冤罪で俺の人生を奪った元恋人が、俺の人生を買いに来た話【完結】 作:ドン・ドナシアン
ああ……痒い……痒い──。
綾子は脂汗でぬめる裸身を震わせ、必死に痒みに耐え続けていた。
顔を振りたてて髪を振り乱し、身体をくねらせ、激しく腰を振る。しかし、四肢を左右の二本の柱に拘束されている状態では、そんなものでは、ほとんど刺激は得られない。
わずかに、左右に揺らす乳房で、尖りきっている乳首が動いてわずかな刺激を与えるだけだ。
そのかすかなものを求めて、綾子は裸身を悶え狂わせていた。
「そんなに淫らな裸踊りをされては、同じ女のわたしまでおかしくなりそうよ。どうせ、助けなんて来ないんだもの。我慢するだけ無駄でしょう。早く屈服してちょうだい」
カメラの後ろでシャンパンを飲んでいる伶奈が静かに笑う。
綾子の醜態を撮影するためのライトの光は調整され、いまではしっかりと伶奈たちを確認することができていた。
伶奈の左右には、顔を革マスクで隠している革のブリーフ一枚の男たちだ。もはや、その股間の膨らみにはかなり猛々しいものに変わっていた。
さっきから、男たちが生唾をしきりに呑むくだすような仕草を繰り返しているのも見える。
それでも、じっと大人しく待機したままであり、余程にこの伶奈に服従しているのが観察できる。
一体全体、伶奈の狙いはなんなのか……。そもそも、本当にただの会長秘書に過ぎないのか……。
綾子は、痒みで狂いそうな裸身を動かしながら、必死に頭を巡らせる。
「……こ、黒耀会……」
綾子は喘ぎにしか聞こえない声を漏らしながら口にする。
あれは、大樹が綾子を「管理」とすると言ってくれた夜のことだったはずだ。大樹は、グループと癒着している反社組織の「黒耀会」が自分を探している可能性があると仄めかしていた。
後にも先にも、大樹が綾子に、なにかを漏らしてくれたのは、それっきりだ。相変わらず、大樹は綾子に心を許した雰囲気はないし、それだけのことをしたとは自覚している。
でも、目の前の伶奈は、大樹をつり出す餌にすると口にしていた。
だとしたら、もしかしたら、伶奈はその黒耀会の女ということではないだろうか……?
「えっ、いま、なんて?」
すると、これまで綾子の醜態を愉しむように微笑んでいただけの伶奈の肩が大きく跳ねた。
「こ、黒耀会は……大樹のことを……まだ探しているの……?」
綾子はさらに言う。
すると、伶奈の眼が大きく見開かれた。
「……へえ、驚いたわね……。大樹って、黒耀会のことをあなたに話したの? 黒耀会はまだ気がついてないわ。でも、彼はそこまで、あんたを許したの──? 大樹を裏切って、あの坊やに尻を振った淫売を──」
さらに伶奈の口から罵倒のようなものが迸った。
この伶奈は、少なくとも、綾子と大樹の過去のことを知っている。綾子が大樹を裏切って、冤罪にかけた張本人の直人と結婚したこともだ。
改めて確信した。
「え、ええ……話したわ……。あ、あなたのこともね……。忘れてないそうよ……。だ、大樹がそう言っていたのは……あなたのことだったのね……」
まったくのはったりだ。
しかし、伶奈が黒耀会の女であり、大樹と黒耀会がなんらかの関係をしているのであれば、なんとしてでも、それを知らなければならないのだ。
考えろ──。
考え抜け──。
発狂しそうな痒みに耐えながら、綾子は懸命に頭を巡らせる。
伶奈と大樹が過去に因縁があったのは確かだろう。少なくとも、伶奈はなんらかの理由で、大樹にこだわっている。恋人であったというようなことを仄めかしたのが証拠だ。
でも、綾子はそれは違うと思った。
確信までは抱けないが、大樹は一途な男性だ。もしも、伶奈と大樹が恋人同士だったことがあれば、大樹は綾子を本当に切り離しただろう。
復讐は愛着の裏返しだ──。大樹には、別の女が心にいる気配がない。おそらく、伶奈に大樹へのこだわりがあるとしても、伶奈の一方的なものだろう。
そんな気がする。
「だったら、なぜ、あいつはわたしを探さないのよ──。復讐しようとしないのよ──。あんたのことは、そうやって調教して、……管理して……。わたしを探そうと思えば、すぐに見つけたはずよ──」
伶奈が立ちあがって声をあげた。
反応の強さに綾子も驚いたが、横のふたりの男もたじろいでいる。そのくらいの動揺だ。
だからこそ綾子は、自分が伶奈の中のなにかに触れてしまったのだと悟った。
そもそも、大樹になにがあったのか。
綾子のボディガードでもあった拓哉を叩きのめし、あのアンナでさえ形無しだった。綾子が知っている大樹は、人がよくて大人しい男性だったのだ。
だが、再会した大樹はすっかりと変わっていた。
刑務所を出所してから、綾子と十年ぶりに再会するまでになにかがあった。そうとしか思えない。そして、この伶奈はその大樹の過去に関係がある。
黒耀会という組織も──。
だが、もうだめだ……。
これ以上、思考ができない。
乳房を震わせ、腰を揺すりたてながら、綾子は激しい身悶えを繰り返す。
時間の経過とともに、悪魔のような媚薬は、さらに効力を発揮し、疼きも掻痒感も耐えがたいものにする。
手脚の自由を奪われ、逃れる方法のない綾子には、ただ呻き暴れることしかできない。
「か、彼は……あなたを……知っている……。で、でも忘れたって……。復讐するつもりはない……放っておいてほしいって……」
これは、伶奈についてではない。
綾子が大樹を見つけて、無理矢理にさらった夜に、最初に大樹が口にしたことだ。
あのとき綾子は、大樹の言葉にショックを受けた。
憎まれていると思っていた。
復讐をしたいと考えていることを疑ってなかった。
だが、大樹が言ったのは、復讐でも憎悪でもなかった。
もう忘れた──。
それだけだった。憎まれるよりも、綾子を残酷に突き落とした。
「忘れたですって──。仲間を殺されて──? 嘘を言うんじゃないだわよ──。大樹は憎んでいるはずよ。彼が情報屋のことを忘れるわけないでしょ──この淫売──」
伶奈が立ちあがる。
そして、大股で綾子の前にやってくると、いきなり頬を強く平手打ちにした。
痛みはなんでもない。この痒みに襲われている身体には、むしろ気持ちがいいくらいだ。
だが、伶奈はいま、なんて……?
「えっ、情報屋──? 情報屋ってなによ──?」
思わず口にした。
しかし、すぐに後悔した。
伶奈が呆気にとられた表情になったのだ。
そして、その相好が崩れる。
「……ふふ、その表情、さっきの反応……。もしかして、はったり? わたしから情報を吸い取ろうとしてた?」
伶奈が笑う。
綾子は、すぐに取り繕ろうとしたが、なにも思い浮かばず、絶句したかたちになってしまった。
「そういうこと……。まあいいわ。それにしても、我慢強いのね。とっくに落ちてもいいはずなのに。あんたのボディガードは、すっかりと落ちたわよ。もっとも、半日の差があるけどね」
伶奈が微笑む。
「えっ……もしかして、アンナのことを言っているの?」
綾子は声をあげた。
伶奈はすっかりと冷静さを取り戻していた。スマホを再び取り出して、なにかを操作する。
すると、綾子の正面に突然に画像が映し出された。
『あひいっ、だめえ──いやああ──』
同時に女の悲鳴が部屋の中に響き渡った。
綾子は反射的に顔を上げる。
映し出された映像の中で、ひとりの女が激しく身を捩っていた。
最初は誰なのかわからなかった。
汗に濡れた長い髪が顔に張り付き、表情も崩れている。
だが、その横顔を見た瞬間、綾子の眼が大きく見開かれた。
「アンナ──」
思わず叫んでいた。
見間違えるはずがない。
十年近く、自分の傍にいた女だ。
しかし、その姿は綾子の知るアンナとはあまりにも違っていた。
まず、拘束が特殊だった。
四肢は深く折り曲げられ、それぞれが幅広の革帯で包まれるように固定されているのだ。 腕も脚も伸ばせない。
身体を起こそうとしても自由が利かず、無理やり四つん這いに近い姿勢を取らされていた。
まるで人間ではなく、手脚の短い四つ脚の獣のようにまとめ上げられている。
だが、異様なのは外観ではなく、アンナそのものだ。
全身は汗で濡れ、肩で荒く息をしている。
表情が不自然だった。
肌は異様なほど赤くなり、理性を失いかけているようにも見える。
そしてなによりも、アンナの眼がおかしい。
冷静沈着で、どんな状況でも感情を表に出さなかった女の眼が、いまは焦点を失い、苦悶に揺れている。
綾子は言葉を失った。
映像の中のアンナは、周りを裸の男たちに囲まれており、四つん這いの姿勢で後ろから犯されている。そして、汗でぬめ光る裸身を狂おしく揺すりたてながら、悶え狂っているのだ。
少なくとも、アンナには嫌がる素振りは感じられなかった。
「うそ……」
思わず声が漏れた。
信じられない。
アンナは強い。
誰よりも強い。
拓哉と並び、自分を守り続けてくれた護衛だ。
そのアンナが、映像の向こうで苦しみ、追い詰められている。
なによりも、男嫌いだ──。男と関係するくらいなら、舌を噛んで死ぬと豪語していた。真性のレズビアンなのだ。
『ほら、咥えな。さもないと、また、“あれ”をするぜ』
後ろから犯している男とは別の男がアンナの顔に怒張を差し出す。
『ああ、あひいっ、咥えます──咥えさせて頂きますから──』
アンナが声を震わせながら、自ら顔を伸ばして、いきり勃つ男根を口腔深く受け入れた。
「ああ、なんてことを……」
綾子にはそれが信じられなかった。
自分の身体を襲う痒みさえ、一瞬だけ忘れてしまうほどだった。
投影されていた映像が消え、音声も途切れた。
「驚いた? ここではない別の場所にいるいまのあいつよ」
伶奈が静かに問いかける。
綾子は答えられない。
「……あんたは、わたしが運んだけど、アンナを回収したのは黒耀会の連中よ。あんたが眠っていた、たった半日でああなったわ。もっとも、さっきの注射を五本、坐薬を十個以上使ったみたいだけどね。多分、もう廃人ね……。それまでは我慢強かったけど。あんなものよ」
伶奈が綾子を見る。
「……」
「……心配しないで、わたしは連中みたいに、あっという間に毀すつもりはないの……。じわじわと、ゆっくりと毀すわ。あんたをね……」
綾子の背に冷たいものが走る。
あれは他人事ではない。
自分の半日後の未来かもしれない。
そんな恐怖が胸の奥からじわじわと湧き上がってきた。
すると、伶奈は横の置いてあるトレイの上の箱から、一本の小筆を取り出した。
柔らかな筆の穂先で、丸く円を描くように、尖りきっている乳首をすっすっと掃いた。
「あひいっ、あああっ──」
ほんのわずかな刺激だった。
しかし、一瞬にして耐えていたものが崩壊した。媚薬に灼かれ、痛いほどに疼き、痒みに狂っている乳首には堪らない快感だった。
さらに筆が反対の乳首を襲う。
「ひああっ、あああっ」
綾子は裸身を跳ね踊らせて悶え狂った。
しかし、筆はすぐに引かれてしまう。
「ほら、刺激が欲しければ言いなさい。くすぐってあげるわ。たっぷりとね……。最初は筆──。筆で物足りなくなったら、ガラス棒を準備しているわ。その次は彼らにお願いするのね」
再び筆で乳首を軽く掃かれる。
「んふううっ」
綾子は身体を跳ねさせた。
わずかな刺激だ。しかし、穂先で乳首を掃かれるたびに、強い快美感が全身を貫く。声をあげて悶えることを止められない。
「あなたが媚薬に負けて、こいつらに犯してと強請る姿を映像に映したいの……。きっと大樹は失望するわね。いい気味よ。大樹を裏切ったお前が、彼に飼われるなんて、間違っているもの」
伶奈が冷酷に微笑む。
そして、今度は筆を股間側に持っていくと、脚のあいだに腕を差し込むようにして、筆先をお尻の亀裂に当てると、ゆっくりと前に向かって移動させてきた。
お尻の谷間からアナルの表面に触れ、さらに穂先が股間側に進み、びっしょりと濡れている亀裂をさすって、クリトリスに当たって筆が抜けていった。
「あひいっ、あああああ──」
綾子は絶叫して身体を揺らした。
「どう? もう筆じゃなくて、ガラス棒に変える? 奥を突いてもらいたいじゃないの? でも、すぐに物足りなくなる。疼きと痒みを癒やすには、結局、男たちに頼るしかない。さっきのアンナでさえ、そうやって堕ちたのよ」
伶奈が筆をトレイに戻した。
綾子は歯を喰いしばる。
だが、刺激を受ける前と、受けた後では、もう身体の耐性がまったく違っていた。
しかも、綾子は伶奈が口にした言葉の意味をすぐに知解した。
物足りないのだ──。
筆の刺激をいくら続けられても、痒みも疼きも増大するだけだ。もっと、強い刺激を受けたくて溜まらなくなる。
渇望感に発狂しそうだ。
これが媚薬の効果か……。
「……いつまでも……いつまでも、繰り返すわ……。助けはない。あなたが毀れるまで、ずっとこれを繰り返してあげる」
しばらくして、やっと伶奈が再び筆を手に取り、乳首をひと撫でする。
「ひああ……ああ、もうだめっ……。もっと強くして──強く刺激して──お願いよお──」
「ふふ、強く? でも、強くといっても、これが限界。だって、筆だもの」
伶奈は筆を肌に押しつけるように、激しく上下に動かす。
でも、乳首に当たってない。わざと外して、ぎりぎりを刺激したのだ。
刺激への渇望感に狂いそうになった。
「ああ、そうじゃない──。なら、ガラス棒で──それで強く刺激して──お願いっ」
気がつくと、綾子はそう口走っていた。