様々なNTRの刺客がいるこの世界で、俺は彼女たちの絶対的な王になる 作:柊咲
170ほどと高い背丈にぴったりとくっ付く生地の黒いドレスは、歩くと足下の裂け目から長い脚が見える。
やはり男の骨格とは違う。
リリアと同じぐらい大きい胸は、なぜか見ているだけで体が熱くなる。
切れ長な目は俺と合うとすぐに離れ、背を向けると、胸元まで伸びた金色の長髪が舞う。
「ふう、間一髪ってとこかしら?」
アリシアが俺ではなく扇子を持った女を睨みながら言う。
「……ララフレア様、いつも自領に引きこもっているあなたがどうしてここに」
「間違っていないのだけど、引きこもりだなんて失礼ね。中央へ散歩しようかと思ったら、楽しい遊びをしているから私もまぜてもらおうかなと思って」
「もしかして、その人間族の男はあなたの手引きなのですか?」
「何を馬鹿なこと言っているの? 彼を手引きしたのは、天馬騎士団であるあなたの部下じゃなくって?」
険悪な雰囲気は二人の声色だけでなく周囲の女どもの表情からもすぐに気付いた。
「大丈夫ですか、マキシムさん!」
「ああ、なんとかな」
駆け寄ってきたリリアが心配そうに見つめる。
「あの女は?」
「炎華《エンカ》のララフレア……五領花《ゴリョウカ》のお一人で、ララフレア・リーデカルラ様です」
「五領花?」
よくわからないが、偉い立場の女ということだろう。
「で、あの二人は仲が悪いのか?」
「えっと、その……」
ララフレアとアリシアは俺たちに見向きもしない。
「その男はここで処分するので邪魔をしないでいただきたい」
「あなたが勝手に? 五領花の意見も聞かずに?」
「意見など聞く必要もありません。処女宮の結界を侵入してきた者は生きて返さない、当然のこと。あなただってこれまでそうしてきたではないですか」
「そうね。でも、それは五領花の領主全員の意見を聞いてからでしょ?」
「そんなの聞くまでも……ま、まさか、その男を擁護するつもりですか?」
その問いかけに、ララフレアという女は口元を扇子で隠していたが笑った。
そんな反応を見て、アリシアは槍を構えた。
「やはりこの人間族の男はあなたの手引きですか!?」
「はあ、どうしてそうなるの? ほんと、天馬騎士団って名前だけでなく頭の中まで堅苦しいのね。もう少し発想力豊かに生きなさい?」
「黙れ! この男はここで──ッ!?」
ララフレアは俺の前に立つ。
「じゃあ、私ごと殺しなさい」
「何を、馬鹿な……」
「ただの天馬騎士団の隊長が、五領花の領主を手にかけるなんてできないわよね。そんなことしたら大問題だもの」
「ぐっ……」
「この男はここで殺さず五領花の五人の前で審判にかける、いいわね?」
反論しようとしたアリシアだったが、はっきりと表情に苛立ちを浮かばせながらも何も言い返すことはなかった。
どうやら立場的には、あのララフレアという女の方が上らしい。
ペガサスの向きを反転させる。
「……ここで殺さなかったこと、後悔しますよ」
「そうならないことを祈りましょ?」
「そいつの身柄はあなたに預けます。もし逃がした場合、その際は覚悟しておいてください」
撤退の合図を出すと、次々とペガサスが北東へ向かって飛んでいく。
ララフレアはくるりとこちらを向くと、周囲で見ていた者たちに声をかける。
「はい、解散解散。くれぐれもここで見たこと聞いたことは風潮しないようにね」
周囲の者たちが慌てて散っていったことで一瞬で静かになった。
「さて」
ララフレアは俺に──ではなく、リリアに視線を向ける。
「悪いけど、この人間族の男の身柄は私の方で預からせてもらうわね」
「ララフレア様、マキシムさんはわたしを助けてくれた方なんです! だ、だからその!」
「安心しなさい、今のところは悪いようにしないから。何か問題が発生したら五領花が集まって決断する。ただの天馬騎士であるあなただって、このルールぐらいは知っているでしょ?」
「は、はい……」
「で、それまでは身柄を確保しておかないといけない。まあ、居心地は良くない牢屋だけど、見張りもいるからアリシアみたいな正義感の強い子あたりが暗殺に来ることもないでしょう」
不穏なことを笑みを浮かべながら言われた。
「あなたもそれでいいわね?」
そう聞かれたが、ここで首を横に振る選択肢はできるのだろうか。
「拒んだら、俺はどうなる?」
「そうね、別にいいけど……あんまりオススメしないわよ?」
「なに?」
「もし拒んだら、その肩に乗っているモノが爆発して、あなたの上半身が吹き飛ぶだけだもの」
彼女の視線の先に目を向ける。
一切の違和感もなく、俺の肩には顔よりも小さな花が咲いていた。
ラフレシアという名の花に似た花。
それはさっき俺の周囲で爆発したモノと同じ見た目だった。
「あなたが変な気を起こす前に爆破できる。だから素直に私に従ってくれるわよね……?」
「対処がわからない以上、俺に選択肢はないんだろ」
「ふふ、見た目に合わず利口で良かったわ。それじゃあ、行きましょうか」
まるで罪人のように。
いや、手錠をかけられていないだけマシだが、俺の肩にはいつでも爆発できる謎の花が咲いたままだ。
手錠よりもずっと不気味で凶悪だ。
なので俺はララフレアの後に付いて歩き出す。
♦
辺り一面を石畳で囲われた牢屋。
俺が育った村の、あの地下よりもずっと豪華な作りだ。
「床が硬くなければ良かったんだが」
座っているだけで尻が痛い。
少しだがまだ全身の痺れが残っている。
ただ思ったよりも外傷はなかった。あの時はあんなに痛みで狂いそうだったというのに。
だからというわけではないが治療は十分にはされなかった。というよりあまり多くの女と関わらせないようにされていたから、自分で治療するしかなかった。
隔離に近いが、まあ、なんとなくそうされた訳は理解できた。
「男と女……お互い、交わったらいけない関係なのか」
俺のいた村では”女”が珍しく、結界の先のここでは逆に”男”が珍しい。
その辺が謎だが、話ができそうな相手はここにいない。
静かな牢屋に俺一人。
目の前の鉄格子ぐらいならなんとかこじ開けられそうだが、相変わらず俺の肩にアレが乗っているので止めておいた方がいいだろう。
これがなんなのか。
そして、ペガサスに乗った連中がどうやって槍から電気を発せられたのかわからない以上、大人しく飼われておくしかない。
「ん?」
奥の方で扉が開く音がした。
そして足音がこちらへと近付いて来る。
「大丈夫ですか、マキシムさん」
「リリアか?」
薄暗い通路の奥から来たのは、蝋燭を持ったリリアだった。
その手には大きな荷物が。
「どうしたんだ?」
「えっとその、大丈夫かな……って。まともな治療もできないまま、こんなとこに入れられて」
「まあ、これぐらい大丈夫だ」
「ごめんなさい、五領花の話し合いが終わるまでマキシムさんの存在は秘匿事項で。本当は治療に長けた子たちもいるんですが、その子たちとも関わらせたらダメみたいで」
すると、リリアは大きな荷物を床に置く。
「何かわたしにもお世話できないかなと思って!」
「何かって……もしかしてそれ、寝袋か?」
「はい、お側にいようかなと! 衛兵には牢屋の中はダメって言われちゃったんですけど、鉄格子を挟めばここで寝てもいいって言ってもらえたので」
「いや、だがお前」
正直ここは村の家屋よりも環境が悪い。
砂埃も微かに舞っていて、空気もジメッとしている。
好んでこんなとこに寝たいと思う者はいないだろう。
「もし傷が悪化したりとかしても、わたしがここにいたら何かできるかなと思いまして」
「だが」
「それにそれに、夜中になるとですね、扉の奥にいる監視も寝ちゃうんです。ここから叫んでも、きっと駆けつけて来ないと思うんです!」
「……」
「ダメ、でしょうか……?」
俺のことを心配してくれているのだろう。
それを無下に断るのはどうなのか。そもそも潤んだ瞳で見つめられると断るのは難しい。
まあ、彼女がそれでいいなら。
「リリアがいいなら、頼む」
すると、リリアはぱあっと花が咲いたように明るい表情に変わった。
「はい、お任せください!」