冤罪で俺の人生を奪った元恋人が、俺の人生を買いに来た話【完結】 作:ドン・ドナシアン
「さっさと喋らんか……。ああ、そうじゃ。入院している妹は元気か? あの金ばかりかかる妹は?」
宗一郎が杖で伶奈の下着に触れ、下にずらすように動かす。
伶奈はびくりと身体を震わせて顔をあげた。
だが、その視線は目の前の宗一郎ではなく、綾子でもなく、大樹へ向けられていた。
縋るような目だった。
いまにも泣き出しそうな顔で見つめてくる。
その顔を見た瞬間、大樹は少しだけ面食らった。
黒耀会でも有名な女工作員として名を売った女の顔ではない。昔、病室の妹のことで泣いていた頃の伶奈と同じ顔だった。
あれから黒耀会に育てられて、強い女になったのだと思っていた。黒耀会が西園寺グループの会長に送り込んだ女として、裏社会での評判も耳にはしていたし、やり手だと知られている。
しかし、この顔を見ると、情報屋の一階で美味いパスタとコーヒーを自慢気に大樹にご馳走してくれた、健気な頃の伶奈と重ねてしまう。
それにしても、さすがに尻穴と股間に塗られた掻痒剤は、容赦なく神経を刺激している。あまりの痒みさに、思考力まで奪いそうだ。
それだけではない。混ぜられていた媚薬のせいで、股間は痛みを覚えるほど勃起をしている。
拘束されたままでは逃がしようもない。歯を食いしばり、呼吸を整える。
とにかく、この程度で意識を持っていかれるわけにはいかなかった。
綾子には毎日のように耐えさせている苦悶だ。“ご主人様”としては、これくらい平然としなけりゃな。
だが、そろそろ終わりにするか。
そろそろいいだろう。
「爺い、五十パーセントだ」
大樹は声をあげた。
宗一郎の動きが止まる。
「んっ、なにを言っておる?」
宗一郎が大樹に顔を向ける。
「俺が綾子の指示で集めた西園寺ホールディングスの総会投票権だ。すでに五十パーセントを超えている」
「すでにわしの保有分を超えておるだと? 馬鹿な──」
「理解しているだろう? 臨時総会を開けば、なにが起きるか」
大樹は宗一郎を見据えた。
「なにを……」
「お前は会長職を失う。役員も入れ替えられる。西園寺ホールディングスは綾子のものになる.黒耀会も力を失ったお前を相手にしない。新しいボスは綾子だ」
部屋が静まり返る。
宗一郎が綾子を見た。
「……この男の言っていることは本当か? お前が集めたのは、安定株主の一部と次男の弘志の分だけではないのか?」
「呆れたな。爺いの情報力はその程度か? だから、グループの業績が芳しくないんだよ。対応が遅れる」
大樹は言葉を挟む。
宗一郎が弘志のことを持ち出したのは、綾子を伶奈がさらったとき、車の中に弘志の委任状の入った鞄があったからだろう。だが、どこまで綾子は動いていたかまでは把握はしてないようだ。
「ふん、ただの男妾風情が一人前のことを喋るな」
宗一郎が不機嫌そうに大樹を見る。そして、車椅子の電動装置を使って。伶奈の前から大樹と綾子の側に移動してくる。
「男妾も楽じゃないぞ。愉しませなきゃならないしな。あと情報を抜くのは得意だ。あんたのグループ会社の業績程度は、非公開の部分も全部把握している。業績がいいのは綾子が預かっている会社ばかりだ。それ以外は駄目だな。あんたも含めてな」
「……貴様……」
宗一郎が低い声で呟く。
「綾子、命令だ。爺いに教えてやれ。すでに握っている支配分を」
大樹が綾子に言った。
綾子は頷く。
「……従来のわたし自身のものが五パーセント、直人さんの分が七パーセント、安定株主たちから切り崩した分が十一パーセント、隆継様の分十五パーセント、そして、弘志様の分が十二パーセント。合計五十パーセントです。あと一箇月あれば、さらに数パーセントの上澄みができます」
綾子が荒い息をしながらも早口で言った。
中和剤を飲ませたが、まだかなり辛いのだろう。
だが、もう少ししたらもっと楽になるはずだ。
「隆継だと──? あの阿呆が──。しかも重鎮連中から十一パーセントじゃと? 過半数ではないか」
「お前を切り捨てた連中だ。少なくとも、それだけの者たちが、現体制ではなく、綾子を望んでいる。それは綾子の能力を理解しているからだ。業績の結果を見ているんだ」
大樹は言った。
もっとも、それだけが真実ではない。綾子が動くにあたって、大樹は自分の能力を生かして、あの手この手で株主たちの弱みを握り、あるいは、弱みを作りあげて委任状を集めさせた。
抵抗の激しい者もいるが、すでに綾子が半数を抑えたとなれば、その連中の大部分も綾子に転がるだろう。
時間の問題だ。
「ばかな……」
宗一郎が小さく唸って杖を握る。
その手にだんだんと力が入っていく。
「綾子が爺いの後継者だ。少なくとも、お前のふたりの息子なんて駄目だぞ。どの株主も認めるかよ。爺いは、あと何年生きるつもりだ? あんたが死んだあと、あのぼんくらたちがグループを維持できると思っているのか? 任せられるのは、綾子しかいないだろう」
大樹は言った。
宗一郎が押し黙ったまま、大樹を睨んでぎりぎりと歯を鳴らす。
もう少しか……。
さらに大樹は口を開いた。
「……爺い、綾子を後継者と認めれば、その代わりに総会にはかけない。あんたはしばらく会長だ。それを綾子が支える」
宗一郎は返事をしなかった。
杖を握ったまま視線を落とす。
部屋に重い沈黙が落ちた。
大樹は歯を食いしばる。
尻穴と股間を襲う痒みは少しも収まらない。むしろ時間が経つほど酷くなっている気さえした。
媚薬で熱を持った下半身も限界に近い。
思わず背筋を反らせ、小さく呻き声を漏らす。
「ああ、大樹様……」
綾子が心配そうな声をあげた。
やがて宗一郎がゆっくりと顔を上げる。険しい表情になり、大樹をじっと見る。
「……認めよう。じゃが、お前の存在は気に入らん」
「気に入らない?」
大樹は宗一郎をにらみ返す。
「お前が手を引けば、綾子は次期会長じゃ。お前には金でも地位でも用意してやる。その代わり、二度と綾子に近付くな」
宗一郎が大樹を見ながら言った。
「断る」
大樹は即答した。
「なに?」
「綾子は、俺の玩具だと言っただろう。俺がこいつを手放すのは飽きたときだけだ。いまのところ飽きてねえ」
「貴様……」
宗一郎の眉がぴくりと動く。
「だめです──。その条件は受けられません。ならば、わたしは手を引きます。会長職も役員も全部辞退します。そんな条件なら意味がありません。大樹様を失うくらいなら、そんなもの全部いりません──」
綾子が叫ぶように言った。
「大樹さん、その条件を呑んじゃ駄目です。会長は約束なんて守りません。綾子さんが会長になったあとで、必ず大樹さんを始末します。わたしは知っています。この人はそういう人です」
拘束されたまま、伶奈も必死に声を張り上げる。
「黙れ、伶奈──」
宗一郎の怒声が部屋に響いた。
「なあ、爺い、綾子は俺に人としての権利を渡している。食べること、寝ること、喋ること、小便も大便も許可制だ。股間は常に貞操帯で封印して、遠隔で操作して愉しませてやっている。わかるか?」
大樹は言った。
「はあ?」
宗一郎が眉をひそめて、ちらりと綾子を見る。
もちろん、綾子は否定の言葉は発しない。それどころか、大樹の蔑むような言葉に、欲情したように顔を赤らめている。
だんだんと、染まってきたな。大樹は思う。
しかし、その代わりに、最近では睡眠薬も精神安定剤もまったく服用しなくなった。当たり前だが、毎晩死んだように眠っている。
「……つまりは、遠隔で綾子がどこでなにをしているかを、常に監視しているということだ。綾子の首の後ろと指の先に、極小の膜型電池と一緒に集音チップを埋めてあるんだ。この玩具がどこでなにをしようと、俺は遠隔でそれを聞くことができる仕掛けだ」
「えっ?」
綾子が声をあげる、
だが、不快そうな顔ではない。
驚きはしているが、拒絶するような気配はない。むしろ、喜んでいるように見える。
「なにを突然……」
宗一郎が呆れたように息を吐く。
「GPSも服に仕込んであった。だからここに辿り着いた。この部屋での会話も、ずっとネット回線を通じて記録させている。それだけじゃねえぞ。すでに公開している。早く俺を解放した方がいいぞ。公開中の音声データを消去できるのは俺だけだ」
「ああっ? なにを言っておる」
呆れたような顔で大樹の言葉を聞いていた宗一郎の表情が一変した。
「俺をこの場で殺しても無駄だ──。しばらくすると、あちこちに自動的に拡散するぞ。早く俺に解除キーを押させてくれよ。できれば、西園寺グループを破滅させたくないんだ」
宗一郎の口が開いたままになった。
壁際にいた黒服たちも動揺するように顔を見合わせる。
「公開してるだと──。証拠はあるのか──」
宗一郎が声をあげる、
「……会長、彼の技術は天才的です。その彼がそうしたと言うのであれば……本当だと思います……」
伶奈が口を挟んだ。
「馬鹿な……」
宗一郎が呻く。
「嘘だと思うなら、しばらく待ってな。いまなら、まだ止められるけど、拡散を開始したら、もう手はつけられないぞ。そのうち、あんたの部下が血相変えて連絡してくるんじゃないか」
大樹は勝ち誇って言う。
「どこに公開をしておる──。それを言え」
「嫌だね。ネットの海の中から探してみろ」
「……わかった。はったりだな」
「そう思うなら、なにもするな……。西園寺グループに巨大なスキャンダルが降りかかるだけだ」
「お前……」
宗一郎は歯ぎしりしたが、やがて、黒服たちを見た。
「全員の拘束を解け」
宗一郎の指示で男たちが大樹たちに群がる。やっと手錠から解放された。
「スマホ貸せ──。急げ──」
大樹と尻と股間を掻きむしりたいのに耐えて手を伸ばす。
さすがに、格好がつかない。
スマホが渡される。
すぐに、データ保存をしていたネット内データにアクセスして公開を中断する。拡散指示もだ。
「終わったぜ」
スマホを手渡した黒服の男にスマホを投げ返す。
「ああ、大樹様」
一方で綾子は拘束を解かれると蹲ったまま、裸で大樹の脚にすがりついてきた。余程に心配したのだろう。伶奈もまた、近くにやってきた。
ぺたんと尻をつけて両手で胸を隠して、なにかを言いたそうに大樹のそばに寄ってきた。しかし、黙っている。
「ちゃんと消したのだろうな?」
宗一郎が言った。
「馬鹿言え.消すわけないだろう。しばらく保留しているだけだ。俺に手を出せば、保留が解けて拡散する。せいぜい、俺が死なないように心配することだ」
大樹は笑った。
「……わしの負けだ。条件を呑む」
やがて、宗一郎が言った。
大樹は肩を竦めた。
「勝ちも負けもねえよ。綾子はグループの次期後継として、今後、あんたに協力させる。これからは身内だ」
「協力させる……か。まるで、お前がすべてを握っていると言いたそうだな」
大樹の言葉に、宗一郎が苦笑交じりの言葉で返した。
「実際そうだ……。ああ、それと、和解条件にひとつ追加だ。……いや、二つだな。ひとつ目は、伶奈は黒耀会と縁を切らせろ。そのくらいの影響力はあるんだろ。今後は綾子の秘書として手伝わせる」
「えっ?」
伶奈がびくりと身体を震わせて、大樹を見た。
「その伶奈をか?」
宗一郎が顔をしかめた。
「愛人は幾らでもいるだろ。ひとりくらい手放せ。それに、もう黒耀会に置くと危険だ。わかるだろ?」
大樹は黒服の男たちに視線をやる。
こいつらも黒耀会か、あるいは、その息の掛かった者立ちなのは間違いない。この場でのやり取りは、黒耀会に伝わるだろう。そうなれば、黒耀会が伶奈を処罰する可能性がある。
「わしに、伶奈と……それと、お前に手を出さんように黒耀会に言えということか?」
「そうした方がいいだろうな。俺はネットに仕込んだ時限爆弾を解除するつもりはねえ。むしろ、俺を黒耀会に守らせるんだな。さっきも言ったが、俺が死ねば、それが病気だろうと、交通事故だろうと、雷に打たれても、ネットにデータが漏洩する」
「ふん──小賢しい男だ──。まあ、それだけ、用心深いということか……。気に入らんが、綾子の側にお前がいる理由はわかった……。それでもうひとつの条件はなんだ」
「綾子は離婚させる。あんたが綾子を後継者に指名すれば、もうあいつには用はない」
「直人か。まあよかろう。入院中だったのう。夫婦生活が破綻しておることは認識しておる。認めよう」
宗一郎が吐き捨てるように言った。
「おう、だったら、細かい話は今度詰めようぜ。一物と尻の穴が痒くて死にそうだ。これから、俺の玩具に処理させる。ああ、俺たちのことは放っておいていいぞ。出て行くときは、鍵を閉めて出るから」
「やはり、生意気な小僧じゃな──」
宗一郎が、周りの男たちに顎で合図する。
促された黒服の男たちともに、宗一郎も部屋を出ていった。
部屋に三人だけになる。
大樹は綾子に、大樹と伶奈を拘束するのに使われていた二個の手錠を回収させた。
「……は、はい」
綾子はすぐに手錠を回収して運んでくる。
大樹は綾子を前に跪かせ、そのうち一個を渡した。
「背中で嵌めたら、俺に奉仕しろ。痒くて死にそうだ」
「はいっ」
綾子は嬉しそうな表情になると、自分で後ろ手に手錠を嵌め、すぐに大樹の怒張を口で咥えて、舌で奉仕を始めた。
半年間、教え込んでいるので、動きに迷いはない。
最初から激しめでやってくれている。掻痒剤で大樹が苦悶しているのがわかっているからだろう。
大樹は込み上げる快感に耐えながら、少し離れた場所で呆然としている伶奈を見た。
「あっ、大樹さん……」
伶奈がなにかを言いたそうに口を開く。
大樹は手で制した。
「……伶奈、お前にはふたつの道がある。ひとつはただの秘書として、この綾子に忠誠を尽くすことだ。そして、もうひとつは……」
大樹は残っている手錠を伶奈に向けた。
「……綾子とともに、俺の奴隷となることだ」
「えっ?」
伶奈が息を呑む。
「ただし、ただの奴隷じゃないぞ。すべてを管理する。綾子同様にな。食べることも、眠ることも、身体のことも、すべて許可制だ。綾子と同じように、集音チップで行動を管理する。いつどこで命令されるかわからない。そういう生活を受け入れたいなら、一緒に飼ってやる。それを選ぶなら、お前も手錠を背中で嵌めろ」
「あ、ああっ、大樹さん──」
伶奈が感極まったようになって飛びついてきた。
ぼろぼろと涙を流しながら、手錠をひったくるように奪うと、自分の背中で両手首に嵌めてしまう。
「あ、綾子さん、よろしくお願いします」
大樹の前に跪くと、それだけを言った。
綾子は大樹に奉仕しながら、鼻声だけで返事をした。
伶奈の顔が仁王立ちをしている大樹の尻に密着し、舌が尻穴に潜り込んできた。快感が込みあがる。
だが、大樹は前後からの奉仕を受けながら、ふと思った。
そういえば、手錠の鍵はあいつら置いていったか?
それと、切り刻まれた三人の服の代わりはあるだろうか?
ここで切られた服は、よく考えれば布切れとなって床に散乱している。
もしかして早まったか。
ふたり掛かりの奉仕を受けながら、大樹はそんなことを思った。
【贖罪篇・完】
次話、最終回です。