あと、個人的に気に入っているシーンは人形の集団リョナシーンだったり…。微リョナって少し興奮します。
「此処ですか…」
雨の中、外套のフードを軽く上げてゆかりは鉄柵に囲まれた広場を見渡した。廃園前はさぞ客入りしていたのだろう、これまでに見たことないほど広いサーカス跡地は今や寂れて、かつての繁栄を物悲しく伝えている。
とはいっても、未だに利用できるであろう鉄製のブランコや、楽しさがよく分からない回転遊具、それに所々破れているとはいえあちこちに立てたままになっている設営テント。子供が秘密基地に使うには十分すぎる。はぁ、と溜息を一つ漏らして、ゆかりは無駄に豪勢な造りの入場門をくぐる。
たまたま訪れた村で相次いで起こっていた子供の失踪事件。本来なら特段興味もなく、提示された報酬も正直おいしくない。話半分に聞いて村を出発するはずであった。しかし、それを引き留めたのは“ゴスロリ服に身を包んだドールマスター”という情報で、それを聞いたゆかりは苦虫を嚙み潰したような表情で頭を搔くと、半ば自棄になった様子でその依頼を承諾した。
ざぁざぁと降り注ぐ雨の中、とつとつと器用に水たまりを避けながらゆかりは迷いなく道を行く。そこら中に建てられたテントは無視して、土台からしっかりと建てられた建物を探す。該当する建物を見つけては扉を開いて中を探るを繰り返し、そうしていくつかを確認した後に入った木製のホールを覗いてこの建物だと確信する。
なんてことはない。人形が並べられているのがそこだったからだ。木製の操り人形をテントのような外気の影響をもろに受けるような場所に置くとは考えられない。その考えは正しかったようで、客席を取り囲むように並べられた簡素な棚の上にただ乗せられただけの人形の視線が、否、徐々に顔毎ゆかりの方へと向けられる。かちゃり、と腰に備えた短剣に手を伸ばしながら、魔力を瞳に宿して人形へと視線を向ける。カタカタと動き始める人形たちには、何かが伸びているのが見えた。ゆかりは判断する、魔力で編みこまれた常人には不可視の糸であると。
分析を終えいよいよ短剣を引き抜いたゆかりに向かって、数体の人形が宙を舞い襲い来る。高速で飛び掛かる人形を一体は躱し、そこを狙った一体は蹴り上げて対処する。それに続くようにして飛び込んだ二体は、繋がれた魔力の糸を切り裂いて無力化した。本来切れないはずの糸も、魔術の心得のあるゆかりは短剣に魔力を込めることでそれを断つことを可能にした。そして、ゆかりは確信した。魔力を込めた短剣はそのままに、ホールの奥へ向けて叫ぶ。
「相変わらずあなたは悪趣味ですね、マユ!いるのでしょう?出てきてください!」
その発言に、ゆっくりとステージの袖から姿を現したのは、ゆかりより幾分か幼いテディベアを抱えたゴスロリ服の少女だった。
「…ゆかり。こんなところで会えるだなんて思ってなかった。嬉しい…」
「そうですか、私はあなたがそんな風になってしまって残念なことこの上ないですよ」
忌々しげに言うゆかりとは対照的に、まるで初恋をした乙女のように頬を赤く染めてマユと呼ばれた少女はぽそりと呟く。ぎゅ、とテディベアを抱える腕にも力がこもる。
「なんですか、その様は…。アカデミーに顔を出していた冒険者候補生が魔物娘堕ちなんて、水無瀬先生が聞いたら卒倒ものですよ」
「そんなもの知らない…。私は私が欲しい力のために知識を得ていただけ…。そして見つけたの、この力を…。欲しいものをほしいままにできる力…」
「…大人しそうな顔して、本当に問題児ですねあなたは…!そんなに気持ちいいですか、ドールマスターとやらの力は!」
舌打ちをしてゆかりは叫ぶ。普段の軽薄な態度は鳴りを潜めて、ゆかりはかつての学友を睨む。しかし、当の本人は夢見心地とでもいうようにぼんやりとした様子で佇んでいる。
「…この力はいいの。でも、物足りない。ここに来るのは、何も考えてない無知な子供か、身の程知らずの愚かな冒険者だけ…。そんな人形いらないの…」
そう宙を見て、うわ言のように呟く。そして、険しい表情をしながら剣を向けるゆかりの視線を向ける。先程までの遠くを見つめているような視線ではなく、しっかりとゆかりを見据えている。
「でも、ゆかりは違う。さっきのを見て分かった…。ゆかりなら私のお気に入りになってくれる…。強くて、きれいで、かわいい人形…。だから、ゆかり。私のお人形になって?」
そう言って、マユは手を振りかざす。瞬間、床を這うようにして何かがゆかりへ向かって伸びる。咄嗟に危険だと判断したゆかりは狭い会場の中でどうにか身体を滑らせて回避した。狭い足場を跳ねるようにしながら見れば、それは先程人形を操っていたと思しき魔力糸で、内心肝を冷やした。軽く聞いた話でしかないが、ドールマスターは自身の気に入った生物を糸で拘束して人形にしてしまうのだという。この糸がそうであるならば、回避が遅れていれば今頃お人形の仲間入りだ。
「っ、あんまり、勝手なこと言ってんじゃないですよぉ!」
糸を放たれるのは危険と判断したゆかりは、ならばと逆にステージの上で右の五指から魔力糸を躍らせるマユへと向かって走る。近づいてくるゆかりに少々驚いた様子を見せて、マユは後ろに数歩下がった。
後方へと下がりながら、マユは指先から伸びる糸に魔力を込めゆかりを取り囲むようにして捕えようとする。それを感知したゆかりは床を蹴って宙に跳んだ。そうして自身を取り囲むように炎魔法をぐるりと放つ。浮き上がった火球に飛び込んだ魔力糸は本来の糸がそうであるように、なす術もなく燃え上がり更に糸を伝い燃え広がっていく。
その様に驚いてマユが魔力を解除したのと、ゆかりが炎と共にステージ上に降り立ったのはほぼ同時だった。ゆかりは着地の体勢からすっと立ち上がると、最早数歩でその切っ先が届く位置にいるマユへと剣を向ける。
「本当は、水無瀬先生や初音先輩の前に引きずってでも連れていきたいところですが、もう戻れないところまで行ってしまった以上仕方ありません。せめてもの手向けです、私が介錯して差し上げますよ」
そう、悔しさとも怒りとも憐れみとも取れない複雑な感情を顔に浮かべて言うゆかりだが、マユは未だにゆかりを惚けた表情で見つめている。
「やっぱり…ゆかりってすごいのね。あなたはきっと一生モノになるわ…。ずっと、このテディベアと一緒に、私の隣でずっと可愛がってあげる…」
そう呟くように言うマユにゆかりは苛立ちを覚える。いっそ怪我でも負わせればこの余裕の態度も崩れるだろうかと、僅かに震える手を押し殺して短剣を振り上げた、その時だった。
「でも、おいたが過ぎるのはよくないわ」
マユがそう言うのと同時、後ろから迫りくる何者かの気配にふっと身を翻し、振り上げた短刀をマユではなくその何者かに向けて振り下ろす。それは、劇場に入ったときに襲ってきたものとは大きさの違う人形だった。丁度等身大の人間くらいの大きさのそれは、ステージ裏にも十数体いるようであり、気付けばマユとゆかりを取り囲むようにして歩み寄っていた。多勢に無勢、流石に内心焦りを感じるゆかりであったが、それを悟られないようさも余裕であるように鼻で笑ってみせる。
「は、人形の大きさが変わったくらいで私が倒せるとでも?これぐらいの数なら、過去に暴漢に絡まれたときに経験済みです」
そう虚勢を張ってみせると、何がおかしいのかマユはくすくすと笑った。
「ええ、そうね。ゆかりだもの、これくらいの人数簡単にいなせるのは分かっているわ。…けれど、これならどうかしらね」
そう言って、マユは指を鳴らしてみせる。
『イ、 痛ァイ…』
『モウヤメテクレ…、解放シテクレ…』
『嫌ダ、俺ハ人形ナンカジャナイ…』
すると、人形たちは口々に苦悶の声を上げる。ゆかりが短剣を振り下ろし、胴体に縦一文字の傷をつけた人形のその傷口からは、赤くどろりとした血と思しき液体まで流れ落ちている。
「…まさか…!」
「えぇ…。この人形達は、私のお部屋に不躾に入ってきた身の程知らずの方々…。さぁ、どうする?私は壊れても別に構わないけれど…、ゆかりはどう?ちなみに、小さな人形にやってたみたいに、糸を切れば解放されるのだけれど…。この人数相手に、できるかしら?」
「っ、この、悪趣味女ぁ!」
怒りに身を任せ、ゆかりはマユめがけて一息に駆け抜ける。しかし、それを身を挺して、否、挺するようにされながら立ち塞がる人形達。舌打ちをして、人形たちに致命傷を与えないようにゆかりは飛び跳ねて彼らをジャンプ台代わりにする。そのまま、抜いた短剣を両手で構えて余裕そうに見上げるマユへと狙いを定める。しかし、がしり、と右足に感じる圧力と共に失速してバランスが崩れる。
「な、く、がぁっ!?」
なす術なく木製の床に身体を衝突させたゆかりの近くに歩み寄ると、マユは地面に放り出された短剣を拾い上げる。
「やっぱり…。ゆかりは甘いのね。ホイップクリームをたくさん乗せたクレープみたい。私はあなたのそういうところ大好きよ?…でも、それじゃあ私みたいな、悪趣味な女には勝てないわね…」
「…う、うるさい…!私はまだ、っ、いっ!」
どうにか反論しようと口を開いたゆかりの背を一体の人形がずん、と踏みつける。背中に走る鈍痛に呻き声を漏らしてしまう。
『スマナイ…、アノ魔女ノセイナンダ…スマナイ…』
『トマレ…トマッテクレェ…!』
そう苦しそうに片言で呻きながら、床に横たわるゆかりの身体を人形たちは踏みつけ始める。フードに包まれた頭は体重をかけて押さえつけられ起き上ることもままならない。幾つもの脚の内側で起き上ろうと足掻いていた身体はしかし次第にその動きを緩慢なものへと変えていき、最後にはぴくりとも動かなくなった。
***
少女はいつも一人だった。
持ち歩くには年齢的に不釣り合いなテディベアをいつも抱えて歩く姿は、小柄な少女の外見もあって園児のようだと揶揄されることもあった。
しかし、一方で少女は天才的であった。魔術の実技ではその才覚を遺憾なく発揮し、ただの一度も誉れある第一席の座を譲ることはなかった。
そして、そのアンバランスな様相が彼女を異質なものとしていた。例えば、年相応の趣味や相応しい出で立ちをしていたならば、例えば、少し優れているくらいのどこにでもいる平凡な才覚であったら、少女は誰かと共に歩けたかもしれない。共に歩くに相応しい誰かと出会えたかもしれない。
だが、少女はいつも一人だった。
否、ある時まで少女はいつも一人だった。
***
「ん、ぅう…」
「あ、目が覚めたのね…」
目覚めて、すぐに感じたのは胴体を中心に感じる鈍痛だった。当然と言えば当然だろう、あれだけ人形に踏みつけられたのだ。命があるだけでも儲けものだと思わなくてはならない。
「おはよう、ゆかり…。気分は、どう?」
「はっ…、最悪以外の何物でもないですね」
そう吐き捨てるように言ってみて、しかし、マユは「そう…」と興味があるのかないのかも分からない調子で言う。何はともあれどうにか動こうと身じろぎし、そこで漸く気付いた。手足の感覚が、ない?
「っ、まさ、か…」
思い至って、まだぼやける視界を動かして自らの手足を見る。見て、絶望を覚えた。肘と膝が位置するそこに取って代わるように存在する球体の何か。
「———っ」
思わず言葉を呑む。見間違いだと思いたくて、魔力を瞳に込める。だが、真実はいつだって残酷だ。魔力の干渉を受けていることを示す淡い赤色の光が腕と脚を包み込んでいる。何より決定的なのは、人形たちと同じ細い魔力糸が生えるように腕と脚からマユの指に向かって伸びている点だ。
「マユ!」
「…そんなに大きな声出さないで。耳が痛くなる」
「そんなことはどうだっていいんです!早く、これを直しなさい!直さないなら…」
「直さないなら、何?」
「っ…!」
そこまで言われて気付く。今の自分に何かできる手段は残されていない。腕と脚が使えない以上、彼女の不得手としているであろう近接戦に持ち込むことはまずできない。どうにか動かそうと力を込めるも、動くのは腰を僅かにが精々だ。ならば魔法は、と魔力を練ろうとしたが、魔力因子を込めようとした端から肝心な魔力素が消えていく。恐らく、この建物全体に何かしらの反魔力魔法が仕掛けられている。しかも、マユ自身が使う魔法に関しては反応しない高度なものが。
これはもう積みとかそういうレベルの話ではない。盤面からこちらのキングが取られた状態だ。勝敗はすでに決していて、自分にできることは何もない。
「…分かったでしょう?もう、何もできることはないって」
「…くっ」
悔しそうにゆかりが自らを睨むのを、軽く受け流してマユはゆかりの目の前に立った。
「…ふふっ。でも、これでゆかりは私のもの…。私だけの、お人形…」
「…私が、そんな簡単にあなたのものになるとでも?生憎と、口は自由なんで幾らでも野次を吐いてやりますとも。なんなら嚙みつきでもしましょうか?」
「大丈夫、怖がらなくてもいいの…。痛いことはしないから…」
平然と振舞うように見せて、ゆかりは思考を必死に巡らしている。状況は相手が圧倒的有利、どれほど抵抗したところでそれこそ身体を嚙み千切ることが精いっぱいだ。それだけで、この状況を乗り切れなどできない。これほどまでに相手に生殺与奪を握られている状況があるだろうか。と、そこまで考えて、
「…あと、言っておくけれど、自殺なんてさせないから。舌なんか噛ませない。頭をぶつけるのとかもダメ。そういうことをしようとしたら身体が縛られるように、糸に制約をかけてる」
「…ちっ」
思い浮かんだ可能性を即座に消されてしまい、舌打ちが漏れる。これで、自分は籠の中の小鳥だ。逃げ場はない。
「…何がお望みですか?」
「…望み?」
「そうでしょう?これで私はあなたのお人形なんですよ?何かやってほしいこととかないんですか?踊りでも歌でも、なんでもやってみせますよ?」
半ば自棄になり、ご主人様となった少女にゆかりは問う。他の人形のように全身を人形にしないのも、それに加えてわざわざ自我を持たせたままにしているのも気になっていた。ゆかりの問いに、口元に手を当てて悩む仕草を見せると、マユは徐に右手をゆかりに向かって差し出す。
「っ!?な、なんですか!急にっ!?」
すると、どうだろう。ゆかりの身体は自らの意志に反して体が動き出す。場末の安酒場か見世物小屋で行われているストリップショーのように、ゆかりは下着まで脱ぎ去り何一つとして身に着けていない、生まれたままの姿にさせられた。
「…なんですか、色街の真似事でもお望みですか?あなたみたいな陰気な人、誰も抱こうとなんて思いませんもんね。それで、私みたいな貧相な身体の女と交わるなんて滑稽な…」
「…黙って」
急に全裸に剥かれて恥ずかしさでどうにかなりそうなのも誤魔化して、強気な態度でゆかりはマユを睨みつける。しかし、そんな虚勢を張ったところでマユは何も痛くない。しかし、態度が気に食わないと言いたげに冷たい視線を向けてもう一度右手に魔力を込める。
「ん、あぅっ!こ、こういう辱めです、かっ…!ほん、とに悪趣味、ですね…っ!」
次にゆかりを襲ったのは自らの手だったものによる快感。魔力に操られた熱量を感じない掌は、胸の膨らみに伸ばされて外側から中心へと捏ね上げるようにして揉みしだく。自分の手で行われている行為ではあるものの、自分の意志を無視して行われるそれは自慰とは全く異なり、予想だにしない快感を与えてくる。段々と中心の突起が勃ち上がれば、薄い胸を揉んでいた掌の動きは指先でその突起を爪弾くものに変わる。
「ん、やっ…、じ、自分は気持ちよくならないで、見てるだけなん、て、とんだ変態ですね…っ!」
そんな、自分にとって不利益にしかならない挑発に、マユは乗ってやる。胸の中心を弄っていた手の内の一方が、体中に出来た傷跡をなぞるようにして下半身へと向かっていく。
「んぁあっ!ぁ、あ、やぁっ!」
まるで誰かに愛撫されているように身体をくねらせて快楽に喘ぐゆかりの姿を、僅かに息を荒くしながらマユは眺める。
「あ、んぅ、ぅぅ、んぁああああああっ!」
ゆかりの指がく、と膣内の一際敏感な箇所を擦り上げた途端、普段ゆかりが発するそれよりも高い声を上げて身体を震わせた。そうして絶頂に身体を跳ねさせたゆかりは息を荒げながらくてりと倒れこむ。だが、それで終わりではなかった。
「んぅうう!?や、なんっで、こ、なっ!?」
自分の意志ではない何者かに操られる指先は、体の持ち主を容赦なく責め立てる。快楽の許容量が下がった身体は次の絶頂へと一足飛びで向かっていく。それを受け入れる身体の持ち主の限界など無視して。
「い、いや、ぁ、ああんっ!ま、また、い、やぁああっ!?っ、あ、や、も、やぁあああっ!」
二度目の絶頂から、間髪入れずに次の責めが始まる。やめて、と懇願するも、マユはそれに聞く耳を持たない。それどころか、興奮に息を荒くして熱を帯びる右手をより加熱させる。
「ひ、い、な、はいって、あ、あつ、いぃ!?」
熱く密度の濃い魔力を纏った糸は、あるものは掌に包まれていない胸の先端に巻き付き、更にはその内側へと潜り込み、出ては入ってを繰り返す。またあるものは秘芯を捉え、あるいは膣内の襞を這うように絡み取る。耳や首筋にも、一本では細く刺激が足りないようなら束になって、巻き付くように、擽るように、穿つようにとマユが思うがままゆかりの性感帯を暴き立てるように責め立てる。
「だ、ぇ、っむりぃ、や、も、や、ぃ、イくぅ…っ!!」
マユは興奮に煽られながらも自らの魔力糸を器用に使い分け、ゆかりへと快楽を送り込む。その快楽の奔流に圧倒されるまま、ゆかりは絶頂という高まりへとひたすらに上り詰めさせられた。
「う、も、むぃ…、ひ、ぃ、ぅ」
最早指折り数えるのも億劫なほどの回数絶頂に押し上げられ、言葉かすらも怪しい呻き声しか漏らせぬままゆかりは床へと倒れこむ。びくり、びくりと時折身体を痙攣させるその姿を満足そうにマユは眺めた。その呼吸は荒く、見ようによっては絶頂に押し上げられたそのあとだと言われても納得してしまうかもしれない。
「はぁ…。ゆかり、気分はどう?」
「ひっ!?」
暴力的な快楽調教により呼吸さえ覚束なくなったゆかりは、最早マユに逆らえなくなっていた。肉体を人形に転化させられたから、というだけではない。いつあの快楽調教を強要させられるのかという精神的な枷が、腕の制御を奪われてなお軽口や挑発で自らを鼓舞していた少女の心を拘束してしまっている。
「マユ、あ、ちが、マユ、さまぁ…。もうやめて、いくの、やだぁ…。きもちいのいやぁ…」
「ふふっ、いい感じ…。ねぇ、ゆかり。気持ちいいのが嫌なら、私のお人形さんになってくれる?私の言うことを聞いてくれる、可愛くて強くて綺麗な、私だけのお人形」
「な、ります…。なりますからぁ…」
今にも泣きだしそうな瞳を向けてゆかりはマユに縋りつく。その姿に最早名うての冒険者としての誇りはない。そこにいるのは、人形遣いに忠誠を誓った哀れな敗北者だけだ。
「うん、でもゆかり…。一つだけお願いがあるの」
「お、ねが、い…?」
「マユって呼んで?さま、なんて付けないで…?ゆかりには名前で呼んでほしいの」
「は、い…あ、の…。マユ…」
「そう、マユって呼んで?ゆかり…」
「マユ…、マユぅ…」
甘えるように自らの胸に顔を埋めてくるゆかりの頭を愛おしそうにマユは撫で擦った。
***
少女はいつも一人だった。
否、少女はある時までいつも一人だった。
少女は疎まれていた、あるいは恐れられていた。
誰も話しかけてくれなかったし、誰にも話しかける勇気もなかった。
ある日、テディベアを抱えたまま少女は不安に駆られていた。
誰がそうしたのか分からない、泥まみれの教科書を眺めながら、次の時間はどうすればよいのだろう、と考える。
こんな教科書では授業なんて受けられはしない。
しかも、よりによって今日の問題を解くよう言われるのは自分だ。
くすくすと聞こえる笑い声に、涙が込み上げてくる。そうして、いよいよ溢れ出しそうになったとき、
『あの、あなた天才で有名でしたよね』
彼女は不機嫌そうに、頭を掻きむしりながら隣に遠慮なく座ってきた。
『よりにもよってこんな面倒な問題出されたんで、私に分かるように教えてください』
そう言って、いかにも使い込んでなさそうな綺麗な教科書を机に放り投げて。
それ以来、彼女は問題が分からない、と使い込んでいない教科書と一緒に自分の隣を占領した。
まだ分からない、これはどういうことだ。それが彼女の口癖だった。
気づけば、食事を一緒に食べ、自習時間のさぼり方を伝授され、昼寝をするのにちょうどいい場所を教えられた。
その日も来るのだろうと思っていた彼女は、その前日に貸すと無理やり持たせた教科書を残して姿を消した。
次の日も待った。その次の日も待った。その次も、ずっと次になる日も待ち続けた。
彼女は来なかった。旅に出た、そう聞かされた。
不思議と悲しくはなかった。でも、その日中涙が止まらなかった。
少女は一人ではなくなった。
優しい教師の知り合いが出来た。同じく優しい先輩が出来た。
ただ、そこに一人だけがいなかった。
***
「や、やめろ!欲しいものがあれば何でも渡す!だから、だから命だけ、は…」
男が言い切る前に、喉元を短剣が貫く。白目をぐりんと向けて仰向けに倒れた男からずぼ、と短剣を引き抜くとその人影は丁寧に刃を染める血を拭う。ふう、と溜息を付いて垂れ下がった紫の横髪を揺らす彼女に、もう一つの人影が走り寄る。
「ゆかり…今日は大丈夫だった?」
「大丈夫です。全く心配性なご主人様を持つと大変ですね」
「でも、最近不法侵入とか、多いから…」
「それから身を守るために、人形館で隠れててって話でしょう?」
まったく、と呆れたように言いながらゆかりはマユの額を指先で優しく突く。突かれたところを押さえながらマユは、まだ少し心配そうな面持ちでゆかりを眺めた。
「まぁ、この汚い人間見せしめにすれば暫く来なくもなりますよ。だから、心配しないで」
そう呟いて、肩に手を回してマユを抱き寄せるとゆかりは心配そうに見上げる彼女に優しく口づける。触れるだけのそれでマユは顔を赤く染めて、声にならない悲鳴を上げる。
「ほら、もう夜になります。帰りましょう?私たちの家に」
そう言って差し出した手を主が恥ずかしそうに握るのを笑顔で受け止めて、人形と人形遣いの主従二人は寂れた人形館の奥へと姿を消した。
用語解説
【アカデミー】
ギルドや世界中の王都、都市連合などからの出資によって運営されている、冒険者や兵士を養成する施設。人間相手は勿論魔物や魔物娘も念頭に置いた戦闘技術や野営などの知識、才能がある者には魔法についても教えている。卒業生であれは一定の実力が保証されていることもあり、待遇は一般の冒険者や兵士達と比べて良いとされている。
一見まともな運営をしているように見えるが、出資者が確保した孤児や浮浪児を適切な手続き無しで引き取ったり、才能さえあれば軽犯罪者でさえ教員として採用しうるなどダークな部分も多い。
***
キャラクター紹介
【マユ】
元人間のドールマスター。優秀な魔法使いの一族の生まれでアカデミーでもその魔法の卓越さで同期では一番年少ながら学年首席を譲ったことはなかった。それがかえって災いし周りから遠ざけられ友人も作れず孤独に過ごしていたが、作中のゆかりとの出会いをきっかけに周りとの交流を覚えて友人を得た。
しかし、アカデミーを卒業を待たずに去ったゆかりを失ったことが心の傷となっており、卒業後も実家を勘当されるまで呆然と過ごしていた。家を追い出されて以後は僅かな間ゆかりを追って冒険者として活動していたが、周囲の低すぎる実力に失望し何を思ったか『いっそ魔物娘に身を堕とした方がゆかりと巡り会えるのではないか』と考えて魔物娘に生まれ変わった。大体ゆかりのせい。
昔は優等生然とした態度で家でも大人しかったが本質は割と身勝手で自由人。それがゆかりとの出会いで『このくらい自由でもいいんだ』と良くも悪くも気付いて、特にゆかりが去ったあとは問題児の一人として数えられてしまったし、魔物娘となったあとはその力を思うがままに行使して周囲に恐れられていた。やっぱり大体ゆかりのせい。
元ネタはVOCALOIDのMAYU。ヤンデレ属性とテディベアから割とネタがポンと降りてきた子です。