様々なNTRの刺客がいるこの世界で、俺は彼女たちの絶対的な王になる 作:柊咲
「マキシム様が三人を救ってくれたことで、あの場所で再び農業や酪農を行うことができるようになると思うんです」
確かに捕らえられた三人の悲鳴を聞かせない、光景を見せない対策として住民を遠ざけたのなら、その問題が解決したことでその必要はなくなった。
街中で農業や酪農をするといってもリーデカルラ領の領地には限度があるから、領民も再開できるならしたいと願っているだろう。
「あの三人は戻らないのか?」
賑やかな街中よりも静かな場所で安静した方が彼女たちにもいいのではないか。そう思ったのだが、
「……あの場所には、もう怖くて戻れないと思います」
「トラウマか」
「それに、周りに誰もいない静かな場所だと余計に怖く感じちゃって、こっちの騒がしい場所の方が三人も住みやすいんじゃないかって。なので、しばらくはこの辺りで暮らすよう、ララフレア様が言っていました」
「じゃあ、代わりに俺が向こうにいた方がいいわけか」
そうすれば彼女たちと顔を合わせることはなくなる。
「もちろん一つの提案ですが。マキシム様にいつまで気をつかわせる生活を強いるかわかりませんから。書庫よりも、マキシム様もそちらの方がよろしいかなと思って」
「そうだな、体を動かせるならそっちの方が有難いな」
屋敷に閉じこもって本を読むというのは俺の性に合わない。
メリナの提案は俺にとっても有難い話だった。
──決まったことですぐ、俺とメリナはララフレアのもとへ向かった。
「あの三人の恩人でもあるあなたにはできるだけ快適な生活を提供したいと思っていたけど、あなたがそっちの方が暮らしやすいっていうならわかったわ。いくつか空いた土地があったはずだから、そこを好きに使っていいわよ」
「そうか、助かる」
「それに、処女宮の結界の側にあなたがいてくれるとみんなも安心できるでしょうから。でも、たまにはこっちに顔を見せなさいよ?」
ララフレアは優しく見送ってくれた。
「えー、そんな……。じゃあ、マキシムさんと離れ離れになっちゃうんですか?」
次に訪れたのは、アイーシャの部屋だった。
そこにはベッドで横になるアイーシャと、その側のイスに座るリリア──それから数名のメイドがいた。
「離れるといってもそこまで遠いわけじゃないからな。会おうと思えばすぐ会えるさ」
「それは、そうですけど……」
「リリー、その、わたしのことは気にしないでいいから、付いて行ってもいいんだよ?」
アイーシャがリリアの背中を押すが、リリアは少し考え、顔をぶんぶんと振る。
「ううん、大丈夫! アイーシャちゃんが無事にシラリリ領に帰れるまで側にいるから!」
「で、でも……」
「大丈夫なの! だって、アイーシャちゃんを一人で残してだなんていけないもん。それに、こんな完璧で怖い顔のメイドさんたちに囲まれて一人だなんて心細いでしょ?」
世話係だろうメイドたちは俺を監視するときのように部屋の隅にいた。
もちろん目的は監視ではないから、俺の時のように壁際に立ってジッとこちらを見ているわけではなく何か作業をしていたが、同じ部屋にいるのは変わりない。
「彼女たちは、ララフレアの指示でここにいるのか?」
「らしいです。わたしが世話するって言っても、メイドはいた方がいいって。はあ、メイドさんたちも他に仕事があるって言ってたのに」
ぶーぶー文句を垂れるリリアに、メイドたちは笑顔で「そう邪見にしないでください」と言う。
まあ、この場所に来たばかりのリリアよりもメイドたちの方が他人の世話をするのに慣れているから当然といえば当然だが。
「ちなみにその、農業するっていうのはマキシムさん一人でですか……?」
「実は──」
「──ララフレア様よりマキシム様の側付きとして仕事を任されました、メリナ・リオッテと申します」
メリナは隣に立ち、メイド服のスカートを持ってカーテシする。
そんな彼女を見て、リリアは「うっ」と引きつった表情を浮かべた。
「ど、どうして、あなたが……」
「メイドですので」
「マキシムさんにあんなに反抗的だったくせに!」
「それは過去のことです。ちゃんと謝罪をして、寛大なお心をお持ちのマキシム様には許していただきましたので。ですよね、マキシム様?」
「ん、ああ」
「なのでこれは罪滅ぼしのようなもの。お側で支え、あなたの代わりにマキシム様の身のお世話をさせていただきますのでご安心を」
メリナはなぜかもう一度、カーテシをする。
それは挨拶に使われる動作なのだが、顔を上げて口角を上げているので挑発にしかみえない。
そして受け手のリリアもしっかりと挑発を受け止めた。
「こ、こ、この!」
「この?」
「この、泥棒猫!」
「なっ、なんですって!」
「要するに、お友達を助けてもらって、その強さと優しさにコロッと惹かれて、マキシムさんの側にいたいんでしょ!」
「そそそ、そんなこと……わ、わたしは、ただ、メイドとして」
「職務怠慢! メイドの恥さらし!」
メリナは顔を真っ赤にしながら、子供のような地団駄を踏んで反論する。
「な、なにを言っているんですの!? わたくしは、メイドとしての責務を全うしようとしているだけですわ! あなたのような脳内お花畑と一緒にしないでくださいませ!」
わたくし?
ですわ?
口調が変わったメリナはリリアとの子供のような言い合いを続けていた。
それを遠目で見ていた他のメイドたちは揃って大きなため息をついた。
「はあ、メリナ、また癖が出てるわね」
「短気を起こしたらすぐ素が出るの、何年メイド勤めしても抜けないわね」
「もしかして、メリナの素はあっちなのか?」
気になったので聞いてみると、メイドたちは頷く。
「ええ、そうなんです。彼女、憧れたものにすぐ影響されるタイプの子で」
「あのお嬢様口調は子供の頃に見た絵本に出てきたお姫様の影響なんです。でも、メイドになる際にマリディナ様から『その口調はどちらかというとメイドではなく主なので辞めなさい』と言われて」
「それで、普段のメイド業務時は次に憧れたマリディナ様の影響で知的でクール系な話し方をしているんです」
「まあ、感情が爆発するとすぐ子供っぽくなって、元のメリナに戻ってしまうんですが」
「あー、言われてみれば確かに」
マリディナに喋り方が少し似ている気もする。
メイドだからと思っていたが、他のメイドの喋り方は普通だ。
他のメイドたちよりも年下だと思っていたが、年相応の可愛いところもあるらしい。
「マキシム様は、わたくしがちゃーんとお世話いたしますので、あなたはここでゆーっくりお友達を脳内お花畑な心で愛でてくださいまし!?」
「なんですって! お花畑のどこが悪いって言うのよ、この顔も見た目もちんちくりん小娘が!」
「こ、これは、まだ成長途中で……うるさいうるさい、うるさいですわ!」
ずっと暗い雰囲気だったからか、二人の喧嘩を眺める俺もメイドたちも、その表情に自然と笑顔が生まれていた。