様々なNTRの刺客がいるこの世界で、俺は彼女たちの絶対的な王になる 作:柊咲
──五枚の花びらのうちの一枚、リーデカルラ領。
建ち並ぶ家屋、その中心には大きな城が。
花びらと花びらの間は湖で形成されていて、目を凝らせば向こうにも同じような街があるのが見える。
一枚の花びらが一つの王国になっていると表現するのが正しいだろう。
そこには多くの人が暮らしていた。
俺の育った村とは規模が違うが、一度だけ行ったことのある王国と似た雰囲気だ。
だが違うのは、ここで暮らす者が当然のように全て女だということ。
「おかえりなさいませ、ララフレア様」
「ただいま。私が留守の間に起きた報告事項は?」
「いえ、特にはございません」
メイド服姿の女の視線を感じる。
それに周囲からも視線が。
「え、あれって人間族の男だよね?」
「本当だ、初めて見たけどなんで?」
「わかんない。でも、ララフレア様が連れて来たってことは、悪い男じゃないのかな?」
「いやいや、男だよ? 良い奴なんているわけないじゃん」
周囲からの視線は年齢によって異なる。
リリアと同じかそれより下の年齢は、単純に男という珍しい存在に対して興味を持っている感じだ。
が、ララフレアよりも上の女たちは困惑や恐れ、そしてほとんどが嫌悪感だ。
「彼は人間族の男だけど、私の客人よ。危険な真似はさせないから安心してちょうだい」
ララフレアが周囲に向けて大きな声で言う。が、俺に向けられる視線に変化はない。
「マキシム、リリア、こっちよ」
「ああ」
「はい!」
ララフレアの後を付いて行く。
向かった先は中心にある大きなお城だ。
メイド服姿の女が多くいるが、表情は無で、俺を見ても顔色一つ変えない。
そんなメイドたちにララフレアが指示を出す。
「今日からこの二人にはここで暮らしてもらうから」
「……かしこまりました。ですがお嬢様、その男には一人で行動させないようお願いします」
一人のメイドが表情を変えず言う。
輪郭に沿ってウェーブさせた薄紫色のショートカットに、前髪は斜めに切り揃えられた髪型。
そんなメイド服姿の女は、顔はそのまま、切れ長な視線だけを俺に向けた。
「それは私の客人でも?」
「はい。ララフレア様の客人であっても男は男なので。お嬢様の安全、そして──領内の女性一人一人を守るのが、我々メイドの務めですから」
「私が安全だと保障しても?」
「考えは変わりません」
「そう、わかったわ。じゃあ、面倒はあなたに任せるわ──マリディナ」
「はい」
ララフレアが命じた女は俺の前に立ち、軽くお辞儀をする。
「マリディナ・ガーデンと申します。ララフレア様に仕えておりますメイドたちの長をしております。お二方のここでのお世話をさせていただきますので、よろしくお願いいたします」
「ああ、よろしく。俺は──」
「──マキシム様とリリア様ですね。お嬢様から事前に聞いています。では、こちらへ」
こちらからの自己紹介は不要とばかりにマリディナは歩き出す。
俺とリリアは顔を見合わせ、その後を付いて行く。
そして俺たちの後ろにも数人のメイドが。
まるで大所帯。いや、連行されている囚人という例えの方がしっくりくる。
「リリア様はこちらの部屋へ。マキシム様はこちらの部屋へ」
指示に従って隣同士の部屋へ。
机と椅子、そして大きなベッド。
手入れの行き届いた清潔感のある部屋は、俺みたいなのには不釣り合いなほど豪華なとこだった。
「ここを、貸してくれるのか?」
部屋に入るとマリディナを含めて五名のメイドも入ってくる。
横一列に並んだ彼女たちの表情は無で、愛想笑いもしてはくれない。
「はい、お嬢様から客人として扱うよう言われておりますので」
「そうか。まあ、有難く使わせてもらうが……」
壁際で並んで立ったまま動こうとしない。
部屋まで案内された。であれば彼女たちの役目は終わったはずだ。
「まだ、何か用があるのか?」
「いえ、何も。わたくしたちのことはお気になさらず」
「いや、気にするなって言われてもだな……」
「マキシムさん!」
と、そこへリリアがやってきた。
部屋に入ってすぐ目に付いたマリディナたちに入口を開けて部屋を出るよう促すが、壁際に並び立ったまま動く気配のないのを見て首を傾げる。
「えっと、もう用は済んだんですよね?」
「わたくしたちの役目は客人に不便ないよう過ごしていただくことですので、お気になさらず」
「お気になさらずって……。えっと、マキシムさん?」
「要するに俺が悪事を働かないよう、四六時中こうして部屋にいて見張ってくれるそうだ」
明言せずに遠回しの言い方をしていたのは雇い主であるララフレアの客人だからだろう。その証拠に、マリディナたちは俺の言葉を否定せず黙って目を伏せるだけだった。
「えっと、大丈夫ですよ、マキシムさんは悪い人間族の男じゃありませんから!」
「リリア、いいんだ。最初から歓迎されていないのはわかっていた。それに、俺が何もしなければ彼女たちも何もしないはず。だから大丈夫だ」
「で、でも、マキシムさんは、わたしを助けてくれたんです! そんな恩人にこんな扱い」
「……恩人ですか」
マリディナがボソッと呟く。
そして視線をリリアへ向けた。
「その信頼は、あなたが何年もかけて築いてきた信頼ですか?」
「え?」
「たった一日二日でこの人間族の男の全てを理解し、信頼をおけているのですか?」
「でも、マキシムさんがわたしを助けてくれたんです……」
「それも全て、処女宮の結界の中へ侵入する為の策だったとは思わないのですか?」
「策って、またそれですか! アリシア隊長も言ってましたけど、マキシムさんは違うんです! マキシムさんは──」
「──いい加減にしなさいよ、この能天気女!」
黙っていたメイドの一人が声を荒げる。
ずっと変わらなかった表情も、いつの間にか怒りを滲ませていた。
「……メリナ、やめなさい」
「客人への無礼と汚い言葉を使うことをお許しください、マリディナ様。ですがこの能天気女には、はっきり言わないとわかりません!」
「能天気女って、わたしは別に……」
「マキシムさんは違う? マキシムさんは他の男とは違う? ……笑わせないで。男は男なの、例外なんてない。そいつは多くの女を拉致していった男と性別に変わりはないの!」
「でも!」
「知らないわけないわよね、過去に何度もそうやって優しい顔して処女宮の結界の中に入って女を連れ去った男たちがいたことを。誰からも学んでこなかったわけないわよね!?」
「……」
「男を処女宮の結界の中に連れて来た子はみんなあんたと同じことを言っていたわ。『この男だけは違う』って。でも、結果もみんな同じ。……たくさん連れ去られた。それも男を結界内に入れた女の子とは違う女の子ばかりたくさん!」
そう言ったメイドの瞳から大粒の涙が溢れ出す。
リリアは言い返そうと口を開けたが、すぐに閉じた。
「その男を連れて来た女は自分のしでかした過ちに気付いてすぐに自殺したわ。卑怯よね、自分は死んでさっさと楽になったんだもの。マリアベルさんも、カティリナも、エリシアも、今もきっと……生きたまま地獄を味合わされているっていうのに」
その言葉が最後だった。
静かな空間に、マリディナの咳払いが響く。
「……マキシム様、リリア様。ララフレア様の客人だから、使用人も領内の住民たちも何も言いません。ですがここには、知人や友人を男の手によって奪われた者が多くいるんです。……簡単に信用することができないことは、どうぞご理解ください」