狼型試作零号機、ヴェイルファング。
本来なら起動する筈の無かった人機であり、優秀な操主でも乗りこなせなかったという機体。
それが今、ドミネイターらの駆る機体であるエルゴの前へと立ち塞がった。
『試作零号機、勝手に起動しましたッ!!場所は第120番格納庫です、至急増援を!』
エルゴに搭乗する操主が上へ指示を煽る。
現場はかなり混乱していた。3機のエルゴはヴェイルファングへと銃器を向けている。
『ッ…兎に角今は戦うしかない!総員、戦闘態勢!!多少の損壊なら上も許してくれるだろうさ!!』
『りょ、了解ッ!!』
こうしてドミネイター、そしてマユリ達は戦闘態勢へと突入するのだった。
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「人機戦…初めてなんだけど、やるしかないよね…!!」
[安心しろ、サポートしてやる…先ずは目の前の敵を倒す事だけに集中しろ!!]
「うんッ…!!」
ゆっくりと構えを取るとマユリはブースターを起動させて真正面から突っ込んで行った。
『こ、此奴ッ、突っ込んで来やがった!?』
「喰らえぇえッッーー!!」
ブオンと右手の拳を振り翳すとエルゴのボディを穿いた。鈍い音と共に拳が引き抜かれると仰向けにエルゴは倒れてしまう。すると今度は別のエルゴが此方へ銃器を向け発砲、閃光となって弾丸が此方へ向けて飛んで来た。
「マシンガン!?嘘でしょッ!!?」
[避けろッ、左へ飛べ!]
そう言われて左へ操縦桿を倒して避ける。
弾丸の掃射を避けて土煙を巻き上げながら立ち止まるとマユリは反撃の術を探していた。
「何か武器…ねぇ、武器は!?」
[有るよ、ゲフュールブラスターがな。ソイツをアイツの土手っ腹にぶちかましてやれ!!]
マユリが火器の設定を調節し先程のエルゴへと狙いを定める。そして左右腰の装甲が相手へ向くとそこから銃口が出現した。ターゲットがロックされると同時に操縦桿の引き金を引く。
「今…ッッ!!」
バシュウンッと勢い良く放たれた緑色の閃光がエルゴの左右腕を貫き、装甲部を溶解する。
無力化したエルゴを他所に今度は別のエルゴへと狙いを定める。
「もう1発ッ!!」
再び放たれた閃光はエルゴのコックピットを射抜くとガックリと前屈みになりながら大きく転倒した。
これで此方を襲って来た敵機3体全て倒した事になる。
「後は此処を離れないと…ッ!!」
彼女がペダルを踏み込もうとした時、レーダーに反応が現れてアラームが鳴る。そこに現れたのは先程の機体よりもカスタムされたエルゴだった。
『我が名はザンダレン…貴様が奪ったその機体、零号機を返してもらうぞッッ!!』
「此奴…指揮官機!?」
[油断すんなよ、マユリッ!!]
ヴェイルが叫ぶと同時にカスタムエルゴが此方へ強襲を仕掛けて来る。その手には巨大な斧が握られており、それを大きく振り翳して来たのだ。
「くぅ…ッッ!!」
マユリは咄嗟にバックステップでそれを何とか避けると真下に居た車両が地面ごと大きく削れた。
『ほぅ?我が武器、ギガントアックスをバックステップで避けるとは…だが2度目はそうは行かんッ!!』
「早くて…反撃出来ないッ!! 」
直後に振り上げられた一撃を辛うじて避け、そして横から来た一撃をも何とかスレスレで避ける。
だが逃げているだけでは勝負にならない。
[マユリ、アタシの右腕にある近接武器を使え!]
「そういうのはもっと早く言ってよ!?…でも、ありがと。アイツの弱点…解っちゃったかも。」
[…どういう事だ?]
するとヴェイルが左右に腕を広げると手首の付け根から白く細長い四角い筒が展開され、それを握り締めるとそのままゆっくりと下ろした。
『はッ、まさか爆弾でも使うつもりか?万策尽きたと見えた…今度こそこのギガントアックスで貴様を仕留めてやるッッ!! 』
「起動タイミングは…アイツとこっちの間合いが縮まった時……!!」
どんどん相手との距離が差し迫って来る。
少しでも見誤れば此方が真っ二つになってしまう。
マユリは、すうっと息を吸い込むとその時を待った。そして遂にその時が訪れた。
『でやぁあああッッッ!!!』
「貰ったぁあああッッッ!!!」
その隙を見逃さず、マユリはブースターを点火させて間合いを詰めると擦れ違い様に左手のサーベルを起動させてカスタムエルゴの左右の腕を斬り落としたのだ。
『な…ッッ!!?』
「これで…トドメッッ!!」
そして今度は振り向き様に右手のサーベルで機体の下半身と上半身を斜め掛けに斬り裂いて鎮圧する。
カスタムエルゴは体勢を崩してそのまま倒れてしまった。
「はぁ…はぁ…はぁ…ッ!」
[初陣にしちゃ上出来だよ…早く逃げるぞ、増援が来る!!]
そしてマユリの操縦でヴェイルファングはビーストモードへ切り替わると背面のブースターを起動させてその場を駆け抜ける様に姿を消した。
こうして残党狩り及び試験機運用テストに来ていたドミネイター連中は度肝を抜かされる事になったのだった。
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[この辺まで来れば大丈夫だ…敵は居ない。それより、お前は何処から来たんだ?]
「…この上の階層、ティンベイから。私が居たのはレジスタンス組織…セレーネ。そこの依頼でミューラーに生存者が居たら探して保護して来いって言われたの。」
途中の雑木林の中で機体を止めるとマユリは外をコックピット内部から見ていた。
後ろを向くと神楽が少し具合悪そうな顔して此方を見ていた。
「あ…えっと…大丈夫?」
「気持ち悪い…ッ!!」
「うわわッ、此処で吐かないでよ!?ちょっと待って…ちょっと待って!ヴェイル、ハッチ!ハッチ開けて!!」
勝手にコックピットハッチが開くと神楽を下ろしてマユリは彼女へそこで出して来てと促す。
すると彼女は草むらでそのまま嘔吐してしまった。
[そういやマユリ、お前…胸丸出しだぞ?股間も見えてる。]
「あーあ…気に入ってたパイロットスーツだったのに派手に破ってくれちゃって。服とか流石に持ってないよね?私のと神楽ちゃんの分。」
実は先程のチェック時にスーツを引き裂かれた事をすっかり忘れていた。つまりマユリは今の今まで胸と局部を晒して戦っていた事になる。
少し待ってろとヴェイルが呟くと口を開いて何かを出して来る。それは2人分の女性用の服だった。
「へぇー、私のは青いズボンと黒いタンクトップかぁ。神楽ちゃんのは…スカートとジャケット?」
[サイズもお前らにピッタリ合わせてる。少しは感謝しろよ?それにアタシは女しか乗せないって決めてんだ。]
「……感謝してる。ありがとう、ヴェイル。」
戻って来た神楽と共に着替えを済ませると彼女は腕に付けた時計型の小型通信機で呼び掛け始めた。
「此方マユリ・アーヴァイン、聞こえますか?セレーネ本隊!聞こえますか?もし聞こえていたら合図をくださいッ!!」
何度か呼び掛けると漸くセレーネ本部との通信が繋がる。そして彼女は状況全てを説明し、仲間の待つ回収ポイントへ向かう事を決めた。
取り敢えず今は此処で休息を取る事にするとマユリは地面に座って腰のポーチから携帯食料を取り出してその包みを開き、中身を指で摘んでその1つを神楽へ差し出す。
「食べる?…と言っても唯のチョコバーなんだけど。 非常食とおやつ代わりで携行してるけどまさか役に立つなんて思わなかった。」
「ん…ありがとう。マユリは軍人さん?」
「ううん、成り行きでこうなってた。私の産まれた場所はティンベイの街外れにあるスラム…お父さんもお母さんも居ない、産まれた時からずっと1人。親代わりだったのはそこに住んでたお姉さんだけ…私が初めて戦える様になった時、ドミネイターが攻めて来て…戦争になった。」
すっと銃を取り出すとそれを前に置いて彼女へ見せた。
「これは?」
「ハンドガン…くれたんだ、私の事を助けてくれた女の人がこれで生きる為に戦えって…ね。それからアヴァンルージュに保護されてそこで戦闘訓練を受けてから別組織のセレーネに配属された。マユリって名前もその時にくれた…それまでは名無しだからナナって呼ばれてたんだ。」
マユリはドミネイターに捕まった時の事を思い出していた。所属部隊も不詳、家族構成も不詳、その他なにもかも不詳なのは彼女が孤児という事を示すのに的確だったのだ。つまり産まれながら彼女は1人という事を物語るのに充分過ぎた。
「その助けてくれた人、名前は何て言うの?」
「えっと…確かアマガネだったかな?でも、それ以降の事は解らなくなった。私の事を助けてくれた後は特に情報が錯綜してたからね。多分…もう死んじゃってるかもしれない。」
少し微笑むとマユリはチョコバーを齧った。
口の中に甘く少しだが温かい味が拡がる。
普通のチョコレートみたいに冷やしたりすれば美味しいのだが、戦場ではそうも言っていられない。
例え不味くても貴重な食料なのだから。
「ねぇ、私もマユリみたいに強くなれる?」
「…なれるよ。神楽ちゃんにはその素質が有るし…何せ良い目をしているから。」
「良い目…?」
「やられても倒れないし、心が折れない…絶対に挫けない…強い心が宿っている目。例え暗闇の底に落とされても光を掴もうとする…そういう目をしている。だから大丈夫♪」
ニコッと微笑むとマユリは頷いた。
チョコバーを1本食べ終わると立ち上がり、ヴェイルの元へ近寄る。
「ヴェイル、追っ手は来そう?」
[未だレーダーに反応は無い、痕跡とか残すと厄介だから直ぐ移動した方が良いかもな。]
「解った…行こっか、神楽ちゃん。」
前屈みになったヴェイルへマユリが飛び乗ると
彼女に手を引かれ、その後ろの座席へ神楽が腰掛ける。
動かす前に席のシートベルトを嵌めさせると彼女を固定した。ハッチを閉めるとマユリは正面を向いて左右の操縦桿を握り締めた。
「これで大丈夫。目指す場所は此処から更に進んだ先の別地点ッ!」
[そんじゃまぁ、すっ飛ばして行きますか!]
ヴェイルが立ち上がると咆哮し、森林地帯を駆け抜けて行く。向かっているのはミューラーに開けられた穴のある別地点、これもドミネイターが過去にこじ開けたモノ。
つまり、この穴を利用して引き上げてもらうという算段。そしてこのミューラーから撤収するという考えだった。
暫く道なりに進むと急にアラートがコックピット内に鳴り響き、ヴェイルが立ち止まる。
[マユリ、敵だッ!!]
「敵?敵なんて何処にも…!」
[…上から来るッ!! ]
そうヴェイルが話した時、突然上空から此方を狙って爆撃され辺りの木々が焼き払われてしまう。
そして人型に変形し目の前にそれは降り立った。
鷲の様な鋭い眼光を兼ね備えた頭部、そして何より白銀の機体。睨み合う形になるとお互いに膠着状態となった。
「ヴェイル…!」
[アイツも可変機…名はアクィラス。アタシと同じドミネイター製だ…!!]
マユリが操縦桿へ力を込める。
すると向こうの方から声が聞こえて来た。
『…狼型試作零号機、ヴェイルファング。そしてマユリ・アーヴァイン……貴様らはやり過ぎた。我々ドミネイターに楯突いて生き残った者は居ない!!目的は該当機の奪還…だが私は人機に興味は無い。興味があるのは…!!』
アクィラスがゆっくりと機銃を向けて照準を合わせると操主が叫んだ。
『貴様だ…マユリ・アーヴァインッッ!! 』
突然機銃が乱射され、ヴェイルは咄嗟にそれを避ける。そして可変し人型へ姿を変えるとマユリも反撃としてゲフュールブラスターを放つ。しかし避けられてしまった。
「避けられた!?」
[ちッ、スピードは向こうが上だ!!]
『あっははは、遅い遅いッッ!!』
今度はアクィラスが左腕のクローを展開しヴェイルへと襲い掛かる。振り翳されたそれは辛うじて当たらなかったが受け止める姿勢となった。
「ぐぅ…ッッ!!」
『動きが素人そのもの…機体の性能に頼りっぱなしか?それとも…パイロットが戦闘に不慣れなだけか!?』
無理に振り払われると至近距離で機銃の掃射を受けてしまい、数箇所被弾して損傷してしまう。
「きゃああッッ!!?」
[くッッ…中々痛い所を突いて来やがるな…あの鳥野郎!マユリ、絶対に操縦桿から手を離すなよ!]
マユリは頷くと距離を取って身構えると右手首の付け根からエネルギーサーベルの筒を取り出すとそれを出力し身構える。緑色の刃がギラギラと光っていた。
『近接戦を仕掛ける気らしい…ふふふッ、それも無意味だと教えてやる…!!』
アクィラスはバックパックから実体剣を引き抜くと
それを構える。すると一部が変形しビームの刃が出現した。
「ッ…今度はこっちの番だッッ!! 」
マユリがペダルを踏み込んでサーベルを振り翳すとアクィラス側も実体剣を両手で握ってそれを防ぐと鍔迫り合いの形へと持ち込まれる。エネルギー同士が接触してバチバチと電流が飛沫していた。
『終わらせてやる、今此処でぇえッッ!!』
「私は絶対…負けないッッ…負けるもんか…負けてたまるかぁああああッッッーー!!! 」
その瞬間、ヴェイルの両目が鋭く光るとサーベルの出力も増し始めると同時に無理矢理振り払うと機銃の銃身を斬り落とした。アクィラスがそれを手放すと爆発し再びお互い睨み合う形となった。
『エネルギー出力が上がった!?…やはり面白い、あの機体のパイロット…益々欲しくなった!!』
「…一矢報いたけど、長時間戦闘はこっちが不利。どうすれば良い…!」
お互いに睨み合ったまま、戦闘は続くのだった。
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時は変わって同じ頃、ミューラーへ残党狩りに来ていた沢村率いる部隊は事後対応に追われていた。
試験運用として運び込まれた零号機の強奪と逃走…そして護衛として連れていた機体の破壊。
右頬に絆創膏を貼った彼は片手に端末を持ってコンコンと画面を叩いていた。
「クソッ、このままでは私の信用問題に関わる…!!」
全ては完璧だった。
ヴェイルファングの機能試験と宝探し感覚で残っているかもしれない女共を探しに来たのだがこれでは何も意味が無い。自室でブツブツと呟いていると兵士がノックと共に部屋へ入って来た。
「申し上げます!アクィラス、例の零号機と戦闘状態に入りました!」
「…マリアーネが出たのか。」
「はい…不味かったですか?エルゴでは追跡が難しいと判断した為、アクィラスを出しました。中佐にも許可は下りています。」
「いや、良い…アイツは変わっている。ドミネイターに志願するのは男ばかり…だがその中で奴は志願して来たのだ…自分も戦わせろと。もし奴でダメなら別の手法を取る迄。マリアーネ中心に奪還隊を配備させなさい、エルゴ3機を回す様に。それと……」
「それと…?」
「…失敗が続く様なら捌け口として利用してやりなさい。女はそれがお似合いでしょう?精々犯して孕ませてやれば利用価値は未だ有るのだから。」
下衆な笑みを浮かべながら沢村は彼へ伝えた。
そして兵士は彼の部屋を後にする。
残された沢村は思い出していた。
マユリに顔面を殴られたあの時の事を。
「ッ…マユリ…アーヴァイン…何としても奴だけは絶対に捕まえてみせる…そしてあの顔が苦痛に歪む様を見てみたい…処女を奪われた挙句に無理矢理犯され、泣き叫び、許しを乞う…その姿が…!!」
自分も今まで数多くの女を犯してきた。
だがマユリだけは違う…あの目、そしてあの艶やかな身体は今まで見た事が無い。欲しい…兎に角あの女が欲しい…。彼女の胸に触れた片手をじっと彼は見つめていた。ドミネイター……彼等のその欲望は尽きる事を知らない。