『…本当に、あんな渓谷の奥地に魔物娘が?』
『あ、あぁ!違ぇねぇ!俺はあいつらに身ぐるみ剥がされて素寒貧にされながらもどうにか這う這うの体で逃げかえって来たんだ!』
『…魔物娘が性も取らずに、冒険者を返すことがあるとは思えませんが。まぁ簡単な依頼の様なので、報酬さえ出してくれるのなら私が受けても構いませんよ?』
『ほ、本当か!?なら、頼む!金目の物は兎も角、親父の形見の短剣だけはどうにか返してほしいんだ!あれを取り返さないと、親父に合わせる顔が無ぇ…!』
そう、思わず溜息を付かずにはいられない依頼を受注して、ゆかりは眺めのいい渓流沿いをゆっくりと進んでいく。魔物というよりも獰猛な野生動物に出くわしそうな平和な道中を川水で足元が濡れないようになんて、危機感の薄い考えを抱きながらゆかりは獣除けの香を焚いた入れ物を指先で遊ばせる。
「…こんな、危険さを感じられない依頼なんて、王都の猫探し以来ですかね…?」
そうぼやくゆかりであったが、それも仕方のないことだろう。大体にして、冒険者の身体を狙って襲いその性を貪りながら自身を強めていく魔物娘が、盗賊の様に金品だけを狙うなど聞いたことが無い。恐らくは、魔物娘を騙っている女性盗賊か、そうでなければ依頼人の見習い冒険者の男性の早とちりだろう。それなら、ゆかりにとっては片手間で済むような依頼だ。人間の木っ端盗賊など、ゆかりにとって敵ではない。付け加えるならば、魔力の秘められている隠された土地を好む魔物娘が、こんな景観がいいだけの開けた魔力もないような土地に住んでいるのも頭を傾げずにはいられないのだ。
「しかし、依頼を抜きにすればハイキングにでも来たいくらいにいい場所ですね…。鼻歌の一つでも歌いたいくらいです」
そんなことを呟きながらも、ゆかりは森の木々の向こうからこちらを探るように見つめる視線を感じていた。気付かれるのを躊躇っていないというよりは、恐らく気配を消す術に関して未熟なその視線の主は恐らく二人。ぼそぼそと言葉を交わす様子さえ分かる彼ら、あるいは彼女らは盗賊としても些か未熟が過ぎるのではないかと、何度目かも分からない溜息を付いてゆかりは立ち止まって視線が送られてくる方に逆に視線を向けてやる。すると、観念したのかはたまたこの獲物ならいけると判断されたのかは定かではないが、ゆかりの元へとその姿を現してみせた。
「やいやい!私達の視線に気づいて、それでも逃げないとは命知らずじゃないかい!」
「泣いて謝って所持品を置いて帰るなら、命までは取りません!さあ、私達にその持ち物を全て差し出しなさい!」
そう言いながら現れた二人の姿に、ゆかりは思わず面食らった。ただし、それは目の前にして感じる実力などでは到底ない。
「…お、おぉ?」
「んー?どうした?恐れ戦いたかぁ?」
「私達だって、そう外道ではありませんよ?泣いて謝れば許してあげてもいいでしょう!」
「…いや、怖いとかそんなのは微塵にもありませんけれど。本当に、魔物娘だったんだなぁと驚いただけです」
そう、ゆかりの予想に反して、現れたのは確かに魔物娘だった。片方は、額から伸びた角から東洋の怪異の一種である鬼だと察せられた。もう片方は一見普通の人間とも思えるが、妙にぬらぬらと光る髪質や薄らながらも感じられる特有の魔力は人間には出せないものだろう。そう、それだけならゆかりの警戒に足る相手だけだったかもしれない。ゆかりの警戒心を解いたのはそれ以外の要因で。
「…私も外道ではありませんから言っちゃいますけど。貴方達は他の魔物娘の下僕か従者の類ですか?手荒な真似はしたくないので、よければ主的な人物の元まで案内してくれると助かるのですが…」
「な、何をぉ!?私達のこと、舐めてかかってるなぁ!?」
「私達は、確かに魔物娘の中でも子供ですけれど、立派に独立して二人で盗賊団を結成してここら辺を縄張りに暮らしているんです!そんな態度取るなら容赦しませんよ!」
「…はぁ、そうですか」
そう、二人は魔物娘は魔物娘でも、ゆかりからすればとても脅威にならないような幼い子供だったのだ。鬼子ももう一人も、ゆかりより余程背も低く未熟さを隠しきれない姿で凄んで見せるその様は、ゆかりにとっては呆れるくらいに滑稽に見えた。
「…なら、仕方がないですね。私は貴方達魔物娘の盗賊団に用があってここを訪れました。率直に申し上げます。貴方が盗んだ盗品から、幾つかを返していただきたいのです。これを聞いて返すのであれば、荒っぽいことはしません。どうか、返品してはくれませんか?」
「そ、そんなこと言っても私達は動じないぞ!誇り高き盗賊団の一員だからな!」
「返してほしければ、力づくでも奪ってみなさい!痛い思いをしたくないのなら、いますぐ帰ってもいいですよ!反抗する気なら、私達も全力でいかせていただきます!」
「…それなら、私も力ずくです。あまり痛くしないようには気を付けますが、それなりに本気でいきますので後悔しないでくださいね?」
そう言ってゆかりは腰元から短剣をすらりと抜き取り構える。それに気圧されながらも、意を決したように二人も腰を低く構えてみせた。
「それじゃあ、私からいきますよぉ…!」
「やったれ、きりたん!」
その言葉と共に飛び出した、きりたんという名前らしい鬼子の魔物娘は跳躍してゆかり目掛けて無骨な大剣を振り下ろす。それを事も無げに躱してみせるゆかりだったが、自分がいた場所を穿ったきりたんの一撃にひゅう、と息づいた。
「なるほど。太刀筋はまだまだ荒いですが、流石は魔物娘。その力なら十分脅威ですね」
「どうですか?今なら謝れば許してあげますよ?」
「冗談言わないでください。ものを言うときは、相手のことをよく見てから言うものですよ?」
そう言ってゆかりはきりたんに素早く迫って、その刀身で切るのではなく殴りつけるようにして攻撃をしてみた。突然の攻撃に反応できずに狼狽えるきりたんであったが、ゆかりはその反応に些か驚かされることになった。
「いっ…、たいですねぇ!」
「んむっ…!…へぇ、ただ呻くだけで済むなんて、随分頑丈な身体をしてるんですね。これは、説得は難しそうです」
ゆかりの一撃に呻きを漏らすだけでそれ以上は特に気にした様子のないきりたんは、驚いたゆかりの身体目掛けて大剣を横薙ぎにする。それをやはり余裕ありげに躱しながらも、ゆかりも流石にその頑丈さには驚きを顕わにせずにはいられなかった。成程確かに、ある程度の実力のある冒険者なら兎も角、如何にも冒険者になりたてらしい今回の依頼者のような面々には、この頑丈さと力自慢だけでも十分脅威に映るだろう。
「このっ!逃げ足だけは素早いですね!ちょこまか逃げてないで、私の大剣の錆になりなさいっ!」
「そういうなら、その太刀筋でも見直したらどうですか?そんな大ぶりな攻撃、ある程度の冒険者になれば軽々と避けられますよ?」
「くっ!偉そうにしやがってぇっ!」
そう言いながら、ゆかりは足場が不安定な川の中へときりたんを誘い込む。次第に息を荒げるようになった鬼子の少女は手にした大剣の重みに振り回されるようになり、川の水に足元を取られて尻餅をついた。
「…これで、お終いですね?さぁ、降参なら降参と言ってください。それとも、もう一人と交代しますか?」
「ふ、ふふ…。ここまでコケにされたのは初めてですが、油断し過ぎですよ…?よりにもよって自分から川辺に近づいてくれるなんて、好都合です」
「…なんですって?」
「やったれ、ウナぴ!」
「あいよぉ!秘技、“共倒れスパーク”!」
そう言ったウナぴと呼ばれた魔物娘の少女が大きく手を川の中に振り下ろすと、後を追うように川の中を電流が走りそのままゆかりの身体までも貫く。
「っ!?ぐ、ぅうう…っ!」
突然身体を走った痛みにゆかりは思わず苦悶の声を上げてその場に膝をついた。それを見たきりたんと呼ばれた鬼子の少女は、にたりと笑いながら膝をついて水面に視線を落としたゆかりの傍へと歩を進める。
「ふっふっふ…。油断しましたね?人間は私みたいな鬼と違って脆いですから、電流なんて浴びたら耐えられないでしょう?ほら、私達に泣いて謝ってもいいんですよ?それとも、余りの痛みに声も出せませんか?」
そう言ってゆかりに大剣の切っ先を向けるきりたんであったが、遠くから見ていたもう一人の魔物娘はゆかりの異変に気付いて思わず声を上げる。
「きりたん、離れて!」
「ふぇ?」
「…《焔》」
「っ!?う、うわぁああっ!?」
その言葉と共に、ゆかりの周囲を取り囲むように炎の波が吹き上がる。突然の出来事に鬼子は悲鳴を上げて二度目の尻餅をついた。そうして体勢を立て直そうと見上げた少女の首元に今度はゆかりが切っ先を突き付ける番だった。
「…油断したのは事実ですが、それでくたばる様なら冒険者なんてやってられないんですよ?そもそも、私がもう一人の子の攻撃の前に防御の結界を咄嗟に張ったのも気付いていなかったでしょう。そんな子達に油断してるだなんて言われる筋合いはないですね」
「…っ、お、おい!きりたんから離れろ!そうじゃないと、今度はもっと強い電流で…!」
「その前に、このきりたんとやらの首を貫くだけです。その後で、防御の結界も強めながら貴方の相手もしてあげますよ。…分かりますよね?チェックメイトされたのは、貴方達の方です。素直に負けを認めなさい」
「…う、ウナぴぃ…」
「…す、すみませんでしたぁー!」
そうして、時間にして十分にも満たない僅かな攻防は、ゆかりの勝利という形で幕を閉じることとなった。
***
「…へぇ。親に捨てられたもの同士で盗賊団を組んでどうにか生活をしていたんですか」
「そうなの。まぁ、きりたんの方はそういう風習なだけであんまり強く言えないんだけど、私は完全に食い扶持が困った結果で寝てるうちにここに放り投げられてたんだ。…ほら、きりたんもぶすくれてないでこっちで盗品まとめるの手伝ってよ」
「…だって」
渓流の少し奥まったところ、木々の中に隠れるように建っていたあばら家めいた家の中で、ゆかりは二人の魔物娘と共に積まれた盗品を漁っていた。なお、一名ほど不貞腐れて参加はしていないが。
「まぁ、ウナさんが手伝ってくれるだけで助かってますから。…それで、電気ウナギの魔物娘なんているんですね。初めて聞きました」
「まぁ、珍しい種族だっていうのはお母さん達も度々言ってたからねー。…あ、あったあった。これでしょ?お姉さんが言ってた間抜けな冒険者さんの言ってた刀剣って」
「ちょっと待ってくださいね?…はい、確かに依頼者さんの書いてくれた特徴と一致しますね。これを持ち帰れば依頼達成です」
「はぁ、何はともあれ無事でよかった。もしかしたら私もきりたんも死んでたんじゃないかと思うと、冷や冷やしたよ」
「…そんな弱気でどうするんですか、ウナぴ。次こそは負けないくらいの意気込みじゃないと舐められますよ」
「そんなこと言っても、不意打ち食らわせてもぼろ負けだったじゃん…。素直に負け認めようよ?」
「…まぁ、大変でしょうがどうにか頑張って生きてみたらいいじゃないんですかね?それじゃあ、私はこの辺で」
腰に備えていたホルダーケースにどうにか盗品の刀剣を収めたゆかりはそれだけ言い残して二人の元を去ろうとする。しかし、それを制する僅かな力があった。ふと後ろを見れば、電気ウナギ娘のウナがゆかりの冒険着の裾をぎゅ、と掴んでいる。
「…なんですか?」
「あ、あのさ…。もしよかったら、なんだけど…。私達に稽古をつけてくれないかな?」
「…はぁ?」
「な、何言ってるのさウナぴ!?なんでこいつに稽古なんて付けてもらわないと…!」
「実際、戦闘訓練で困ってるのはあってさ…。捨て子二人、それも魔物娘なんて相手にしてくれるやついるわけないじゃん…。だから、私達が少しでも強くなれるように協力してくれない、かな?」
「…それをして、私にどんな得が…」
「ほ、報酬なら出すよ!?私達が今まで集めてきた盗品全部!これを売ってお金に換えてもいいだろうし、盗品を全部かっぱらってきたって言ってギルドに売り込んでもいいじゃん?冒険者って自己責任の世界だから、こういうやり方でもお姉さんの得にはなるでしょう?」
片割れであるきりたんの驚愕の言葉にも耳を貸さずに必死で頼み込むウナの様子に、少し悩んだ素振りをしてゆかりは、
「…まぁ、そういうことならいいでしょう。ただし、期限は一週間。…長くても十日間だけです。もしも、魔物娘を鍛えてたなんて話をギルドに聞かれたら私の冒険者人生に傷がつきかねませんから」
「…っ、やったぁ…!あ、ありがとう、お姉さん!」
「…もう、ウナぴは本当に仕方ないんですから」
溜息一つ零してその“依頼”を了承してやった。ダメ元で頼んだウナは思いがけない了承にはしゃぐように喜び、きりたんはその様子に呆れ果てた様子でゆかりより一層深い溜息を零した。
***
「…ですから、大振りな攻撃の合間に刀身を回転させたり、地面に刺した大剣を軸にした蹴り技とかを織り交ぜて隙を少しでも少なくするんです。そんな身の丈くらいある大きな剣を振り回すだけなのは勿体ないですから」
「わ、分かってます!丁度、やろうとしていたところですから!」
「本当に分かってるんですかね、もう…」
大剣を構えるきりたんの後ろから覆い被さるように支えながら、ゆかりはきりたんの耳元で囁きつつその腕をぐっと回すなどしてレクチャーをしてやる。その教えを聞きながらも、気恥ずかしさからか反骨精神からかぶっきらぼうな返事で返す鬼子の様子にやれやれと溜息を零したゆかりに、少し離れたところで魔法の鍛錬に勤しんでいたウナが声を掛ける。
「お姉さーん?電気玉って、こういう感じでいいのかな?」
「はいはい。…お、ウナちゃんいい感じじゃないですか。そうです、その調子。ただ川の水を介して電気を通すだけじゃなくて、魔力を形にしていつでも打ち出せるようになれば、戦略の幅なんて幾らでも広がるもんです」
「えへへ…。でも、さっきから思ったところに飛ばないんだよね~…。私って、ノーコンなのかなぁ…?」
「う~ん…、ちょっと見せてくれません?」
「分かった。えっと、秘技“ウナギ玉”っ!」
その言葉と共にウナの手から離れた電気玉は、ゆかりが用意した切り株を大きく反れて明後日の方向へと飛んでいってしまう。
「ほらぁ…。ちゃんと狙ってるはずなんだけどなぁ…」
「魔法弾は、どうしても不規則に飛んでいくのが常ですからね。最初はやっぱり大変ですよね?…うーん、ちょっと難しいですけど、私のやり方でいいですか?」
「うん、教えて?」
「攻撃用の魔法弾の後ろに、もう一つ魔法弾を重ねるんですよ。この魔法弾はそんなに魔力を込めなくていいです。その代わりに、ただまっすぐ飛ばすのだけを意識した魔法弾にしてください。あとは二つの出力を均等に保ちながら放つことが出来れば、まっすぐ飛ぶ魔法弾も作れると思いますよ?」
「…え、えーっと?」
「…まぁ、はい。これ言うと、みんなウナちゃんみたいにきょとんってするんですよ…。ちゃんと、コツは教えますからやってみませんか?」
「う、うん!やってみる!」
「…。あ、あの!」
「ん、どうしましたか?きりちゃん」
「わ、私にも小技をもっと教えてくださいよ!…ゆ、ゆかり、さん…」
「…っ」
「な、なんですか!?私がこんなこと言ったら変ですか!?」
「いや、ちょっと驚いただけです…。ウナちゃん、ごめんなさい。少し、きりちゃんの方にも教えてきますね」
「うん、分かった。それまでお姉さんの言ってたこと、練習してみるね?」
そう言ってウナは電気の魔法弾を掌に作る練習を始める。その傍らで、少しだけ素直さを見せながらゆかりを急かすように腕を掴むきりたんの様子に、少し困ったようにゆかりは笑った。
「じゃあ、今日はもう寝ましょうか。…それにしても、私まで家の中で寝てもいいんですか?」
「なんです?この家が余りにぼろっちいから、こんなところで寝たくないとでも言いたいんですか?」
「もう、なんでそんな喧嘩腰なのさ、きりたんは…」
「いえ。野宿にも慣れてますし、ここより辛い場所で寝た経験なんて幾らでもありますけど…。単純に、二人は狭くないんですか?私が結構スペースとってるから、二人が余り快適に眠れないんじゃないかなって思いまして…」
「…馬鹿にしないでください。私達は軟弱な人間とは違うんです。屋根と床があれば、そこはそれだけで十分快適な寝床なんですよ」
「まぁ、それは確かにね。それに、お姉さんは私達の先生なんだからおもてなししないと駄目なんだよ。なんなら、私達が外で寝た方がいいくらいだもん」
「それは、こっちが気を遣うから勘弁してください」
「…それに、さ。私もきりたんも、家族と離れ離れになって暫く経つから、こういう風に誰かと一緒に寝るっていうの、懐かしいんだ。…そうでしょ、きりたん?」
「…そんなこと、ないです」
「…そういうことなら、私も一緒に寝させていただきますね。…おやすみなさい、二人とも」
「うん、明日もよろしくね、お姉さん。おやすみー」
「…おやすみなさい」
そう言葉を交わして、三人はぼろ布同然の布団に身を沈めて瞳を閉じた。そのまま少しの間うとうとと微睡みの中にいたゆかりだったが、何者かが囁くような気配を感じてふと目を開く。微かに星の見える天井から横に視界を向けると、眠っているウナの身体が微かに震えているのが分かった。
「…おかあ、さん…」
耳に届いたその言葉に、手を伸ばそうと身を捩ったゆかりであったが、ぐっと視線を向けていない方の腕に重さを感じた。振り向いて視線を向ければ、自身の腕を抱く様にしてきりたんが眠っている。
「かあ、さま…。ねぇ、さま…」
そう寝言で呟いたきりたんの眦から涙が零れ落ちたのが確かに見えて、ゆかりはきりたんを起さないように器用に身を捩ってその手を握り、空いている方の手でウナの頭を優しく撫でてやる。
「…大丈夫ですよ。今だけは、私が傍にいますから…」
そう、聞こえてるはずもない言葉を零しながら、ゆかりは二人の悲痛な気配が収まるまで頭を撫でては掌を握り締める。それには幾分か長い時間を要したが、次第にウナの身体の震えが収まり、きりたんの抱き締める力が落ち着くまで根気強く待ってから、ゆかりはその瞳を再び閉じた。
***
「二人に、お話があります」
「…ど、どうしたの、お姉さん?そんな改まって…」
「…お別れの挨拶ですか?それは、明日帰る時にでもすればいいじゃないですか?」
ウナの思いがけない“依頼”から数えて十日間、最初に言っていた期限の最終日。最後の夕飯も済ませて、あとは寝るだけと心苦しさを僅かに抱えていた魔物娘の二人に、ゆかりは言葉を告げる。狭いあばら家の内側で、身を寄せ合いながら向かい合う様に座る二人の不安げな顔に少し思い悩むも、意を決してゆかりは口を再び開いた。
「最初は教えるつもりはなかったんです。これは魔物娘の根幹に関わる大切なことで、人間との不和になる一番の原因なので、今の貴方達に教えるのは如何なものかと思ったので。…ですが、これから魔物娘として生きていくうえで絶対必要なことですし、少しは戦力もついたでしょうから、自己責任ってことで教えちゃいますね」
「何を?今から、戦闘訓練でもするの?」
「それこそ、明日帰る前に教えてくれたらいいじゃないですか?そんな改まることなんて…」
「…性の獲得の仕方。言っちゃえば、セックスのやり方、です」
「…え、えぇっ!?」
「は、はぁ…。まさか、それですか…」
頬を染めながらのゆかりの思いもよらない発言に、ウナは思わず声を漏らし、きりたんも冷静を装いながら内心動揺を隠せないでいた。
「はい。魔物娘は、人間から性を得ることで強くなれることは何となくでも知ってますよね?…なんでも、私の性って特別製みたいなので。セックスのやり方を教えるのと一緒に、最後に私のとっておきの性を二人に贈り物として残すことにします。…いいですか?」
「う、うん…!そういうことなら、喜んで!私も、お姉さんの性、欲しいもん!」
「…じゃ、じゃあ私も…。ゆかりさんの性って、きっとおいしいでしょうし…」
「ふふ…。そういうところはやっぱり魔物娘ですね。じゃ、二人とも服を脱ぎましょうか?」
ゆかりに促されて、ウナときりたんは自身らが纏っていた衣服を脱ぎ捨てて未成熟の裸を晒す。ゆかりも同様に着用していた服を脱ぐと、二人に比べれば幾分も成熟した、しかし若々しさで満ちた極上の裸体を二人の前に見せる。ウナときりたんに女体の良し悪しなど碌に分からなかったが、魔物娘の本能が二人に目の前に示されたその身体が魔物娘にとって格別な馳走であることをこれでもかと告げていた。
「…そんなに見られると、恥ずかしいですね」
「…あ、ご、ごめんなさい!」
「…仕方ないじゃないですか、こんなに綺麗なの…。…あ、い、いえ…!」
「まぁ、いくら見てもいいので大丈夫ですよ?…それじゃあ、どっちから触りますか?」
「じゃ、じゃあ私から!」
そうピシッと手を挙げてウナは自身の積極的な意志を示した。ゆかりがきりたんの方を見れば、きりたんも頷いてウナに一番手を譲ることに同意した。
「え、っと…。わ、私も、少しは知ってるから!確か、最初にちゅーしておっぱい揉んで、最後におまんこぐちゅぐちゅってすればいいんだよね!?」
「まぁ性急に事を済ますならそうですが…。それ以外にも、ちゃんと教えてあげますからね?今は、力を抜いて…」
「は、はひぃ…!」
あからさまに緊張しているウナを一先ず落ち着かせて、ゆかりはウナの唇を親指でなぞる。そのままゆっくりとその顔を近づけて、ふに、と唇を重ね合わせた。
「ん…、ちゅ…」
「んむぅ…っ!ちゅ、ちゅる…!」
「ん、ふふ…。じゃ、今度は少しだけ口を開けてください」
「こ、こう…?」
「はい。んぅ…、れろ…」
「んんっ!?じゅ、れる…、ふ、ぅ…!?」
重ね合ったその唇の感触に目を白黒させるウナをリードしながら、ゆかりはウナの口内に舌を差し込んだ。まさか魔物娘相手に、自分が襲う側になるなんて思わなかったなと内心苦笑しながら、ゆかりは性急にならないように丁寧にウナの舌に自身のそれを重ね合わせ、ナメクジが身体を重ね合わせるようにぬとぬとと二つを絡め合わせていく。未知の感覚な上に、その身に受けるには少々刺激の強い快楽にウナは眦から生理的な涙を流して身を震わせた。流石にやり過ぎたか、と少々反省の気持ちを持ったゆかりが唇を離してウナの表情に視線を向けた。解放されたウナははぁはぁと息を切らしながら涙を零していたが、ゆかりが心配そうに見ているのに気付くとはっとしたように冷静さを取り繕って、口の端から零れるどちらのものとも知らない唾液を拭ってみせた。
「そんなに無理しなくても大丈夫ですよ。…少し、休憩します?」
「だ、大丈夫…!今度は私の番…!」
「ふふ…。じゃあ、今度はおっぱいの方をお願いしてもいいですか?」
「わ、分かった…!」
そうして腕を広げたゆかりの胸正面を陣取るようにしてウナは身を収めると、控えめながら確かにその柔らかさを主張する乳房へとその手を伸ばした。
「う、わぁ…。柔らかい…」
「ん…、ふふ。存分に堪能してくださいね…?」
そうやってゆっくり揉み込むウナの少々稚拙な愛撫を微笑ましく思いながら、ゆかりは抱き締めるようにウナの頭へ手を回してその後頭部を優しく撫でてやる。そんな甘い時間が過ぎていた中で、しかしウナは少々不服そうにゆかりに視線を向けた。
「…ど、どうしました?ウナちゃん…」
「ゆかりお姉さん、気持ちよくない…?余裕あるように見えて…」
「い、いえ…。確かにびりびり来るような感じではないですけど、ちゃんと気持ちいいですよ?」
「びりびり…。っ!そうだ、お姉さん!」
「な、何ですか?」
「少し試してみたいことがあるんだけど、いい?」
「…あんまり、変なことはしないでくださいよ?」
「えへへ、大丈夫だよ。…多分」
その多分、という呟きに一抹の不安を感じながらも身を委ねるゆかりの胸の頂点へ向けて、ウナは自身の人差し指をゆっくりと伸ばす。それに不安を煽られながらもなんとか身体を抑えるゆかりの胸元に突然の刺激が走る。
「ひゃぅ…っ!?な、なに…!?」
「にしし…!やっぱり電気を弱弱にして身体に流せばゆかりお姉さんもちゃんと気持ちよくなれるよねぇ?」
そう得意げに笑ってみせるウナの様子に、ゆかりはぞくりとした寒気をその背筋に感じた。それまでの可愛らしい愛撫から何段も飛ばして、魔物娘らしい貪欲な責めを体得してしまった目の前の可愛らしい教え子に、どう言葉をかけるのが良いのか最適解らしいものは何一つ思いつかない。
「もう一回!えーい!」
「ちょ、ちょっと待って…!ウナちゃ…、はひぃ!?」
「あはは!ゆかりお姉さん、かーわいー!まだまだ行くよぉ!」
「あ、あぅんっ!ちょ、は、激し、いっ!まって、ウナちゃん…っ!ひぅ…っ!」
子供特有の無邪気な残酷さでもって強烈な快感をお見舞いするウナは、胸だけでは飽き足らずに今度は殆ど興奮だけで僅かにしか濡れていないゆかりの秘部へと手を伸ばす。
「あれ?ゆかりお姉さん、気持ちよくなかった?おまんこ、そんなに濡れてないよ?」
「あ、あう…。急に、電気流されて、身体が気持ちよさに、追いついてないだけ、ですぅ…」
「ふぅん。でも、大丈夫だよ!ここも、気持ちよくさせてあげるから!」
「え、ま、待って、ウナちゃん…っ!」
「んっ!ウナぴ、ちょっと待って!」
「それ、どーん!」
「————————っ!!?」
浅いところでぐちゅぐちゅと秘部をかき混ぜていた人差し指を介して、ウナはゆかりの身体へと電気を流す。途端、ゆかりは声にならない悲鳴を上げながら身体をビクンと大きく跳ねさせて、そのままくたりと力尽きたように朽ちかけた床に身体を預けた。
「…あ、あれー?ゆ、ゆかりお姉さん…?」
「…おっぱいよりずっと神経が集まってるおまんこに電流なんか流したら、そりゃあそうなるでしょうよ…。どんなに弱い電気でも、人間の体には強すぎると思いますよ?」
「ご、ごめんなさい…、ゆかりお姉さん…」
先程の無邪気に残酷な様子も何処へやら、すっかり意気消沈したウナがゆかりに謝罪の言葉を投げかけるも、当のゆかりは最早荒くすらない息を細く吐きながらその身体をぴくぴくと痙攣させるだけで返事も返さなかった。
「これは、少し休憩が必要ですかね?…ウナぴは、罰としてあとはもう見てるだけですよ?」
「はぁい…」
「…?ところでウナぴ、なんかウナぴも息が荒くないですか?」
「ん…。なんかそう、かも。身体も熱くて、なんか不思議と活力が湧いてくる?っていうのかな?やる気で満ちてるみたいな感じがする…」
「…もしかして、それが性ですかね?私にもわかるくらいに魔力が高まっているのも感じますし…、凄いですね、性って」
ウナときりたんが感じたウナの魔力量の上昇は、紛れもなくゆかりから漏れ出た性を受け取ったことによる成長によるものだった。余りに強制的で急激な快楽による短いスパンの絶頂だったためにその放出量は通常の絶頂より幾分か控えめだったものの、初めて得るには余りに上質な性にウナは無自覚の内に過分とも言える成長をその身に受けていた。
「むぅ…。私も、ウナぴみたいに成長してみたくなりました。…そろそろ、ゆかりさんもいいくらいですかね?」
そうぼやいたきりたんはゆかりの元へと身体を寄せて、まだ虚ろ気に視線を彷徨わせるゆかりの頬を優しく叩く。
「ゆかりさーん、大丈夫ですかー…?」
「あ、あぅ…。き、りちゃん…?」
「あ、意識は戻ったみたいですね?じゃあ、今度は私の番でいいですか?…私も、ウナぴみたいに強くなってみたいです」
「ぅ、うん。いいよ…?私が、ちゃんとリードし、て…っ」
「っと…。無理しないでくださいね?私はウナぴより、色々知ってますから少しは私に任せてもらっても大丈夫ですから」
まだ少しふらつくゆかりの身体を支えると、きりたんはそのままゆかりを優しく押し倒して覆い被さる。
「…っ」
「…そんな怖がらなくてもいいですよ。…まぁ、確かに鬼って力自慢なだけでそういう性的な技に関してはあんまり自信のない種族ですけど…。でも、ゆかりさんが気持ちよくなれるように頑張りますから」
「う、うん…」
そう優しく言うきりたんの様子にも、まだ不安を拭いきれないゆかりに溜息を零しながらもきりたんは再び優しい言葉をかけた。
「私も私で、ぶっきらぼうな物言いが多かったからあんまりそんな感じしませんでしょうけど、これでも感謝してるんですからね?私にとってゆかりさんは確かに大切な人なんですから。そんな人に乱暴なんてしませんよ…、ん、ちゅ…」
「ふむ…っ」
そのままの勢いできりたんはゆかりの唇を奪う。不意打ちを食らったゆかりは驚きの視線をきりたんに向けるが、きりたんは優しい視線を返すだけだからゆかりもどうしようもなく視線を彷徨わせることしか出来ない。
「ん、ちゅ、じゅる…っ」
「んぅ…っ!れ、ぅ…」
そのままゆかりの口内へ舌を滑らせると、きりたんは些か短い舌でそれでも精一杯快楽を与えるように口内をかき回す。最初は緊張していたゆかりも、次第にきりたんに身を任せる。きりたんによる初めての不慣れな愛撫でも、次第にゆかりは快楽を感じ始めていた。
「ふ、ぁ…っ。よし、今度はおっぱいですよぉ…。はぁむ…っ」
「ひん…っ!」
ゆかりの頂点をきりたんは無遠慮ながら強くなり過ぎないように口に含んで舌先で転がしてみせる。もう片方の丘陵を小さな掌で撫で擦るように揉み込むのも忘れない。次第に高くなる嬌声の傍らで、きりたんは静かに、しかし確実に自身の身体に秘める力が高まっていくのを感じていた。それは間違いなくゆかりから放出された性によるもので、そんな一種の全能感に溺れないように意識を集中しながらもきりたんは確かな気の昂りを覚えていた。
「こういうのは、どうれふか?ん、ちゅうぅ…っ!」
「ひゃ、あぅう…っ!つ、つよいぃ…!」
きりたんは気の昂りに少しばかり身を任せて、ゆかりの乳首に吸い付いたまま甘噛みをしてその頂点を少しばかり引っ張ってみせる。もう片方の乳首も指先で同じように責めてみた。そうすればゆかりも身悶えながらこぷり、と確かな量の性を溢れさせるので、きりたんも嬉しさにその身を震わせた。
「ぷぁ…っ。あとは、下…。おまんこだけですね…。ここは少し自信が無いんですけど、それでも気持ちよくできるように頑張りますね?」
「は、あ…っ。う、うん…」
ひとしきり満足したきりたんは乳首を開放してゆかりの下半身、先程電気で強烈な責めを味わわされた女陰へと手を伸ばす。ウナが責めた時よりも幾分か蜜を滴らせたそこはひくひくと蠢いていて、確かにそこへ侵入しようとするものを迎え入れる準備は済んでいるようだった。
「じゃ、入れますね…」
「ふ、んぅ…」
そうしてゆかりの膣内へ指先を滑り込ませてきりたんはぐずぐずとかき回す。しかし、その指は奥まで届かせるには些か短くゆかりも乳房にもたらされた愛撫よりもどかしさで悶えているような様子だった。
「ん…。やっぱり、届かないですか…。性?の出もあんまりよくなってないですし…、どうしようかな…?」
「…ん!ね、ねぇきりたん!私、試したいことがあるんだけど…!」
「んぇ…?ウナぴ、さっきやり過ぎたばっかりじゃ…」
「うぐ…。で、でも、電流びりびりじゃない感じのなんだって!お母さんがやってるの、今思い出したの!」
「…まぁ、私も手詰まりですし。いいですよ、参加しても」
「やりぃ!じゃ、よろしくね!ゆかりお姉さん!」
「お、お手柔らかに、ね…?」
乗り気なウナの様子にびくりと背を震わせて身を固くするゆかりの姿に苦笑しながらも、きりたんはウナを迎え入れた。そんなウナは、ゆかりの女陰の少し上、丁度子宮の上あたりの柔らかな下腹部に片手を添えた。
「なんか、びりびりじゃないじわじわぁってした電気の流れなんだけどね?お母さんが教えてくれた、何のために使うのか分からなかった電気の使い方だけど、もしかしたらこれじゃないかなって!」
「まぁ、御託はいいですからやってみてくださいよ。びりびりじゃないなら、ゆかりさんも大丈夫でしょう?」
「う、うん…。頑張る…」
「はーい!それじゃ、そーれ!」
そうして、ウナは先程とは性質の違う、じわじわと熱量を上げていくようななだらかな力の電流を腹部に流す。それが身体に変化をもたらすのに、そう時間はかからなかった。
「ん…、あれ…?な、何だろ…。お腹の中に、ちから、入れらんない…」
「おや…?ゆかりさんのナカ、蜜がさっきより沢山出てますよ?これなら、さっきより少しだけ力入れても大丈夫かも…」
「お、いいんじゃない?まだまだ、じわじわ行くからねぇ?」
「ん、んぅぅ…っ!?な、なんで…!?さっきまで、こんなに…!?」
「ん…?気持ちよさそうですね、ゆかりさん?これも電流のお陰ですかね…?」
そのまま電流を流され続けるゆかりの下腹部は、微弱な電流で解されて筋肉の張る力を奪われていた。更に、凝りを解された下腹部は知らぬ間に快楽の閾値を下げられて、激しさを増したきりたんの指の動きと合わせて体感的なゆかりの快楽を倍増させており、ゆかりの精神をじわじわと追い詰める。しかし、何よりもゆかりを動揺させたのは、性交に耽る三人の耳に突如として届いたある音だった。ぐちゅぐちゅと膣内をかき回す音に交じって、ちょろろ、と慣れ親しんだ、しかし予想だにしない音が耳に響く。
「お、おぉお…っ!ゆかりさん、お漏らししてるー!」
「え、う、うそ…!?や、やだぁ…っ!?」
「あ、はは…!ゆかりさん、可愛いですね?赤ちゃんみたいです…!」
「ちがう、違うのぉ…!こんなの、私じゃないの…!」
「いいんだよ、ゆかりお姉さん!赤ちゃんみたくお漏らししても、ゆかりお姉さんは私達のかっこいいお姉さんなんだからね!」
「そうですよ!今くらいただただ気持ちよくなってください…!」
筋力の支えを失って尿を零してしまったゆかりの動揺は計り知れず、駄々をこねるように叫ぶゆかりを支えたいのか羞恥を煽りたいのか定かではない二人の魔物娘による言葉に追い詰められて、ゆかりは次第に高いところまで昇らされていってしまう。羞恥心からゆかりはそれを止めたいと願うのだけれど、ゆかりから漏れ出る性は加速度的にその量を増しており、責め立てる二人に自分達の性衝動を抑える選択肢は微塵にもなかった。
「い、イく…!も、もう、私、イっちゃう…っ!」
「いいよぉ、お姉さん!赤ちゃんみたいにしーしーしながら気持ちよくなっちゃえ!」
「そうです!このままイっちゃいましょう!さぁ!」
「い、イく、イくぅうううううううっ!!」
きりたんがウナの電流によって快楽の閾値が限界まで下がったゆかりの膣壁を鬼特有の力強い指先でごじゅん、と殴りつけたのを最後に、ゆかりは快楽の叫び声をあげながら絶頂に押し上げられて同時にその意識を彼方まで飛ばしてしまった。
「…っ!?こ、これがゆかりさんの性…っ!?す、すごい…!」
「ゆかりお姉さん、凄すぎるよ…ぉっ!こんなの、力がどうとか関係なく、我慢できない…っ!」
意識を失いながらも彼女の意志に反してちろちろと尿をこぼしてしまっているゆかりの傍らで、初めてのちゃんとした絶頂から溢れ出る性を堪能した魔物娘の二人は、その性が与える力と快楽に彼女達も初めての絶頂へと押し上げられていた。言葉も途切れ途切れに身を震わせて、二人は熱い視線を交わしながらその視線を気絶したゆかりに向ける。それは確かに熱情を孕んでいて、その対象がゆかりであることに傍目から見ても疑いようがなかった。
その熱情の赴くままに気絶したゆかりの身体を貪る、ということは流石にしはしなかったが、尿や愛液で濡れた床を片付けながらウナはきりたんに言葉を投げかける。
「…ねぇ、きりたん」
「なんでしょうか?」
「セックスする前に、ゆかりさんが性を取るやり方だって教えてくれたけど、さ…。きりたん、ゆかりさん以外の性を取る気、ある?」
「…あるわけないじゃないですか。もし、ゆかりさんより強くなるって言われても、ゆかりさん以外の性を貪る気なんてさらさらないです」
「だよねー…。…もう、こんなの知っちゃったら、戻れないよ」
「そうですね、ウナぴ…。ゆかりさんを、ちゃんと私達のものにしたい…!」
「あははー…。やっぱり気が合うね、私達」
そう軽口を叩き合いながらも二人の視線は隠しきれない情欲と独占欲に染まり、その昂る気持ちを碌に抑えきれないままの二人が眠りに落ちるまでにはそれは長い時間がかかった。
***
『———!』
「…ん、んぅ?きりたん、起きて?」
「んぁあ?まだ、眠たいんですけど、どうしたんです?ウナぴ」
「なんか、聞こえてさ…」
まだ眠気を感じる二人は目を覚ます。朝早くに似合わない、大きな声に耳を澄ましてみると、
『——ぃ殿ぉ!大丈夫ですか、ゆかり殿ぉ!』
「———っ!きりたん、この声…っ!」
「…間違いなく、ゆかりさんを探しに来たギルドの輩、ですね…!」
先程まで寝ぼけ眼だった表情は、急転剣呑なものへと変わる。ウナはその中に困惑を含ませていた一方で、きりたんは何処か覚悟を決めたような表情を浮かべていた。
「ど、どうしよう…!?ここが見つかったら、私達…!」
「ふ、ふふ…。いいじゃないですか…!」
「き、きりたん…?」
「ギルドの輩に、堂々とゆかりさんの所有者は誰か宣言するいい機会です…!いいじゃないですか、どうせやられるかもしれないなら、当たって砕けろです…!折角ゆかりさんから頂いた力の初陣といきましょうじゃないですか…!」
「…っ!う、うんっ、そうだね…!やっちゃおう!」
「ゆかりさん、はまだ寝てますよね?好都合です。さぁ、行きますよ。ウナぴ」
「うん、やったるぞー!」
そう言って二人は装備を手早くまとめてあばら家を飛び出した。
「…」
そうして二人の姿が消えたあばら家の中で、昨晩の醜態に関する羞恥などとうに彼方まで廃したゆかりは、極めて冷静に二人に整えられたその身体を起こしてみせた。
「ゆかり殿、ゆかり殿ぉ!…返事がないですね」
「全く…。旅の冒険者のくせに下手に実力があると、こういう時に面倒だ。ギルマスに気に入られるんじゃないって話だっての」
「まぁ、そう言うな。割と長い間滞在して、厄介な案件を幾つも解決してくれてんだ。ギルマスが気に入るのも仕方ないだろう。そんな冒険者が十日も姿を消したんだ。私達で探せるなら探してやってもいいじゃないか」
「ったく、リーダーはお人よしが過ぎるぜ…」
「っ、やいやい!そこのお前ら!」
「ぅん?」
三人の冒険者、話から察するにギルドマスターの命令を受けたらしいクランの一団に向けて幼げな少女の声が響く。その声がした方へ三人が視線を向けると、二人の魔物娘の少女が一丁前に戦闘態勢を取って三人に相対していた。
「ここが私達、魔物娘盗賊団の縄張りだと知ってずけずけと入り込むとは、大した度胸じゃあないか!」
「知らないんなら、ひん剥かれた後に後悔してください!それとも、私達に身ぐるみ全部差し出して帰るなら、見逃してやってもいいですよ!」
「…なんだぁ?こんな、ちんけな魔物娘がいるとはなぁ?それはこっちの台詞だ。ほれ、痛い目見たくないんならさっさと帰んな。俺らはお前らの相手をするほど、暇じゃねぇんだよ」
「…見た目で判断するのは、お前の悪い癖だと何度言ったら分かるんだ?そもそも魔物娘なられっきとした討伐対象だ、それがこどもであってもな。…それで、君たちに尋ねたいことがある。ゆかり、という軽装の女性冒険者に心当たりはないかい?私達は彼女を探しているんだ」
ガラの悪い男を嗜めながら二人に険しい視線を向けるリーダー格の男の覇気に気圧されながら、しかしウナときりたんは尊大な盗賊団としての態度を崩さずに振る舞ってみせる。
「ゆかり。…くっくっく。あっはっはっは!あいつのことか?そんなの、私達に歯向かったから頂いてしまったよ!」
「…っ!?あ、あのゆかり殿がっ!?」
「あれは中々にいい性を持っているようですので、私達が子飼いにしていますよ?返してほしいと言われても到底そんな気はありません。どうしてもというのなら、私を負かしてみせてください?」
「…ほう。なら、仕方ないな。じゃあ、私達が相手になろう。仮にも魔物娘だ。相手にとって不足はないさ」
そう言って剣を構えるリーダーの前を遮るように、ガラの悪い男と重武装に身を包んだ男がウナときりたんの前に立ちはだかる。
「リーダーは、とりあえず引っ込んでな。こいつらくらい、俺らで十分だ」
「うむ。いかに魔物娘と言えど、所詮は子供。我らで相手して差し上げよう」
「ふっふっふ…。油断すると痛い目を見るってことを教えてやるぞ!」
「私達も最初から全力でいかせて頂きますよ?覚悟してください…!」
そう言いながら睨みつけられた二人の冒険者は、それぞれ自身の獲物を構えて言葉を交わす。
「あの大剣持ったガキは俺が相手する。お前はあの武器も持ってないちっこいのをやれ」
「了解した」
「来ますよ…!油断はしないでくださいね、ウナぴ…!」
「合点承知!」
「はぁあああっ!」
その掛け声とともに、きりたんは高く飛んでその大剣をガラの悪そうな男に振り下ろす。しかし、その大振りな攻撃を知った気に回避して、ガラの悪い男は地面に大剣を沈めたきりたんへ向かって槍を突き出した。
「死ねや、おりゃあ!」
「甘い、です!」
「うぉっ!?くっ…!」
しかし、きりたんはその突きを大剣をぐるりと回して盾のようにして弾いてみせると、そのまま剣を軸に身を翻して蹴りを振り下ろす。それをすんでのところで回避して、ガラの悪い男は悪態をつく。
「ほら、まだまだ私は余裕あるよ!いけ、秘技“ウナギ連弾”!」
「む、うぉおおっ!?じゅ、重圧…っ!」
一方のウナも負けてはいない。ゆかりの指導と昨夜の性から得た魔力を組み合わせて編み出した電気の魔力弾の連撃に、重装備の男は盾斧を防御に使わざるを得ない。
こうして実戦を経験して分かるのは、ゆかりの指導と彼女から得た性は確かに二人の力になっているということ。つい十日前までただ剣を振りましては川に電流を流すだけの戦法を取っていたとは自身でも思えない。きりたんもウナも、確かな成長を実感しながらそれでも慢心せずに相対する二人に己の技を振るう。
「こ、の…!あんまり舐めんじゃねえぞ、このガキがぁっ!」
「う…、ぐうっ!?」
それでも、流石に戦闘を行うものとしての年季の差は中々埋められない。一瞬の隙をついたガラの悪い男の一撃がきりたんの腹部を襲う。ゆかりの性によるブーストも相まって鬼特有の硬さを誇る肌が貫かれることはなかったが、腹部に与えられた強い衝撃に思わず怯んだきりたんは後退して膝をついた。ゆかりの教えの通り、どうにか武器を手放すことはしなかったが今は細やかな動きにまで気を回せないだろう。
「っ、きりたん!」
「油断、大敵!隙ありぃ!」
「ふべぇ!?」
きりたんの窮地に思わず意識を反らしたその一瞬を見計らって、重装備の男は盾装備をそのまま鈍器として用いてウナの軽い身体を吹き飛ばした。吹き飛ばされたウナは、そのまま宙を舞ってきりたんのすぐ横に着地する。きりたんほどではないにせよ魔物娘としての頑健さを誇るウナには致命傷にはならなかったものの、無防備に顔面で盾の硬さを受けたウナは無様に鼻血を流してしまう。
「くっそ…。ガキの癖にいちいち癇に障る戦い方しやがって、むかつくぜ…!おら、さっさと立て!どうせ、まだまだやるんだろう!?」
「当然、です!勝てなくても、ここで命捨てる覚悟でやってるんですよ私達は…!」
「そうだぞ!いつでも全力全快!私もまだまだやってやるんだからな!」
「覚悟、了解!それならば、我もこのまま全力で相手を…」
「…もういい」
そんな四人のばちばちとした戦闘を遮るように冷たい声が響く。声のした方に視線を向ければリーダーの男が腹立たし気に剣を構えて四人を見やっていた。
「…とりあえず、お前らは後で説教だ。相手の力量も測れずに苦戦するような奴が、一流の冒険者を名乗るんじゃない」
その冷たい言葉に返す言葉も出ずに、冒険者の男二人は彼の後ろへ退いた。その表情は不甲斐なさで歪んでいる。
「まぁ、私も言えた義理じゃないがな。君達が思ったより強かったのは事実だ。…だから」
そう言ってリーダーの男は剣の刃に強い魔力を込める。途端、その刀身にばちばちと激しい雷光が迸りウナときりたんを圧倒する。
「そんな君達にせめてもの敬意を込めて、この技で一掃しよう。私の自慢の技だ、きっと耐えられないと思うがどうか避けないでくれよ?」
そう、今までの紳士的な態度とはかけ離れた嗜虐的な笑みを浮かべて剣を振り上げる男の姿に、もはやこれまでかと魔物娘の二人は思わず目を閉じる。その時だった。
「…《流星》」
その呟きが聞こえたかと思ったその途端、上空から隕石を思わせる幾つもの魔力塊が五人、その中でも冒険者三人の周囲に降り注ぐ。
「…っ!?」
「な、なんだぁ!?」
「むぉおっ!?」
男達は思い思いの驚愕の声を上げて魔力塊を回避する。ウナときりたんも回避すべきかと意識を集中させていたが、不思議と自分達に当たる気配は感じない。それ以上に、傍らに墜ちた塊から感じる魔力は、どうしようもなく慣れ親しんだものだった。
「…全く。何が“命捨てる覚悟”ですか」
そうぼやきながら庇うようにウナときりたんの前に立ったのは紛うことなくゆかりその人で、冒険者三人も魔物娘二人も話の中心にいたと言っても過言でない人物の突然の登場に驚愕の表情を浮かべていた。
「ゆ、ゆかりさぁん!」
「ゆかりお姉さん!」
「…急な登場は、流石に驚きますね。ゆかりさん。…随分と、その盗賊団の娘達と仲がよさそうじゃないですか。先程は子飼いにされていた、と聞きましたが」
「えぇ、見栄っ張りな子達で困っちゃいますね」
笑いながらも剣呑な視線を向けるリーダーの男に、不遜な態度で返すゆかりの様子にウナときりたんは心配の視線を向ける。
「…で、その二人とはどういう関係で?その様子だとやられたわけでは当然無いのでしょう?」
「えぇ。どんな関係かと言われれば案外単純なものですよ?彼女達に絆されました」
「は…?」
あっけらかんと告げられたその言葉に、リーダーは思わず怪訝そうな声を漏らす。
「親に捨てられて身を寄せ合いながら盗賊になった彼女達をどうも放っておけなくて、少しばかり彼女達の保護者みたいなことをしていました。愉快なものでしょう?」
「…それは、それは。まぁ、いいでしょう。それで?彼女達をどうするつもりです?彼女達を守るために私達、ひいてはギルドを敵に回しますか?」
「その必要はないですよ?…彼女達は、これから私と一緒に暮らすんですから」
「…はぁ?」
「え…?」
「な、何を…」
そんな思いもよらない発言に、リーダーの男はおろかウナときりたんでさえも呆気にとられた声を口から零す。
「私って、ギルドマスターに大層気に入られているみたいなんですよ。その特権をフルに活用して、私は彼女達と一緒に街で暮らそうかなと思います」
「ばっ…!そんなこと、許されるわけないだろ!頭いかれてんのか!?」
「ゆ、ゆかり殿、ご乱心ですか?どうか、お気を確かに!」
「ギルドマスターの要求は呑める限り、吞み込みますよ?もう旅の冒険者の称号は金輪際捨てて、あのギルドの専属冒険者になります」
「なっ…!?」
「それに、彼女達にも勿論働いてもらいます。街の商工会やギルドで人間に交じって生活する術を教え込んで、魔物娘の力を全力で活かしてもらいます。どうです?人間と魔物娘の橋渡しなんて、ロマンがある話だと思いませんか?」
「ろ、ロマンなんて言葉で誤魔化そうったってそうは…」
「私がすべて背負います」
「…っ!?」
「彼女達が起こした行動の責任や処遇は、すべて私が背負います。保護者として当然の責務ですので」
余りに凛としたゆかりの物言いに、我先にと反論をしていたガラの悪い男も思わず言葉を失ってしまう。
「…本当に、責任の全てを背負い込む覚悟があるんですね?」
「当然です。そうでなければ、こんなこと思っても口にするわけないでしょう?」
「…なら、分かりました。では、私が責任もってギルドマスターに伝えさせていただきます。きっと、ゆかりさんの言葉であればあの人も快く受け取るでしょう。いい返事を期待していてください」
そう言ってリーダーの男は微笑んで、ゆかりに背を向けた。そのまま歩みを進めるリーダーの背を追って、ガラの悪い男は慌てたように口を開く。
「お、おい!ほんとにいいのか、リーダー!?」
「いいも何も…、彼女の決断がいいかどうかを判断するのはギルドマスターの役目だろう?なら、私達はただ報告するに留めるだけだよ」
「報告ったってどう言えばいいんだよ、こんなの…。ったく、俺は知らねぇぞ?」
「うぅ、ゆかり殿、どうして…。し、しかし、ゆかり殿ほどの人がああ言うのなら…」
「…なんで、こいつはギルマスと同じくらいにあんな狂った女に心酔してんだ…」
「ははは、いいじゃないか。それに、ゆかりさんがギルド専属になってくれるのなら私も助かるよ。いつでも腕試しが出来そうだからね」
「…はぁ、このバトルジャンキーがよ…。まともなの、俺だけしかいねぇじゃねぇか…」
そう肩を落とすガラの悪い男を連れて渓流の傍らの砂利道を歩いていくリーダーの男へ向けて、ゆかりが思い出したように声を上げた。
「あ、すいません、リーダーさん!」
「ん?なんでしょう?」
「これ、お願いできませんか?」
そう言ってゆかりは腰のポーチからあるものを取り出してリーダーの男へと放り投げた。弧線を描いてリーダーの手の内に収まったそれは、ゆかりが依頼を受けた駆け出し冒険者の男が待ちわびていた父の形見の刀剣だった。
「一応、これは早めに返してもらいたいなって思いまして!その他の、この子達が盗んじゃった盗品も順次返すことが出来そうだと、ギルドマスターに伝えてもらえると嬉しいです!」
「…はい、分かりました!伝えておきましょう!」
そう言葉を交わして二人の会話は終わる。会話を終わらせたゆかりは、呆然と彼女の背中を眺めているだけだったウナときりたんに優しい笑顔を向ける。
「…もう、無理しちゃ駄目って今までも言ってたでしょう?でも、よく頑張りました」
その言葉に堰が溢れたように二人の瞳から涙が零れ落ちる。
「ゆ、ゆかりさぁん…っ!」
「こ、こわかったよ、ゆかりお姉さん…っ!」
「あぁ、ほら。鼻血なんか出して、もう…」
ウナの鼻を拭い、ゆかりは二人を抱き締める。ウナときりたんも、ゆかりの背中にその手を回してわんわんと声をあげて泣いた。
***
そんな事件を経て、十年ほどの月日が流れる。紅葉で彩られた渓流の側に佇む港町の建築現場で、茶髪を短く切り揃えた女性が大きく息を吐いてその作業着を脱いだ。そのまま手際よく帰りの準備を済ませて、男所帯の中を気にする様子もなく返事を交わしながら歩いていく。そのまま建築事務所を笑みを零しながら出たところで、彼女に声を掛ける姿が一つ。
「あ、きりちゃんヤッホー!」
「お、じゅんちゃんじゃないですか。じゅんちゃんも帰りです?」
「そうだよー?きりちゃんも帰りなら、よかったら喫茶店寄ってってよ!お父さんも待ってるよぉ?」
「ん~、嬉しいですが今日は親方がくれたお菓子があるから遠慮しますね?早く、ゆかりさんにも食べさせてあげたいですし!」
「そっかー!後で、ゆかりさんとウナちゃんと一緒に来てね?歓迎しまーす!」
「ははは!じゃ、またあとで!」
そう塾帰りの少女に笑いかけて、きりたんは帰り道を鼻歌を奏でながら足早に急ぐ。煉瓦で囲まれた街の上層に駆け上り、町外れの小さな家の姿を視界に収める。曇りガラスの向こうに明かりを認めて、すでにどちらかが帰っていることを察してどこか安心した心持でその扉を開いた。
「ただいま帰りましたー」
「あ、お帰りなさい、きりちゃん。今日もお疲れ様です」
「お疲れ様です、ゆかりさん。今日は早いですね」
「うん。ここ最近は碌に帰る暇もないくらいに仕事が詰まってたから、今日くらいは早く帰ってくださいって若い子達に気を遣われましてね。ふふ、いい子達ばかりで嬉しくなっちゃう」
安楽椅子に腰かけてくつくつと笑いながら、ゆかりはいつの間にやら趣味になった読書を楽しんでいるようでその膝に読みかけの本を置いている。
「お疲れ様です、ゆかりさん。…私も、ちょっと疲れちゃいました」
「今日は大工さん仕事でしたもんね、お疲れ様。今日はシチューだから、いっぱい食べてゆっくり休んでくださいね」
「わぁ…、嬉しいです。楽しみにしてますね。…でも、それより先に」
「うん?」
「ゆかりさんからもご褒美ほしいなって…」
安楽椅子に身体を預けるゆかりに覆い被さるようにきりたんは身体を折り曲げて、物欲しげな視線を向けながらゆかりの唇に自身のそれを近づける。仕方ないなぁと微笑みを零して、ゆかりがその唇を待ち構えていると、
「ただいまー!あのね、漁協の兄ちゃんからハマグリとアマグリ貰ったから、これ美味しく料理してほしいなってー!…って、なにイチャイチャしてんのさ!?私も混ぜろー!」
「うわ…。いいタイミングでなんで来るんですかねぇ…。間が悪いぞ、ウナぴー?」
「そんなの知らないもん!仲間外れにしないで!」
「ふふ、そんなに急かさなくても大丈夫ですよ」
いつの間にやら口論に勤しむ二人の元へ歩み寄って、ゆかりはまずきりたんに、その後でウナに背伸びをしながら唇を押し付ける。そんなゆかりの思いがけない大胆な行為に、きりたんは恥ずかしそうに頬を染めて対照的にウナはにししと嬉しそうに頬を緩める。
「さ、夕飯にしましょう?今日は私お手製のシチューですから、楽しみにしててくださいね?」
「おお!ゆかりお姉さんのシチューは美味しいから楽しみだ!…あ、そういえばさ」
「どうかしました?」
「ゆかりお姉さん、明日休みって言ってたよね?久しぶりに、お姉さんと気持ちいいことしたいなぁって!」
「えぇー?ウナぴ、激しすぎるからゆかりさんも大変ですよね?それなら、私がやりたいですね?」
「えぇー!?何言ってんのさ!横取りなんてズルいぞ、きりたん!」
「そんなこと言っても、選ぶのはゆかりさんですもんね?ね、ゆかりさん?私の方がウナぴよりいいでしょう?」
「…もう、二人とも。いつまで経っても若いんですから…。もうおばちゃんな私は、体力が持ちませんよ。およよ…」
「…そうは言っても、ゆかりさんも私達に抱かれるたびに魔力に当てられて、もうここ五年くらい姿変わってないですよね?身体も作り替えられてるの、知ってますよ?」
「そうだぞ!そろそろゆかりお姉さんも、私達の仲間入りするんじゃないのか?そうなら嬉しいな?」
「いや、私は番なだけなので、魔物娘の仲間入りは多分できないですよ…。…でも、このまま完全に番に作り替えられればずっと長い間二人と一緒にいられるので、そうなればいいとは私も思いますよ?」
「にへへ…。…あ!それで、結局ゆかりお姉さんはどっちとしたい?私?きりたん?」
「…私は、欲張りなので。どっちも、はダメですか?」
「…全く、ゆかりさんは仕方のない人ですね?」
「それじゃあ、今日も二人でゆかりお姉さんを気持ちよくしてあげるな!」
「ふふ…。お手柔らかに、お願いしますね?」
渓流をすぐ側に臨む産業が盛んな港町、その街には信じ難い話がある。人間と天敵関係にあるはずの魔物娘を二人、街中で義理に育てる名うての女性冒険者がいるということ。彼女に育てられた二人の魔物娘は街野ギルドや商工会に駆り出されて人々と共存しているということ。そんな彼女達は今や街の顔と言っていいほどに住民達から受け入れられているということ。
無論、そこまでに至る道のりは決して生易しいものではなかった。そこに至るまでに、数えるのが億劫になるほどの不和と衝突があった。諦めそうになることも片手では足りないくらいあった。それでも、冒険者と魔物娘らは諦めはしなかった。根気強く、辛抱強く。最早分かり合うつもりなど毛頭も無さそうな人々とも体当たりでぶつかって、最後には分かり合った。彼女達は強かった。いや、強くあろうと努力した。
そんな女冒険者の、ゆかりの旅人という意味での冒険はもう十年も前に終わってしまった。それで失ったように感じたものも多くあった。しかし、今の彼女は、それを差し引いてなお代え難いほどの幸福に包まれていた。
【きりたん】
鬼娘の少女。実は風習とかではなく、食い扶持に困った親に適当な理由をでっち上げられて捨てられた可哀想な少女。ウナにはそうでもないが、心の中にどこか劣等感を持っており見下されることを激しく嫌う。特に人間嫌いでゆかり相手にもだいぶツンケンした態度を取っていた。魔物娘であるが最早幼いレベルで歳若いので実力は半人前。しかし盗賊団時点で怪力と頑強さはそれなりにある。少なくとも防具なく頭にモロに大剣食らったら普通に潰れる。十年後では力の強さを活かして肉体労働をメインに働いている。角材などを運ぶのが得意。というか好き。身体をよく動かすので鍛えられているし、三人の中では一番背も高くなった。頼られるようにもなって、劣等感はすっかりどこかへ行ってしまった。
元ネタは東北きりたん。なまはげのイメージから小鬼にしました。あと、幼い魔物娘というテーマを書きたかったのでその犠牲者にウナちゃんと一緒になってもらいました。何が困ったってえっちシーンどう書けばいいのってところです。本能のまま襲いかかるのもなぁ、と筆を取っては置いてを繰り返し今の形に。反省はともかく後悔はしていない。
【ウナ】
電気ウナギ娘の少女。アカデミーの教本にも載っていない珍しい種族の魔物娘で、文字通り電気を操れるので成熟すれば結構厄介な魔物娘だったりする。それより先に捨てられたが、ゆかりの教えでかなりテクニカルな戦い方を覚えたので、ウナの主観的にも客観的にも割と結果オーライだったりする。
盗賊団時点で情緒的には割と安定しており、捨てられたことに関しても「仕方ないかぁ」とどこか達観してる面もある。内心はまだ母親を求めてはいたが。色々と器用でもあり、十年後は割とオールマイティに街の仕事に駆り出されている。一番好きな仕事は漁師に連れられて電気漁することだったり。
元ネタは音街ウナ。ウナギからの電気ウナギは安直ながら割といい発想だなと自画自賛してました。電気責めも書けたので、書き上げられた時は割と満足してました。