恐れなくていい」というイメージを植え付け。
2つは……
天沼矛の長さが元々よりはるかに長くなるまで待って、そこで金遁の術のチカラを矛の穂先に籠めて、突きを逸らす。
これだ。
……学校で習ったよな?
支点と力点の距離が離れれば離れるほど、梃子の力が高まる。
ごくごく初歩の物理法則だ。
俺の金遁の術で、敵の金属武器を奪う行為をすることは可能かもしれない。
ただ、それでも由宇の筋力に勝たないと実現はせんわ。
だったら……
これだろ。
奪うのではなく、逸らす。
突き出されるものを逸らすためには、元々それほど力は要求されないし。
そこに梃子の原理が加われば、さらに要求される力強さは減る。
そうして、逸らして……
突き進む!
槍系の武器は、敵に懐に入られると弱い。
至近距離になると長さが仇になって無防備になるんだ。
俺の胸を狙っていた矛の穂先は、横に逸らされて俺の肩を掠めて通り過ぎ。
俺は跳躍し、空中で1回転した。
……真空波。
俺の足から伸びるエネルギーの刃は、踵落としの軌道に合わせて振り下ろされ。
由宇の肩口から脇腹までを斜めに切断した。
「あ……」
致命傷を負い、死ぬまでの僅かな時間。
由宇は自分の敗北を悟り、驚きの表情から泣きの表情に変わり
「ま……」
何か言いかけて。
言えず、そのまま光の粒子に変わって消え去った。
真空波を出した姿勢で俺は着地し
由宇の最後の言葉は
負けちゃった。ごめんなさい。
……だったのかなと想像し。
唇を噛み締めて涙を堪えた。
ここで泣くのは許されない気がしたから。