※この作品はR-18です。

ようこそSアプリ至上主義の教室へ   作:MAMAMAJO

9 / 15
後編です


9話 謎解きはティータイムのあとで

「なるほど……私はあまり他のクラスに目を向けていなかったので、クラス分けの真意に気づきませんでしたが、よくよく考えてみれば、進学校で現在のCクラスのような状況になるのは不自然でしたね」

 僕がこの学校に入学してから、これまで気になったことや、見聞きしたもの(当然だが、アプリのことを除いて)を一通り話すと、椎名さんは興味深そうにそう答えた。

 

「しかし、そうなると……黒乃くんがDクラスに配属されたのはどうしてなのでしょう? 私がCクラスに配属されたのは、おそらく運動能力が大きく足を引っ張っていること、あとは性格面が主な原因だと思いますが」

「……んー、なんとなくだけど、思い当たる節はあるかな」

「あら、それはとても気になるところですが、またの機会に取っておきますね。クラス分けに何かしらの意図が設けられているのは、概ね間違いないでしょう。頭脳、肉体、精神、あとは……実績などでしょうか。これらの要素を複合的に評価している、厳密な評価基準などは当然分かりませんが」

「その基準の話で言えば、とりわけ精神面に重きを置いているんじゃないか? っていう、僕の推測はどう思う?」

 堀北がDクラスにいるのは、それぐらいしか思い当たらないんだが。

「いえ、それは少しばかり早計だと私は思います。……勿論、普通の学校よりは重きを置いているのだとは思いますが、それだけではないような。……そう、もしかしたら、単純にAクラスから順に、あるいはDクラスから順に振り分けている訳でもないのかもしれません」

 ん? どういうことだ?

 

「そうですね……総合的な評価が近い生徒、一部の能力が大きく欠けている生徒、あるいはそれ以外の要因で何か重大な問題を抱えている生徒などは、教員側の裁量で適宜調整をしている、なんていうのはどうでしょう?」

「……生徒間の相性とか、ピアノが弾ける生徒がいるかどうかみたいな?」

「ふふっ。この学校で各クラスにピアノを弾ける生徒が必要になる機会があるのかは分かりませんが、まぁそういうことですね。CクラスとDクラスは、どちらもあまり優秀な生徒が多いわけではないのでしょうが、クラスの雰囲気、集められた生徒の傾向は異なります。野蛮なCクラスに、怠惰なDクラス。全員がそうではないですが、そうした人は多いですよね?」

 

 ……視野狭窄になっていたかもしれないな。なんていうか、先入観に囚われすぎて、思考が凝り固まっていたことに気づかされる。

 

「他に気になったことってある?」

 椎名さんなら、僕が気づかなかった、何かに気づけたんじゃないだろうか?

「そうですね……クラス分けに関してはもう一点、クラス分けの必要性。あとは、副会長の言葉と10万ポイント、ですかね」

「意図的なクラス分けをする理由については僕も気になっていたよ。でも、雅先輩も?」

 雅先輩……あぁ、確か意味深なことを言っていたような、いなかったような。

「順にお話ししますね。塾や習い事では、習熟度順にクラスを分けること自体はさして珍しい訳ではありません。ですが、それは教える内容が異なるため、クラスを分ける必要があるのです。上のクラスでは高度な内容を、下のクラスでは基礎的な内容を扱います。しかし、この学校ではクラスごとにカリキュラムの違いはありません。であれば、なんのためにクラスを分ける必要があったのか?」

「そう、それだよ!」

 僕がなんとなく思っていた疑問の輪郭がはっきりした。

 

「では黒乃くんはどのようにお考えでしょうか?」

 ……能力順に分ける必要性ねぇ……。

「下の存在がいると、不満の吐口になるから……とか? 意図的にそういった存在を入れることによって、Aクラスの精神面を安定させるため、なんてどうかな?」

 椚ヶ丘中学校E組理論。自分で言っておいてなんだが、虚しくなるな。要は捨て石要因ってことだもんな。

 

「面白い発想ですね。……ですが、私の考えは少し異なります。私の考えを話す前に、副会長の言葉をもう一度思い出してみましょう」

「えーっと、『俺はお前の“実力”を買っている。お前にはそれだけの“価値”と“可能性”がある』ってやつ?」

「はい。あなたが寝ていた入学式前の時間、坂上先生も支給された10万ポイントについて説明する際に、同じようなことを言っていました。この学校は“実力”で生徒を測る。10万ポイントは、入学を果たした私たちの“価値”と“可能性”の評価だと。実力、価値、可能性、10万ポイント。……きっと、副会長からあなたへの、ささやかな贈り物(ヒント)だったんでしょうね」

 

 み、雅先輩……気づけなくてごめん!! だって寝てたんだもん!!

 

「それでその答えは、な、なんなんでしょうか? ミス・ホームズ」

「この学校は実力で生徒を測る。この学校でいうところの実力とは、個人が持つ総合的な能力のことであり、クラス分けは実力で生徒を測った結果である。ここまでは大丈夫ですか? ワトソン君」

 な、なんだって!? さ、最初から示唆されていたのか!?

 

「う、うん。続けて」

「はい。その言葉と共に渡された10万ポイント。私たちへの評価は入学時点で一律10万ポイントということですね。しかし、副会長に評価された黒乃くんは更に10万ポイント。水泳で最も速く泳げた生徒は、追加で5,000ポイント。実力次第で得られるポイントには違いが出ます。そしてこの学校は実力で生徒を測っている、ということは?」

「月に貰えるポイントも、実力で決まる、ってこと?」

 ……え? でもそれなら……。少し首を傾げると、彼女は僕を見てニッコリと微笑んだ。

 

「そう、そこなんですよ。個人の実力のみで評価するなら、実力でクラス分けをする必要はないし、一律で10万ポイントである必要もない。つまり、実力は個人ではなくクラスごとに評価されるんです」

「な、なるほど!! あれ? でも、それなら不公平じゃない? だって、最初から実力で分けられているんだよね?」

「えぇ、そこに関しては私も納得はしていませんが、……おそらく可能性が評価されているのでしょう。Aクラスの生徒は現時点で優等生ではあるものの、可能性はあまりない。Dクラスは劣等生ではあるものの、磨けば光る何かをもしかしたら持っているのかもしれない。価値と可能性のグラデーション、それこそがクラス分けの真意なのかもしれませんね」

 ……か、可能性……。ポテンシャル採用ってコト!?

 

「そ、それがクラス分けをした理由?」

「いいえ、意図的なクラス分けをする最大の理由は、競わせることで実力を向上させるためなんじゃないでしょうか? 集団の実力を測りたいなら、競わせるのが最も合理的でしょう。そして、その過程で上位クラスはその価値を維持するために、下位クラスは可能性を目覚めさせるために努力します」

「……あの、目覚めなかった場合は、どうなるんでしょうか?」

「その時はただの劣等生集団になるだけですね」

 ……………で、ですよね。

 

「競わせるって、具体的には何をやるのかな?」

「普通に考えれば、試験や課題なのでしょうが、測るのは成績ではなく実力ですので、そういった一般的なものに囚われない方がいいでしょうね。……それこそ、ちょっとしたゲームのようなものから、グループワーク、ディベート、プレゼン、あとはコンテストとかもあり得そうです」

 ……そ、そっちの方がまだ勝算はあるのか? 純粋な現在の実力だと勝ち目は無さそうだし。

 

「……僕たちにとっては厳しい状況になりそうだね」

「そうは言っても、ここも教育機関ですから、何かしらの措置はあると思いますよ。例えば、他のクラスに移れるとか。あとは……もしかすると、無料の商品もその一部なのかもしれませんね。万が一、ポイントがなくなった場合の救済措置」

「えっ……いや、そうか。評価されるって、プラスだけじゃないのか」

「……10万ポイントから加算される可能性は限りなく低いと思いますよ。人は何かを得る喜びよりも、失う痛みの方に重きを置いてしまうものですし。それに飢餓感を覚えさせた方が必死になるでしょうから」

 な、なんて悪辣な……。スタートは同じだから、最低限の公平性も担保されてるし、貰えるポイントが下がっても、単に努力不足だって言える余地を残しているのが、性格が悪すぎる……。

「……とは言え、あくまで私の拙い推理に過ぎませんよ。全て鵜呑みにしないでくださいね。外した時に、恥ずかしいので」

 椎名さんに聞いて、正解だったな。想像以上の収穫だ。

 

「……でも、雅先輩も直接教えてくれたら良かったのになぁ」

「うーん、おそらく何かしらの箝口令が敷かれているのでしょう。副会長、先生方、共にクラス分けに関する質問への回答を拒否しているのは、回答すること自体を禁止するルールがあるからだと思います。もしかすれば、何かしらのペナルティもあるのかもしれませんね」

「それはまた随分と壮大な取り組みだね」

「そうでしょうか? 仮に私の推理が当たっていた場合、CクラスもDクラスも阿鼻叫喚とまでは言いませんが、大変なことになるでしょうし、そのぐらいの仕掛けはあると思いますが」

「……明日からは節約するよ」

 はぁ。昨日、このことを知っていれば、あんなものを買ったりはしなかったのに。

 

「まぁ、私も人のことは言えませんけどね」

「そうなんだ。何か最近買ったりしたの?」

「このソファもティーセットもスリッパも、今日のために用意したものですよ」

「……え?」

「なので、今後も私の部屋に来てくれると嬉しいです。一度きりではもったいないですからね」

「は、はい」

「そうだ、今度はお抹茶を点てるのはいかがでしょうか? 練習しておきますね」

 と、友達が来て、舞い上がってるのかな? うん、きっとそうだ。可愛いな。

 

「それでは本日の安楽椅子探偵は閉業させていただきます。さて、読書のお話をしましょうか」

 そうして、僕は椎名さんと時間が許す限り、本の趣味や好きなもの、あとは取るに足らない、どうでもいいことについて語り明かした。




ホワイトルーム、綾小路パパの言動から暴対法無い方が自然な気がする(オリ)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。