様々なNTRの刺客がいるこの世界で、俺は彼女たちの絶対的な王になる 作:柊咲
「結論から言うと、私たちの前に現れたアイーシャは本物のアイーシャ・パリアラではなかったということね」
俺がいない場所で起きた出来事を話してくれたララフレアは、最後にそう言った。
リリアはメリナとマリディナに連れられて席を離れた。
この説明を彼女に聞かせるのはあまりにも酷だという考えだ。
「偽者、そうだったのか……」
本物を知らない俺が見分けるなんて不可能だ。
偽物だと言われても、そうだったのか、という言葉しか出てこない。
「ララフレアは最初から気付いていたのか?」
「いいえ。ただリリアのことを覚えていないのと、シラリリ領出身の子だったからそうかもと疑念を持てただけ、もし、どちらか片方だけの情報しかなかったら疑ってもいなかったかもしれないわね」
「捕食蟲《バズー》、だったか。そいつは人間……とは違うんだよな」
「擬態が得意な生物で、人間族とも大鬼族《オーガ》とも違って蛭のような姿だから男だと呼ぶのも変だけど、一応は性別的には男という位置付けね」
姿を見たことはなかったから聞いた話で作る想像でしかないが、水辺にいるような蛭の少し大きめのサイズなのだろう。
そんな生物がいたとは、同じ結界の外で生きていたというのに知らないことが多すぎる。
そして知らないということは、それだけでこの世界で生きるのに不利にさせる。
「偽者だなんて疑いもしなかった」
「当然よ。私だってバズーについて本で見ていて、シラリリ領の子から話を聞かなかったら疑いもしなかったもの」
「対象の体の一部を喰って姿形を変える……。想像するだけで恐ろしいな」
そんな生物がいるという事実が恐ろしい。
それは単純に人間の体の一部を喰うということもそうだし、姿形を真似るというのもそうだが、何より”そんなの有り得ない”を実現させる生物がいることが恐ろしい。
このバズーの存在を知ったことで、俺は全ての有り得なかった可能性を存在するかもしれないと考えて生きなければいけない。
もしかしたら人間の数百倍も大きい生物がいるかもしれない。
もしかしたら対象の体内に浸食して操る生物もいるかもしれない。
そんな可能性を、これからは疑って生きなければいけないこと自体が何より恐ろしい。
「ほんと、バズーの生息地と隣接しているシラリリ領は最悪ね」
「確かにそんなのが結界のすぐ外にいたら、もしかしたら隣の奴が……って考えてもおかしくはないな。だが、話を聞く限りだとバズーは相手に擬態できるが結界に入れるわけではないんだろ?」
マリディナの手を借りて入ってきたということは俺と同じく単独で侵入するのは難しいということだろう。
「ええ、そうよ。ただ今回のように味方を騙して一緒に入ってこようとする可能性もあるから」
「懐に入られたらお手上げだな」
「そういった場合の為に、あそこには多くの天馬《ペガサス》が生息しているのよ」
「どういうことだ?」
「ペガサスは本能的に男女を見分けられるの。そして女性の命令しか聞かない。だからどんなにバズーが上手く擬態できたとしても、ペガサスはそれを見抜いて反応する。そのお陰でシラリリ領はなんとか疑心暗鬼で暮らさずに住んでいるというわけなの」
なるほど、そういう理由があるからシラリリ領出身のリリアはペガサスを呼べて、リーデカルラ領ではペガサスが一頭も見なかったのか。
「話を戻すけど、アイーシャ・パリアラに化けたバズーは他に五体いるわ。リーデカルラ領だけを狙った……なんて考えにくいから、おそらくだけど他の領からの侵入を試みている偽物がいる可能性はありそう。これに関しては送った伝令の返答待ちね」
「他で全員が捕まっていてくれればいいが。だが、全部で残り五体、領が他に四つ。一体は余るか」
「同じ顔で同じ場所から侵入を試みるなんて馬鹿なことをしようとしないかぎり、余った一体は何処かで生き続けることになるわね」
世界が彼女の存在を忘れてしまった頃に現れる……。
そんな可能性もあるわけか。
ララフレアは差し出されたコーヒーに口を付け一息つく。
「ここまでが、あなたのいない間に起きたアイーシャ・パリアラの件よ。ひとまずは解決……とはいえないけど、最大の脅威は去ったということで話を終わらせましょう」
忍び込んだ目的や、残った他のアイーシャの顔をした五体のバズーについて気になることはあるが、それをここで考えていても仕方ない。
「今ここで、あなたにこの話をしに来た理由は別にあるの」
傷心したリリアを会わせる為。もちろんそれはある。ララフレアだって彼女を心配している。だがそれ以上に、彼女はリーデカルラ領の領主として片付けたい問題があるということだろう。
「……どうして、あんな場所に捕まっていたかどうか」
アイーシャは捕らえられていた三人から離れた納屋のような建物の中で捕まっていた。
今思うと両手足は縛られていたものの目立った外傷は三人ほどはなかった。であればあれも仕掛けられた罠だった可能性は十分にあるだろう。
わざと俺たちに発見させ、救出し、結界の中へ潜り込む為の。
「偽物のアイーシャが証言した通り”売買された”可能性も無いわけではないけど、こうなった以上はその可能性よりもあの場にいたオーガと組んでいた可能性の方がもっともらしいわね。だって万が一に売られた先で男たちに監禁されていたら、何の為に化けたのかわからなくなっちゃうもの」
「……率直な疑問なんだが、その擬態したバズーは女として子を産むことは可能なのか?」
「聞いた話だと可能だそうよ。まあ、その子がどんな姿で産まれるかは想像したくないけど。だからバズーだと知っても手放さない可能性はあるわね」
「じゃあ、売買された可能性は低いな。かといって、オーガと手を組むか。あの連中にそんな交渉して策を考えるような頭はあるのか?」
「いいえ、ないわね。だから考えられる可能性は、オーガとも組んで、他の種族とも組んでいるか、もしくはその三者で手を組んでいるか」
「他の……」
そこで真っ先に頭に浮かんだのは、メリナから聞かされていた魔鬼族《クーガー》という種族のこと。
もちろん他の種族も周りにいるだろうが、それでも、俺の知っている情報はこの種族だけだった。
だが、オーガとクーガーは仲が悪いとメリナが言っていた。それなのに手を組んでいる可能性なんて本当にあるのだろうか。
「どちらにしろ、今回のこの外から中に侵入しようとする動きは不穏だな。ここで終わればいいが」
「まだ何か考えがあるとしたら、今まで通り鳥籠の中で守り続けているのは危険ね」
「手を打つなら早いうちに、それもただ待つんじゃなく仕掛けるべきだな」
そしてそれをするなら、俺という存在を使わない手はない。
「まだ、畑に種を蒔くことしかしてないんだがな」
苦笑いを浮かべたが、まだ見ぬ存在と相対せることへの期待はあった。いや、こんな状況だというのにむしろ楽しみで仕方なかった。