※この作品はR-18です。

ようこそSアプリ至上主義の教室へ   作:MAMAMAJO

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5話 アンドロイドは催眠仕掛けの夢を見るか?

 時刻は朝の7時、いつもならダラダラとスマホを見ながら、学校の準備をし始める時間だが、なんと僕は外にいる。柄じゃないにもほどがあるが、朝からランニングだ。……意識の高い生活に目覚めたわけでは決してない。昨日の報酬……つまるところ、スキルの確認だ。

 ……残念ながら、結果はよくわからないという、極めて不毛なものに終わってしまった。

 疲れは少ない気はする……多分。でも、別に足が速くなったり、すごい力が湧いたりはしていない。

 昨日、僕が手に入れたスキルは、十中八九『Fate』のサーヴァントのスキルだろう。あのアプリは、僕の脳内を読み取っている節があるから、多分そう考えていいと思う。与えた能力にスキルの名前を当てはめているのか、スキルをそのまんま与えているのかは分からないが。

 

 本来の「天性の肉体」は肉体の絶対性を示すスキルであり、超スペックのボディ、それこそ甚爾くんみたいなフィジギフに与えられるもの。これで僕もアッチ側に立てる! と期待したが……全然そんなことはなかった。ざけんなや 呪力が練れん ドブカスが

 ……(性)が原因だよなぁ。なんだよ(性)って。……いや、まぁ、そう言うことなんだろうな……。……このアプリの世界観が対魔忍なんじゃないかっていう説が急浮上してきた。……いや、Fateも元はエロゲーだったな。

 

 「騎乗」はそのまま騎乗の才能。僕が持っているランクDだと大抵の乗り物を人並みに乗りこなせる。普通にめっちゃ便利なんだけど……この流れで「騎乗」ってことは、おそらくそっち方面にも使えという強固な意志を感じる。実際、メイヴやメルトリリスなどは異性に乗る(意味深)を思いっきり匂わせていたし。

 

 でも、最後の「直感」は少し毛色が違う気がする。勘が良くなってできるようになることってなんかあるか? ウィークポイントがわかるとか? 

 ……引っ張られすぎか。……まぁ、あって困るものではないし、ありがたく貰っておこう。

 

 いや、でもそもそもランク低いよな。AからEまであるのに、上からD+、D、Eって。これが徐々に成長していくって感じなんだろうけど……大分先は長そうだ。ってか、高くてD+って、Aとは言わずともせめてBくらいはくれても……ん?……んんん?

 

 Aが高くてEが低い。A、B、C、D、E。……。……いやいや、まさかぁ。

 

 A、B、C、D。Aが高くて、Dが低い。……いやいやいやいや。

 

 ……椎名曰く、Cクラスは治安が悪い。

 ……Dクラスも治安が悪い。どっちが酷いかは知らないけど。

 A、Bは知らない……知り合いもいないし。……でもどのクラスも治安が悪いなんて、あり得るのだろうか? それも全国屈指の名門校で。

 ……百歩譲って、ここが男塾であるならそういったこともあり得るだろうが、今のところ男塾名物を一つも体験してはいない。

 

 ……………………、はぁ、確かめるしかないか。……まさか、そんなことないだろうけど。

 ……一応ね、念の為、万に一つもないだろうけど!

 

 

 遅刻5分前、僕が普段より遅めに登校すると、教室はとても騒々しかった。遅刻常習犯の連中も既に登校している。珍しいこともあったものだ。

 

「おはよう」

 席に着き、両隣の2人に挨拶をする。

「……おはよう」「……えぇ、おはよう」

 堀北は通常運転として、佐倉も少し機嫌が悪そう……いや、堀北もいつもより悪そうだ。

「どうかしたの?」

「少々不愉快なだけよ」

「……えっと、うん、そうかな」

 そうして、堀北が視線を向ける先には、盛り上がっている男子達がいる。

長谷部(はせべ)に決まってるだろっ」「いいや、櫛田ちゃんだね」「ったく、佐倉だろ」

 

 あー、うん、なるほどね。ここが会社なら間違いなく一発アウトだろう……まぁ、教室じゃなかったら僕も参加したい。気持ちはわかる。うん。そういうの楽しいもんね。

 

「あなたも参加したら?」

「……いや、遠慮しとくよ」

 流石に佐倉がいる手前、そんな選択肢ははなから存在しない。

「そう、良かったわね。品性はお金では買えないもの」

 おっと、薄汚いクルタ族の生き残りがいたようだ。……堀北はクラピカだった……? 妙にしっくりくる。

 

 

 プールは午後から、午前中は普通の授業だ。いつも通り五月蝿い。……男子もうるさいけど、女子の方がアレだな。……いやでも、女子には残しておきたいんだよなぁ。そう上手くはいかないもんだね。

 まぁ、そもそも、そこまで授業をどうにかしたいわけではない。あくまで実験。実験の成果を見るためだ。

 

 牧田、鬼塚(おにづか)菊池(きくち)。3人ともちゃんと授業は受けてるな。

 

 鬼塚には牧田と全く同じく『授業を真剣に受けろ』と。

 そして、菊池には『授業を真剣に受けてほしい』と願いをかけた。

 

 全く同じ命令であっても、効果は異なるのか。

 また、同じ内容であっても、「命令」と「要請」では異なるのか。

 今回の実験はこんな感じの目的でやってみた。

 

 結果は少し面白かった。牧田はなんていうか、必死に全力で無理して授業を受けている感じ。それに対し鬼塚は、嫌々やらなきゃいけない感じで授業に臨んでいる。

 また、菊池は普通に授業を受けているが、時より眉間に皺を寄せている。多分だけど、あれは内容がわかってないっぽい。この前まで寝ていたのはそれが原因なのかもな。2人よりは真剣度は低そうに見受けられる。

 

 何はともあれ、3人とも真剣に授業を受けてはいる。となると、反映に差異が生じているのは、個々人の認識の違い、あるいは価値観の違いが重要なんだろう。彼らが「授業を真剣に受けること」について、どう考えているかが大事ってことなんだと思う。

 

 「願いは相手の認識や、価値観、状況に応じて処理される」ってのは、とりあえず確認できた。

 厄介ではあるものの、対処は容易い。

 

 あと、やっぱり「命令」の方が「要請」より強く効いていそうだ。願う方法にも、今後は十分に注意しよう。

 

 後の1人は、水泳の授業まで確かめようがないから、朝の疑問を確かめに行こう。僕は右手をスッと挙げた。

「お手洗いに行ってもいいですか?」

 

 教室を出た僕は、ゆっくりと他の教室を偵察することに勤しむ。

 

 Cクラスは……なんか怖い人多いな。あっ、あの黒人の人Cクラスだったんだ。あとホストっぽい人もオーラが凄い。……あっ椎名さんだ、やっぱ可愛い。まぁ、こんなもんか。Dクラスよりは……うーん、ギリ……ほんとにギリ良さそう。

 

 続きまして、Bクラス。……あーうん。正直、C、Dとは全然違う。……2、3人スマホ弄っている人はいるものの、私語ないし、全員前見ているし。まぁ、これが普通と言われれば……はい、なんの反論の余地もないですけど。

 

 最後にAクラス。…………………うーん。……認めたくないものだな。

 ……いやでも、うーん、確定くさい。スマホ弄っている人もいないし、なんか、ちゃんとしているわ。……まじかー……。

 

 Dクラスの面々を思い浮かべ……それに僕自身もか。どこかで納得した。

 

 クラス分けには序列がある。Aを頂点としDを底辺とする序列が。

 ……そして、その基準はおそらく入試の結果。試験の点数、面接での人間性……あとは、中学時代の内申点ってとこか。

 流石に授業風景を見るだけで能力がわかるほど、優れた観察眼を持ち合わせているわけではないが、察するに純粋な試験結果というよりは、気質を重視しているのかな?

 ……つまり、Dクラスは一番素行が悪かった連中の集まりってことだ。

 

 ……でも、だからなんだって話ではあるか。この後のカリキュラムとかが違うのかな? 更生あるいは矯正プラグラム的なのがあるのかもな。……面倒そうだ。

 自身の評価に少しがっかりしながら、僕が教室に帰ると、山内が「うんこだ。この長さ絶対うんこだぜっ」と騒ぎ、改めて自身の置かれた立場を実感させられ、虚しさがドッと押し寄せた。

 

 

 多くの男子が我先にとプールに駆け出し、ガラガラになった更衣室で自身の体を確かめる。……僕の方は大丈夫そうだ。

 ……佐倉には悪いことをした。

 昼休みに佐倉が午後の水泳に参加しないことを知った僕は、なんとも恥知らずなことにその理由を騒ぎ立てるクラスの男子か女子特有のものだと考えていた。そんな見当違いも甚だしい勘違いをしている僕に佐倉は耳元で「……えっと、この前の跡が……まだ残ってるから」と囁いた。

 まさかの原因は僕っていうね、とんだ大馬鹿者である。

 ……罪悪感は当然あるが、どこかで達成感も感じてしまう。

 ま、そんなこんなで、佐倉は秘密の内出血の跡を見られる訳にもいかないので、見学せざるを得なかった。……この埋め合わせはどこかでしないとな。

 

 更衣室を出ると、男子の歓喜の声が響いている。……なるほど櫛田か。

 

 僕が見学席の佐倉を探すと、佐倉はこちらに気づき手を振る。佐倉の隣には長谷部がおり、どうやら一緒に見学している様子。……これは結果オーライってことでいいかな。

 佐倉の人見知りは入学当初と比べて徐々に改善しつつあるが、それでも僕と綾小路と櫛田、それと一応堀北以外にコミュニケーションを取っていなかった。……それに加え、佐倉は櫛田がどうも苦手らしい。

 長谷部は男子の下賎な視線を嫌って見学を選んだのだろう。この際きっかけはなんでもいいさ。ともかくここから彼女の交友の輪が広がってくれることに期待しよう。

 

「よーしお前ら集合しろ」

 体育教師はどこもそう変わらないらしい。きっとこの人も体育大出身なんだろう。僕は小学生時代の担任と中学生時代の生徒指導を思い出す。みんな決して悪い人ではない、卒業する頃にはなんだかんだでいい人だったと思えた。……ただエネルギーが多すぎて、少しばかり胃もたれする。

 

 流しで一度泳いだ後、男女別50m自由形の競争を行うそうだ。男子は3グループに分かれ、その後タイム上位5人で決勝か、そして優勝者には5,000ポイント。……まぁ僕には関係のない話だ。補修を受ける最下位だけは回避できるよう頑張ろう。

 

 女子の競争が終わる。1位は水泳部の小野寺(おのでら)がぶっちぎりで優勝、堀北は惜しくも2位という結果に終わった。やはり堀北は文武両道の才女なのだろう。学力に関して、正確なことは知り得ないが、あの立ち振る舞いでお馬鹿さんだったら、ちょっと目も当てられない。……いや、それはそれでギャップ萌えではあるのか? 優等生然とした彼女が実はおバカで、放課後に2人だけで勉強会なんてどうですか? ーーそれは”アリ”だ。なんてね。

 なんにせよ、この学校は生徒の人格面、あるいは対人能力、素行を思っているよりも重視しているんだろう。数値化できるスペックで彼女以上の人材が120人いるとは思えないし。

 

 男子第1グループの競争が始まり、僕はスタート台に立つ。右レーンは綾小路、左は菊池。笛が鳴り全員が一斉に飛び込んだ。

 

 最後にちゃんと泳いだのはいつだっただろうか。中学では水泳の授業は無かったし、僕の地元はそれはそれは立派な盆地であったため、海水浴もここ最近は行った覚えもない。——いや、修学旅行先のホテルのプールがあったな。まぁ、でもあれはレジャーか。

 そんなくだらない事を考えていたら、先頭を争う2人にはあっという間に大差がつけられており、僕は心を切り替え熾烈な3位争いに身を投じていた。

 

 結果は何とか3位。タイムは35秒ぐらい……ってことは堀北や櫛田よりも遅かったのか。

 2位の須藤とは10秒以上の差があった。

「くっそっっ!! マジかよっ!!」

 須藤が大きな声で悔しがる。勝負事には真摯なのか、ただ粗暴なだけのいつもとは違い、どこかスポーツマンシップを感じさせる態度ではあった。

「いや、須藤も十分いい結果だったぞ。25秒を切っているしな」

 そして、皆の関心は1位の人物に集まる。

「やるじゃないか綾小路。24秒11だ」

 今日一番の記録に皆の驚嘆の声が上がる。

「綾小路、部活は入っているのか? 入っていないなら、水泳部はどうだ?」

「——あ、はい、考えておきます」

 綾小路は少しの間水の感触を確かめる動作をした後、水から上がる。

「ッチ。次は負けねぇからな、お前も全力でやれよ。俺の全力でお前の全力を叩き潰してやる」

「——あぁ」

 その後、何人かの男子が2人に近づいて、彼らに絡んでいった。

 

 

 僕は水から上がると、1人でいた堀北が目に入り、彼女の元に向かった。

「いやー、堀北さん、泳ぐの速いんだね。足元にすら及ばなかったよ」

「どちらかと言えば、あなたが遅いんじゃないかしら?」

「……あー、泳ぐの結構久しぶりだったから」

 実際、練習すればもうちょっとはできるようになる……はずだ。

「それにしても彼、水泳が得意だったのね。事なかれ主義なんて下らない主義はもう捨てたのかしら」

「——時代は冷笑よりも熱血だからね。それにたった一度しかない高校生活、何かに全力で打ち込む方が健全じゃない?」

 どこぞのメンズコーチなら「事なかれ主義? 厳しいって。ガチで危機感持った方がいいと思う」って言うだろうし、メイおばさんもなんJ民も「大いなる肉体には、大いなる(スポーツをやる)責任が伴う」って言ってたしな。

「それは……そうかもしれないわね。……綾小路くんも男の子だったということね」

 どこか納得した様子の堀北は、遠目で綾小路を見つめていた。

「ねぇ、ところで堀北さんってやっぱり勉強も得意だったりするの?」

「あなたがどの程度を想定しているかは分からないけど、これまで勉強で困ったことはないし、結果もきちんと出してきたわ」

「やっぱり? 優秀な娘さんでご家族の方もさぞかし鼻が高いだろうね」

「……どうしてそんなことが気になったのかしら?」

「いや、別に。ちょっともったいないなと思って」

「もったいない……? ねぇ、それってどういう」

 

「やめたまえ。私を巡って争いをするのは」

 僕たちの会話はこのクラスにおいて強烈な存在感を放つ男、高円寺(こうえんじ)の一言によって中断させられた。……って、なんであいつ1人だけブーメランなんだ?

「次が最後のグループだね、やっぱり高円寺が勝つのかな?」

 高円寺の肉体は素人の僕からすれば、トップアスリートのそれと遜色はなく、綾小路と同様に恵まれた肉体を持って産まれたのだろう。

「……そうね、彼の筋肉は尋常じゃないもの」

「えっ!? 堀北さんって筋肉好きなの? 筋肉フェチってやつ?」

 その瞬間、腹部に痛烈な一撃が入り、僕は思わずその場で丸くなる。

「——次は容赦しないわ。発言には気をつけなさい」

「は、はい」

 やっぱ、ツンデレ(デレ抜き、ツンまし、距離感遠め)たるものこうじゃなくっちゃな!!!

 

「私は勝負などに興味はないが、負けるのは好きじゃないんでねぇ」

 高円寺は宣言通り、他を圧倒して23秒22でゴールし、綾小路の記録を大きく上回った。

「いや、凄いなぁ。これは綾小路、須藤、高円寺の三つ巴で決まりかな。」

「……そうね。順当にいけば高円寺くんじゃないかしら?」

「そう? まぁ確かにね。でも、僕は綾小路に勝って欲しいな」

 僕は入念に準備を行う綾小路を観察する。

 

「そうね……綾小路くんの筋肉も決して高円寺くんに劣っているわけではないし、泳ぎも後半は洗練されたものだったわ」

「でしょ? 能力自体は拮抗していると思うんだよね。ってなると、勝負を分けるのは勝ちたいって意思だよね」

 決勝選手がスタート台に上がった。綾小路は全神経を研ぎ澄まし、笛が鳴る瞬間を今か今かと待っていた。

「……でも、彼にそんな強い意思があるのかしら?」

 教員が息を吸い、笛に息を吹き入れる。

「言ったでしょ、時代は熱血だって」

 綾小路と高円寺が同時に飛び込み、須藤がほんの僅かに遅れてスタートを切る。

 競い合う綾小路と高円寺。アグレッシブな高円寺に対し、綾小路はとても洗練された無駄のない泳ぎを見せる。須藤と2人の差がどんどん広がっていき、それからすぐにトップ争いからは脱落した。2人のペースは衰えることなく、苛烈な勝負が繰り広げられ、高円寺が頭1つ分リードする。

 しかし、最後の最後、綾小路は残していた余力を振り絞り、高円寺を見事に差し切った。

 

 ゴールの瞬間、歓声が湧き起こる。平田を応援していた女子でさえ、手に汗を握る展開に思わず興奮が抑えきれなかったようだ。

 

「——本当に勝ったわね」

「いやぁ、いいもの見たね」

 僕は心の底からそう思った。いいことをしたこともあって無性に気分が良い。やっぱり、余計なお世話はヒーローの本質ってね。

 

「——————22秒46——。男子高校生記録タイだとっ……。綾小路っ、水泳部に来いっっ!! 一緒に日本一を獲りに行こうっ!!」

 体育教師が慌てて、綾小路の肩を掴み、水泳部へ勧誘する。

 

 ーーえっ?

 今なんて言った?

 

「あの、堀北さん。今、先生なんて言ってた?」

「驚いたわね。男子高校生記録に並ぶなんて。」

「—————————」

 

 ———おいおいマジかよ。

 いくら僕が昨日『泳ぐ度に水泳が好きになる。水泳だけは誰にも負けたくない』って催眠を掛けたからって、いきなりそんな記録が出せるものなのか?

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