様々なNTRの刺客がいるこの世界で、俺は彼女たちの絶対的な王になる 作:柊咲
次の日から農作業を始めた。
元から所有していた畑を耕し、種を蒔く。
とはいえ農業なんて一日二日で完結するものではない。そして、使用する畑もそこまで広くはない。
なので俺とメリナは、他の畑や家畜の世話なんかを手伝うことにした。
この辺りは柵なんかで分けられてはいるものの小さな村のようで、おそらく前から互いに助け合いながら生きてきたのだろう。
俺もそれに倣って手助けをした。
主に手伝うことは力仕事だが、そうこうしているうちにあっという間に一日が経過する。
夜はメリナと温泉で体の疲れを癒し、寝る時はメリナに抱きしめられながら眠る。
次の日、また畑の世話をして、家畜の世話をする。
日々を忙しなく過ごすわけではなく、一日をのんびりと過ごしていく感じだった。
そんなスローライフ生活も一週間が経とうとしていたある日のこと──。
「戦い方を学びたい?」
牛の世話をしているとき、近所で暮らす女性たちに言われた。
「はい! マキシムさん、すっごく強いって聞きました!」
「もし処女宮の結界に連れ出されそうになったとき、少しでも抵抗できるようになりたいんです!」
そうなる自体は起こってほしくはないのだが、心構えをして、特訓することは悪くはない。
俺はその頼みを軽く引き受けた。
そして次の日、俺を待っていたのはこの近くに暮らす50人全員の女性たちだった。
「よろしくお願いします、マキシムさん!」
「こんな大規模なやつだったのか……」
俺に声をかけてくれたのは三人だったが、それが風の噂で広まったのか、もしくはその三人が全員に声をかけ集めたのか。
どちらにしろこの活動に全員が参加した。
「まるで天馬騎士団の一部隊みたいですわね」
整列して並ぶと、確かにそういう名称を付けてもおかしくない感じだった。
だが、ここまで大勢の相手に教えると思っていなかったから何も考えていなかった。
「そもそも俺の戦い方は素手だからな。彼女たちには、素手より武器を扱えるようになった方がいいよな?」
隣にいるメリナに聞く。
「ですわね。この世界の男がオーガやマキシム様のような巨漢ばかりではないとはいえ、筋力での真っ向勝負は女性側に分が悪いですから」
「そうだな。じゃあまず、各々に気に入った武器を手に取ってもらって、それから指導を始めていくか」
「はい、それでいいと思いますわ」
剣、短剣、槍、斧、弓。
戦う武器は様々あり、それぞれがその武器たちを手に取る。
この処女宮の結界内の全てを俺は見て回ったわけではなく、リーデカルラ領しか知らないからはっきりとは言えないが、ここでは狩猟という文化はそこまで行われていない。
だから鍬や鎌はあっても、敵を殺める為の武器を手にしたのが初めてという女ばかりだ。
「槍はこう、両手で持って」
「こう、ですか?」
村にいた頃、村の連中が武器を持って狩りをする姿を見てきたから持ち方程度であればなんとなく教えられた。
だがそれは見ただけであって、実際に何年も愛用していたわけではない。いざ扱い方を教えるといっても難しいものがあった。
そんなときは、俺の代わりにメリナがそういった武器の扱いが書かれた本を見ながら教えていく。
次第に武器の扱いはメリナが、戦う際の心構えや体の動かし方なんかは俺が。お互いに分担して教えることになった。
「ふぃー、疲れましたわ!」
夜、一日の疲れを癒す為に温泉を訪れれると、メリナがぐったりとする。
「お疲れ様。メリナがいてくれて助かった、俺一人だったら何も彼女たちに何も教えてやれなかっただろうな」
「マキシム様は感覚派だということが今回ですっごくわかりましたわ」
「だな。動けるんだが、それを言語化して教えるのは難しい」
こうしてみろ、と動きを見せても、どうやってするの、と聞かれれば上手く答えられない。
他人に教えることには向いていないらしい。
「そういったところも、この活動で少しずつ変わっていくかもしれませんわね」
「できると思うか?」
「もちろん。きっと大丈夫ですわ」
メリナは笑ってそう言う。
「それにマキシム様ができないことは、わたくしがカバーしますわ。だからマキシム様はみんなの前で堂々としてくださいまし」
「ああ、そうさせてもらう」
「でもこうして、みんなが戦い方を学びたいなんて言ってくる日が来るとは思ってもみませんでしたわ」
「今までこういうことなかったのか?」
「ええ、そもそも危機感が今ほどありませんでしたから。処女宮の結界の内側にいれば安全、だから戦う力なんて必要ない。それを退屈と思う子もいましたが、平和で幸せな日々だったのは間違いありません。でもそれも、あの件から変わってしまいました……」
良くも悪くも、イーディアたちの件をきっかけにここに暮らす者たちの意識を変えたということか。
温泉に浸かりながら夜空を見上げる。
「もうあんな悲劇が起きないよう、できるだけのことはしよう」
「ですわね。それにマキシム様が側にいてくれたら、みんなも安心ですから」
メリナは俺との間に空いていた距離を詰め、肩を寄せる。
「も、ももも、もちろん、わたくしも……。マキシム様がいてくだされば、安心で、幸せで……」
「メリナ?」
「その、あの、そろそろ、こういうこともいいのではないかと思ってますの……」
上目遣いで見つめるメリナは、震えた唇を突き出す。
吸い込まれるように、俺も彼女に顔を近付け──。
「──マキシムさん、メリナ!」
静かな空間を裂くように扉が勢いよく開けられた。
メリナの肩がビクッと反応して立ち上がった。
「せっかくいいとこだったのに、また邪魔するつもりですの!?」
「そうじゃないの! 大変なんだって!」
「大変?」
扉のとこに立っていた女は慌てた様子で言う。
「ララフレア様が来てるの!」
「ララフレア様が!?」
驚いたメリナが飛び出していく。
俺も後を追い、案内された場所に急ぐ。
これまでここにララフレアが訪れたことはなかった。
今は保護した三人のこと、それとアイーシャ関連でシラリリ領とのやり取りもあり忙しいはずだ。
全てが片付いたら遊びに来るとは言っていたが、今日──それもこんな夜にいきなり来るなんて。
そして案内された場所には一台の馬車が。
その馬車の側にはララフレアとマリディナ、それと、
「リリア?」
「マキシム、さん……」
リリアは俺を見るなら駆け出し、そのまま抱き着く。
「なっ、この……」
メリナが何か言おうとしたが、その開いた口をゆっくりと閉じた。
それはリリアが泣いていたからだ。
「どうしたんだ、リリア?」
「……」
「久しぶりね、二人とも」
ララフレアはゆっくりとこちらへ歩いてくる。
その表情に再会を喜ぶ様子はなく、重たく苦しそうな表情だった。
「何か、あったのか……?」
「ええ、残念ながらね」
そこで言葉を止めたララフレア。
家の中へ案内して、俺たちが屋敷を出てから何があったのかを聞いた。