冤罪で俺の人生を奪った元恋人が、俺の人生を買いに来た話【完結】 作:ドン・ドナシアン
足が前に出る。
二キロの夜の公園内のジョギングコースを二十分以内に走る──。
ジョギングは、多忙の綾子が絶対に欠かさない美容と健康のための日課であり、本来であれば、二十分もあれば、余裕を持って走り終われる。
だが、いまの綾子にとっては、苛酷な拷問だった。
「くあっ、ああっ」
またもや、踏み出す途中で、腰の奥で不意にディルドが跳ねた。
次の一歩に繋がるはずの力が、そこで断ち切られる。
「つっ……」
身体が浮くような感覚に引きずられ、そのまま膝が崩れる。
地面に叩きつけられるよりも先に、さらに内側から砕けるような衝撃が走った。
倒れた身体を必死に立ちあがらせながら、握り絞めているガラケーの液晶を見る。
“10:33……10:32……”
すでに、タイムリミットまで半分──。
しかし、まだ一周まではほど遠いということは感覚でわかる。
再び、夜の公園を小走りに走り出す、
狂うような掻痒感は、度重なった翻弄で、すでに薄れていた。
代わりに、断続的に襲ってくるディルドの刺激が綾子の身体の芯を掴んで離さない。
「うああっ」
またもや、一歩を出そうとした直前に、革帯の内側の三箇所を一斉に揺さぶられる。加えて革帯の内側全体の繊毛の刺激──。
踏み出した足が空を切り、体重を支えられない。
脚がよろけて倒れてしまう。
崩れてしまったことで、スーツの襟とスカートがまくれかけるが、すでにぼたぼたと大量の雫が落ちるほどに、大量の汗で濡れている。そのため内布が肌に密着していることだけが救いだ。
まくれた裾を急いで直しながら立つ。
「うわっ、いやあっ」
しかし、すぐに次が来る。
無視したくても、掻痒剤とともにずっと淫具に翻弄されてきた綾子の身体は、哀しいほどに敏感な反応を示してしまう。
連続して襲う刺激に、立とうとする動作が寸断される。
それでも、立ちあがり、走り始める。
だが、ディルドと繊毛が綾子の下腹部に襲いかかる。
「はっ……あっ……」
呼吸と動きが噛み合わない。
前に進むための動作が、途中で何度も断ち切られる。
そのたびに、身体が抜ける。
膝が折れる。
腰が落ちる。
刺激されれば、力がその場で消える。
公園灯の光の中で、綾子の不自然な動きは異常すぎた。
少なくない奇異の視線を感じる。
それでも、羞恥と恥辱感を無視して走ろうとしている。
だが、走れていない。
一定の間隔で崩れ、立ち上がり、また崩れる。
見ている者には、理由はわからないだろう。
ただ、異様な動きだけが残る。
夜の公園には、まばらに人影は残っている、その視線が、綾子の皮膚に刺さる。
わかっている。
見られている。
それでも──。
次の一歩を出す。
「うはっ、あああっ──」
だが、その瞬間にまた内側をディルドで揺さぶられる。
身体が反応する。
意志とは無関係に、力が抜ける。
「っ……ぁ……」
声が漏れる。
抑えきれない。
膝から崩れ、そのまま前に倒れる。
手をつくが、支えきれない。
しばらく動けない。
呼吸だけが荒れる。
だが、次の刺激が来る。
それに押し出されるように、身体が反応する。
立ち上がる。
走る。
いや、走ろうとする。
しかし、少し進むと、ディルドは邪魔をするように激しく振動をする。
耐えられずに膝を崩してしまう。
足を出す。
直後に内側が跳ね、力が抜ける。
膝が落ちる。
それでも、もう一度足を前に出す。
また潰される。
それでも、止めない。
ただ、この循環の中で、ひとつだけ残る感覚がある。
──まだ、罰は続いている。
大樹は、罰を受けるに値すると思ってくれている──。
それだけを救いにして、わずかに身体を前に出す。
夜の公園を駆け抜ける。
また崩れる。
立つ。
すぐにまた揺さぶられる。
そのたびに、身体が砕けるように崩れる。
だが、完全には止まらない。
むしろ、その衝撃に押し出されるように、次の一歩が出る。
前へ。
崩れながら。
何度も動きを断ち切られながら。
それでも綾子は、コースの上を進み続けた。
気がつくと、見覚えのある景色が視界に入っていた。
公園灯の並びと入口脇のベンチで、最初に走り始めた位置だと遅れて理解する。
踏み出した勢いのまま、綾子は制御できずにその場所を通り過ぎ、そのまま前に崩れ落ちた。
肩から地面に叩きつけられる。
「はあ、はあ、はあ……」
呼吸が詰まる。
はっとして、右手に握りしめているガラケーに視線を落とす。
液晶の数字は動いていない。
”00:00”
止まっている。
綾子は一度、瞬きをする。
もう一度、画面を見る。
タイマー表示は動かない。
途中から時間を確かめる余裕もなくなったが、多分、途中で終わっていたのだろう。
その理解が、遅れて身体に落ちてくる。
だが──ガラケーが震えた。
反射的に画面を開く。
『三十二分十二秒。命令は二十分以内だ──。次は時間内に走り終われ──』
文字を、読み切る前に理解してしまう。
間に合っていない。失敗している。
でも、罰は、終わっていない……。
自分でも理解できない愉悦が綾子を貫いた。
まだ、大樹の復讐を受けられる──。
画面が切り替わった。
再び、カウントダウンが始まる。
”19:58……19:57……”
「……ああ……」
声が漏れる。
綾子はその場で数秒だけ動かなかった。
呼吸だけが荒く続く。
それでも、次の瞬間には、身体が勝手に動いていた。
腕で地面を押し、膝を立てる。
立ち上がる。
脚は震えている。
まともに力は入っていない。
それでも、一歩を前に出す。
再び、走り出す。
すると、またもや、前のディルドが激しく襲う。
「うああっ」
転びそうになるのを懸命に踏ん張って耐える。
「んほおっ」
すると、前のディルドの振動が残っているまま、アナルの中のディルドは突きあげるように動く。
「ああっ」
綾子は膝をつき、その場で身体を弓なりにして全身を硬直させてしまっていた。
でも、止まれない。
足が止まらず、数歩分そのまま進んでから、膝が崩れる。
前に倒れ込み、手をつくが支えきれない。肩から地面に落ちた。
「はっ……はっ……」
呼吸が乱れている。胸が大きく上下するだけで、空気がうまく入ってこない。肺の奥が焼けるように熱い。
身体を起こそうとする。だが腕に力が入らない。肘が震え、もう一度崩れる。
それでも、右手に握りしめたガラケーだけは離さない。
視線を落とす。
まだ途中だが、液晶の数字は、すでに止まっていた。
”00:00”──。
瞬きをする。
もう一度、画面を見る。
動いてない。
それでも、綾子は最後まで走った。
止まる理由にはならなかった。
周回ジョギングコースの出発点に戻ったとき、またもやガラケーが震える。
『二回目。二十四分三十秒。命令は二十分以内だ。もう一度走れ』
短い文だった。
評価は、それだけで十分だった。
間に合っていない。
失敗している。
だが──それでも、終わっていない。
画面が切り替わる。
三度目のカウントが始まる。
”19:59……19:58……”
「……ああ……」
声が漏れる。
綾子はその場で数秒だけ動かなかった。呼吸だけが荒く続く。胸が上下し、喉の奥で音が鳴る。
膝をついたまま、身体が揺れる。そのまま横に崩れかける。
それでも、腕で地面を押す。
肘が震える。
もう一度、押す。
膝を立てる。
そこから、身体を持ち上げる。
立つ──。
視界が大きく揺れた。暗くなる。それでも倒れないように、無理やり前に身体を傾ける。
三回目──。
一歩を踏み出す。
その瞬間、内側が跳ねた。
「うあっ……」
脚に入れていた力が抜ける。踏み出した足が支えにならない。膝が折れ、そのまま前に崩れる。
だが、倒れきる前に、もう一度足を出す。
止めない。
止まれない。
次の一歩を出す。
すぐにまたディルドを揺さぶられる。腰が引きずられるように反り、身体が一瞬浮く。
「っ……あっ……」
声が漏れる。
脚が抜ける。
それでも、前に出す。
公園灯の光を抜ける。
次の灯りへ向かう。
だが、その途中で、また内側が跳ねた。
身体が強く反応する。腰が反り、脚が完全に止まる。
「ぁ……っ……」
呼吸が止まる。
その場で動けない。
数秒、完全に止まる。
その間にも、時間だけが減っていく。
それでも、綾子は再び身体を動かした。
しかし、途中で吐き気が襲った。
綾子は、その場で吐いた。
『三回目。二十八分四十秒。命令は二十分以内だ。もう一度走れ』
三回目は二回目よりもずっと遅かった。
四回目を走る。
二度嘔吐した。
『四回目。二十二分五十五秒。命令は二十分以内だ。もう一度走れ』
五回目──。
走り出す、
五回目を走り出して、しばらくして違和感が走った。
あれほど、幾度も繰り返し襲ってきたディルドの動きがないのだ。
ディルドは静まり返っている。刺激はあるが、振動されるときとは比べものにもならない。
その不自然な静寂に、綾子は一瞬だけ足を鈍らせた。
見限られた──?
その考えがよぎる。
だがすぐに振り払うようにして、綾子は足を前に出した。
とにかく、走るしかない。
震える脚に残った力をかき集めるようにして、綾子は前へ進んだ。
今度は崩れない。
呼吸は乱れたままなのに、動作が途切れない。
足が繋がる。踏み出した力が、そのまま次の一歩へと伝わる。
走れている。
その実感が、遅れて身体の奥に広がる。
公園灯の光をひとつ抜ける。次の灯りが、これまでよりも近く感じられる。
距離の感覚が、ようやく現実に戻ってきていた。
脚を出す。繋がる。もう一歩──。崩れない。
見覚えのある出発点の景色が、今度ははっきりと視界に入る。
そのままの勢いで、ゴールを通り過ぎ、数歩遅れて膝が崩れた。
地面に落ちる。
「はっ……はっ……は、はっ……」
肩で息をする。胸が大きく上下し、喉の奥で空気が擦れる音が鳴る。
震える手でガラケーを持ち上げる。
液晶は、まだ動いていた。
”03:20……03:19……”
「ああああっ……」
声が漏れる。
間に合っている。
その事実が、ようやく理解として落ちてくる。
膝をついたまま、ガラケーを両手で握りしめた。
全身から力が抜け、支えていた緊張がほどけていく。
その瞬間だった。
ディルドが一斉に跳ねた。繊毛が激しく動く。
「うああっ……」
完全に油断していた身体が大きく反応する。
腰が引きずられるように反り、脚が抜け、その場に崩れ落ちる。
呼吸が乱れる。身体の奥が、再び強く揺さぶられる。
その直後、後ろから何かが被せられた。
視界が完全に遮断される。
「きゃああっ……」
息ができない。口と鼻を覆われ、空気が入ってこない。
腕を掴まれる。強引に引かれ、身体が持ち上がる。
抵抗しようとしても、脚に力が入らない。
そのまま茂みの中へ引きずり込まれる。
足元の感触が変わる。
枝が当たり、地面が柔らかくなる。
やがて動きが止まり、前に押しつけられるようにして、太い樹木に身体を預ける形になる。
腕を後ろに引かれる。
金属音──手首に冷たい感触が走る。
手錠?
拘束された?
もう、動けない。
そのときだった。
周囲から、ざわめきが起こる。
『ここに、痴女がいるという情報は、本当だったな』
『もしかして、こいつスーツの下裸じゃねえのか?』
『とにかくやっちまおうぜ』
複数の男の声。
大樹ではない──。
その理解だけが、胸の奥で強く膨らむ。
ひとりが背後からスカートをめくる。
「やめてえっ……」
身体をよじるが、両腕は固定されている。逃げられない──。
また、被せられている袋は、かなり小さく息もままならないほどだ。必死に声を出しているつもりでも、実際には猿轡越しに喋っているようで、くぐもってしまっている。
腰の金属音が鳴る。
革帯が外されたのがわかった。
次の瞬間、身体の奥に食い込んでいたものが引き抜かれ、綾子をずっと苛んでいた革帯がついに外された。内腿に垂れ流れた大量の蜜が流れ落ちる。
『よし、俺からでいいな?』
後ろから綾子の腰を掴んでいる男が言った。
すぐに、背後から股間を一気に貫かれた。
「うああっ……」
袋の中で、綾子は声をあげた。