姉と世界に2人だけ取り残されたので、姉をお嫁さんにした弟が、神様を目指すために神のダンジョンに挑む物語 作:XX(旧山川海のすけ)
黒い扉を潜り。
俺たちは悪魔王ベルゼブブが守るという地下6階への階段に向かっていた。
一本道。
まだ階段も、悪臭も無い。
「……本当にあの貰った消臭剤、効果あるんだよね?」
そんなことを由宇が言った。
彼女は今、ベルゼブブ戦に備えてメインを治癒士にしてる。サブは長物使いのまんまだけど。
で、その質問だが……
俺に言われても困る。
まあ、あるはずだと思うよ?
無かったら、マスタファの信用がゼロになるわけだから。
これから先でも俺たち相手に何か商売したいなら、スカを掴ませないと思うんだ。
そう、言おうとしたら。
「……私たちにあれだけ怖い思いをさせて、無意味な代物を掴ませるなんて、多分ないはずですよ。そんなことをすれば、私たちの信用を失うだけでなく、敵意を買ってしまいますから」
……その前に紗耶香が答えてくれた。
流石元社会人。
信用に関する認識が俺とは違う気がした。
敵意、って言葉に。
俺と違って、22才で大学出た後、4年も会社で仕事したんだもんな……。
思い出す。
大学4年で会社の内定貰って、ガッツポーズを取っていた紗耶香。
入社後に、研修が死ぬほど辛いと父親にグチを零していた紗耶香。
初任給で、家族に焼き肉を奢ってくれた紗耶香。
……そのときはまだ、俺は紗耶香を姉さんと呼んでいた……
あまり考えると、身体を重ねたときの記憶と重なって脳がバグりそうになるので。
俺はそこで思考を打ち切る。
「なるほどね。さすが年長者。言葉の重みが違うねぇ」
由宇は紗耶香の言葉に感心したようで。
そんな賞賛の言葉を返してきた。
……実年齢はおそらくトントンのはずだと思うけど。
社会経験の差は外見年齢とドッコイだよね。
由宇がやったのはせいぜいバイト止まり。
責任ある社会人の立場で働いた経験なんて無いハズ。
由宇は高校生のまま、10年以上ここにいるわけだし。
そんな状況で、社会人の常識は身に付かないよ。
「伊達に4年も働いて無いですよ」
そんなことを微笑みながら返す紗耶香。
俺は年齢差で1回、夫婦喧嘩になりかけたから。
そういう返しをしてくれたことに、俺は喜びを感じた。
俺に対して、年齢差が劣等感になってないっていう風に思えて。
純粋に、嬉しい。
……そのときだった。
俺たちの鼻に、鼻が捥げそうなほどの悪臭が差し込んできたんだ。
「く、臭っ!」
由宇の悲鳴。
紗耶香と修司さんは、口を……いや、鼻を押さえた。
行く先に、大部屋が見える。
扉は無い。
その中央に、誰か座っている。
胡坐をかいて、ただ1人で。
俺たちは走り出した。
その臭気に耐えられず、限界が来る前に敵の前に立つために。
そして俺たちは
その誰か……推定・悪魔王ベルゼブブの前に立つ。
その姿は
全体的なフォルムは赤毛の女。
くせのある髪は長く、かなりの美女。
着ている衣装は黒いボンテージ。
そして……
両手足の肘と膝。
その先が全て昆虫のそれ。
背中には半透明の蟲の羽根が4枚、生えている。
そしてその羽根には髑髏の文様が描かれていた。
……間違いない。
こいつだ。
こいつが……悪魔王ベルゼブブ……
俺たちの視線を浴びて
「よく来たじゃない候補生たち。……ここは通さないわ」
異形の女は、ニヤリと笑いながらそう言ってくる。
俺たちはそれには答えず。
修司さんが迷わず、あの消臭剤を振りまいた。