ボイド。
そこは各階層により成り立っている不思議な世界。
争いの無く平和な世界であるボイド・ミューラー、その上に存在する別世界ボイド・ティンベイ。
こういった形で上へ上へと階層により異なっている。そのボイド・ミューラーへ1人の少女が足を運んでいた。スタイルの良い身体付きと黒く整った長い髪と赤い瞳。彼女が着ているのは普通の服とは違い、一種のパイロットスーツの様な物で色は黒と青を基調としている。
「ッ…酷い。誰がこんな真似を……!」
彼女は別同調査隊セレーネのメンバーの1人、名前はマユリ・アーヴァイン。セレーネは反ドミネイターを掲げて設立された組織であり、アヴァンルージュ程では無いが抵抗勢力として組織された。
マユリが此処を訪れた理由は少しでも多く、生存者を発見する事だった。
「生体反応無し…此処も…向こうも駄目……ミューラーはやっぱり…完全に壊滅……。」
辺りには死体が放置され、更には数多もの薬莢が地面に転がっている。瓦解して崩れた建物…そして何より人機の足跡も残されている。
「…此方マユリ。生体反応は…残念ながら…。」
通信機で報告を入れていた時だった。
急にライトを向けられ、思わず顔を背ける。
目線を戻すとそこに居たのは武装した兵隊数人。
顔はヘルメットで隠れているから解らない。
だが、彼等が何者なのか…それは知っている。
「まさかドミネイター…ッッ!!?」
「ミューラーの生き残りか!!しかも上玉な女と来た…!絶対に捕まえろ!!」
真ん中の1人が指示を出すと横の2人がライフルを向けて此方へ迫るとマユリは携行していたハンドガンを取り出して即座に応戦する。15発もの弾が入った
コレはマユリにとって頼れるモノで、男よりも頼りになる。弾が見事に頭へ命中し兵士が1人倒れる。
もう1人が撃ってくれば物陰に隠れ、そこから慣れた手付きで発砲しもう1人を撃退する。
しかし未だ向こうは人数が居る。1人で残りの4人の相手をしなくてはならない。
「はぁッ、はぁ…ッ、向こうも目的は同じか…!!」
瓦礫と化した街並みを駆け抜けて行く。
追い掛けて来た兵士が此方へ発砲すると銃声が響き渡り、弾がマユリの横をすり抜けて行った。
途中で路地を曲がると家の中へ飛び込んで身を潜めた。1人の兵士が立ち止まるとライフルを向けながら家の前を通過して行く。
「くそッ、何処へ行きやがった!?」
「此処だよ…ドミネイターさんッ!!」
家から飛び出したマユリは両手で掴んでいた椅子を振り上げて後ろから思い切り殴り付けた。
ガックリと崩れ落ちた兵士からライフルと弾を奪うと彼女は素早くマガジンを捨てて新しい物へ切り替える。これで少しは持つだろう。
後は何とかしてこのミューラーから立ち去らねばならない……。
「多分血眼で探し回ってるだろうな…早い所此処を出ないと…ッッーー!!? 」
そう言って引き返そうとした時、身体に強烈な痺れが走ってそのままマユリは倒れてしまった。
「ゲームオーバーだぜ…お嬢さん?」
「貴方…ッ……何を……ッ!?」
ショックガンを手にした男の声と笑い声が聞こえて来ると同時にそこで意識が途切れてしまった。
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「ん……此処は…?」
次に目を覚ましたのは何かの施設の中。
パイロットスーツはそのままだが武器は全て取り上げられている。
だが様子が可笑しい…手首が動かないのだ。
ガチャガチャと暴れるがそんな物は意味が無い。
「くそッ…やってくれた…ッッ!!」
するとドアが開いて兵士数人がゾロゾロ入って来る。そして真ん中の黒い髪の中年男性が何か指示を出すと兵士1人が無言で此方へ近寄って来る。
「な、何…ッ!!?」
すると荒々しく彼は両手でマユリのパイロットスーツを引き裂くとたわわに実った彼女の左右のバストと白い肌が外部へ晒されてしまう。そして小型の端末を股下へ押し込まれると何かを確認していた。
「チェック完了…沢村中尉、この女、処女ですッ!」
「成程…了解しました。下がりなさい。」
沢村と呼ばれた男に頭を下げた兵士は定位置へ戻ると今度はその沢村という男が近寄って来てマユリの身体をジロジロと眺めていた。
「マユリ・アーヴァイン…職業不詳、家族構成不詳、所属部隊不詳…経歴も何もかも不詳とは…どういう事ですか?」
「そりゃ調べたって何も出て来ないよ…私は孤児だからね。親の顔も名前も知らない…どう?満足した?」
「おや、我々が怖くないのですか?」
「やる事が本当にドミネイターらしい…平気で女の子をモノとして扱って…遊び感覚で人を殺して…お前らみたいなのが居るから世界が可笑しくなるんだッッ!!」
そう彼女が叫んだ時、平手打ちされて左頬へ強い痛みが走った。そして彼は再びマユリを見つめる。
「口を慎みなさい……貴女に与えられた選択肢は3つ…此処の施設で兵士らの捌け口として扱われるか…それとも貴女を反逆者として上層部に献上するか……そして最後の1つ。」
すっと沢村は彼女の片方の胸へ触れると顔を近づけて呟いた。
「貴女を此処で孕ませて…国の噂を証明するか…という事です。」
「噂…?」
「ええ、ごく稀に居るのですよ…白モグラと似た黒モグラ…その黒モグラの中には赤い目をした者も居ると……そのモグラを孕ませれば出世やこれから先の人生の安泰幸福も約束される…そういう噂がね。そしてその条件は…白い肌、そして赤い目…!!」
彼の言う特徴はマユリと同じだった。
ギリっと彼女が歯を食い縛る一方で沢村はニヤニヤと笑っている。
「さぁ……どうしますか?」
彼が見つめていると、突然マユリの頭の中へ声が聞こえて来る。
[…聞こえているか?女。]
「……誰?」
[誰だって良い…ソイツの言葉に耳を貸すな。]
「でも…ッ!」
[黙ってアタシの言う事を聞け!…今から此処の施設の電力を落とす。そうすればお前の手首の枷も外れる。此処の連中はバカだ、こんなオモチャに頼るなんてな。解ったなら準備しろ…良いな?]
謎の声は女の声だった。
マユリは解ったと声を出さずに返答する。
「…決断は出来ましたか?マユリ・アーヴァイン?」
「ええ…出来た。」
「なら、貴女は…!!」
何かを沢村が言い掛けた時だった。
バシュウンという音と共に電力が落ちて辺りが暗くなる。そしてマユリの手首の拘束が解けた。
「なッ!?停電…」
「これが…私の答えだぁあッッーー!!!」
「なぁ…ッッ!!?」
動揺して一瞬傍を離れた沢村に対しマユリは力任せに彼の顔面を思い切り右ストレートで殴り付ける。そして倒れた彼を他所に振り切りると動揺している兵士らの合間をすり抜けて外へ飛び出した。
長い廊下を走って行くと補助電源へ切り替わったのか薄暗い状態で明かりが元へ戻った。
「我ながら良いパンチだったかも。次は?」
[そこの通路を右に曲がった先に格納庫が有る!格納庫のナンバーは120だ!!]
「オッケー!」
彼女はペロリと舌を出して笑うと言われた通りに通路を曲がる。すると目の前からドミネイター兵士らが此方へ向けて迫って来た。
「居たぞッ、アイツだ!!」
「そっちに逃げたぞ!!追え、追えッ!!」
咄嗟に別の通路へ彼女が回り込むと後ろから追い掛けて来ているのが解る。彼女は構わず走り続け、
別の通路へと曲がると部屋へ飛び込んで息を整えていた。
「くそッ…後少しなのに…!」
ふと部屋の中を見回すと自分が盗られた装備品が中央の机の上に置かれており、ハンドガンとマガジン
も全てそこにあった。腰へそれを巻き付けてハンドガンを握り締めると部屋から飛び出して再び走り出す。
「ねぇ、此処からどうするの!?」
[そのまま次を左、曲がった先を真っ直ぐ行け!]
「簡単に言ってくれるじゃないの…ッ!!」
待ち伏せていたドミネイター兵士へ蹴りを喰らわせて退けると通路を進んで格納庫へ差し迫る。
すると途中の別の部屋で足を止めた。
「…特殊保管庫?」
スライド式のドアを開くとそこには青い髪をした少女が裸で此方を見ていた。彼女は見た目より幼く、年齢からして自分より歳下だろう。
「…ねぇ、大丈夫?貴女の名前は?私はマユリ…マユリ・アーヴァイン。」
「神楽……。」
「カグラ?…変わった名前だね。でも嫌いじゃない。」
そうこうしていると外が騒がしくなり始める。
向こうも此方を血眼で探している様だ。
「ねぇ…私と一緒に来る?神楽ちゃん。私の進む先は決して楽な道じゃないと思う…でも、それでも良いなら…貴女がそう望むなら…私と此処を出よう?大丈夫、私はね[[rb:此奴ら > ドミネイター]]が大っ嫌いだから。」
1歩前へ来るとマユリは右手を差し出した。
そして更に続ける。
「やっぱり間違ってるよ…こんな世界…だから私が変えてみせる。女の子が女の子としてごく自然に、当たり前に生きられる平和な世界に…今は未だ無理かもしれないけど……。」
[おい、何やってる!そんなガキほっとけ!また彼処に逆戻りしたいのか!?]
頭の中で怒鳴り声が響く。それでも彼女は神楽を見つめていた。
「今はキミを助けるので精一杯…でも、必ず変えてみせる!!だから…!」
すると神楽はマユリの手へ自分の手を添えると優しく握り締め、小さく頷いた。
そしてマユリが離れてと伝えると鍵をハンドガンで撃ち抜いて破壊する。そして彼女の手を引いて保管庫を抜けると格納庫120へと走った。
通り掛かっただけでゲートが勝手に開くと後ろから銃声と共に弾がゲートへ命中、まさに間一髪だった。
「来たわよ!何処に居るの!?」
[この下だ!飛べ、ハッチは開いてる!!]
「この下って…結構高いんですけど!?」
[いいから、黙って飛べ!!]
「ッッーー、あーもう!!神楽ちゃん、しっかり私に掴まっててッ!!」
神楽をお姫様抱っこして無理矢理フェンスを越えて飛び降りる。
下手すればこのまま行けば地面まで激突してしまうのは間違いないのだが激突する事は無く、そのままシートへと着地した。
[ほらな、無事だっただろ?]
「そ、そうだけど…ねぇ、コレは何?貴女…まさか人機?」
[来やがったな…兎に角、詳しい話は後だ!ハッチ閉めるぞ!1人は後ろに座らせろ!!]
「解った…神楽ちゃんはそこの後ろに。システムオールグリーン…エネルギー及び駆動回路問題無し…えっと…名前は?」
ふとモニターを見ると画面にはV.E.I.Lと表示されていて、彼女は何かを考えていた。
[……どうした?]
「名前…何て言うの?貴女の名前。」
[ヴェイル…覆うとか秘密という意味も有る。アタシは秘密裏に造られた機体だからな、そういう意味らしい……じゃあアタシもお前に聞いとくか。]
「聞くって……何を?」
[お前はアタシに何を望む?]
「私が貴女に望む事…?」
[神経デバイスによりアタシはお前の中にあるモノを見た。お前は誰よりも平和を願うと同時に誰よりも憎しみが強い…だから連中に対する恨みも普通じゃない。違うか?]
そう言われるとマユリは俯いて頷く。
そして更に話は続いた。
[なら、お前のその憎しみをアタシに寄越せ…アタシはそれを力に変えてやれる。だから憎め…この世の誰よりも何よりも奴等を憎めッ!!そしてその果てにお前の望みを叶えてやる…!!]
「私が欲しいのは…私が望むのは皆が安心して暮らせる世界…こんなクズみたいな奴等の居ない平和な世界…こんな酷い目に遭うのはもう散々…だからお願い…力を貸して…今日よりも明日を、その先を…幸せに感じられる世界を創る為に!!!」
[…契約完了ッッ!!!]
その声と共に機体は起動する。そして獣の様な声で咆哮すると格納庫のハッチを力強く爪で引き裂いて外へと出る。すると外は既に他の人機が待ち構え、此方へ火器を向けていた。
[ランディングモードで初起動ねぇ…悪くは無い。]
「ねぇ、貴女の名前は?」
[…繋がってるから解るだろ?お前はアタシを知っている。そしてこの姿じゃ割に合わねぇ。やっぱり人型相手には人型って相場が決まってるッ!!]
すると機体が勝手に変形し人型へと姿を変える。
黒い装甲とグレーの機体色。そして黄色い目が敵を見据えていた。
「狼型試作零号機…ヴェイル…ファングッッ!!!」
今此処に、新たな叛逆の狼が姿を現した。
その名はヴェイルファング…黒い狼は倒すべき敵を見据えながらゆっくりと構えるのだった。