様々なNTRの刺客がいるこの世界で、俺は彼女たちの絶対的な王になる 作:柊咲
「ふふ、冗談よ。無事に死罪は免れたわ」
ララフレアはにこりと微笑む。
その反応に、俺でなくリリアが大きくため息をつく。
「もう、ララフレア様! そんな笑えない冗談は止めてください!」
「ごめんごめん、あまりにも牢獄の中だというのにリラックスして寝ているものだから、ついからかってみたくなって。もう釈放されたから、はい、牢屋のカギ」
カギが開けられる。
「ありがとう、でいいんだよな」
「もちろん、私はあなたの命の恩人だもの。……と、命の恩人の名前も知らないのは困るわよね。私はララフレア・リーデカルラ。あなたの身元引受人よ」
「俺はマキシムだ。ところで身元引受人っていうのは?」
「そうね、あなたの持っている疑問全てに答えていたらいつまでも牢屋から出られそうになさそうだから、移動しながら説明しましょうか。ちなみに、リリアは今回の件で天馬騎士団はクビだそうよ」
「がーん!」
膝から崩れ落ちたリリアを見て、ララフレアは楽し気に笑った。
「それは俺を庇ったからか? だとしたら、すまないな、リリア」
「いえ、たぶんマキシムさんのせいじゃないと思います」
「リリアの言う通り、今回の罰則についてあなたは一切関係ないわ。元からこの世界では処女宮の結界を出たら重罪、それをリリアは破ったの。クビだけで済んで良かった方よ。本来ならあなたの代わりにこの中に入るのはリリアになっていたはずだもの」
ララフレアは歩きながら言葉を続ける。
「もちろんそうなるはずだったんだけど、マキシムの件と一緒に私が他の五領花《ゴリョウカ》に掛け合ってあげたの」
まるで『感謝してね?』と言わんばかりの笑顔を浮かべたララフレアが顔だけを振り向かせる。
リリアは後を付いて行きながら恐る恐るといった感じに聞く。
「えっとその、わたし……高貴な出ではないですよ?」
「ええ、普通の家の出で、16才から天馬騎士団に配属されたのよね?」
「だ、だから、わたしに恩を売っても価値なんて……」
「なによそれ、まるで私が何か見返りを求めてあなたを助けたみたいじゃない。これはただの優しさ、私の良心なのよ?」
頭のキレは良く、性格が悪く腹黒い。
事前にリリアから聞いていたので、リリアがどうしてこんなに脅えているのかなんとなくわかった。
が、ララフレアはその疑問にはっきりとした答えは出さない。
久しぶりの空の下。
建物を出るとすぐ、馬車が用意されていた。
「はい、二人ともこれに乗って?」
強制だ。
果たして何処へ連れて行かれるのか。
ゆっくりと走り出す馬車。
家屋が建ち並ぶ景色から俺が育った平原ばかりの景色に変わる。
「ふぅん、これが人間族の男なのね」
正面に座ったララフレアが脚を組みながら俺をジーっと眺める。
「そんなに俺が珍しいか?」
「ええ、珍しいわね。他の種族の男だったら見たことあるけど、同じ人間族の男を見るのは初めてなんだもの」
「人間じゃない他の種族か、本当にいるんだな。それはどんな奴らなんだ?」
俺にとっては当たり前の質問なんだが、どうやらララフレアやリリアにとってはこの質問はおかしな質問だったらしい。
「驚いた、あなた他の種族を見たことないの?」
「この場合の種族っていうのは熊とか鹿とか、馬とかとは違うんだよな?」
「つまり、あなたはこれまで同じ人間とだけ関わりを持って、何も知らずに生きてきたってことなのね」
「……残念ながらその通りのようだ。俺はリリアと出会うまで女という存在を知らなかったんだ。結界とやらの外……こっちだと中か。そこに同じ人間の、しかも女が生きているなんて」
「なるほど」
呆れられているということは、ララフレアの表情でわかった。
「何も知らない相手に一から説明するのは難しいんだけど、簡単に言ったらここは”鳥籠の中”なの。硬い鉄で囲われた鳥籠」
リリアも同じ表現をしていた。
ずっと俺の生きている世界こそ鳥籠の中だと思っていたが、どうやらこっちの住人も同じことを考えていたらしい。
「この鳥籠の中にいれば安全。だけど、外に出たら危険が一杯。ここはそんなとこ。リリアから聞いたけど、人間族の男に捕まったところをあなたが助けたのでしょ?」
村での出来事を思い出して俺は頷く。
「じゃあ、どうして彼女が捕らえられたのかも聞いたはず」
「子供を産ませる、だったか」
「そう。世界の理の外で生きてきたあなたには信じられないでしょうけど、この世の全ての生物は、私たちみたいな”女”から産まれるの。だけどここの結界──処女宮の結界の外の世界ではなぜか男しか生まれなかった」
「村で25年生きてきたが女は一度も見たことなかった。一回しか行ったことはないが、王国でも見なかったな」
「王国でもねえ。まあ、私が想像する王国通りなら十中八九、表にいないだけで、きっと見えないところで”飼われている”んでしょ」
ララフレアの整った表情が怒りに歪ませる。
彼女自身も”飼われている”なんて言葉を使いたくなかったが、一番近い例えがその言葉だったのだろう。
村の連中もそういう言い方をしていた。
「お互いの”性別”で結界を隔てて生きていけば男はいずれ絶滅したはず、だけどそうならずに今も生き続けている。中には、増え続けている種族もいる。……どうしてかわかる?」
「子供を産める女を捕まえ、産ませているからか?」
「ええ、その通り。その行為は……まあ、口にしたくはないわね」
ララフレアが目を伏せ、リリアが身を護るように全身を小さくさせる。
「あなたも知っていると思うけど、男だけでは結界を通れないし、壊すこともできない。どう頑張っても結界の中に入ることはできない」
「確かにそうだな。じゃあ、誰もこの外に出なければいいわけか?」
男は結界の中に入れない。
であれば、誰も出なければ鳥籠の中に脅威はない。
だが、ララフレアは首を振った。
「だけど”女の子と一緒”だと出入りできる。あなたもリリアと一緒なら入ることができたでしょ?」
「そういえばそうだったな」
「だから連中は、様々な”姑息”な手段を使って女の子たちを鳥籠から外に誘き出そうとする。まあ、リリアのように好奇心で自分から出て行っちゃう子もいるけど」
「うぅ……」
「そして、捕まった子は二度と帰ってこない。リリアは本当に……本当に運が良かったのよ」
その言葉は俺にではなくリリアに向けて言われたものだった。
そしてリリアは何度も頷いた。
「マキシムさんの、お陰です。マキシムさんと出会えたからです」
「まったく、まさかペガサスに乗って湖の上から出て行くなんて」
「す、すみません……」
「これに関しては天馬騎士団も盲点だったと言っていたわ。本来なら結界前で止められていたはずだから」
「結界前で?」
「ペガサスに乗ったとき、上空からこの大陸がどんな形をしているのか見たのよね?」
そう聞かれて地上の景色を思い出す。
「五枚の花弁のある大きな花の形っていう例えが合っているかわからないが、そんな感じに見えた」
「ええ、その認識で合っているわ。五つの花びらの先端は結界の外と陸地で通じているんだけど、何もしなかったらそこから女の子たちが出て行っちゃうでしょ? だから、五枚の花びらそれぞれに領土を作って出て行かないよう見張っているの」
「それが、何度も名前が出ている五領花《ゴリョウカ》ってやつか?」
「そう……っと、どうやら到着したようね。残りの説明は後ね」
馬車がゆっくりと停まる。
ララフレアが下り、その後を俺たちが下りる。
目の前に広がるのは俺が見た王国に似た姿をした都市だった。
「ようこそ、ここが五領花《ゴリョウカ》の一つ。私が治めるリーデカルラ領よ。──領主として、あなたを歓迎するわ、マキシム」