様々なNTRの刺客がいるこの世界で、俺は彼女たちの絶対的な王になる 作:柊咲
土と獣の匂い、ジメッとした空気、目で見えるほど舞っている砂埃。
それらを扉を開けてすぐに感じた。
だけどそれも一瞬。
俺の目に映ったのは、手枷を嵌められた女の姿だった。
「……誰?」
俺が育った村の家と似た雰囲気だったからか、捕らえられている女をリリアだと勘違いした。
だけどよく見ると違う。
確かにリリアと同じぐらいの年齢でピンク色の肩ぐらいまで伸ばした髪型だが、目や口、他にもよく見れば違うとわかる。
彼女は男である俺を見ても怖がらず、俺をではなく、まるで俺の目の奥を見ているようだった。
「大丈夫ですか?」
だけど後ろから現れたマリディナが声をかけると、その表情も一瞬で変わる。
「え、あ……助けてください!」
弱々しい声で助けてと叫んだ。
捕らえられていたということもあり、さっきのはやはり男である俺を怖がっての反応だったのか。
手枷を外すマリディナから少し離れ、家屋の中を確認する。
家屋の中は無だった。
外から見てもここが何の為に用意されている場所なのかわからなかったが、中に入って確認してもやっぱりわからない。
家畜を飼っている、もしくは、飼っていた形跡もなく、何も物が無いから荷物置き場というわけでもなさそうだ。
単純にこの女を捕えておく為だけの場所なのか?
だがそれだと、マリディナも言ったようになぜここでないといけないのかがわからない。
「私はリーデカルラ領でメイド長をしております、マリディナ・ガーデンと申します。失礼ですが、あなたは……?」
「わたしは、その、シラリリ領の天馬騎士団所属のアイーシャ・パリアラです!」
「シラリリ領、ですか……!?」
驚いて少しだけ大きな声を出してしまったマリディナだったが、ここが敵地だということを思い出し、周囲を警戒してから小さな声で質問を続ける。
「シラリリ領、それも天馬騎士団に所属するあなたがどうしてここに?」
「わたしもわかりません。向こうで捕らえられて、運ばれて、気付いたらここに……」
「そう、でしたか」
「マリディナ、どうかしたのか?」
「いえ、実はシラリリ領はこのリーデカルラ領とは正反対の位置にある場所なのです。このリーデカルラ領は南西に、シラリリ領は北東にあります」
「北東から南西か」
アジュミラルをペガサスに乗って上空から見たとき、五枚の花びらがあり、それぞれが一つの領になっていると聞いた。
北、北東、南東、南西、北西にある五つの領。
俺がいた人間の村や王国は北東と南東の間に位置したところにあり、隣接した領がなかったから目の前が湖だった。
そしてペガサスに乗り、馬車に乗ってきたからわかるが、正反対の位置というのはかなりの距離がある。
それもアジュミラルを横断せず円を描くようにここまで来るとすれば、馬車に乗っても何日、いや何週間もかかるはずだ。
「たぶん、売られたんだと思います。箱に詰め込まれて外は見えませんでしたが、そんな会話のやり取りは聞こえてましたから」
「そういうことですか」
そこで枷が外せたようだ。
「オーガがここへ様子を見に来るかもしれません、とにかくここを出て、一旦リーデカルラ領へ向かいましょう」
「は、はい、お願いします。えっとその」
アイーシャが俺の顔をジッと見る。
「この人間族の男は?」
「この方は味方です、安心してください」
「人間族の男が、味方……」
少し何かを考えるように黙ってしまったが、すぐに明るい表情を浮かべた。
「そうなんですね、わかりました!」
どうやら他の三人とは違い、そこまで俺に嫌悪感を抱いていないようだ。
俺たちは家屋を出た。
援軍のオーガも来ていない。
「あ、あの」
「どうかしましたか、アイーシャ様」
「ご、ごめんなさい、久しぶりに立って歩いたので立ち眩みが。手をお借りしてもいいですか?」
「ええ、もちろんでございます」
アイーシャはマリディナにそっと寄りかかりながら歩く。
「マキシム様も、お手を」
「ああ」
男は一人で結界を通れないので、俺はマリディナに手を引かれ結界の中へ。
そこにはララフレアと数人のメイド、それから先に戻っていたリリアが待っていた。
「おかえりなさい」
ララフレアは笑顔を浮かべて出迎えてくれた。
「あの三人は?」
「彼女たちなら先に帰したわ。心身ともに限界だったんだと思う、私に顔を見せてくれてすぐ気を失っちゃって」
「そうか」
「マキシム、彼女たちを救ってくれたこと感謝しているわ、ありがとう」
素直な言葉にいつもなら何か裏があるんじゃないかと疑うが、この感謝には一切の裏はない。
短く「気にするな」と返し、俺も彼女たちを助けられたことを喜ぶ。
「それで、彼女は?」
「ああ、あの女は──」
「──アイーシャちゃん!?」
リリアの大きな声が響く。
そして勢いよく走り出したリリアがアイーシャに抱き着く。
「アイーシャちゃん!」
「え、なに、どういう……」
いきなり抱きしめられ、アイーシャは目を丸くさせて困惑する。
そして俺たちの視線を集める中、リリアが涙を浮かべながらアイーシャに言う。
「良かった、無事だったんだね、アイーシャちゃん!」
「えっと、その」
「アリシア隊長から、アイーシャちゃんが行方不明って聞かされて心配してたんだよ! 良かった、無事で……ほんと、良かったね!」
極端な反応を示す二人を見て、俺が声をかける。
「天馬騎士団所属と言っていたが、リリアの知り合いだったんだな」
「はい、アイーシャちゃんは天馬騎士団の同期なんです! ねっ、アイーシャちゃん!」
「え、う、うん、そうだね、リリア……ちゃん」
「リリアちゃん? もう、前みたいにリリーって呼んでよ!」
「ご、ごめんね、リリー。今まで捕まってて、その、怖くて……助けてもらって安心したのか、気が動転しちゃって」
そう言ったアイーシャに、リリアがハッ気付く。
「そう、だよね……。ごめんね、アイーシャちゃんが無事だってわかって興奮しちゃって!」
「ううん、大丈夫」
「あのあの、ララフレア様。ここでのアイーシャちゃんのお世話、わたしに任せてもらっていいですか!?」
同郷で友人であるなら、メイドたちよりも気心の知れたリリアが担当した方が、アイーシャとしても良いだろう。
「わたしも、リリーが一緒にいてくれると安心できます」
アイーシャもそれを望んだ。
ララフレアも彼女たちの気持ちを汲んで頷くと思った。
だが、
「そうしてあげたいんだけど、まだリリアもここでの生活に慣れてないでしょ? お世話に関してはメイドたちに任せた方がいいと思うわ」
「でも」
「それに、あなたには任せたい役目があるの」
「わたしに、ですか……?」
不服そうというか、嫌な予感がして声のトーンが下がるリリア。
「今回の一件で救えたあの子たち三人の心身回復に、アイーシャがいたシラリリ領への報告と今後の相談とかで、これからメイドのみんなの業務も多忙になりそうだから、マキシムに付けていたメイドたちを外してそれぞれの業務に当てたいのよ」
「はあ」
「だけど、マキシム一人で行動させるのはまだお互いの為にも避けたいでしょ。そこで、リリアにはマキシムの側付きの役目を引き受けてほしいの」
「──ッ!?」
リリアは目を大きく見開く。
それはつまり、あのメイドたちからの監視からやっと解放されるということか。
「まあ、無理にとは言わないけど、そうなったら他の子に側付きとしての役目をお願いするしかないわね。もちろん、夜も一緒に──」
「わ、わかりました! わたしがマキシムさんの側付きを引き受けます!」
食い気味で立候補するリリアを見て、ララフレアは満足そうな笑みを浮かべる。
「そう、それじゃあ、お願いね。もちろん、アイーシャさんには安心して暮らせるよう手の空いているメイドを用意するから」
そこで、先に帰した馬車が戻ってきた。
ここにいる全員が乗れる余裕があり、ララフレアは馬車へ向かう。
「それじゃあ、帰りましょうか。……マリディナ、アイーシャさんのことよろしくね」
「……かしこまりました」