※この作品はR-18です。

ようこそSアプリ至上主義の教室へ   作:MAMAMAJO

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長くなったので2話に分けます。


8話 みーちゃんと山田くん

 土曜日の昼下がり、インターホンを押すとすぐ、明るい声で彼女が出迎えてくれた。

「こんにちは黒乃くん。どうぞ上がってください」

「お、お邪魔します」

 用意されたスリッパを履き、彼女の後をついていく。

 

「ふふっ。お友達を自分の部屋に招くのは初めてですから、少し緊張してしまいますね」

「そ、そうなんだ。僕もまだ、この学校に来てからは誰かを部屋に呼んでないかな」

「あら、そうなんですね。それなら、今度は私がお邪魔するのも良いかもしれませんね」

 パッチワークの2人掛けソファに腰を下ろし、持ってきた手土産を彼女に渡す。

 

「椎名さん、これ良かったらどうぞ」

「まぁ、ありがとうございます。それじゃあ一緒にお出ししますね。黒乃くんはコーヒーと紅茶、どっちがいいですか?」

「あー……紅茶で」

「はい、それじゃあ少し待っててくださいね」

 上機嫌にポットに茶葉を入れ、お湯を注ぐ彼女。窓を見ると、たくさんの雨粒が滴って、大きな塊になって落ちてゆく。

 

「ミルクは入れますか?」

「あー、うん。お願い」

 冷蔵庫から牛乳を取り出す彼女。……愛里の時は流れで入ったからか、緊張する暇もあまりなかったけど、約束してお呼ばれした今回はどこか心が落ち着かない。

 

「お待たせしました」

 僕と彼女の紅茶、持ってきたスコーンがテーブルに並べられ、彼女が僕の隣に座る。

 ……と、とと、隣!? い、いやいやいや、それはそうか。ソファに座るのが自然だもんね。

「どうかしましたか?」

「い、いや、別に、何ともないよ。——おっ、美味しい」

「ふふっ。お口に合って良かったです」

 カップをソーサーに戻し、彼女の方に目を向けると、彼女と目が合い数秒、思わず目を逸らしてしまった。

 

「黒乃くんは雨はお好きですか?」

「……嫌いではないかな」

「気が合いますね、私も好きですよ。読書が捗りますからね」

 入学してからずっと良い天気が続いていたが、昨日、今日とこれまでの帳尻を合せるべく、長く強い雨が続いていた。予報では、月曜の明け方まで降り続けるそうだ。

 

「そういえば、お隣の方とはその後どうでしたか?」

「あー、うん……特に」

「あら、それは残念でしたね」

 堀北とは結局、特にそれといった進展はなかった。……いや、綾小路が席に居ない時間が増えた分、結果として現在、堀北がクラスで関わっているのが隣の席の僕とかろうじて佐倉、あとは懲りずに話しかけ続けている櫛田ぐらいになったため、以前より僕の割合自体は増えているのか?

 

 ……全く、堀北といい、佐倉といい、どうして2人とも櫛田と距離を取るのだろう?

 女の勘ってやつなのか、僕には分からない何かが櫛田にはあるのだろうか? いや、でもクラスの他の女子は普通に櫛田と仲良くしてるしなぁ……謎だ。

 

「椎名さんはどう? クラスで友達はできた?」

「私も残念ながらお友達になれそうな人は見つからなかったですね」

「そっか。あれ、金田(カネダ)って確かCクラスじゃなかったっけ?」

「……金田さん、ですか?」

「眼鏡で、マッシュルームカットの男子」

「——あぁ、はい。金田くんですね。私のクラスの方だと思います」

 お、おう。どんまい金田。

 

「金田くんとお知り合いなのですか?」

「うん。同じ部活だしね」

「……黒乃くん、部活に入ったんですか?」

「う、うん。昨日正式に美術部に入ったよ」

「美術部ですか……残念です。もし良ければ、私と一緒に茶道部に入ってもらいたかったのですが」

 男子で茶道部ってどうなんだろう? 結構場違いになりそうだけど。そんなこともないのかな?

 

「それは残念だったなぁ。椎名さんと茶道部も凄く楽しそうだったのに」

「あら、それなら兼部してみてはいかがでしょうか? 生徒会以外の部活動は原則として兼部は禁止されていませんよ?」

「……いや、流石に遠慮しておくよ。まだ入ったばかりだしね」

「冗談ですよ。……でも、どうして美術部に? 中学校の時は合唱部だったんですよね?」

「えーっと、雰囲気かな。生徒会も一応誘われてたし、他の部活、写真部とか料理部とかも見学してみたんだけど、同級生が多くて、活動が比較的自由なのが美術部だったから」

「あら、それならなおのこと、茶道部でも良かったのに」

「まぁ、知らなかったから……ね?」

 クスッと笑う彼女、乾いた喉を紅茶で潤す。

 

「それで金田くんがどうかしたのですか?」

「あぁ、いや、前聞いていたCクラスの印象からはちょっと外れていたから。なんていうか、大人しめだけど、ノリとかは悪くなさそうだったし」

 少し話した後に「金田ぁぁぁぁぁ!」って振ったら、「「さんをつけろよデコ助野郎!」でしたよね? 黒乃氏」って言ったくれたし。まぁでも自分の苗字だから偶然知っていただけで、そこまでオタクってわけではないらしいけど。

 思えば、こっち方面に強い知り合いもだいぶ増えてきた。外村、宮本、白波、それに美術部の先輩方、……まだお互いに探り合いの状態ではあるけど、是非とも仲良くなっていきたいものだ。

 

「そうだったんですね……ですが、今は少し厳しいですね」

「厳しいって?」

「……どこからお話しすればいいでしょうか……そうですね、3日ほど前から教室の雰囲気が変わっていまして」

「へー……というと?」

「……私も詳しいことは分かりませんが、怪我している方が増えてますね」

「け、喧嘩的な?」

 お隣のCクラスは本格的に修羅の国になったらしい。おいおい、勘弁してくれよ。僕はこれまでの人生で暴力を奮ったことはないし、これからも暴力を用いることはおそらくないだろう。そのような世界とは生涯無縁でありたいものである。そういったものはフィクションの中だけで十分だ。

 

「いえ、喧嘩というよりは……“猿山のボス争い”といったところではないでしょうか?」

「……それなら、椎名さんも猿ってことになっちゃうよ?」

「ウキー!! はい、お猿さんですよー」

 ——何だこの可愛い生き物はっ!!! 今すぐにでも国で保護しなければっ!!

 

「冗談はこのぐらいにしておきますが、実際私からはそう見えますね」

「——暴力でクラスを束ねる的な? でも何のために?」

「さぁ、そこまではまだ分からないですね。ですが、クラスの空気もその流れ自体を否定してはいません、当然皆が肯定しているわけでもありませんが」

「マッチョイズム的な考え方の人が多いのかな?」

「そうかもしれませんね。前にも言った通り、男女共に血の気が多い方がたくさんいらっしゃいますから」

 そうか、それならある意味合理的な手段ではあるのか。最もフィジカルで、最もプリミティブで、そして最もフェティッシュなやり方でいかせていただくと。

 ……ある意味で日本らしいやり方であることも否定はできないしな。現実問題、日本のヤクザはメキシコの麻薬カルテルと並んで、強い勢力を維持している。

 

 反社会的勢力は国際的にどこの国も斜陽を迎えている傾向にあるが、日本のヤクザは数少ない例外の一つである。

 数年前、ある議員がヤクザを厳しく取り締まる法律を作ろうとしたが、その後、スキャンダルが出て、すぐに失脚。しばらくして、その行方が分からなくなった。

 こういった事件は別に1件や2件だけではない、何年かに一度、こうした流れが起こり、どの政治家も最終的には姿を消す。

 こうした流れの裏には、ヤクザと密接な関係にある政治家の強い意向もあるという噂こそあるものの、どこまで本当かは分からない。陰謀論に片足突っ込んでる気もするし。

 ……とはいえ、昔はもっと滅茶苦茶だったそうだ。両親曰く、大きな抗争も随分少なくなったし、カタギの人が巻き込まれることもほとんど無くなったらしい。……そういった意味では、少しずつではあるものの、ヤクザも衰えてきてはいるのだろう。良いことだ。

 

閑話休題

 

「あれ? でもそれだったら、あの助っ人外国人が勝つんじゃない? デカいし、強そうだし、勝てる人居なそうだけど」

「あぁ、山田くんですね」

「や、山田くん!? ヤ、ヤッマァーダ!?」

「日本とアメリカのハーフだそうですよ。山田アルベルトくん。自己紹介は英語でしたが、出身はどちらなんでしょうかね? そうですね……今のところ、彼が怪我をしている様子はないですね。おそらく、純粋な力に限れば彼が勝つんじゃないでしょうか?」

 山田がつくだけで、一気に不思議な語感になるな。山田アルベルト、いい名前だ。

 

 彼がアメリカからの留学生だとすれば、この学校は結構国際色豊かなのかな? 僕のクラスの王美雨(ワンメイユイ)ことみーちゃんも中国からの留学生だったしな。

 

「その言い方ってことは、椎名さんは違う人がボスになると予想してるの?」

「はい。そもそもこの流れを生み出した張本人にして、Cクラスの中でもとりわけ異彩を放つ人物、龍園(りゅうえん)くんが勝つと思っています」

「……その心は?」

「龍園くんはおそらくこの3日間、山田くんに毎日ボコボコにされているのでしょうが、毎日山田くんに挑んでいます。……とてもまともではありません、ですから、最終的には彼がボスになるのではないかと」

「えぇぇぇぇぇ、怖。……あれ、その人ってもしかして、あのホストっぽい人?」

「ホストっぽい人ですか、ふふっ。えぇ、知っていたんですね。ですが、本人にそのことは決して言わない方がいいと思いますよ」

「口が裂けても言わないよ」

 考えただけでも恐ろしい。……ってか、龍園ヤバすぎない? 負け続けても挑み続けるって、もしかして真性のドMなのかな? 今度会った時、感度3,000倍にしてあげたら泣いて喜びそうだ。……流石に死んじゃうか。

 

「なんにせよ、僕はCクラスじゃなくて良かったよ」

「……私は黒乃くんと同じクラスが良かったですけどね」

「うーん、それはずるいなぁ。まぁでも今後のクラス替えで一緒になれるかもだし」

「クラス替えですか? この学校にクラス替えはありませんよ?」

「——え? そうなの?」

「えぇ……確かあれは……そう、入学式が始まる前に、担任の坂上先生が資料や学生証を配布する際に説明していたと思います。この学校では学年ごとのクラス替えは存在しない、と。Dクラスでは説明はなかったのですか?」

「……いや、あったんだと思うよ。ちょうどその時、僕が寝ていただけで」

 そんな重要なことを入学して早々に話していたとは……いや、そんな時に寝ている方が悪いんだけどね。

 

 いや、これ、話が変わってこないか? 僕はてっきり、毎年何かしら審査があって、その都度、上から順に振り分けられていくものだと思っていたが、クラス替えがないとすれば、この想定は的外れもいいところだ。……下位クラスの退学者が多いのは、全体の脱落者の分減らされている訳ではなく、単純に初期集団から徐々に脱落していった結果。……考えてみれば、こっちの方が断然自然である。……んー、他にも何か見落としがあるかもしれない。

 

「——椎名さんって、ミステリーが好きなんだよね?」

「はい。ミステリー愛好家、と言っても差し支えがない自負はありますね」

「もし良かったら、ちょっとした謎解きに協力してくれないかな?」

 すると、彼女はゆっくりと立ち上がり、依頼人の方を向き、綻ばせた口を開く。

「えぇ、淑女として、それがあなたの助けになるのであれば、喜んで協力いたしましょう。ですがその前に、もう一杯いかがですか?」

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