冤罪で俺の人生を奪った元恋人が、俺の人生を買いに来た話【完結】 作:ドン・ドナシアン
「だめええ──撃ってはだめええ──」
綾子は拘束されている裸身を振り乱して絶叫した。
理解が追いつかない。
どうして──?
どうして大樹がここにいる?
綾子でさえ、ここがどこなのかわからない。おそらく、会長である宗一郎の所有するどこかの施設だろう。
普通なら辿り着けるはずがない。
なのに、大樹はここにいる。
だが、宗一郎の部下たちが大樹に拳銃を向けていて……。
しかし、その大樹は拳銃を向けられているにもかかわらず、気にした様子もない。
まっすぐ綾子の前まで歩いてきた。
「ど、どうして──」
綾子が言葉を発し終わるより早かった。顎を持ち上げられ、そのまま唇を塞がれる。
息を呑んだ。
舌が唇を割って入り込み、小さな粒が唾液とともに口の中へ押し込まれたのだ。
複数の丸薬だ。
すぐに唇が離れる。
「……飲み込め。中和剤だ。少しは楽になる」
耳元で囁かれた。
綾子は反射的に薬を飲み込む。
まだ狂ったような熱はあるが、気持ち楽になる。
だが、それどころではなかった。
どうして来た──?
逃げるべきだ。
いますぐに──。
宗一郎がどんな人間か知らないわけではないはずだ。
ここにいていいはずがない。
どうやって、大樹をここから逃がすか──。
綾子は懸命に頭を巡らせる。
「ここに入ってこれる者がいるとは思わなかったぞ」
宗一郎が低い声で言った。周りの黒服の男たちも面食らっている様子だ。ただ、拳銃はしっかりと大樹に向いている。
大樹が綾子に身体を向けたまま、肩を竦めて両手をあげた。
「撃つなよ……。俺は丸腰だ。俺の玩具を回収に来ただけだ」
「こっちを向け.ゆっくりとだ……。お前たち、おかしな素振りをすれば、こいつを撃て」
宗一郎が言う。
「だ、駄目よ。この男は関係ないんです、会長。ただの浮気相手です。直人さんがああいう状態なんで、長くセックスしてなくて……。出来心で……」
綾子は早口で言った。
まだ強い疼きと掻痒感は残っているが、確かに少しは楽になった気がする。なんとか息を整える。
一方で、大樹は両手を挙げたまま宗一郎に身体を向けた。
「拘束しろ」
宗一郎の指示に男たちがすぐに動いた。
天井から新たな鎖が降りてくる。
大樹は抵抗しない。
前手錠を掛けられ、そのまま両手が鎖へ繋がれた。
金属音とともに鎖が巻き上がる。
両腕が頭上へ引き上げられた。
「会長──。関係ないこいつは外に出してください。さっきの質問に答えます」
綾子は必死に言う。
すると、宗一郎が車椅子に載ったまま嘲笑のような声を出す。
「ただの男か? この施設に入り込めるような男がか? どうやって入った? セキュリティロックが全部の出入口にかかっていたはずだが?」
宗一郎が大樹に向かって言った。
「侵入手段は、商売上の秘密だ。でも、ちゃちな電子ロックだったぜ。得意なんだ。ハッキングはもっと得意だがな」
大樹が小さく笑う。
まるで挑発するような口調……。
綾子の心臓は早鐘のように鳴っている。
どうしたらいいのだ……。どうしたら……。
「そこの綾子の浮気相手の男だな?」
「……俺に言わせれば、あんたの孫の方が浮気相手だぜ」
場の空気が一瞬で冷えた。
綾子の背筋を嫌な汗が流れる。
挑発している。目の前の相手が誰なのか理解したうえで……。
「……ほう……。まあいい……。とりあえず、裸にしろ。おかしなものを持ってないか調べよ。尻の穴までな」
宗一郎が目を細めた。
「やめてください──。こいつは本当に無関係なんです──」
綾子は思わず叫んだ。
しかし、男たちの動きが止まることはない。
黒服の男たちがナイフを取り出して、大樹の服を斬り刻み始めた。剥がした布を一枚一枚調べて部屋の隅に集めていく。
さらに棒枷が運び込まれた。
ズボンと下着をおろされてから、靴を脱がされた大樹の足首へ棒が当てられ、両端の枷が閉じられている。
「聞いてください──」
綾子は宗一郎へ向かって叫ぶ。
すでに、大樹は全裸だ。
「ちょうどいい。この潤滑油を使ってやるぜ、色男。掻痒剤らしいがな」
黒服の男がさっきのトレイから得体の知れないクリームの容器を手に取ると、自分の指にたっぷりと塗りたくる。そのまま大樹の後ろに回っていく。
「尻を男にほじられるのは、ムショ以来だ。久しぶりだから優しくして欲しいね」
大樹が笑う。
「へえ、経験者か。じゃあ問題ないな」
背後に回った男の言葉が終わるとともに、大樹が「うっ」と小さく呻いたのが聞こえた。
綾子は焦った。
「この人は、株とも会社とも関係ありませんと言っているじゃないですか──。ただの浮気相手です──。関係ないんです──」
綾子は必死に訴える。
しかし、宗一郎は愉快そうに鼻を鳴らすだけだ。
「だが、さっきの伶奈とお前の会話によれば、今回の仕手の指示は、むしろ、その男のようではないか。その辺りも訊問せんとな」
宗一郎が言う。
ぎょっとした。
どうして、そのことを知っているのか……。
「……こ、ここでの話は……隠しマイクで……その会長さんのところに……回線で跳ばされていたようだ。聞いてたんだよ」
横で拘束されている大樹が言った。
ただ、いまだに後ろでは、大樹のお尻の穴に男がクリームを塗りながら指を入れているようだ。そのため、大樹の言葉は少し上ずっている。
「えっ、そんな」
驚いたような声をあげたのは、隅に移動していた伶奈だ。
大樹の言葉に眼を丸くしている。
「伶奈にも、色々と訊ねんとのう……。綾子が仕手を仕掛けておることを知っておったようだが、どうして、わしに隠しておった? そもそも、その大樹とかいう男とは顔見知りのようなことを口にしておったのう。どういうことじゃ?」
宗一郎が伶奈に視線を向ける。
伶奈の顔が蒼くなる。
「わ、わたしは……ただ……報告の前に……事実を確かめようと……」
「その伶奈も吊るせ」
宗一郎が指示する。
男たちが伶奈に向かう。
「ま、待って──。待ってください、会長──。まずは話を聞いてください──」
伶奈が悲鳴をあげるが、黒服の男たちに捕まり、部屋の中央に引きずられていく。
綾子の横に降りてきた一本の鎖に、大樹と同じように装着された前手錠に繋げられて両腕を引きあげられる。
車椅子の宗一郎の前に、伶奈、綾子、大樹と並んで拘束されたかたちになる。
「……さて、誰から話を訊こうかのう……。それにしても、興味深いことばかりじゃ……」
宗一郎は車椅子の電動装置を操作しながら前へ出た。
三人の前をゆっくりと移動する。
やがて綾子の前で止まると、車椅子の横に立て掛けられていた杖を手に取った。
「ああっ──やめて──」
綾子は身体をのけ反らせて悲鳴をあげた。
杖の先が開脚させられている秘部を貫き、乱暴に動かされたのだ。激痛が股間から脳天に迸る。
「……目をかけてやったはずだが、わしを裏切ろうとした孫嫁の綾子か……」
宗一郎は冷たい声で言った。
そして、杖を抜く。綾子はがくりと脱力してしまった。
続いて、宗一郎の車椅子は伶奈の前へ移動していく。
伶奈の顔色が目に見えて悪くなっている。
「ひいいっ──あっ……お、お許しを……」
伶奈の声が震える。
見ると、杖が伶奈のスカートの中に入りこんで動いている。伶奈の声に苦悶とともに淫らなものが混じっていることから、なにをされているのかは予想が付いた。
「……それとも、わしを裏切っておかしなことをしておった伶奈か」
宗一郎が杖を抜きながら目を細めた。
「……そもそも、これとは、どういう関係なんじゃ? 惚れた男とか口にしておったのう」
伶奈は答えない。
宗一郎が不満そうに再び鼻を鳴らす。
「伶奈の服も剥げ。ひとりだけ不公平だろう」
男たちが伶奈へ向かう。
伶奈が悲鳴をあげた。
容赦なく、伶奈も服を剥がされていく。
「いい加減にしたらどうだい、爺さん?」
すると、不意に大樹が口を開いた。
宗一郎の視線が向く。
「なにか言ったか、お前」
「どうせ、もう勃ちもしないんだろう。嫉妬するんじゃねえよ」
「だ、大樹様、やめて──」
綾子は思わず叫んだ。
「大樹様?」
宗一郎の目が細くなる。
しまった……。
口にした瞬間、自分でもわかった。
「ただの居候だとか、無関係だとか言う割にはおかしいのう」
宗一郎が小さく笑った。
綾子の背筋を冷たいものが走る。
答えられない。
大樹と暮らし始めてから、日常的にそう呼ばされていた。焦りのあまり、無意識に口から出てしまったのだ。
「綾子は俺の玩具だと言っただろう、爺い」
大樹が笑った。
「んっ?」
「それよりもいいのか? 仕手戦を仕掛けていたのは、認識してんだろう? その相手をこんな風に拘束して」
「ほう?」
「身内とはいえ、大株主様だろう?」
大樹が挑発するように言う。
宗一郎が鼻で笑う。
「なら、この建物に侵入してきたお前も犯罪者じゃろう」
「ちょっと、道に迷っただけだ」
二人の視線がぶつかっている。
綾子は息を呑んだ。
「……まあいい」
宗一郎が言った。
「……だが、さっきから身の程を理解しておらんようだな。おい、さっきのクリームをこの男の性器にも塗ってやれ。それで自分の立場もわかるだろう」
宗一郎の言葉に、先ほど大樹を弄んでいた男が反応した。すぐにトレイからさっきの掻痒剤のチューブを取り、自分の手にたっぷりと載せると、大樹の男根を鷲掴みにしてしごきだす。
「くっ……」
大樹が歯を食いしばる仕草をする。
「ああ、大樹様──」
「大樹さん──」
綾子は思わず叫んだ。
伶奈も悲鳴のような声を上げていた。
「尻にも塗り足してやるぜ。きっと痒いのが足りねえんだろう?」
男が笑いながら、さらに指にクリームを足すと、大樹の股間を弄りながら、さらに後ろでお尻の奥にクリームを塗り足していく。
「あっ、くっ……」
大樹が苦悶の声をあげた。
胸が締め付けられる。
自分を助けに来なければ、こんな目に遭うこともなかった。綾子など放っておけばいいのに──。
しばらくのあいだ、その男による一方的な大樹へのいたぶりと、大樹の苦悶の声が続く。
「もうよい」
やっと、宗一郎が声をかける。
大樹を弄んでいた男が残念そうに手を離す。
しかし、大樹の身体は震え続けている。
おそらく、痒みが襲いかかっているに違いない。
「さて、じゃあ訊問は伶奈からにするか……。お前は、いつからその男を知っておる? この男は何者だ?」
宗一郎が伶奈の前に移動し直す。
伶奈は腰の下着を残して身につけているものを剥がされていた。乳房を剥き出しにさせられた裸身の両足首のあいだには、大樹と同じように棒枷が嵌まって、脚を閉じられないように処置されている。
「そ、それは……」
伶奈が言葉に詰まっている。
「情報屋と口にしていたな。それは、なんじゃ? 黒耀会とはどう繋がる?」
さらに宗一郎が言う。
「そ、それは……その……」
伶奈は項垂れたままだ。
「さっさと喋らんか……。ああ、そうじゃ。入院している妹は元気か? あの金ばかりかかる妹は?」
宗一郎が杖で伶奈の下着に触れ、下にずらすように動かす。
伶奈がびくりと身体を震わせて顔をあげた。