※この作品はR-18です。

様々なNTRの刺客がいるこの世界で、俺は彼女たちの絶対的な王になる   作:柊咲

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第10話 ただの人間

 目の前で見せられる非道な光景に、ララフレアは怒りを露わにする。

 

 

 

「この、低俗なゴミが……」

 

 

 

 無意識であろう、ララフレアは一歩前に足を踏み出す。

 それをマリディナが止める。

 

 

 

「ララフレア様、いけません……」

 

「──ッ!」

 

「こうやって怒りに身を委ねて助けに来させようとすることが、連中の狙いです」

 

 

 

 普段通り冷静に、感情を表に出さず主を止めたマリディナだったが、その声はいつもより低く、必死に感情を押し殺しているのがわかる。

 そしてリリアも、口に手を当て震えていた。

 

 

 

「どう、して、あんな……」

 

 

 

 他のメイドたちも顔を背けるか涙で顔を濡らしていた。

 

 

 

「マリアベルさん、カティリナ、エリシア……」

 

 

 

 そのメイドたちの中でメリナは、一歩、また一歩と悲痛な叫びに導かれるよう結界へ足を運ばせる。

 それをマリディナと他のメイドたちが止めるが、彼女の理性はララフレアとは違い言うことをきかなかった。

 

 

 

「やめなさい、メリナ!」

 

「離して、離してください……みんなが、みんなを助けないと!」

 

「ララフレア様、もう離れましょう! 我々がここを離れれば、彼女たちがあんな露骨に乱暴されることもありません!」

 

 

 

 マリディナが必死に叫ぶ。

 このままでは、メリナは結界の外の彼女たちを助けに走り出すだろう。

 それがオーガたちの狙いだということはわかった。そしてララフレアがここへ来て謝ったのも、自分たちがここへ来たことで彼女たちが酷い仕打ちを受けると知っていたからだろう。

 

 

 

「ああやって非道な行いを目の前で見せつけて、こちら側にいる奴らに助けに来させようしているのか」

 

「そして、そうやって処女宮の結界を出て来た子を捕まえる。女性と一緒であれば結界に入れるのに、連中はそれをしない……。この中だと勝ち目がないのをわかっているから」

 

「向こう側では、こちら側に勝ち目はない、か……」

 

 

 

 だから領内であっても、処女宮の結界へ近付くにつれ家屋が無くただの平原だったのか。その声を聞かせず、姿を見せない為に。

 確かに情に訴えれば、いつか鳥籠から出て来る鳥が現れるだろう。

 朝だろうが昼だろうが夜だろうが、彼女らの悲痛の叫びを聞かせ、痛めつけられている姿を見せれば何人かは釣れる。

 

 特にメリナのように、交友の深い間柄であれば尚の事……。

 

 

 

「一方的に優位な場所からの死闘か、腐っているな……」

 

 

 

 俺は歩き出し、ララフレアに伝える。

 

 

 

「要するに、俺が代わりに結界の外に出て、あの蛮人どもを排除したらいいんだろ?」

 

 

 

 処女宮の結界の外では力が使えない彼女らに代わって、オーガたちを殲滅し、非道な扱いを受けている彼女たちを救う。

 それが、ララフレアが俺を助けた理由であり、大切な彼女らを傷付けてでもここへ連れて来た理由だろう。

 

 ララフレアは小さく頷いた。

 

 

 

「多くの者に反対されてでも、あの子たちを──処女宮の結界の外で今も苦しめられている子たちを一人でも多く救いたかった。……借り、返してもらうわよ」

 

 

 

 お願いではなく強制に近い言葉。

 俺に嫌われてでも、彼女たちを助けたいということだろう。

 

 

 

「あんな姑息な連中、頼まれなくても殺してやる」

 

 

 

 結界の中に侵入して正々堂々と戦えばまだ敬意はあった。だが、連中はその戦いから楽に逃げて勝てる手段を取った。そんな奴らに容赦はしない。その命に敬意なんて微塵も感じない。

 

 

 

「そう、ありがとう。それじゃあ、私が一緒に外へ出るわね」

 

「ララフレアが? だが……」

 

「男である、あなた一人では結界を通れないもの」

 

「ララフレア様、いけません!」

 

 

 

 主の危機にマリディナが止める。

 ララフレアはゆっくりと頭を左右に振る。

 

 

 

「いいのよ、マリディナ。彼に危険な役目を強制しているんだもの、これぐらい。それに、あの子たちを守れなかった領主である私にも責任があるから」

 

 

 

 ララフレアはそう言うと共に歩き出す。

 だが、

 

 

 

「わ、わたしが一緒に行きます!」

 

 

 

 リリアは無理に出した大きな声で言う。

 

 

 

「処女宮の結界の外にはペガサスは呼べないのよ、わかっているの?」

 

「わかってます! でも、大丈夫です、足手まといにはなりませんから!」

 

 

 

 恐怖で体はまだ微かに震えていたが、リリアは一本の槍を持つ手に力を込める。

 

 

 

「天馬騎士団として槍術を学んできました、だから大丈夫です!」

 

「でも、あなたね……」

 

「それにララフレア様に借りがあるのはわたしもですから! その借り、マキシムさんと一緒に返します! だから大丈夫なんです!」

 

 

 

 何がどう大丈夫なのか聞きたいのだろうが、ララフレアは呆れながら折れた。

 

 

 

「わかったわ」

 

「じゃあ──」

 

「──それでは、私も一緒に行きましょう」

 

 

 

 話がまとまったように思えたのだが、マリディナが声をかける。

 普段のメイド服の衣装を脱ぎ、白のブラウスにピチッとした黒の革製のパンツと軽装になった彼女は、黒色の手袋をはめる。

 その両手には短剣を持っていた。

 

 

 

「ララフレア様がここへ行くよう言ったときから、こうなることは想定しておりましたので装備の準備はできております」

 

「マリディナ……」

 

「ご安心を。ララフレア様の”賭け”が予想外れに使い物にならなかった場合には、すぐにマキシム様を置いてリリア様と共に結界内に逃げますので」

 

 

 

 辛辣な扱いだが、余計な配慮で思考を鈍らせるよりよっぽどいい。

 

 

 

「お願いね、マリディナ」

 

「かしこまりました」

 

 

 

 準備はできたようだ。

 行くかと歩き出そうとしたのだが、

 

 

 

「マキシム様、もしかして素手で戦われるおつもりですか……?」

 

 

 

 マリディナに止められた。

 

 

 

「ああ」

 

「……魔法の類は使えないと聞いたのですが」

 

「ああ、使えないな」

 

「…………オーガは、知能は無いに等しい種族ですが力だけは一級品です。そんな相手に、ただの人間族のあなたが素手で挑むのは自殺行為かと」

 

 

 

 確かに俺より1mほど連中の方が大きいが、それだけだ。

 

 

 

「俺は今まで武器を扱ったことはないんだ。だからこのままでいい」

 

 

 

 そう答えると、マリディナは表情を曇らせた。

 明らかに今のやり取りで期待は消し炭となって風に吹かれてしまったのだろうが、まあ、そうなっても仕方ない。

 俺とリリアとマリディナは結界へと歩き出す。

 

 

 

「連中が隙をみせれば捕らわれている彼女たちの救出を。難しいようであれば、いつでも逃げられるよう結界の側にいてください」

 

 

 

 その助言はリリアだけでなく俺にも向けられていた。

 さっきは簡単に見捨てると言っていたが、どうやら俺のことも助けてくれるようだ。

 

 

 

「俺のことは気にするな。多勢を相手取って暴れてやる。だから二人は、彼女らを助けることと自分たちの身の安全だけを優先してくれ」

 

「……かしこまりました。期待はしませんが、心得ておきましょう」

 

「ああ、それでいい。リリアも、絶対に無理はしないでくれ」

 

「は、はい!」

 

 

 

 強張る彼女の肩に手を置く。

 

 

 

「安心しろ。何があっても、お前のことは俺が守るから」

 

「ありがとうございます、マキシムさん」

 

 

 

 大きく頷くリリア。

 結界のすぐ外には、扉のように結界を力一杯に叩いて騒がしい音を出しているオーガが二体いた。

 

 

 

「出たらすぐ仕掛けてくるはずです。ご用心を……」

 

 

 

 俺の背中にリリアが手を伸ばす。

 そして処女宮の結界は一切の拒絶もなく俺たちを受け入れ、外の世界へ押し出した。

 

 

 

「デテキタ、ニンゲン、ノ、オンナ……オン……オンナ?」

 

「見間違えるな、俺は男だ」

 

 

 

 首を傾げたオーガが俺を見下ろす。

 だが、俺が男だとわかると上を向いた牙を剥き出しにして笑う。

 

 

 

「ニンゲン、ノ、オトコ……オマエ、マイゴ、カ……」

 

「マイゴ? ああ、迷子か。喋るならちゃんと言葉として喋れ」

 

「ンア? コノ、ニンゲン、ムカツク……ムカツク!」

 

 

 

 挑発にもあっさり乗った。

 どうやら、ララフレアが言ったように低能のようだ。

 

 

 

「マキシム様、来ます……ッ!」

 

 

 

 リリアが槍を構え、マリディナが短剣を構えて警戒する。

 二体のオーガは、まるで猛獣のように両手を伸ばして襲い掛かってきた。

 

 

 

「ああ」

 

 

 

 その伸ばされた手を軽く避け、オーガの二つの首を鷲掴みにする。

 

 

 

「ウゲ……?」

「アグ……?」

 

「その笑いに一切の恐怖はないな、敵を前にしているというのに余裕か? ただの人間の俺に負けるなんて微塵も想像できないんだろ? それとも、そういう感情すら無い生き物なのか?」

 

 

 

 少しずつオーガの身体が宙に浮く。

 熊よりも重く何百キロもある肉塊だが、これぐらいなら容易い。

 両手両足をバタバタとさせて暴れるが、錯乱し始めたのか俺に当たる気配はない。

 

 

 

「そんなの殺し合いじゃない。相手のことを本気で殺すつもりなら、自分も死ぬかもしれないという恐怖を感じろ……。じゃないと、つまらないだろ?」

 

「ナン、デ……オ、オレ、ノ……カラダ、ウゴ、ウゴカ、ナイ……!」

「ハナ、セ……ハナセ、ニン、ニン、ニンゲ、ン……!」

 

 

 

 オーガたちはようやく自分たちの身の危険を理解したのか、宙に浮いたまま、拳や足を俺の体にぶつける。

 だがその抵抗も、想像よりもずっと威力はない。

 全身から汗を噴き出すオーガを睨み付ける。

 

 

 

「そうだ、それでいい。その感情が恐怖だ。そして、その感情は向こうの連中に伝染する」

 

 

 

 捕らえた女の周りにいるオーガたちは、こちらに釘付けになったまま微動だにしない。

 俺は満足して、首を掴んだ五本の指に力を込める。

 

 

 

「生まれ変わったら、死闘を楽しめるといいな……」

 

「ア、アガ、クビ、オレ、オレル……アッ、ア、アガガ!」

「ヤメ、ロ……ヤメテ、クレ、ニン、ニンゲ……!」

 

「じゃあな」

 

 

 

 その瞬間、二体のオーガの首が簡単に折れた。

 頭と体を繋ぐ骨を折られ、魂が抜けた大きさだけが取り柄のオーガは膝から崩れ落ち、そのまま地面に伏した。

 

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