※この作品はR-18です。

仄暗い雪の底から   作:竹@竹林にて。

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禍渡

「…ふっ、んぅ…」

「大丈夫ですか、ゆかりさん…」

「は、い…、ひぅ…あっ!」

 

 きりたんは、小さく細い自らの指をゆかりの浅いところに埋める。そのままゆっくりとかき乱す様にして触れながら、僅かに身体を伸ばして首へと手を回して抱き締める。

未だたどたどしさが残る手付でのその愛撫は、しかしかえって緩やかで優しささえ感じさせる。先に受けたずん子主導の激しい性交の後であるから尚更そう感じられて、ゆかりはその愛撫に心地よささえ感じてしまう。

 

「んぅ…、も、イきま、んぅ…!」

「いいですよ…、んっ」

「…っ!、っふ…」

 

 唇が重なる。

そのまま違いに伸ばされる舌が絡まるのに合わせて、きりたんはゆかりの中に差し込まれた指を一層激しく動かした。入口からそう深くないところにしか触れられないながら、それでもどうにか届く弱点を指先で引っ掻くように。

そうしているうちに、小さな背中に回された手が、腕を回した首筋が痙攣するように細かく震える。薄く瞼を開けて覗き見たその先で、表情が一瞬強張って弛緩する。それに連動するようにして腕の力も抜けた、辛うじて回されている状態。

 

「っは…、お疲れ様、です。ゆかりさん」

「…ん、はぃ…」

 

 唇を離してきりたんは呟く。その呟きも、幾度とない絶頂を強いられたゆかりには微かにしか届いていないようであった。

 

「…もう、お疲れでしょう。ゆっくり、休んでください」

「…ぁい」

「お休みなさい、ゆかりさん。…それと、ありがとうございます」

 

 そう言いながら背中をとんとん、と叩いてやれば、ゆかりは電池でも切れたかのようにかくり、と眠りに落ちる。赤子のようだ、とぼんやり思いながらきりたんはゆかりの身体をベッドへそっと横たえた。

 

 

 

***

 

 

 

「ふぅ……、はぁ…」

 

 ゆかりの身体を拭いシーツを洗濯機に放って。そんないつも通りの工程を終わらせて、ソファに身体を沈めたきりたんの口から自然と溜息が漏れる。

 自分一人でゆかりを初めて犯してから十日程、きりたんはずん子の居ぬ隙を見計らっては密かにゆかりとの性行為を重ねている。

 ずん子から与えられる歪み切った激しい愛撫により性行為そのものに恐怖を抱くゆかりを少しでも安心させるように、きりたんは彼女を抱く際に何よりも優しさを意識した。ゆかりが怯えないように、ただ肉体的でないところでも快感を得られるように。

 それが功を奏したのか、日を重ねるごとに抵抗は少なくなっている。今日に至っては抵抗らしい抵抗など微塵にもなかった。それどころか、自らの意思で少女から与えられる快楽を望んでいるのではないかと錯覚させるような視線を向けるほどに。

己の拙い愛撫をそのように受け入れられることに、きりたんは嬉しくもあり同時に焦燥めいた息苦しさを感じていた。優しさや安心感は意識していたが、こんな風に甘さすら感じられる関係に発展することなんて考えていなかった。

それに対して嬉しさや愛おしさを感じないわけではない。それどころか姉には見せない、そして今後もそうであろう愛らしい姿を独占できるその事実は幼い彼女の独占欲や優越感を大きく満たしてくれる。姉に対して見せる小動物の様に怯える姿と、己だけに見せる不安そうでありながらどこか期待しているような、少なくともきりたんにそう思わせる姿のギャップはそれだけで幼い自尊心に歪んだ喜悦をもたらしてくれる。

しかし、そんなゆかりの様子に喜んでいる場合ではないことをきりたんは深く理解していた。今はまだ隠せてはいあるが、ゆかりを犯すという行為自体をずん子は決して許しはしないだろう。彼女からすれは、きりたんの行いは自身に対する酷い裏切りであろう。それが姉に知れたらどうなるだろう、最悪殺されでもするのだろうか。…いっそ、開き直って姉にゆかりの所有権を主張できたらどれほどよいか、なんならそのショックで元の姉に戻りはしないだろうか、なんて都合の良すぎる妄想が頭をよぎる。

そんな自分を追い込みしかしない思索に疲れたきりたんは、ソファに転がされたクッションに手を伸ばし顔を埋める様にして抱き締めた。視線を横に向ければ、その先で碌に動かされていない漫画とゲームの袋が少し埃被っていた。はぁ、と何度目か分からない溜息を付く。

それを見越したかのようにがちゃり、かちゃりと二つ音がして入口の扉が開いた。自然ときりたんの背が伸びる。

 

「ただいま、きりたん。ゆかりちゃんはどうしてる?」

「…おかえりなさい、ずん姉様。まだ、寝てると思いますよ?今日は特に疲れていたみたいでしたので」

「ふぅん、そっかぁ」

 

 残念そうな様子でずん子は冷蔵庫へと向かう。手早くビニール袋の中身を冷蔵庫の中へと移動させていくその動きは澱みないもので、彼女が狂ったわけではないことを証明している。否、彼女が“正しいまま”狂ってしまったことを証明している。それがきりたんの心に緩やかな絶望となって襲い来る。口から自然と溜息が漏れるが、それが気にされる様子は微塵にもなかった。

 そんな思考の中で、ぼんやりときりたんの中に疑問が浮かんだ。ずん子が狂ってしまった原因は何か、即ち“東北ずん子は何をきっかけに結月ゆかりを監禁したのだろうか”?

 

「…あの、姉様?」

「うん、どうしたの?もうお腹空いちゃった?何か食べたいのある?」

「いえ…、そうじゃなくて」

 

頭に一度湧いた疑問は入道雲のようにぶくぶくと膨らんでいく。膨らんで重みを伴って心にぶら下がる。問うべきか問わざるべきかの逡巡は、一瞬にして過ぎ去ってしまった。

きりたんはそれを躊躇いがちに尋ねてみた。――その問いの先にどのような末路が用意されているのかも知らぬまま。その問いを発しようとするその考え自体が余りに軽率なものであると気付かぬまま。

 

「…どうして、その…。ゆかりさんを閉じ込めたり、したんですか?」

 

 くしゃり。

 何かが小さな音を立てる。卵を落とした音だ、そう気付くのにきりたんは少々の時間を有した。当然のことだろう。

 

「それね。ひどいんだよ、きりたん」

 

 姉が、笑っていたから。はは、と壊れた様に。顔をゆっくりとこちらに向けて。何一つとして笑っていない目がギラギラと輝いている様に、逆にその瞳の奥に暗く深い澱みがあるようにも見えて。きりたんは思わずびくり、と身を竦ませた。

 

「ゆかりちゃんはね、マキちゃんのことが大好きだったの。告白して、女の人と付き合う気はないなんて、酷いこと言われて振られちゃっても、諦められないくらいに」

 

 すたり、すたり、と。ソファへと近寄ってくる。相変わらずの目だけが笑っていない笑顔をその顔に張りつかせながら。それに気圧されて、腰からずん、とソファに身体を沈ませていたきりたんは、逃げるように後ずさる。しかし、目の前の脅威に気を向けすぎていたのだろう。ソファの長さ、背後の腕かけの高さなどすっかり忘れていた。そうして、下がりきった掌が空を切り後ろへとひっくり返りそうになって、

 

「もう。危ないよぉ、きりたん」

 

目の前に迫った姉に支えられてソファの上へと身体を保つことが出来た。しかし、それは二人の距離が最早手を伸ばせば触れられるほどに近付いたことを意味していて、きりたんは緊張と恐怖とがないまぜになったまま黙ることしかできなかった。

 

「それでね、私は沢山説得したの。『マキちゃんはもう諦めたほうがいい』って。『マキちゃんに避けられる度に傷つくゆかりちゃんをもう見ていられない』って。でもね、ゆかりちゃんは少しも聞いてくれないの。『報われなくても、私はマキさんのことを諦められないです』って言って。酷いよね、マキちゃんもゆかりちゃんも。あんなに可愛い可愛いゆかりちゃんの告白を、女の子だからって断るマキちゃんもマキちゃんだし。私の気持ちを少しも分かってくれないゆかりちゃんもゆかりちゃんだよ」

 

 きりたんは追い詰められながら、身体を支えられながら、それでも姉の主張に同情はできても共感は出来なかった。自分の恋愛感情は報われなかった悲しみは分からなくはない。しかし、その原因をゆかりやマキに求めるのは間違っている。マキの恋愛観は決して珍しいものではないし、ゆかりが彼女を思い続けることも誰にも止められることではない。きりたんはそうとしか思えなかった。

 

「だから、ゆかりちゃんを閉じ込めたんだぁ。

 だってここならゆかりちゃんはマキちゃんに会うことも無いからもう傷つかなくて済むし。私が大好きだってことも沢山教えられるし」

 

 怖い、恐い。目の前の存在がただただ恐ろしい。実の姉だと認識できない、したくない。だって、ずん姉様はもっと優しくて、正しくて。

 

「ねぇ、きりたん?」

 

 ぐい、と顔が迫る。視界一杯に姉の顔が広がる。ひっ、と妹が小さく息を呑んだのにも、ずん子は微塵にも気に留めない。

 

「きりたんは、ゆかりちゃんともマキちゃんとも違うよね?私を裏切ったりしないよね?」

 

 そう笑顔で尋ねられる。満面の笑み、それがこれほどに恐ろしいものなのだときりたんは初めて知った。夢中で首を前に倒す。こくこく、と自分がこの十日間何をしてきたのか、など気にすることも出来ぬままに頷いて見せた。

 それをずん子は僅かに目を見開いて眺めて、怯えるきりたんの表情に満足そうな笑みを浮かべて、ただ一言。

 

「うそつき」

 

 その呟きと首筋に感じる痛みを最後に、きりたんの意識は遠のいた。

 

 

 

***

 

 

 

「…ん、うぅ…」

 

 嫌に重く働かない頭に走る痛みを堪えて、きりたんは目を開く。もうこの二週間程で身慣れてしまった寝室、部屋の薄暗さやベッドの存在でどうにかその事に気付きつつもそれ以上のことに気付けなかった。

 

「―――っ、ぁ…」

 

 否、微かに声が聞こえる。声よりは寧ろ音といった方が近いのかもしれないが、兎に角何かの音が発せられている事に気付いた。まだ薄ぼけた焦点をどうにか合わせた視線のその先に、

「あっ、ぉ、いぁ…、ぁっ、は…っ」

「気持ちいいよねぇ、ゆかりちゃん?」

 

 息も絶え絶えになりながら実の姉に犯されるゆかりの姿を捉えた。あぁ、また犯されているのか、それなら自分も何か手伝わねばならないのだろうか。そう思いながら、何故か重く動かない身体を動かそうとして、

 

「――ぇ」

 

 身体に全くと言っていいほどに力が入れられないことに気付いた。

 

「あ、きりたん。起きたんだぁ?お寝坊さんだったねぇ」

「ず、んねえさま…?」

「ぁ、は…」

 

 力が入らないゆかりに覆い被さるようにして、ずん子は脱力しきって目も虚ろな彼女の身体に手を這わせる。胸の先を摘まみ、ぐちゅぐちゅと音を立てながら中心に宛がった指で中をかき混ぜる。その刺激に反応してゆかりは身体を震わせるのだが、その反応にきりたんは違和感を覚えた。息は荒いのに目は虚ろで、喘ぎ声も微かに口から零れるだけ。身体をビクン、ビクンと跳ねさせるだけで普段の様な形ばかりの抵抗すらも無い。

 

「ねぇ、さま…、ゆかりさんになにか…。それに、わたし、なんだか…」

「んー?…あぁ、これ?」

 

 絞り出すようにして発せられたきりたんの問いに、ずん子は特に変わった様子も無くヘッドボードに乗せられた何かへと手を伸ばした。それはテレビやゲームで見たことのあるお香のようなもので、きりたんはぼやけた視界でその香からうっすらと煙が上がっている様子を視認した。

 

「このお香ね、何が入ってるかは私もよくは知らないんだけれど気持ちよくなれる煙が出てくるんだよぉ。すごく効くお香でねぇ、私も初めて使ったときなんか腰に力が入らなくて動けなくなっちゃった位なんだもん。ゆかりちゃんもすぐくたくたになっちゃったし、きりたんももうふらふらみたいだねぇ」

 

 そう、微笑みながらゆかりを犯すのに戻ろうとするずん子の様子は気を失うまでと変わらない平時と変わらないもので。媚香を多量に吸ったことで思考がまとまらないきりたんは、何とか脳内に浮かんだ疑問を精一杯の力で口にした。

 

「なん、で。なんで、わたしまで…」

「ははは、決まってるじゃん。人のものに勝手に手を出した悪い子にはお仕置きしないとね」

 

 そう笑いながらずん子は手の動きは一切止めずにきりたんへと視線を向ける。口調も表情も今まで慣れ親しんだものと変わらないはずなのに、その裏にある歪んだ黒い感情が透けて見えるようだった。

 

「私ねぇ、ちゃんと知ってるんだよお、きりたんが私のいない間にゆかりちゃんとえっちなことしてたこと」

「なん…で、そんなこと…しって…」

「あぁ、最近のインターネットって便利なんだよぉ?アニメとかドラマみたいな盗聴器?とかも通販できるくらいなんだから。ほら、これ」

 

 そう言ってヘッドボードへと身体を伸ばして、小さな黒いものを手に取り振って見せる。まだじんわりと痺れる思考で、盗聴器だったのかとぼんやり思う。

 

「それにしても、ゆかりちゃんが可愛いから仕方ないことかもしれないけど、きりたんがそんなに悪い子だとは思わなかったなぁ。お姉ちゃんがっかりだなー、幻滅しちゃうなー。人のものを勝手に奪っちゃう泥棒さんだったなんてなー」

「…っ」

 

 どこかからかうような口調は、しかしきりたんを気圧させるのに十分なもので。

 

「だから、そこで見てるだけしか許さないからね?どれだけ自分で気持ちよくなってもいいけど、それだけ。ゆかりちゃんには指一本触らせてなんかあげない。そこで私とゆかりちゃんが気持ちいいことしてるのを見てればいいよ」

「―――ぅ、ぅ~~~っ」

 

 荒くなる息を碌に抑える事も出来ず、きりたんは身悶えし唸り声を漏らす。自らの浅慮や不甲斐なさに対する羞恥心と、こんな時でさえ抱かずにいられない欲情とが苦悶の吐息となって口から漏れ出す。

その誤魔化しきれない発情は自らの良心を苛み、一方で姉に犯され続ける想い人の痴態へと視線を釘づけにさせる。それが少女の羞恥と興奮を更に煽るという負の連鎖を生み出す。

 気付けば、きりたんの視界が涙で歪む。見たくない、すぐにでも視線を逸らしたい。逸らさなければ耐えられない。そう思っているのに、その先で繰り広げられる淫行を己の瞳は厭に明瞭に捉えていた。

 

「あは、きりたん凄い顔。そんな顔も出来るんだぁ、面白いなぁ」

 

 妹の苦悶の状況に対して、愉悦と優越の感情を浮かべるずん子。その間もゆかりを責める手は止まることなく、寧ろ更に見せつけるように、聞かせるように、手を動かして音を鳴らしてやる。

 くちゅ、ぬぷ、というねっとりとした音とその度に漏れるゆかりの喘ぎ、時折混じるずん子の嗤いが、きりたんの正常な思考を奪い去っていく。幼い少女にその刺激は余りに苛烈で、気が付けばきりたんは、

 

 くちゅ…

「ん…、あ…!」

 

 何をすべきかの判断もつかぬまま、見よう見真似で己の中心、湿り気を帯びた秘孔へと手を伸ばしてしまっていた。

 

「ふ、ふふ。やっぱり、きりたんもインランさんだったんだねぇ」

 

 そのたどたどしい行為に満足したようにずん子は笑う。そして、仰向けに寝かされていたゆかりの身体を起こして、

 

「ほら、ゆかりちゃん?きりたんも気持ちよさそうだよ、やっぱりきりたんも気持ちいいことがしたい子だったんだね?」

「あ、は…」

 

 相変わらずの虚ろな視線で、しかしどうにか視線を向けるゆかり。その表情がどこか切なそうな悲しそうなものに見え、きりたんの胸中に罪悪感の影が差す。

 

「み、見ないで…」

 

 気付けば、そんな言葉が漏れ出ていた。そんな言い訳がましい言葉を発してもどうしようもないのに。そんなこと分かり切っているのに。

 

「はは、まだそんなこと言ってる。ほら、分かったでしょう?きりたんは自分が気持ちよくなればいい子なんだよ。これで分かったでしょう?本当にゆかりちゃんを幸せにできるのは私だって」

「あ…、んぁあ…!ごめ、ごめんなさい、ゆかりさん…、ひぅ!」

 

 姉の余りに身勝手な主張にも反論できない悔しさ、そして視界の先で犯されるゆかりを助けられない情けなさ。それらがないまぜになって幼い自尊心を地の底に落す。その間も己の秘部をかき回す指を止められないその事実が、更に少女を追い詰めていた。

 

「ねぇ、ゆかりちゃん。私の方が気持ちいいでしょう?きりたんよりも私の方がゆかりちゃんを気持ちよくしてあげれてるでしょう?ほら、きりたんに言ってあげてよ、私がしてあげてる方が気持ちいいって?」

「ぁ…、ぅ…」

 

 その間にも、ずん子は無慈悲に妹を責め立てる。既に折れかけたきりたんの心を今度こそ根元からへし折ろうと、ゆかりにその言葉を紡がせようとする。そうでなくとも、きりたんのプライドは時間と共に崩れ落ちそうな砂上の楼閣だ。諦めたくないという折れかけの心を抱えながら、少女は止まれ、止まれと自らの内側で艶めかしい音を立てる腕を必死に抑える。

 

「ぁ…、い…」

 

 ゆかりが絶え絶えの息でそれでも言葉を紡ごうとする。

 聞きたくない。そう思っても、きりたんは自らを慰めようとするその手を抑えるのに精一杯で。そんな己が情けなくて堪らなかった。

 もうゆかりさんにも幻滅されただろうか。ごめんなさい、ゆかりさん。こんなに早く約束を破ってしまって。そう、悲観に陥るきりたんにゆかりは――――

 

 

 

 

 

 

「たす、けて…、きりたん…」

 

 

 

 

 

 

そう呟いた。

その一言で、部屋の時間が一瞬止まった様に、少なくとも姉妹二人にはそう感じられた。

 予想だにしない言葉に思考が停止した二人を尻目に、辛うじてその言葉を発したゆかりは荒い息を吐き、支えの無くなった身体をベッドの上に倒れさせた。それまで身体を支えていたずん子はゆかりの身体に回していた手を放し、仰向けに倒れたゆかりへと視線を向ける。その瞳は、予想外の言葉に対する動揺に動き、告げられた名前に対する怒りで急速に冷え込んで。

 

「ゆかりちゃん、どういうこと?なんで?」

 

 馬乗りになるようにして、ずん子はゆかりの肩へと掴みかかり虚ろな視線を宙に向けるゆかりの顔を覗き込む。今にも途切れそうな意識の彼女にずん子の怒りが伝わっているのかは定かではないが。

 

「なんで、なんであの子に助けてなんて言うの?どうして?きりたんは助けてくれないよ?愛してくれないんだよ?私だけ、私だけがゆかりちゃんを助けてあげられるの、愛してあげられるの。なのに、なんできりたんに助けてっていうの?ねぇ、どうして?どうして?」

 

 感情のままに言葉を吐き出す。感情のままに肩を掴む手に力を込める。その声も痛みも、ゆかりには届いてはいないのに。

 

「まだ、分からないの?あは、あはは。そうだね。ゆかりちゃんは結構察しが悪いからなぁ。じゃあ、もっと教えてあげないとね?」

「…っふ、ひうん!?」

 

 壊れた人形の様にずん子は嗤う。嗤いながら、ゆかりの身体へと手を伸ばす。ゆかりの中へと差し込む。抜き出す。差し込む。掻き出す。抉る。掻き出す。抉る。優しさなど微塵も無い、ただただ一方的な性交渉。最早痛みと言って差し支えない刺激がゆかりを襲う。

 

「あっ、あっ、ひ、ひぅ、う、ぁ、あぁっ」

「ほら、ゆかりちゃん言ってよ!私の方がいいって!マキちゃんよりもきりたんよりもいいって!私の方が気持ちいいでしょ!?」

 

 狂ったようにゆかりの中をかき乱しながら、ずん子はヒステリックに叫ぶ。返事も待たず半ば脅迫する様にゆかりに迫る。自分を選択する様に、他の誰かを選ばないように。無我夢中に、一心不乱に。

 それほどに動揺していたのだ。ずん子が気付かないことも当然の成り行きだった。媚薬に身体を侵された少女がその情欲を抑えてゆっくりと歩んできたことにも。ヘッドボードに置かれた香入れが彼女の手に収まっていたことにも。今度こそ、ゆかりとあの時結んだ約束を果たそうと乱れる思考の中で固く決意しなおしたことも。

 

 そうして、少女は自身の姉に目掛けてその手を振り下ろして―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それじゃあ、一つお願いがあるのですが…』

 

 

 

『ずん姉様よりも、私を好きになってもらえませんか?

 …突然こんなこと言っちゃって、ごめんなさい。何言ってるんだって感じですよね?』

 

『でも、もう私しか助けられないと思ったんです。私がどうにかしないと、って』

 

『だから、もしも本当に駄目だ、ってなった時は私を頼ってくれませんか?諦めないで、私に助けてって言ってくれませんか?』

 

『絶対に、何をしても助けますから。ずん姉様に逆らってでも、私はゆかりさんの味方でいますから』

 

 

 

『約束します。だから、お願いします。ゆかりさん、私を好きになってください』

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