ここのマスターに招かれて一週間。アリアルは一つの困りごとを抱えていた。
(全く、これに関しては流石に恨むよマスター…)
自室までの廊下を前屈みになりながら進むアリアルのズボンには、女性に性別設定されていた彼女にとって本来存在しえない膨らみが存在していた。そう、彼女は両性具有、所謂ふたなりであった。というのも、マスターが彼女の一人称が“僕”であることを知った際に、自分が性別設定を間違えたと勘違いしたのである。その上、そういった知識を半端に得ていたマスターはサポートセンターに相談することもなく自分でやろうとしてそこでエラーを発生させてしまった。結果、女性であったアリアルに本来はない肉棒が生えてしまったのである。
一緒にダウンロードした関係でその場にいたミリアルとマスターは知っているが、アリアルは他のソフトウェアトークにそのことを隠している。パッチである程度は弄れるからさして隠す必要もないだろうと二人は言うが、それとこれとは話が違う。元々それを持っていたトークロイドと違い、不手際で生やされたそれはアリアルにとって自然と意識を向けてしまうものだった。その上、共同生活をしているPC内に住む女性トークロイドは女性として魅力的で服装も扇情的な格好をしている人ばかりである。その度に自ずと反応してしまう息子を見られて節操無しと思われたくないし、下手にカミングアウトしても却って勃起を察せられてしまうのでは、という恐れがあって二人以外の誰にも言えずにいた。
更に困るのが、勃ってしまった後でそれを発散させる方法である。マスターは男性であるため抵抗があったし、妹であるミリアルに頼むのも気が引ける。というよりも、お願いでもしてしまったら全力で拒絶される。ありったけの軽蔑付きで。そのため、アリアルは自身の分身が元気になるその度に部屋に戻って吐精するのである。
「いい加減に、こんな生活もしんどいぞ…。早く僕の性別データを書き換えてもらわないとなぁ…。急いでくれよ、マスター…」
誰に言うでもなく独り言ちるアリアルであったが、そろそろ部屋が近づいてきたから油断したのだろう。丁度廊下の角を曲がったところで、
「うわ!」
「きゃあ!」
どん、と誰かにぶつかってしまった。
「す、すまない!前をちゃんと見てなかった!」
「い、いや。こっちもちゃんと見てませんでした!」
そう言って申し訳なさそうに頭を下げるのは結月ゆかり。このPCでも古参のボイスロイドであり、アリアルもよく世話になる女性ロイドである。しかし、その扇情的な服装や顔の良さ込みでの仕草からよくアリアルの情欲を煽るという点で少々苦手なトークロイドでもあった。現に今も、頭を下げている端から僅かに覗きそうになっている胸元を意識してしまう。
そして、唐突にぶつかったためだろう。すっかり油断していたアリアルは、自分が大きく股を開く形で尻餅をついたこと、その間にゆかりがいること、そしてその状態でゆかりが頭を下げたこと、それらに気を回せる余裕がなかった。それ故に、
「…あの、アリアルさん?」
「ん、どうした、んだぃ…」
「この、膨らみは…」
「…っ」
そこからのアリアルの行動は早かった。周りに誰もいないことを急いで確認すると、困惑するゆかりの手を引いて自分の部屋へと連れ込んだ。そうして、部屋の中に入るとゆかりの肩に手をかけて言う。
「その、落ち着いて聞いてほしい!えっと、僕は確かに一人称も男っぽいが、別に男性じゃあないんだ!その、これはマスターが悪いのであって、いや、確かに僕っていう一人称を使っている僕も悪いのかもしれないのだけれど」
「あの、アリアルさんも落ち着いてください!色々話がまとまってないです!」
そうして、どうにか互いに落ち着かせあいながら、アリアルがふたなりになった経緯について説明し終わるまでに30分以上の時間を要した。そうして、ベッドに並んで座りながら、アリアルもゆかりもやや気まずそうにしている。特にアリアルは、今この状態になってもなおも硬さを保つ自身の分身を脚で隠すようにして座っている。
「…その、大変ですね?」
「あ、あぁ…。まぁ、それなりに大変だね…。早く治してほしいんだけれど…」
話題を探そうとするが、自然と行き着く先はアリアルに聳え立つそれになるわけで。気まずさと気恥しさが場を支配する。
「その、厄介払い、というわけじゃないけれど…ゆかりさんがいると、恥ずかしくて、その、抜けないから…」
「私がやっちゃ、駄目ですか?」
「…は、はぁ!?」
突然の提案に、つい先輩であることも忘れて驚きの言葉をそのまま零してしまう。
「ゆ、ゆかりさん、何を言って…」
「わ、私も興味ないと言えば噓になりますし、その、後学のためにやらせてもらおうかと…」
「で、でも、そういう知識とか、あるのかい?」
「一応、マスターの本とか動画をこっそり見たりして、それで…」
本当に余計なことにしかならないな、とマスターに内心悪態をつきながらアリアルは混乱していた。しかし、ゆかりの奉仕を受けれるかもしれない、と反応した愚息はその硬さと大きさを増していく。
「ほら、大きくなってきてますし…。我慢しなくていいんですよ?」
「い、いや、ちょっと…!」
アリアルの制止めいた声も聞こえないふりをして、ゆかりは彼女のショートパンツを器用に脱がせていく。そうして、ぶるん、と効果音がしそうなほどに膨らんだ逸物が外へと飛び出す。
「う、うわぁ、大きい…」
ゆかりは跳ね出した肉棒の余りの大きさに驚きと感嘆の声を漏らした。アリアルはおろかゆかり自身も知らないほどに性に興味があったのだろう、ゆかりは目を離さずに分身を見つめている。それにいよいよ観念したのか、それとも吹っ切れたのか、アリアルは一度天井を仰ぎ見てゆかりに言った。
「…言い出したのはゆかりさんだからね?よろしく頼むよ…?」
「は、はい!」
そう返事をして、ゆかりは亀頭に唇を触れさせる。ちゅ、ちゅ、と亀頭自体やその周りに口づけを落として、更に舌を這わせる。その刺激にアリアルはついつい息を漏らす。その間にも肉棒の硬度は増していく。気持ちよくなってくれているんだ、とゆかりは内心嬉しくなり、更に刺激を与えようと人よりも少し小さな口を目一杯に広げて肉棒を咥えこむ。
「ゆ、ゆかりさん…。いいよ、気持ちいい…」
その発言に気を良くしたゆかりは顔を前後させる。ぐちゅぐちゅと音を立てながら頬を窄ませて、作られた精液を搾り取ろうと舌も這わす。
「う、ぁ、ああ…!やば、もう、出そう…!」
「ん、いっひゃえ…、ん、ちゅ、れる、る…」
「ちょ、このままだと、口の中に出してしまうから…」
「ひぃよ、らして…」
眉根を寄せて何かを我慢するようなアリアルの表情を見て、ゆかりはアリアルの腰に手を回してストロークを早くした。そして、何往復か繰り返したところでとどめと言わんばかりに尿道から今にも溢れそうな精液を吸い出す。そして、
「あ、だめ、イく、イく、くぅぅ…っ!」
アリアルの肉棒から噴き出るようにして精液が放出された。それを口内に蓄えるようにして頬を膨らませる。その中にアリアルの白濁液が溜まっていく。
「ふ…、ぅ…!ゆかりさん、汚いから、吐き出しても…」
初めての口淫で溜めていた精液の多くを放出したアリアルは、ゆかりを気遣うようにティッシュ箱を探す。しかし、ゆかりは口元を手で覆いながら首を横に振った。そのまま少しづつ少しづつ口内に溜まった白濁液を嚥下していく。そうして、ボックスティッシュを抱えたまま呆然としているアリアルに、ゆかりは口を開いて全て飲み下したことを見せてから笑って見せた。そうして口元に精液を零しながら淫らに笑うゆかりの様子に、アリアルの愚息は浅ましく反応した。
「ん…、まだ、しっかり硬そうですね」
「す、すまない…。でも、あんなに色っぽい姿を見せられたら…」
「ふふ、大丈夫ですよ。私も、まだ気持ちよくしてもらってないですから」
それはまさか、とアリアルが問う前に、ゆかりは自らの下着を脱いでいく。準備万端と言わんばかりに、下着とスカートで未だ見えない秘裂との間に白い糸が引いている。ゆかりも興奮しているのだと思うと、アリアルもその興奮に煽られるようにして自然と息が荒くなる。なおも大きさを増す自らの分身を、アリアルはもう隠すこともしなくなった。
「そっちももう準備万端ですね…」
そう微笑むとゆかりは普段アリアルが寝ているベッドに仰向けに寝転がると誘うように脚を開いてみせた。その姿に誘われるようにしてアリアルはふらふらとその距離を縮めていく。
「い、いいんだよな、ゆかりさん?前戯とかした方が…」
「多分ですけど、もう大丈夫です。もうたくさん濡れてるんで。むしろ、早くアリアルさんの、欲しいです…」
「…っ、ゆかりさんっ!」
その言葉に遂に我慢の限界を迎えたアリアルは、ゆかりに飛びつくようにして覆い被さった。そして漸く姿を現した、手入れの行き届いた陰毛を濡らすピンク色の綺麗な秘唇へと自らの分身を宛がう。そうして、もう一度視線だけで本当に入れてもいいか、と問うてみる。その意図に気付いたのか、ゆかりは首を縦に振ってみせた。それを合図にして、アリアルは腰を押し進める。ゆかりの膣内は暖かく肉壁が絡みつくようにして愚息を刺激する。今すぐにでも射精できそうな快感を与えられていたが、今回はゆかりを気持ちよくさせるのが目的だと自らを戒める。戒めて、浅い箇所を刺激するように腰を動かす。
「ん、ふぅ、ぅ、ひぁ…っ!」
「はぁ、どう、だい、ゆかりさん?気持ちいい、かい?」
「きもち、いいです!でも、もっと、奥まで、ください!んぁあ!」
「で、も、これ以上奥にいくと、初めて、まで…!」
「アリアル、さんなら、いいですから…!お願い…!」
「…っ、あぁ、分かった…!」
そうして、意を決してアリアルは先程まで浅いところを擦っていた男根を奥へと進めた。その先にある処女膜を押し破るようにして腰と腰を密着させた。
「っ…、つぅ…っ!」
「やっぱり、痛いかい…?」
「…は、はい。思ったよりも…」
破瓜の痛みで涙を流しながらそれでも笑って見せるゆかりの様子に、アリアルは申し訳なさや愛しさを感じ堪らない気持ちになった。
「じゃあ、少し、痛みが治まるまで、待とうか」
「は、い…。ぅん…」
そうして、一度腰を動かすのを止めてアリアルはゆかりのワンピースの胸元を緩めて小振りな胸へと手を伸ばした。そうして中央へ押し上げるようにして揉みしだく。
「ん、ふぅ…、私の胸なんて揉んでもつまらないでしょう…?」
「そんなことないさ、ゆかりさんの身体は、どこも魅力的だよ」
「ふふ…、嬉しい…んっ」
責め手にも少しの変化を加えて、指先でかりかりと胸の先端を擽る。その度にぴくり、と身体を震わせて「んっ…」と小さく息を呑むゆかりの姿にアリアルはすっかり魅了されていた。
「あの、アリアルさん…」
「ん、そろそろいいかい?」
「はい、もう、動いても、大丈夫です…」
ゆかりの意を汲んで、アリアルは再度腰を動かし始めた。快楽を感じられるように、突き入れるときは勢い良く、引き出すときはゆっくりと。聞きかじりの知識で腰を動かせば、それでもゆかりは喘ぎを漏らしてくれる。そうして、腰の動きを速めれば今度は喘ぎがより小刻みで震えたものになる。いよいよ限界が近いのか、と考えながらも自分も限界ぎりぎりだ。これ以上は、と腰を引こうとする。しかし、それを阻むものがあった。
「…!?ゆ、ゆかりさ…!これ以上は、出てしまうから…!」
そう訴えるも、ゆかりはアリアルの腰に回した脚を緩める気など毛頭ないらしい。むしろ、脚に入れた力を強めて自分の中で吐精しろと言わんばかりで。
「いいから、あっ、だひて、きょう、らいよーぶだから、おねがい…!」
「っ、あぁ、もう…!」
半ば自棄になりながら、ゆかりの脚と腰の間でじゅこじゅこと素早く肉棒を出し入れするアリアルはもう限界だった。
「だす、出すよ、ゆかりさん…!」
「きて、きてぇ!」
「くっ、イく、~~~っ!」
「あ、あぁ、ぁああああっ!!」
そうして、アリアルが最奥の子宮口を亀頭で殴りつけるのと同時、その刺激がトリガーとなって精液が吐き出される。その熱と精液が子宮を満たす感覚に、ゆかりも限界を迎えて絶頂へと押し上げられる。そうして、二人はつながり合ったままベッドへと身体を沈ませる。息を整えながら、どちらともなく顔を見合わせる。視線が合って、気付けば唇を重ねていた。
***
「あ、おーい、アリアル!今まで済まなかった!やっとこさふたなりの解除パッチが出来上がったんだ!早速、パッチを当てるから少しスタジオの方に…」
「あー…。済まない、マスター。性別バグの件なんだが、今のままでいいかな」
「はぁ?あれだけ文句を言ってたのにか?」
「まぁ、僕にも色々あるんだ。いや、あったって言った方がいいかな…。兎も角、今はまだ生えたままでいいや。もしかしたら使うかもしれないときのために取っておいてくれよ」
「んぅ…。まぁ、お前がいいんならいいんだが…」
「じゃあ、僕は行くよ。ありがとう、マスター」
マスターの申し出を断ってアリアルはその場を立ち去る。どこか不服そうな様子に少し申し訳なさを感じながらも、これはもう取り払うわけにはいかないんだ、と思いながら廊下を歩く。角を曲がって自室に戻ろうとしたその時だった。
「アリィ!」
「うわっと…」
笑いながらアリアルの背中へと跳び付く影。この愛称を使うのは、少なくとも今は一人しかいない。
「ゆかりさん…、危ないからやめてくださいって」
「いいじゃないですか、ゆかりさんに構ってくださいよ」
そう言うゆかりの様子は、他のトークロイドから驚きと或いは少しの嫉妬混じりの視線で迎え入れられた。あの一件以降、随分と軟化した彼女の態度はアリアルの抱える悩みの一つとなった。同時に、ある種の優越感も感じられるのでそれはそれでいいのだが。
「ん、じゃあとりあえず僕の部屋に行こうか」
「分かりました、また一緒に“アレ”しましょう?」
「…っ、またかい?」
「駄目ですか?」
「…いや、駄目ではないけれど…」
「じゃあ決まりですね!早く行きましょう!」
そう会話を交わしていると、少し遠くの方にいたミリアルと目が合った。若干拗ねたような表情をしてべぇと舌を出す。そのまま、スマートフォンの画面に視線を移して歩き去っていく。
「アリィ、ミリアルさんになんかしました?」
「いや、何かしたというか…、現在進行形でしてるというか…」
「ふぅん?ま、いいですから!早くお部屋行きましょう!」
そう言ってゆかりはアリアルの手を引いて彼女の部屋へと急ぐ。
性急に部屋へやってくると、ゆかりはアリアルをベッドへと導く、というよりは振り回すようにしてベッドへと放り投げた。そうして、ゆかりは着ていたパーカーをぞんざいに脱ぎ捨てるとアリアルのショートパンツへと手を伸ばす。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、ゆかりさん。流石に性急が過ぎる…!」
「駄目です、時間が勿体ないじゃないですか」
そう言ったゆかりの目は快感を求めている様子でどろりと歪んでいる。これがもう一つの悩み。後学のためにと言っていたゆかりは、すっかり性交にハマってしまった。今回の様に、碌に理由もつけずに“アレ”をしようだなんて迫ってくることも多い。苦言を呈されてはいないので流石に知られてはいないだろうが、ゆかりの性に対する関心を歪めてしまったのが自分だと考えると、これが知られたら自分はこのPCにいられないのではと不安になってしまう。
「…っ、うっ…」
「はにはんがえてふんでふか?」
思考を飛ばしている間にショートパンツを脱がされ露出した分身を咥えられている。そういえば兎は性欲が強いんだったかとまた思考を明後日の方向に飛ばしながら、アリアルは上機嫌に肉槍を口に含み顔を動かす恋人の頭を撫でてやった。
ところで、ではあるが。
果たして、性交をした際に部屋から漏れる喘ぎ声はどのくらいになるのだろうか。
ミリアルの部屋はアリアルの部屋の隣にある。そして、頻繁にアリアルとゆかりの二人はアリアルの部屋で身体を重ねている。即ち、そういうことである。
半ば愚痴られる形でマスターからアリアルのパッチ拒否について聞いたミリアルは姉にメッセージを送った。
曰く『パッチの使用に関しては姉さんの自由ですが、自重しやがってください。このむっつり』と。