様々なNTRの刺客がいるこの世界で、俺は彼女たちの絶対的な王になる 作:柊咲
処女宮の結界内にイーディアが連れて来たのは、姿は人間族に似た魔鬼族《クーガー》という名の種族だという。
クーガーは数が少なく非力な種族で、結界の外では他種族からの迫害を受けていた。
特に生息地が被っていたオーガとは特に仲が悪かったらしい。
「オーガに敗れ、命からがら逃げていたクーガーの男を、イーディアは助けました」
メリナは視線を下げたままその日のことを話し続けた。
「オーガに追われていたクーガーの男を処女宮の結界内に招き入れたイーディアは、誰にもそのことを話しませんでした。話したらきっと、殺されるとわかっていたんだと思います。……実際、ララフレア様はそうしたと思います」
「匿ったってことか? だが、領内の街に連れてきたら誰かしらすぐ気付かれるんじゃないか?」
結界の側の平原は広大だ。
あそこからこの辺りの人が大勢いるところに来るには徒歩だと数時間、馬車でも数十分はかかる。
その間、誰にも見つからず連れて来るのは難しいんじゃないかと思った。
「今だとそうですね。ですが、この件が起きる前まであそこはただの平原じゃなかったんです。あの地域には多くの牧場と畑があったんです」
「そういえば確かに、馬車の中からだからはっきりとは見えなかったが、誰も住んでいない納屋や柵なんかがポツポツとあったな」
「広大な敷地ですからね、使わない理由がありません。そこでは農業や酪農を行い、そこで暮らす女性もたくさんいました。イーディア、それにマリアベルさんたち三人……そしてわたしも、元はあの地域出身だったんです」
メリナは嫌なことを思いだすように、ポツリポツリと言葉を吐き出す。
「匿ってから数日、お休みを頂いてあの地に帰ったマリアベルさんたちは偶然、誰も来ない納屋でイーディアがそのクーガーを匿っているのを見つけたそうです。結界内に男を入れることは重罪ですから、かなりもめたようです。だけどイーディアが『この男は優しい、この男は大丈夫』って強く説得した為、三人はそのクーガーの傷が癒えるまで匿うことにしたそうです」
「……それで、怪我が治って素直に帰ってくれたわけではないんだな」
「イーディア一人だけを残し、マリアベルさんとカティリナとエリシアが連れ去られました。運が良かったのか悪かったのかはわかりませんが、わたしは屋敷でのお仕事があったので一度もその場にいませんでした」
もしも三人と共に自分もその場にいたらどうなっていたか。
最悪な出来事を未然に防ぐことができたのか、それとも、三人と共に地獄へ連れていかれていたのか。
無事で良かったな。
それが彼女への正しい言葉なのだが、ここで伝えるのもどうかと思い、俺は彼女が話し出すのを黙って待った。
「連れ去られた当日、そこでどんな事が起きて、どうして連れ去られたのかを知る者はあの四人以外にはいません。……いえ、三人ですね。一人残されたイーディアは裏切られたことに落ち込んで、その日にそのまま」
自殺した、だったか……。
自分が招いたことで友人が連れ去られたのだから、自分を責め、自死を選択するのもわかる。
そしてあの日、それを卑怯だと言ったメリナの気持ちも。
ただ話を聞いていて疑問に思った。
メリナの説明ではクーガーという種族は人間族に似た見た目で、オーガから迫害を受けて逃げていたということだった。
あくまで特徴を聞いて作り出した想像は、村にいたユウガと同じ感じだ。
「三人は抗う術は持っていなかったのか? ララフレアから聞いたが、この処女宮の結界の中では女は特別な力を持っている者もいたんだろ?」
ここは鳥籠の中。
鳥籠の中であれば、彼女たちは自由に羽ばたける。
ララフレアの炎華《ラ・アレフシア》は彼女だけの力だと言っていたが、あの天馬騎士や魔法に似た力を持った女たちのように戦う術は鳥籠の中であればあったはず。であれば、オーガ相手ならまだしも、想像通りの非力な男一人に容易く捕まり、三人まとめて連れて行かれたのは不自然だった。
「確かに、マリディナ様のような戦う力は持ってはいませんでしたが、わたし含め、メイドたちは自分たちを守る為の護身術は一通り学んでいます」
「それなのにあっさり連れて行かれたのか?」
その疑問に、メリナは考え込むように視線を下げる。
「その点は当時もララフレア様やマリディナ様も疑問に思っていました。なので、本当はその男の正体はクーガーではないんじゃないかって言ってました」
「他の種族か?」
「はい。その男の姿を実際に見て証言したのも、連れ去られた後の傷心したイーディア一人ですから」
人間族の……という言い方を俺は好ましく思っていないが、人間しか知らないからこの世界に全部で何種類いるのかもわからない。
そして彼女たちも”知らない、見たことのない種族”もいるとララフレアは前に言っていた。
クーガーと呼ばれる種族が人間と似ていることを彼女たちは知っていたが、人間にそっくりな似た種族が他にもいるかもしれない。
なにせ彼女たちはこの結界の中でしか生きていないのだから。外の世界にいる化け物を全て実際に見た者なんていない。
だからあくまで似ているだけで、この辺りにいたから、その男をイーディアはクーガーと誤認して呼んだ可能性もある。
「あの三人から話は聞けそうなのか?」
今までは生き証人が連れ去られてしまって詳しく話を聞くことはできなかったが、彼女たちを連れ戻せた、実際にその姿を見たあの三人から話を聞ければ答え合わせができるだろう。
「精神状態が落ち着いたら、ララフレア様は三人から改めて当時のことを詳しく聞くそうです。傷を抉ることになっても、敵の正体を知る必要があると言っておりましたから」
「そうか。じゃあ、俺は尚の事あまり外に出ない方がいいな」
ララフレアがそう言うということは、なるべく早く敵の正体を知って対策を取りたいと考えているのだろう。でないと、同じ被害が起きる可能性がある。
それなのに俺が彼女たちの前に現れ、傷を抉ったらいつまでたっても話を聞けない。
「申し訳ありません」
「メリナが謝ることじゃない。三人とも、早く良くなるといいな」
「あ、ありがとうございます」
とはいえ。
「しばらくは書庫にこもる生活か。興味をそそられる本があればいいが」
今のところ興味を抱く本はない。
この世界のこと、この世界にいる種族全集、そして処女宮の結界の内側にいる場合に女たちが使える力について。
そんなものが載った本があれば良かったんだが、残念ながらまだ見つけられていない。
「それにあんまり長い間ここにいたら体が鈍りそうだな。動かせる場所があったらいいんだが」
体を動かしたいが、屋敷内でできることは限られている。
「マキシム様は、農業や酪農に興味ありませんか?」
「まあ、村にいた頃からそういう類のことはやらされていたから、ないわけではないが」
「本当ですか? でしたら、あの平原を使ってみるのはいかがでしょうか?」