様々なNTRの刺客がいるこの世界で、俺は彼女たちの絶対的な王になる 作:柊咲
「マキシムさん!」
「……あなたは、いったい」
一撃で倒したことに笑顔を浮かべるリリアと、目を大きく見開き驚くマリディナ。
まさか表情の変化をこのタイミングで見られるとは思わなかった。
「行くぞ」
ゆっくりと歩き出す。
村を出てから負けっぱなしだったからか、こんな状況だというのに全身が高揚感で熱く昂っている。
村にいた頃から村の奴らに戦闘狂と馬鹿にされてきたが、実際にその通りなのかもしれない。
「ト、トマ、レ……ッ!」
オーガがこん棒をぶんぶんと振る。
そのこん棒が、捕らえられた女たちに向けられた。
「チカヅイタラ、コ、コノ、オンナ……コロス!」
脅しだろう。
オーガたちの表情には、はっきりと俺への恐怖の感情が見えた。
「そうか。だが、せっかく捕らえたのに殺していいのか?」
「ウグ……」
戦えない老人ばかりの村の連中ですら、リリアを逃さまいと戦う意志を示した。
こいつらにとってもやっとの思いで捕らえられた女なのかはわからないが、それでも、簡単に殺すことはしたくないはずだ。
身の危険を感じての脅し。だが、助かりたいなら取引を持ち掛けた方がいいのではないか。
まあ、それを考える頭はないのだろう。
オーガの声を無視して奴らに近付いていく。
「コノ、ニンゲン! ニンゲン……ッ!」
さっきのオーガと同じで勢いよく走り出し、両手を広げて飛び込んでくる。
確かに巨漢の男に上から覆いかぶさるよう迫られれば威圧感はある。だがさっきも見た動きだから避けるのは容易い。
「ふ……ッ!」
「アグッ!?」
握った拳でオーガの顔を力一杯に薙ぎ払う。
巨漢が吹き飛び、転がり、止まったときにはピクリとも動かなくなる。
「いいな、久しぶりの感覚だ。……滾ってきた」
そう呟いたときには次の獲物に狙いを定めて走り出していた。
「コ、コノ、ニンゲン、ヲ、トメ──」
「──遅い!」
「アイグ……ッ!」
一体、二体、三体。
次々とオーガを倒していく。
拳に感じる殴ったときの痛みが堪らない。
そして倒すたびに変わっていく周りの連中の表情もいい。
恐怖しているのがわかる。そうさせているのが俺だとわかる。
これが殺し合いだ。やはりこの瞬間は堪らない。
「ダ、ダメダ、コイツ、ツヨイ……オ、オンナ、ヲ、ネラエ……ッ!」
どうやら相手との力量差を判断して狙いを変えるだけの頭はあるらしい。
連中の標的は俺からリリアとマリディナへ。
俺も助けに入ろうとしたのだが、
「はっ、やあ……っ!」
リリアが槍を振り回して牽制して、
「遅いッ!」
マリディナが俊敏な動きでオーガを翻弄して短剣を振るう。
二人は抵抗していたが、一体のオーガを倒すまでには至らない。
「マキシムさん、わたしたちは大丈夫ですから!」
「ですが私たちでは長くは堪えられません!」
俺は二人に向けていた意識を目の前のオーガたちに向ける。
狙いを二人に定めていたことで俺に背中を向けていたオーガを倒すのは容易い。
それに、俺が求めていた強者もここにはいない。
俺の中で滾っていたモノも、数が減るのに比例してどんどん冷めていく。
そして、平原に立つオーガは一体もいなくなっていた。
「……弱い」
血で染まった拳を払う。
リリアとマリディナを見ると、彼女たちも無事でいてくれたようだ。
「大丈夫か、二人とも」
「はい、マキシムさんが倒してくれたお陰です!」
「だが、無事でいられたのは自分で身を守れたお陰だ。よく頑張ったな、リリア」
「えへへ、これでも天馬騎士ですから……まあ、元ですけどね、はあ」
感情の浮き沈みが激しいリリアに笑いかける。
マリディナは、捕まっていた女たちのもとへ駆け寄る。
「マリアベル、カティリナ、エリシア。大丈夫ですか、皆さん」
「マリ、ディナさま……マリディナさま、あ、ありがとう、ございます……!」
「助かったん、ですか……お家、帰れるん、ですか……?」
「ええ、帰れます。帰りましょう、皆さん」
心も体も傷だらけだ。だけど助けられたことで瘦せこけた表情は安堵していた。
俺も両手足を縛られた縄を解くのを手伝おうと思って彼女たちに近付く。
だが、
「……あ、あ、ああ!」
俺を見た瞬間、彼女たちの表情が一変する。
「男、いや、来ないで、殴らないで、蹴らないで、犯さないで、やめてやめてやめて……ッ!」
「来るな、来るな来るな来るな……ッ!」
「お願いします、お願いします、お願いします、もう許してください!」
「いや、俺は……」
怖がらせないようできるだけ優しく声をかけようとした。だけどそんな優しい声も、彼女たちの恐怖を思い出させるのかもしれない。
彼女たちにとって俺は、彼女たちを痛めつけたオーガと変わらない男なのだから。
「リリア、縄を解くのを手伝ってやってくれ」
「……はい」
いつもなら俺のことを庇ってくれるリリアだったが、ここで擁護しても彼女たちの心には届かないと判断したのだろう。
リリアとマリディナで彼女たちの縄を解く。
「もう大丈夫ですから、さあ、帰りましょう」
「あ、あの、マリディナ様」
「どうしましたか?」
「あの家屋にもう一人、捕まってる子がいるんです」
「え?」
指差したのはオーガたちのいた集落とは別の、少し離れたとこにポツンと建てられた木造の家屋だった。
納屋のような作りの家屋で、畑の側にあったのなら何も思わなかったが、周りに何も無いので不自然に感じる。
俺とマリディナの目が合う。
「リリア、彼女たちを結界の中に連れて行ってくれ」
「わかりました」
彼女たちをリリアに任せ、俺とマリディナが捕まっていると言われた家屋へ向かう。
「……マキシム様、先程の彼女たちの反応に悪気はありません。だから気にしないでください」
「ああ、わかってる」
「いつかきっと、冷静な判断ができるようになったら、あなたが救ってくれたことを理解して感謝してくれるはずです。今は混乱しているだけですから」
感謝が欲しいわけではない。ただ、彼女たちの心身が不安定なのは理解しているが、あそこまで嫌悪を抱かれるとやはり心に響くものはある。
俺は顔を振り、この話題を止めた。
「それより、どう思う?」
視線の先にある家屋を見る。
「怪しい……と、思わない方がおかしいかと」
「罠か?」
「ですが、彼女たちが言わなければ私たちは無視していました。捕らえられているのは確かでしょう。ただ」
「ただ?」
「……マリアベル、カティリナ、エリシアが捕まったとき、他に一緒に捕まった子はいませんでした。そして遡っても、最後に領内の女性がいなくなったのは数か月も前のことです」
「その数ヶ月前に捕まった女が、同じ奴らに同じ場所で捕らえられていた可能性は?」
「……断言できませんが、可能性は低いかと。ここはオーガの本当の住処ではなく、私たちアジュミラルを監視する為の一拠点にすぎません。そんな場所に一人で何カ月も住まわせていく理由がありませんから」
言い方に配慮しなければ、あの三人は結界の中から誘き出す為の餌だ。だから俺たちを見てすぐに連れて来られた。
だが、この中に捕らえられている者は出されなかった。
餌はあの三人以外いらないということだろう。であれば、この中にいる奴はオーガの住処に連れて行くのが当然の行動。
「つまり、ここに残しておく必要はないってことか」
「あくまで想像ですが。ただ、用心した方がいいかと」
「わかった。俺が扉を開ける、マリディナは少し離れた場所で周辺を警戒してくれ」
「かしこまりました」
マリディナは素直に従い頷く。
俺は納屋の扉を、ゆっくりと開けた。