冤罪で俺の人生を奪った元恋人が、俺の人生を買いに来た話【完結】 作:ドン・ドナシアン
025 あなたに贖罪の気持ちがあるなら
深い水の底に潜っていた身体がふわりと水面に浮きあがるように、意識が浮かび上がった。
身体が重い。
まるで、頭の奥に鉛でも流し込まれたようだった。
綾子は薄く目を開いた。
瞬間、白い光が視界を貫く。
「つっ……」
反射的に目を細めた。
正面から強烈な照明が当たっている。
眩しさに涙が滲んだ。
改めて、ゆっくりと眼を開いていく。
なにも見えず、ただ白い光だけが視界を埋め尽くしていた。
徐々に目が慣れてくる。
最初に見えたのは黒い影だった。
いや、影ではなかった。
三脚に載ったビデオカメラだ。
レンズは真正面から綾子へ向けられている。
撮影されている──?
その認識が脳裏を掠めた瞬間だった。
胸の奥がざわついた。
大樹──。
途切れていた記憶が一気に繋がる。
都内のホテルの地下駐車場だった──。
アンナが運転席の外へ飛び出していく。
車の窓を叩いていた女──相沢伶奈と向き合うためだ。だが、次の瞬間にはアンナが倒れていた。伶奈の手にはスタンガンが握られていた。
信じられなかった。
伶奈はそのまま車へ乗り込んできた。
抵抗したくても、股間に嵌められている淫具が暴れ回って綾子にはなにもできなかった。
そのとき、大樹の名前を口にしたのだ。
綾子に餌になってもらうと……。
大樹が危ない──。
そう思った。
しかし、腹に強い衝撃が走り──綾子の記憶は、そこで途切れている。
「……っ」
綾子は身体を起こそうとした。
がちゃり──。
乾いた金属音が響く。
右手が動かない。
いや、左手もだ。
両脚もだった。
綾子は息を呑んだ。
改めて自分の身体を見る。
スタンガンを押しつけられて気を失ったときに身につけていたスーツはそのままだったが、両手首と両足首に黒い革枷が嵌められていた。それが左右の柱へ固定されているのだ。
四肢を大きく拡げた格好だ。
視線を巡らせる。
白い壁、白い床、白い天井──。
家具らしいものは、なにもない。
無機質な白だけで構成された空間だった。
ただ、ちょうど綾子の背中側になる隅に、台車付きのワゴンに載せた箱がある。
そして、ビデオカメラの向こう側に誰かがいた。
だが、強い光の影響で顔が見えない。
強烈な照明の逆光で、人影だけが黒く浮かび上がっている。
ひとりが座っている。
その後ろに二人?
それしかわからない。
綾子は目を細めた。
少しずつ輪郭が鮮明になっていく。
中央の人物は椅子に腰掛け、脚を組んでいた。
女だった。
長い髪が肩へ流れている。細い顎。脚を組む姿勢に見覚えがあった。
「……相沢さんね?」
綾子は言った。
相沢伶奈でしかあり得なかった。
その人影がゆっくりと動いた。
「光が強すぎて見えないようね。ちょっと照明を落としなさい」
女──やはり、相沢伶奈の声だった。座ったまま背後の人影に命じる。
すると、後ろに立っていたふたりの男が出てきた。
ぎょっとなる。
顔全体を覆う黒い革マスクと革のブリーフだけを身につけた半裸のふたりの男たちだ。革の下着には性器のかたちがしっかりと浮きあがっている。
男たちがライトを操作して光量がおとされた。
やっとライトの向こうが見える。
西園寺宗一郎の私設秘書にして、愛人のひとり──その伶奈が脚を組んだまま、静かに綾子を見つめていた。
「やっとお目覚めね、綾子さん……。まずは少しお話をしましょうか」
伶奈が静かな口調で言った。
「……これはどういうことかしら、相沢さん」
綾子は伶奈に告げるとともに、改めて周りを観察する。
まずは出入口──。それは振り返った背後にひとつだけあった。ただ、ドアノブのようなものはない。ほかにはなさそうだ。記憶のある場所ではない。
綾子を拉致し、監禁するとすれば、どこに連れて行くだろうか?
懸命に西園寺グループが保有している施設について頭を巡らせる。
「もしかして、ここがどこなのか考えているのかもしれないけど、それは無駄よ。あなたにわかる場所じゃない。ついでに言えば、大樹にもね」
すると、相沢伶奈が綾子の思考を見透かしたように言った。
綾子の心臓が跳ねる。
まだ、大樹の名を──。
「今回のことは大樹には関係ないわ……。仕手戦はすべてわたしひとりのことよ」
会長秘書の相沢伶奈が動いたということであれば、綾子が半年以上をかけて仕掛けていた西園寺ホールディング社の株主総会の投票権に関する委任状のかき集めのことしか考えられない。
おそらく、どこからか情報が漏れたのだろう。
大樹の命令に従いたい一心で、かなり無理に動いた。動きが漏洩したとしても不思議ではない。
「関係あるに決まっているじゃない。だって、グループを乗っ取れと命令したのは、大樹でしょう? あなたは、それを受けて動いた。彼が関係ないなんてことはないじゃない」
「なんのこと? 馬鹿じゃないの。あの居候がなんだというの?」
綾子はわざとせせら笑う。
だが、この相沢伶奈がかなりの情報を握っていることに驚くしかない。綾子が株の投票権を漁っていたことはともかく、大樹が張本人だと知るのはあり得ないはずだった。
「居候呼ばわりするの? あなたのご主人様のことを?」
相沢伶奈が軽く笑う。
そして、スーツの内ポケットからスマートフォンを取り出す。
座ったまま彼女がそのスマートフォンを操作する。
「あうううっ」
綾子は、四肢を拡げて拘束されている身体を跳ねさせた。
股間に装着されている革帯の内側のうち、クリトリスに密着している内側の突起が激しく振動を開始したのだ。
懸命に歯を喰い縛ろうとするが、相沢伶奈はさらに淫具に信号を送り、今度は陰核に加えて、アナルに埋まっているディルドの蠕動運動を追加する。
「くうっ、あっ」
がくりと膝が折れる。
その身体を嵌められている枷が阻む。
「しっかりと、後ろも感じる穴じゃない。そこを開発したのは、あんたの亭主じゃなく大樹よね。その彼を居候呼ばわり?」
相沢伶奈がわざとらしくくすくすと笑う。
そのあいだも、淫らな振動は続いている。
綾子は必死に平静を保とうともがく、
すると、やっと振動は止まった。
綾子はがくりと脱力してしまった。
「それと、わたしのことは、“伶奈”と呼び捨てでいいわ。わたしも、あなたを呼び捨てにさせてもらうわ……。だって、同じ男を愛したことがある女同士じゃない。そして、同じように裏切ったね」
伶奈が言った。
同じ男を愛した……裏切り者……?
綾子は、項垂れていた顔をあげる。
どういう意味──?
「さて、じゃあ、そろそろ、撮影を開始しましょうか……。あんたたち、彼女を裸にしてあげて」
伶奈が指示をする。
すると、半裸の男のひとりがカメラのスイッチを入れた。撮影中であることを示す小さな赤い光が灯った。
ふたりの男が両脇に立つ。
いつの間にか、ふたりは裁ち鋏を手にしていて、左右からスーツに切り込みを入れていく。
「やめなさい──やめるのよ──」
綾子は、無駄だとわかりながらも反射的に暴れた。
犯される──。それは女としての本能的な恐怖だった。
あっという間にジャケットが布切れに変わって足元に落ち、スカートも切断される。ブラウスは引き千切られて、それも切断された。
大樹の命令で下着は身につけてない。
ブラウスの下は乳房だ。また、スカートの下も下着はなく、ディルドが内側に嵌まっている革帯だけである。
「さて、知っているかしら、綾子? 大樹に淫具を提供しているのは、三崎修造というアダルトショップの男よ。あなたから巻き上げている金を大樹は、その三崎に渡しているけど、金を積んだら落ちたわ。それを外しましょうか」
伶奈がスマホを操作すると、腰の後ろで小さな金属音がして革帯が解錠されるのがわかった。
革帯が腰から離れて、ディルドが重みでずるずると抜けていく。そのまま、綾子の足元に音を立てて落ちた。ディルドには綾子の体液がねっとりと糸を引いてついていた。
「あなたが本当に裏切りを悔い改めているのか……。それとも、ただの淫売なのか。それを確かめさせてもらうわ。あなたに贖罪の気持ちがあるなら、死ぬまで耐えられるはずよ。でも、ただの淫売なら……」
伶奈が立ちあがって、こっちに歩み寄ってくる。
男たちは両側に退いた。
はっとした。
手に注射器を持っていたのだ。
「なにをしようとしているのよ──、やめなさい──」
綾子は悲鳴をあげた。
「大丈夫よ、身体に害を与えるものじゃないわ。あなたを廃人になんかしたら、大樹に叱られるもの……。ただの媚薬よ。貴婦人を娼婦に堕とす……。そんなアラビア語がついてたわね」
無防備な腋の下に針が突き刺さる。
「んくっ」
薬液が身体に入ってくる感覚に、綾子は唇を引き締めて耐えた。
「どうなるのか、わくわくする? わたしもよ。大樹がどうして、あなたを許したのか知りたいの。自分を裏切って刑務所送りをしたような女をね」
脇から針が抜かれる。
すると、男たちががらがらと背後から車輪付きのワゴンが運んできた。部屋の隅にあったものだ。
「もうひとつ、素敵なことをしてあげる。掻痒剤の調教は大樹から受けてるのよね。これはもっと強力なものだそうよ。さっきの三崎が持っていたから取りあげたの。さっき射ってあげた媚薬とセットのものよ」
伶奈は箱の中から小さな容器を取り出した。
容器の中には、坐薬のような錠剤が数個あった。
それをいきなり、綾子の股間に指で挿入して、奥に押しこんできた。
「ひあっ、いやあっ」
綾子は思わず悲鳴を噴きこぼした。
さっきの淫具責めのために、綾子の股間はかなり濡れていた。抵抗もなく坐薬を膣の奥まで沈められてしまう。
「後ろの穴には、特別二個に挿入しましょう。随分と感じる穴みたいだし」
伶奈が笑いながら、箱から取り出したローションを坐薬と指に垂らして後ろに回っていく。
アナルに坐薬が指で押し込められていく──。さらにもう一個……。
「さて、あとはしばらく待つだけね。あなたが大樹を再び裏切って、一匹の牝になる姿はしっかりと撮影して、大樹に届けるわ。それで彼も眼が覚めるでしょう。あなたが、大樹に相応しくないということをね」
伶奈が前側に戻ってきた。
そして、男たちに指示をして、今度は部屋の外から小さなテーブルを運ばせてきた。テーブルの上にグラスとシャンパンの瓶も準備された。
さっきのカメラの後ろに伶奈が座り直す。
男のひとりが、シャンパンをグラスに注ぐ。
じゅわっと小気味いい音がグラスで奏でられる。
「さて、贖罪の始まりよ。一生懸命に堪えなさい……。でも、犯されたくなったら教えてね。いつでも男たちに命令してあげるわ」
伶奈がシャンパンを口にしながら微笑んだ。
そのときには、早くも媚薬の効果が綾子を襲い始めていた。
熱い──。
まるで内側から熾火で炙られているように、全身がかっと熱が帯びる。
耳の中、腋の下、額の生え際、乳首──脇腹、股間──アナル──。いや、全身から大量の汗が噴き出す。
息も苦しい。
綾子は口を開けて、はあはあと呼吸せざるを得られなくなった。
「ああ、そんな……」
そして、ついに怖れていたものがやってきた。
じんという強い疼きが襲ったと思った、両乳首、クリトリス、ヴァギナ、そして、アナル──そこが疼きからあっという間に痒みに変わってしまったのだ。
乳首が──。
花芯が──。
陰核が──。
なによりもお尻の穴──。
痒い──。
死んでしまうかのように痒い──。
これまでに大樹に受けた「罰」とは比べものにならないくらいの強い掻痒感だった。
それが一気に襲いかかってきた。
「ああ、だめええっ、痒いいいっ──」
綾子はついに悲鳴をあげた。
「尻振り踊りが始まったわね。あなたの醜態はちゃんと撮影しているわ。しっかりと踊り狂ってちょうだい」
「ああ、どうして──どうして、こんなことをするんです、相沢さん──」
綾子は拘束されている身体を暴れさせながら絶叫した。
撮影されていることはわかっている。しかし、とてもじゃないが、じっとしていられる痒みではない。
「あら、わたしは協力してあげているのよ。あなたの大樹への贖罪の気持ちが本物なら、いくらでも苦しめるはずじゃない。これは贖罪の時間なのよ」
伶奈がグラスを口につけながら、ころころと笑った。