※この作品はR-18です。

冒険者ゆかりさん、魔物娘に敗れる   作:竹@竹林にて。

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マキさんが吸血鬼なのは決まっていましたが、(執筆当時)難航している中で宮舞モカという中々の爆弾が投下されたので、もううっきうきで使わせていただきました。ワトソン君要素を補うため人猫でお願いしまして、楽しく書かせていただきました。


冒険者のゆかりさんが吸血鬼のマキさんとその従者のモカさんに囚われて冒険終了してしまう話

「何でもいいから割のいい仕事を寄越せ、だぁ?」

 

 怪訝そうな表情を浮かべるギルドの店主に不服そうな頷きで返しながらゆかりは提供されたエールに口を付けた。冷蔵設備が弱いのか温く口当たりが悪い。

 

「そりゃあ、幾らかそんな依頼は無いでもないが、お前さんみたいな若いのが無理して受けるこたぁないだろう。身の丈に合った依頼を受けながらコツコツ稼いでいくのが上等な冒険者ってもんだぜ」

「年齢で実力を判断するとは、ギルドの店主としては余り上等な判断とは言えないんではないですかね?」

「…ほう、言うじゃあねえか」

 

 店主からすれば諭すような言い分も含まれていたのだろうその物言いに対して、挑発するような返答を返したゆかりに思うところがあったのだろう。会話しながら拭いていたジョッキをカウンター脇に乱暴に置いてゆかりにぐい、と顔を近づけた。

 

「そんなら、俺みたいな上等とは言い難いマスター相手でも納得するような実力の証明を提示してもらおうか。いいよな、線の細い若手の嬢ちゃん冒険者さんよぉ」

 

 そう、高圧的に言い放った店主に、しかしゆかりは恐れた様子も怒った様子も見せない。ただ余裕ありげに、口づけていたエールジョッキを静かに置いて傍らに置いてあった鞄を開くとごそごそと中を漁る。そうして少ししたと思うと小さな袋を取り出した。

 

「これなんかどうでしょうかね?最近手にいたばかりの天然ものですよ?」

 

 鼻歌交じりにその袋を逆さまにして掌の上に落としたものを店主に見せる。怪訝そうに顔を近づけた店主は掌のそれに合点がいくと、途端にぎょっとした様子になってきょろきょろと周りを見渡すと先程とは打って変わって周囲を警戒するようにして顔を近づける。

 

「…分かった。分かったから、早くそいつを仕舞ってくれ。周りに見られたら、たまったもんじゃねぇ」

「ふふっ、分かりました」

 

 そう言ってゆかりが袋、そして鞄に仕舞ったそれは“カーバンクルの紅玉”。持ち主に幸運をもたらすとされる、幻獣カーバンクルが体内に宿す宝玉である。遭遇すること自体が稀で、出会うことができても魔術で身を守る彼らから宝玉を確保するのは非常に困難であり、それを有すること自体が冒険者の実力を測る一つの指標とさえ言われる貴重な宝物である。同時に有していれば有力な冒険者を騙れるとして時たま冒険者の間で奪い合いに発展することもある厄介なアイテムでもある。

 ともあれ、実力を示し誇らしげにエールへと口を付けるゆかりを前に、店主は頭を掻きながらはぁと大きく溜息を付くと先程と同じように声を潜めながら口を開いた。

 

「…孤独の洋館」

「洋館、ですか?」

「ああ、ここから山道へ向かう道を少し外れた森の中にある、昔は人嫌いの富豪が隠れ住む為に建てた、ってらしい洋館があるんだが。その富豪が亡くなってもう数十年になってとっくに棄てられた筈のそこが最近になって誰かが住んでるみたいに妙に小綺麗になってるって話でな」

「へぇ、誰か隠れ住んでるのでは?」

「それだったらわざわざ綺麗にして『住んでますよ』と周囲に知らせるわけないだろう。周りに知らせるようにしてるのが不気味だとかで何回も調査してんだ」

「おぉ、結果は?」

「…帰ってこなかった」

「…はい?」

 

 ゆかりの表情が曇る。店主の表情も強張ったままだ。喧噪に満ちたギルドの中、二人の周囲だけが冷えたような錯覚に陥る。

 

「最初の二、三回は街の面子が、しかも二回目と三回目は頭数揃えて向かったんだ。それで誰も帰ってこなかった。それから街に来た腕の立つらしい冒険者に五回。多いときは五人メンバーで向かったこともある。それでも、だ。誰も帰っては来やしない。嬢ちゃんで九回目ってことになる。正直『また帰ってこないだろう』と諦めてる俺も居やがる。解決してくれたら出せるだけの報酬をやろう、その許可は町長から得てる。…どうだ、ここまで聞いて、お前は受けるか?」

 

 店主がゆかりの様子を見やる。不安を煽りすぎたかもしれないと少々心配になったのもある。だがそれ以上に、街にとって秘匿すべき厄ネタを実力があるとはいえ余所者である冒険者に伝えてしまったのだ。『やっぱり怖いからお断りします』などと言われるのは正直困る。

 

「…へぇ、面白いじゃないですか」

「…あぁ?」

「俄然やる気が出てきました。そうですね、明日の日中にでも向かうとしましょうか」

 

 そう、先程の曇った表情は何だったのか、と問いたくなるほどの飄々とした様子でゆかりは依頼を受ける旨を伝えた。その軽い返答に呆れたように溜息を吐いた店主から街から洋館までの道のりを聞くと、一通りの食事を済ませてゆかりはギルドを後にした。

 店を後にして宿に向かう。黄昏時も過ぎたとはいえそれなりに大きな街だ、未だ街灯も灯っており人通りも少なくない。家路を急いでいるであろう街人や飲み屋へ向かおうとする冒険者らしき人も見受けられる。それらとすれ違いながら宿屋へと向かう最中だった。

 

「おう、嬢ちゃん!痛ぇじゃねぇか!」

「…ご、ごめんなさい」

「あぁん?聞こえねぇなぁ!?悪ぃと思ってんなら金目のもんでも出すかぁ!?」

「ひひっ、いっそお前が礼代わりにでもなるってんでもいいぜ?」

 

 そんなやり取りを見た。三人の暴漢と一人の少女。フードを目深に被り大きな紙袋を抱えた少女は恐らく前への注意を怠って暴漢の誰かとぶつかったのだろう。はぁ、とゆかりは溜息を吐いて早足で彼等へと近付く。

 

「おい、なんか言ったらどうだ?それともなんだ?俺らについてくる気に…」

「あのぉ、ちょっといいですか?」

「んだよ、お、んぶぁ!!?」

 

 少女を囲う男のうち下世話に騒いでいた一人の肩を叩き、振り向いたその顔面に裏拳を喰らわせる。外見の細さと相容れない重い一撃に血を流す鼻頭を押さえながら腰を抜かす一人の様子に残りの二人も思わず面食らう。

 

「全く、調子よく酒に酔って後は寝るだけってときに下世話なもの見せつけてくれるじゃあないですか。いいですか、碌に非のない相手に五月蠅く突っ掛かるような情けない真似は止めてさっさと帰りなさい。これ以上痛い目に遭いたくなければ、ですが」

 

 淡々と、しかし有無を言わせぬ口調で言いながら、ゆかりは庇うように少女の前に立つ。不敵に笑う彼女の様子にそれまで狼狽えていた暴漢達も意地を刺激されたらしい。顔を赤く染めて前傾に構える。

 

「っ、急に出てきたかと思えば、生意気言うじゃあねぇかぁ!」

「生意気言ってんじゃねぇぞ、このアマがぁ!」

 

 そう吠え叫んでゆかりへと迫る暴漢二人に、しかし何ら怯む様子もなくゆかりはすっと手を伸ばし、意識を高める。そうしてすぐに火柱が立てば、迫る暴漢らはゆかりとは反対に思わず怯むしかなくなる。そうして寸でのところで躱した内の一人、自分の近くに転がるようにして仰向けになったその男の首元に短剣を向ける。触れるか触れないかの瀬戸際のところで刃を止めて笑う。

 

「さて、実力差は分かりましたかね?これに懲りたら相手は選ぶことです」

 

 そこまですれば、暴漢も相手にしているのが自分達ではどうしようもない存在だと分かったのだろう。覚えてやがれ、と定型句を残して我先にと彼らは走り出していく。

 

「さて、大丈夫ですか?お嬢さん」

「あ、だ、大丈夫です、ありがとうございます…」

「そう、それはよかった」

 

 幾らか酒に任せて普段よりやや軽薄に振る舞いながら暴漢に囲まれていた少女の安全を確認する。翻ったフードの下で揺れる毛先が薄青に染まった黒髪を片手でいじいじと触りながら恥ずかしそうに少女は礼を言った。怪我も無さそうである彼女の様子を見て安心したゆかりは短刀を鞘に戻す。

 

「あの…、お強いんですね」

「ふふ、ありがとうございます。冒険者としては嬉しいですね」

「そ、それはよかったです」

「それでは、帰りは大丈夫ですか?街の中くらいなら送りますが…」

「そ、そんな!そんなお手数かけてもらうなんて、悪いですよ!大丈夫です!」

「そうですか?なら…」

「あ、そ、その代わりなんですが…」

「うん?」

「その、お名前だけ、教えていただけませんか?」

「…そうですね、ゆかり、って言います」

「ゆかり…、お名前もお綺麗ですね」

「そんなに褒められると照れちゃいますね…。それでは、お気をつけて」

 

 そう言葉を残して、ゆかりは気分よさげにその場を後にする。何度か心配げに振り向きつつも宿を目指して通りを曲がって姿を消した。残された少女が、両手でぎゅっと紙袋を抱き締めながらぼそりと呟く。

 

「…ゆかり、さん」

 

 その眼が金色に輝いていたのに、一体誰彼が気付いたのであろうか。

 

 

 

***

 

 

 

「…ん、確かに数十年、誰も住んでないにしてはちょっと綺麗すぎますね」

 

 いつもより少し早めに床に就き同時に少し早めに起床して、まだ少し暗さの残る森を慎重かつ足早に進み、まだ日の高くないうちにゆかりは件の洋館へと辿り着いた。誰か、例えば盗賊であるとかが住み着いていれば厄介だから、と近くの茂みに隠れながら様子を見る。見てみれば、草木が絡まっていたりだとか手すりや柱が劣化しているような様子は見受けられない。窓ガラスでさえ見えるところで割れていやしないのだ。新興の住宅区画に建ってあっても違和感がないのではとさえ思える程である。

 

「それでは、もしいらしたらお顔を見せてくださいよ、と…」

 

 さて、誰か住んでいるのか確かめるべく、ゆかりは玄関の大扉に向けて石を放り投げた。かーん、と静寂の森に音が響く。例えば、盗賊であったり冒険者が根城にしていたとして、こんなことをされれば警戒して誰かしらが顔を出すだろう。そうでなくとも、理性ある者ならば何かしらの反応を見せるはずである。それを期待しながら茂みに身を潜めるゆかりのその耳に、リィン、と小さく音が響いた。

 

「ぅん…?」

 

 聞き間違いだろうか、と耳を澄ましてもう一度、リィン、と音を聞いた。玄関の動きが無いので、とその音の発生源に注意を向けると、ゆかりは森の暗がりに奇妙なものを見た。

 

「あれは…?」

 

 それは蛍の様にも、稀に見かける妖精の発する淡い光の様にも見えた。しかし、それに命めいたものは一切感じえない。ただ、淡い光が丸い形を保って浮いていた。微かに、リィン、と音を発しながら、である。その光はふよふよとその場を漂ったかと思うと、揺らめきながら洋館の一階の窓へと消えていった。

 

「…誘ってるんですか?」

 

 そう思わずにはいられない。しかし、警戒すれど反応が無いのも事実。多少の危険はあれど調査しなければどうしようもない。そも、実力のある冒険者として依頼を受けたのは自分なのだ。自身の沽券に関わる。ゆかりは覚悟を決めて光の辿った道筋を追い、その光が消えた窓へと手をかけた。開いている。誘われているのは間違いないらしい。

 

「…いいじゃないですか。覚悟は決めましたよ」

 

 窓を開けて身を翻し、ゆかりは洋館へと侵入する。そうして、腰から短剣を構えると周囲を警戒しながら内部を進んだ。進んで、その屋敷の異様さの一端を知ることになった。玄関に石を投げた時から薄々予想はできていたが、洋館内に人が住んでいる様子はない。どの部屋も人の気配やその営みを感じられない。なのに、その部屋部屋が荒れている様子はなく綺麗に整えられている。まるで誰かが掃除や片づけを行っているようで、ゆかりは不可思議な恐怖と警戒を覚えた。それに身を震わせたその後で、リィン、と音が鳴った。

 

「…!」

 

 ゆかりは警戒して音の方を見やる。光が、誘っていた。ゆらゆらと自らを揺らしながら、光は洋館の奥へ奥へと浮遊していく。その後を追い、ゆかりは屋敷最奥の書斎へと誘われた。壁に本棚がぎっしりと並べられた書斎の、その中央の床に光は沈んでいった。待って、と伸ばした手が届くことなく消えていった光を追うべく、ゆかりは周囲を調べる。

 

「…!この切れ目、ってことは地下ですか…」

 

 くっ、と唾を一つ飲み込み隙間に短剣を差し込んで、てこの原理で扉を開いた。開かれた扉の先は暗く、階段の先から湿った冷たい空気が送られてくる。もう一度緊張からくる唾を飲み込むと、ゆかりはライトを灯して暗い階段を下っていった。

 

 

 

 

 

 階段を下り終えて、ゆかりは直ぐにその空間の不相応な広さに息を呑んだ。屋敷の一階層は十分な広さを備えていたが、この地下空間も十分な余裕であるのではないか、と思う。一介の洋館が備えるには余りに広い。

 

「ここは…」

 

 呟いたゆかりの視界には、幾つもの牢屋が並ぶ。中には人骨が放置されたものもあった。奥には幾つかの扉が見えるが、ゆかりを誘った光はふよふよとその内の一番手前の扉へと消えていった。ゆかりは光の消えた扉の先へ意識を集中させて気配を確認する。すると、微かではあるが僅かな物音がする。警戒か武者震いか、震えるライトを持つ手に意識を集中させて抑え込みながら、ゆかりは意を決しその扉を開いた。

 その先に広がっていたのは、如何にも素人が魔法使いの工房と聞いてイメージしそうな空間であった。壁に並ぶ松明で照らされた部屋には幾つかの本棚が壁に連なり、そこにぎゅうぎゅうと詰め込まれた他にも本が床に山を作っている。また、別の棚には素人目には何か分からない素材が並び、発光しているものもあれば蠢いているものさえある。その部屋の中央では大きな窯が熱せられ、濛々と煙が立ち込めていた。その部屋の奥、本の山に半ば隠れるか埋もれるかするようにして置かれた机に向かって何やら書きものをする推定女性にゆかりは見覚えがあった。その少女の元に光が辿り着いたかと思えばふっとそれは消えてしまう。それに気づいたようで女性は立ち上がり振り向いた。そして、

 

「————やっぱり、来てくれたんですね。ゆかりさん」

 

 そう言ってこの場に似つかわしくないうっとりとした表情を浮かべたのは、ゆかりが昨晩街で助けた少女であった。しかし、その姿にゆかりは困惑する。昨晩であった彼女は間違いなく人間であった筈だった。見た目は勿論、魔力的な感知でも確かにそうであった筈である。しかし、目の前の少女は、昨晩と異なり本来ではそこにあるはずでない猫のものと思しき耳が頭部に生え、その眼も暗闇を照らす松明の光を受けて猫の様にきらりと光る。ゴシック調メイド服のスカートの生地を縫うようにして覗く尻尾は二股に分かれており、その全てがあからさまに彼女が昨夜その姿を見せていた、人間という種族でないことを如実に物語っていた。

 

「このお屋敷、音がよく響くんです。だから、扉をノックしてくれた時誰かが来てくれたのは分かったんです。でも、確証が持てなかったから、魔法が使える人しか見えないこの光を使って来てもらったんです。魔法を平気な顔で使えるくらい強い冒険者の方なら、ギルドの伝手でここに来てくれるかもしれない、そう思って。…でも、貴方じゃないかもしれないし、貴方以外の冒険者の方も訪れるかもしれない。ゆかりさんが一人でここまで来て頂けるかは賭けでした…。でも、貴方は来てくれました。…嬉しいです」

 

 まくし立てる様にそう言って恍惚とした表情を浮かべる少女は、ゆかりに近づいたかと思えばまるで最愛の人を抱き締めるように腕を広げてみせる。

 

「…っ、やめてくださいっ」

 

 しかし、そんな愛情を向けられたところでそれに応えることができる筈もない。ゆかりは身を捩ってその抱擁を拒んだ。

 

「…やっぱり、駄目ですか」

 

 少女はその行動に諦めたように、しかし心底残念そうに言いながらゆかりと距離を取った。

 

「私は街の依頼で、この屋敷の調査に来たんです。貴方もその様子なら分かるでしょう?ここの主が貴方か否かはどうでもいい、ここの住人の時点で我々は敵同士です」

 

 そう言い放ち、ゆかりはライトを放って代わりに短剣を腰から抜いて構えてみせた。その視線は昨夜の暴漢に見せたそれと比較にならないほど鋭く険しい。

 

「そう、ですよね…。ごめんなさい…」

 

 少女はその様子に、目を伏せって謝罪した。そして、

 

「なら、私は、こうするしかないんです」

 

 そう言って右手を掲げる。突然のその動作に、ゆかりは咄嗟に後ろへ跳ねようと脚へ力を込めた。しかし、後退より先に少女の魔術が発動する。二人の足元に赤い魔法陣が瞬時に刻まれ光を放った。

 

「…っ!?っ、あ、あつ…っ!?」

 

 それと同時、ゆかりの身体に異様な熱が走る。その感覚に覚えがあった。魔物娘が得意とする、淫蕩の術式。それも、並のものではない。既に煽られた熱が行き渡り全身から発汗が止まらず、下着も汗とは別の湿り気を帯び始めている。短剣を杖代わりにしてどうにか態勢を保ち少女を睨みつけるが、その呼吸は荒く集中力もかき乱されている。

 

「私は力が弱くて、こういう魔法しか使えないんです。人間にだけ効果のある発情の魔法陣です。…お辛いですか?卑怯かもしれませんが、こんな方法でしか貴方と戦えないんです、ごめんなさいね」

 

 少女は言いながら息を荒くするゆかりに近寄る。先程より僅かに紅潮した頬が、その目的を明らかにしていた。魔物娘の本質、性を頂こうというのである。欲望に身を任せ、舌なめずりをしながらゆかりにあと数歩で触れられる、そこまで来て、

 

「…っ、このっ…、舐めるなぁ!」

「っ、うそっ、きゃあっ!」

 

 ゆかりは、精一杯の力を込めて身体を弾かせて少女へと体当たりを放ってみせた。あからさまに優位に立ち油断していた少女は突然の反抗に反応できるはずもなく、そのまま撥ね飛ばされた。ゆかりより僅かに小柄な少女の身体は細身に見合わないゆかりの反撃に弾かれるまま床に直置きされた本の山を突き崩しその上に転がった。そうして床から起き上がろうとした少女の首元に、ゆかりは短剣の先を突き付けた。

 

「確かに、その発情の魔法陣は大層なものだとは思いますよ。…ですが、その程度で性を貪られていたら、私は冒険者なんてやれやしないんですよ」

 

 そう、性欲を煽られるのを気力で抑え込む目的もあって、強い語気で言うゆかりの様子に少女も怯んだ。松明の揺らめきを受けて金色に光る瞳の奥には、怯えが見え隠れしている。

 

「さて、とりあえず、貴方だけでもしょっ引いていきましょうかね。ギルドだってこれで多少は報酬を」

「ん~、それは困るかなぁ?」

 

 ゆかりの算段を遮るように響いたその声は、凡そその場に似つかわしくない軽い調子のものだった。しかし、確かにその声が響いた途端、身が凍るような心地をゆかりは味わうことになった。今までの人生でも、数えるほどしか味わったことのない、圧倒的な実力差を有するものと相対したときに感じる圧を覚えた。

 

「モカにはこの家の家事全般任せっきりだからさ。こんな優秀なメイドさん連れていかれると私の今後の生活が大変になっちゃう」

 

 自分の後方、この部屋の扉から聞こえる楽しげな声に心臓を掴まれる心地になりながらも、ゆかりは振り返って視線を声の主へと移す。

 

「マキ様…」

「やっほー、モカ。今回はだいぶ苦戦してるみたいだねぇ」

 

 どうやらモカという名らしい少女の声が足元から聞こえる。そのモカからマキと呼ばれた彼女はそれは美しい女性だった。胸元辺りまで伸びた金色の髪に豊満な胸、漆黒のドレスに包まれた身の丈はゆかりより幾らか高いだろうか。しかし、それ以上に目を引くのは彼女の周りを飛んでいる、塗り潰された様に真っ黒な球体である。それも、完全な球体が浮いているのではなく、わざとらしく羽を生やし牙や口と思しきものも備えている。それが何を暗喩しているかなど子供でも分かるだろう。

 

「…地面の下まで、よくお出でになりましたね、高貴な吸血鬼ともあろう御方が」

「あ、やっぱり分かっちゃう?まぁ私はそこまでこだわりとかないし、昼でも全然平気な地下の方が気楽なんだよねぇ」

 

 そう笑いながら指先で傍らの黒球を弄ぶマキを忌々し気に睨みながら、ゆかりは現状を打破する算段を立てようと必死で知恵を巡らす。しかし、そのどれもが好転へと向かってくれそうにはないことに歯噛みする。そも、回る頭が昂らされた淫欲のせいで碌に働きやしないのだ。まして、立ちはだかる相手が、吸血鬼などという対策なしでどうこうできる筈もない規格外の化け物で。諦めるという選択肢さえ脳裏に過る。

 

「…一応、聞きますが。この、モカさんですか?彼女に手を出すのをやめます。貴方達の生活も脅かしません。…これで手打ちに、見逃してはくれませんか?」

 

 それでも、交渉くらいはしてみる。それに賭けてみるくらいは許されよう。微かな希望を抱きながらゆかりはマキに問い掛ける。

 

「うぅん、駄目かなぁ?モカは兎も角、私は君に見逃してもらうような弱者じゃないし、モカも君に気があるみたいだからね。…それに、私も気になるから、ね?」

 

 そう笑ってみせたのを合図に、マキの傍らを飛んでいた影達がそれまでのふよふよとした動きに反する俊敏さでゆかりに迫る。しかし、突然の攻撃に面食らいながらも、ゆかりはそれに対処してみせる。自身に素早く迫る幾つもの影達を短剣で打ち払う。淫欲で脳を侵されながらも、常人にはそれだけで脅威となりえるその影を幾つも相手に立ち振る舞うゆかりの様子を感心したように見つめるマキ。しかし、思考に靄がかかった状態のゆかりは流石に気付かない。打ち払った影が足元に泥の様に堆積していることには。

 

「っふぅ…、これで終わりですか…?」

「いやぁ、思った以上にすごいね。私には及ばないけど、君って強いね」

 

 気付かぬままに、最後の一球を打ち落としたゆかりは不敵な笑みをマキに向ける。その様子に、マキは本心から関心の意を示した。しかし、マキもただ遊び半分で黒球を飛ばしていたわけではない。布石は整った。

 

「でも、足元注意、だよ?」

「えっ…、きゃあ!?」

 

 堆積した黒球の残骸たる影が突如意志を持ったようにしてゆかりに迫る。それは粘性はないがスライムの動きによく似ていた。対処の遅れたゆかりは、その影に身体を絡め取られ動きを制限される。力も強く、身を捩った程度では離れてくれない。

 

「さぁ、どうする。降参かな?」

「…っ、舐めないでください…!この程度、魔法で…!」

「…ふふっ。はい、おしまいっ」

「っ、あっ…」

 

 マキの挑発に、ゆかりは思わず視線を彼女へと向けて睨みつけてしまう。そうして、自分が不覚を取ったことに気付いた。マキの目が妖しく光ったかと思えば、思考が痺れ自分の意識が遠のく感覚に襲われた。それが、吸血鬼を相手取るうえで警戒すべき能力の一つである『魔眼』であることに気付いたときには全てが遅かった。身体から力が抜けて崩れ落ちるのを感じながら、ゆかりの意識は闇へと沈んでいった。

 

 

 

 

***

 

 

 

 

「…ん、ぅん…」

「あ、おはよう」

「おはようございます…」

「ん、んぅあっ…!?なに、を…っ」

 

 暗い底へと突き落とされたゆかりの意識が戻る。火照った身体には妙に心地いい肌寒さと二人の言葉に周囲を見渡せば、そこは三人が乗るにしては少々手狭なベッドの上で、まだ衣服を纏った二人とは違い自分は下着以外の身包みを剝がされてその素肌を晒していた。

 

「こ、の…っ、うぁ…」

「おっと。急に動かない方がいいよ。十分程度とはいえ、意識を失っていたんだ。モカの魔法もまだ継続中だし、急に動いてはふらつきもするよ」

「大丈夫、ですか?」

「っ、人並に心配とは、余裕じゃないですか?…まぁ、マキさん、でしたか。貴方がいるこの状況からすれば、事実余裕なのでしょうけどね…っ。くそ…っ」

 

 そう、全身を駆け巡る熱で火照る思考をどうにか回すが、事態を好転させそうな気配は感じられない。部屋は飾り気が少ないものの落ち着いた内装であるがドアは遠く、自身の装備もない。身体も重く淫熱に侵されており、動かすのも億劫だ。そんな風に抵抗を諦めようとする方に向かわせる思考もまた淫熱の賜だろう。

 

「はは、実力をちゃんと測れているようでなにより。えらいえらい。ここら辺モカも見習うべきだよ」

「う…。すみません、マキ様」

 

 そんなやり取りを、熱に浮かされた頭でぼんやりと眺める。呼吸が荒く、息がし辛い。

 

「…おや、息苦しいみたいだね。モカ、出番だよ」

「あ、はい。分かりました」

 

 そう言って、モカはメイド服を翻し、ゆかりの細くしなやかな身体の上に負担にならないようゆっくりと優しくのしかかる。

 

「この…、どいてください…」

「大丈夫、です。悪いようにはしませんから…。ほら、私の眼を見て…」

 

 顔を挟むように手でやんわりと押さえられて、逸らそうとする視線の先に回り込まれて、ゆかりは遂にモカと目を合わせることになった。その眼は薄暗い部屋の中でもぼんやりと金色に輝き、途端にずん、と鼓動が高鳴るような感覚を覚えた。

 

「ふふ…、これでいいですね。ほら、『口を開けて』…」

 

 そう頬を朱色に染めたモカが呟くと、それに従うように自分の口が開く。それに驚き声を上げようとするが、ゆかりの唇をモカのそれが塞ぐ。柔らかな感触に思わず心臓がどきりと跳ねるが、モカは更に舌を差し込んでゆかりのそれと絡める。微かにざらりとするその感触に刺激されゆかりは身を震わせた。それと同時に、今にも淫欲に支配されそうな頭でどうにか思考を巡らせる。モカと呼ばれた彼女が人猫——ワーキャットと呼称される魔物娘の一体であることは外見も併せて間違いないだろう。そのワーキャットが他の獣人に比べて魔力に優れているのも伝聞の通りである。だが、それを差し引いても彼女の魔力は並の魔物とは比較にならない程である。吸血鬼の『魔眼』めいた先程の行為も、淫欲の魔法陣も、本来のワーキャットが持ち得るはずもないものであった。

 

「気になる?」

 

 その思考を呼んだのであろう、傍らで笑うマキが口を開いた。

 

「なんてことはないよ。モカが特別なだけさ。彼女は、他のワーキャットより力が弱い代わりに魔力にとびきり優れた個体みたいでね。だから、迎え入れたんだよ。それに、すごく努力家なんだ。私の持ってた魔導書や、私の使える魔術も研究してて、今では並の魔術師とは比べ物にならないくらい魔法が得意になったんだ。淫欲の魔法陣とか、私の『魔眼』をアレンジしたさっきの隷属魔法も、凄いでしょう?私の自慢の従者だよ」

「っ、も、もうっ。恥ずかしいですよ、マキ様」

 

 ゆかりから口を離して恥ずかし気にモカが言うが、肝心のゆかりはモカからもたらされた刺激に身を震わせていた。はぁ、はぁ、と呼吸を整えながら快感に耐えるも、身体の奥で燻る熱が治まる気配はない。

 

「それよりも、マキ様も参加なさってください。ゆかりさんの性、とても美味しいし上質です」

「ふぅん。まぁ、見てるだけで分かるけどね。じゃあ、お言葉に甘えようかな?」

 

 そう言って腰掛けていた状態からベッドの上へと身体を動かして、マキもまたゆかりに迫る。それに対してゆかりはモカの下で身を捩るが、抵抗らしい抵抗にもなりはしない。

 

「い、いや…」

「大丈夫ですよ。マキ様は私に淫技の手解きをしてくれたお方ですから、気持ちよくしてくれますよ。ほら、『脚を開いて』?」

 

 その言葉に従うようにゆかりの両脚は開かれ、下着越しではあるものの淫らに濡れた秘所を二人に曝すことになった。

 

「くっ…、それ、やめて…」

「『抵抗しないで、口を開けて』」

「…っ」

 

 口付けで得たゆかりの性で力を得たためであろうか、先程よりも毅然とした口調でモカはゆかりに命じた。その言葉の通りに、ゆかりは抵抗らしい抵抗を封じられてただ口を開くのみとなった。

 

「ふふ、水浸しだ。そんなに気持ちよかったんだね?じゃあ早速…、いただきますっ」

「私も、お代わりをお願いしますね?」

 

 その言葉を合図に二人の責めが開始された。

 モカは先程よりも激しくゆかりの舌に自らのそれを絡ませて、その唾液を全て飲み込まんとするかのように激しく動かす。

 マキは下着を自らの鋭い爪で引き裂くと、その下に隠されたしとどに濡れた淫裂に己の赤くぬめった舌を這わせた。

 モカの魔法によって抵抗を封じられたゆかりは、上からも下からも快楽を逃す術がなく、唾液も愛液もだらしなく垂れ流すしかない。それを、マキとモカは貪るように自らへと受け入れ、その性と魔力とを自らに蓄えていく。その淫技に耐えられるはずもなく、ゆかりは二人に責められて数分と待たぬ間に身体を捩らせたかと思えば声にならぬ悲鳴を上げて身を強張らせた。

 

「っ…、ぁ、は、ぁ…っ!」

 

 余りに強い快感に一瞬飛びかけた意識は、強張りが解けるのに合わせてゆっくりと正気に戻っていく。その様子に、自らの魔物娘としての力の高まりを確かに感じた二人は顔を見合わせ、凛と真剣な表情のモカと楽しげに笑うマキは示し合わせたように頷いた。

 

「ふぅ…、本当に美味しいねぇ、君…いや、ゆかりの性。これは、もう、手放したくなっちゃったなぁ」

「ぅ、ふぅ…っ!」

 

 マキの楽し気な様子を睨みつけるようにして意思を示すゆかりであったが、その視線以外抵抗らしい抵抗はなく、胸元の辺りに重さを掛けるモカの苦笑を誘うしかその効果は見受けられない。

 

「これまで誘い込んで、それで来てくれた人たちって、数とかはいてもてんで足しにもならないやつばっかだったからさ。私が搾り取れるもの搾り取って、モカの研究素材に回してたんだよね。でも、ゆかりは別だよ?こんなに美味しい性を持ってるの、人間どころか魔物娘でもいないよ。だから、私達の仲間に入れてあげる。嬉しいよね?」

 

 そう笑うマキに、しかしゆかりは息絶え絶えになりながらも告げる。

 

「な、に…ばかいってんですか…!そんなの、うれしくもなんとも…!」

「あ、そう?でも、大丈夫だよ。そう思うようにしてあげるから」

 

 呟いた吸血鬼がゆかりの上半身の方へと身を動かす。それに合わせて、モカはゆかりの身体に手を回してその身体を起き上がらせベッドの上に座らせる。その後ろ、ゆかりの背中の辺りに陣取るとマキはゆかりを自らに寄りかからせた。

 

「…ねぇ、聞いたことはあるよね?吸血鬼に血を吸われると、その力に取り込まれるって」

「…っ!」

 

 耳元で囁かれたマキの言葉にゆかりは身を震わせた。

 

「ま、さか…!」

「ふふ、ご明察。大丈夫だよ。最初はちょっと痛いけど、血を吸わせてもらってる…いや、力を分けている間はとっても気持ちいいからさ…!」

「あぁ…、これからゆかりさんと一緒…!嬉しいです…!」

「い、いや…!いやぁ…っ!」

 

 興奮をその言葉に滲ませながら、二人はゆかりの身体にその魔手を伸ばす。先程までに僅かながら残っていた反抗心も折られたゆかりが身を震わせながら捩るのも気にする様子なく身体に触れた。

 モカは慎ましくも柔らかな胸部を隠す下着を上にずらして、その頂上でつんと自らを主張する蕾に舌を這わす。ざらり、とした刺激が先端を襲い痛痒混じりの快楽をゆかりに送る。もう片方の果実を人猫にしては短い爪先でかりかりと弾いてやるのも忘れない。

 マキに絞られ蜜をしとどに濡らす淫裂には、ともすれば腕と見紛う程に器用に動く、二股に分かれた尻尾を伸ばした。一方は秘裂の内側に埋め、その奥へ奥へと伸ばしてやる。純潔を破りたい欲求を、しかしマキの許可なしで破るわけにはいかないと必死で押さえながら、愛液滴る内壁を開拓する。もう一方の尻尾は、秘裂の上でむくりと育った淫芯を先端で擽るように弾いて弄んだ。

 

「ぅ、は…ぁ、あぁ!ひっ…、ぅ、うぅん…っ!」

 

 あうあうと、モカから与えられる淫技の数々に喘ぎを碌に耐えられないまま漏らすゆかりを後ろから抱き締めたマキは、頃合いかとその顔に悪い笑みを浮かべながら、その白く滑らかな首筋に自らの鋭い牙を向け、その柔い肌を己の思うがままに貫いた。

 

「…っ、い、痛…っ!」

 

 思わず叫ぶゆかりに、しかしマキは意識を回せない。痛みを誤魔化すためなのか濃くなった性の気配に呑まれないように己を律するのに手いっぱいなのだ。だが、それもゆかりが上等な性の持ち主である証左だ。思わずゆかりの命さえ無視してその血を吸いかねない衝動を抑え込みながら、マキは吸い過ぎず吸わな過ぎずの塩梅を加減してゆかりの血を味わう。

 変化が現れたのは、それから間もなくだった。

 

「っ?…、ぅ、うぁ…!?な、なに、これ…っ!?」

 

 ゆかりは顔を上気させ、その身を余すところなく朱に染める。並の魔術師では到底歯が立たないモカの魔法陣でさえも上回る淫熱が身体を支配する。全身の感覚が快楽にだけ鋭敏になったように錯覚し、モカの淫技が与える快楽が何倍にも跳ね上がったように思える。

 

「やっ、こんなの、おかしい…!おかしい、よぉ…っ!」

 

 口調も砕け何処か幼げな気配を端々に残し、ゆかりは喘ぐ。それに感情が昂ったモカが行為を一層激しいものにする。ただ舐めるだけでなく舌先で乳首を弾いたり、もう一方も摘みきゅっと軽く引っ張る動作も加えたり。そして、膣内を穿つ内に見つけた一際弱いところに尾の先をぐりぐりと押し付ける様にして、ゆかりに更に強い快感を与えてやる。

 

「やっ、もう、イっちゃ、イっちゃうからぁ!」

 

 その責めに耐えられなくなったのだろう、ゆかりは絶頂を叫び身を震わせる。それならば止めをくれてやろうとばかりに、モカは自らが口に含んでいた甘い蕾に軽く歯を立てて軽くその先で潰すように噛んでみせた。

 

「っ、ひ、っク、ぅぅぅうううっ!!」

 

 そう、意味を為さない叫びを上げて、ゆかりは身体をぴんと強張らせて絶頂へと押し上げられた。そうして、ゆかりは意識を飛ばしてそのまま暗がりへと沈んでいく、

 

「ぅうっ!?っ、や、な、なんでぇっ!?」

 

 筈だった。意識が沈むのを遮るように、モカとマキの責めは止まらず尚も勢い衰える様子はない。責めに夢中になっているのが半分、ゆかりを追い立てようとしているのが半分。ゆかりからすれば堪ったものではない。

 

「や、も、もうイったから!イったからぁあっ!?」

 

 そう叫ぶのも無視して行われる淫技に再びの絶頂が迫る。

 

「ぁ、あ、ああっ!イ、くううっ!ああぁん!?」

 

 そうして二度目の絶頂に押し上げられ、ゆかりの身体が再度跳ね上がる。しかし、尚も責めは止まらない。

 

「はぁっ、あ、あぁ!や、もう、ダメぇぇえっ!」

 

 三度目。

 

「やだ、ヤダヤダ!や、ぁ、ああああああああああんっ!」

 

 四度目、と繰り返される絶頂にゆかりの意識は、電灯の様に容易くオンオフを繰り返されて最早自分がイっているのかいないのかの判断さえも曖昧になっていった。

 

「は、ぁ、ああああ…」

 

 もう、何度絶頂しただろう。拒絶の意志さえ浮かばなくなったゆかりの頬に何かが触れる。それまで血を吸っていたマキが牙を抜き手を伸ばしたのだが、それにゆかりは気づかない。

 

「…ゆかり」

 

 そう、声を掛けられて漸くゆかりはマキに気付いた。気付いて、そして、

 

「…んっ!?ぅ、うぅ…んっ」

 

 唇を奪われた。それに驚いて見開いた視線がマキと重なる。そうして、妖しく光ったマキの瞳を視界に入れたかと思うと、ゆかりの意識は今度こそ深く深くへと沈んでいった。

 

 

 

**

 

 

 

「ん、美味しい。モカもすっかり私好みに紅茶入れるの上手になったねぇ」

「えへへ…、ありがとうございます」

 

 夜という違いはあるものの、珍しく普段住まいの地下から二階のベランダへと出てきて茶会を嗜むマキと、彼女からの賞賛に髪先を指で弄りながら照れるモカ。月に照らされながら鼻歌を歌う吸血鬼は紅茶を受け皿に置いて、そういえば、と言葉を紡ぐ。

 

「もう一つ、頼んでいたと思うんだけれども」

「あぁ、それなら。もう少しで準備も終わると思いますよ?」

「マキさん、お待たせしました、です」

 

 ほら、と館内へと続く窓に視線を向けるモカと、待ってました、と一層楽し気にするマキ。二人の視線の先に、モカとお揃いのゴシックメイド服に身を包んだゆかりが、少々不格好なサンドイッチを乗せた皿を片手に現れる。そのまま二人のいるテーブルの元へと歩み寄ってサンドイッチをマキの元に差し出した。

 

「これこれ、見た目は兎も角モカより美味しいサンドイッチがあるなんて思わなかったよぉ。流石ゆかりだね」

「一言余計ですよ。…まぁ、ありがとうございます」

 

 そう、ぶっきらぼうになりながらも頬を染めて感謝するゆかりに視線を向けながら微笑むモカは、しかしその一方でマキがサンドイッチを頬張る様子にも羨ましそうに視線を向けていた。

 

「…心配しなくても。多めに作ったから残ってますよ、お仕事が終わったら食べましょう?」

「…!あ、ありがとうございます、ゆかりさん!」

 

 そう、気持ちを弾ませながらゆかりに礼を言うモカであったが、そんなモカにやや不満げに頬を膨らませ、彼女の額を指で弾く。

 

「今は、貴方は先輩なんですから。ゆかりさん、じゃないでしょう?」

「あ!えと…、あ、ありがとう…、ゆかり」

「はい、モカ」

 

 そう頬を染めながら訂正するモカの様子に嬉しそうに微笑むゆかり。その二人の様子を「見せつけてくれちゃって」と言いたげにマキはにやにやと笑みを浮かべる。

 

「…なんです?」

「なんでもー?」

 

 それに気付いたゆかりがじろり、と視線を向けるがそれにマキが怯む様子はない。それどころか一層笑みを深いものにする。全く、と溜息を付いたゆかりは、そういえば、と未だ照れるモカに声を掛ける。

 

「モカ。さっき見たら、食べ物とか食器用の洗剤とか、色々足りてなかったですよ。今度、街に買い物に行きましょう?」

「え、あ、は、はい!」

 

 そう相談し合う二人を揶揄おうとしたマキだったが、街、という単語が出た途端にぴく、と身体が反応する。それに目聡く反応したのはゆかりだった。

 

「ん?どうしました、マキさん」

「…あー、いや。そんな大層なことではないけどさ…」

 

 言い淀むマキに怪訝そうな視線を向けるゆかり。その二人の気配に少し不安を滲ませるモカ。そんな空気を、意を決しマキは口を開いた。

 

「正直、やっぱ後悔してる?私達と会ったこと。…もう冒険者に戻れないってところとか、さ」

 

 その発言にゆかりと、ついでにモカは面食らったような表情を浮かべた。あはは、と苦笑するマキの様子にモカは困惑した様子で、ゆかりは一つ思案したように顎に手を当てて目を伏せる。そして、一寸考えると口を開いた。

 

「…正直、分からないです。冒険者だった頃は大変でしたけど面白いことも沢山でしたから。今と比べれば、ずっと刺激的でしたね」

 

 その発言に残りの二人の表情がやや曇った。

 

「でも、」

 

 その二人の様子を知ってか知らずか、ゆかりは反する言葉を紡ぐ。

 

「今の生活も、そう悪いもんじゃないですよ。楽しいです。覚えることはいっぱいですけれど、今の暮らしを捨てる気なんて毛頭ありません」

「…そっ、か。ありがと」

 

 マキは軽いようで、心底嬉しそうに礼を言う。傍らのモカが泣きそうで、しかし嬉しそうな表情で身を震わせるのに苦笑しながら、ゆかりはヘッドドレスを崩さないように彼女の頭を撫でる。

 そう、思うところがないかと問われれば嘘になる。例えば、自身を半吸血鬼、ハーフヴァンパイアという人間と吸血鬼の半端ものにして、自分達以外の拠り所を奪ったのもそう。快感隷属の烙印という、解除が極めて困難な淫紋——絶頂で屈せられた相手への反抗を奪い隷属させる、如何にも魔物娘らしい淫蕩で悪辣なもの——を刻んだのもそう。ゆかりも、絶頂地獄から目を覚ましてその事実を突き付けられた時はどれほど怨みを抱いたか分からない。

 だが、それ以上に彼女たちは優しかった。どれ程自分が辛く当たろうと、気紛れな魔物娘らしからぬ誠実さで自分を包み込んでくれる。絆され易いにも限度があるだろうと、笑いたければ笑えばいい。魔術や家事について懇切丁寧に教えてくれるモカの優しさを、吸血鬼として自分の先を示してくれるマキの寛大さを、知っているのは自分だけなのだ。

 いつの間にやら感極まって自分に抱き着いたモカに困って所在なさげに空に浮いた手に嵌められた指輪がゆかりの目に入る。先程の悩んだ気配など微塵もなくニヤニヤと笑みを浮かべるマキが「これくらい簡単なもんだよ」なんて言いながら作ってくれたもの。その中心では、冒険者の頃に最後に手に入れたお宝である“カーバンクルの紅玉”がきらりと光る。持ち主に幸福をもたらす、なんて眉唾でただ実力の指標になる珍品だと冷めた目で当時は見ていた。しかし、今では紆余曲折こそあれど、確かに幸福は訪れたな、なんて笑いたくなる自分もいるのだ。

 ゆかりの冒険は終わり、しかし、彼女に幸福は確かに訪れた、かもしれない。




キャラクター紹介

【マキ】
世にも珍しい地下に住まう吸血鬼。種族的なプライドが無いわけではないが、それよりも自由な在り方を好んでいる吸血鬼界隈の異端児。能力的には吸血鬼としてイメージできるものは大概使え、強い膂力や吸血能力、魔眼による精神操作に影を操る力、作中では出ていないが変身能力や魔法、再生能力と多岐に渡る。吸血能力だけでゆかりは堕とせたが折角だしモカにも見せ場を渡そうと全力は出していなかったりする。因みに本人は気にも留めてないが吸血鬼全体で見ても強い方ではあるものの最上位とかではなく上の下くらいの実力。それでも人間の冒険者で相手できる者など数える程しかいないのであるが。ゆかりも発情してたとはいえ完封だったし。
元ネタは弦巻マキ。金髪巨乳で高身長(自己解釈)とくれば吸血鬼しかないと決まってはいたしゆかりさんを半吸血鬼にして従者にしてちょいいい話気味に終わる流れも決まってたけど、えっちシーンがなんか納得いかなくて後回しにし続けてました。なんか高貴な吸血鬼様が人間の身体を貪るのがイマイチイメージしづらいというか…、という感じで難航してたりしました。精進せねば。因みにCVは民安の方です。真奈美さんの方のマキさんはモカちゃんと対等というか、モカちゃんにマキ様呼びされてる絵は民安ボイスのマキさんの方が似合うと思います。てか、私の中では真奈美さんボイスの方はマキさんじゃなくてマキちゃん呼びのイメージ。

【モカ】
魔力にとびきり優れた猫娘の少女。その分身体能力は一般的な冒険者より劣る程と悪い意味で同種とも比較にならないが、それを補って余りある魔法の腕前を持つ。特にマキの魔眼を参考にした精神干渉能力は荒事が苦手なモカに使い勝手のよい切り札として重宝されている。魔物娘ながら性行も不得意であったが、来訪者を使ったマキの指導によってそれなりに出来るようになった。因みにマキには尊敬十割だがゆかりには半分恋慕めいた感情を抱いているし、マキはそれに気付いてニヤニヤしている。ゆかりはどっちにも気付いていない。
元ネタは宮舞モカ。マキさんのえっちシーンに悩んでいた私に舞い降りた救世主であり筆者の最近の推し。
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