様々なNTRの刺客がいるこの世界で、俺は彼女たちの絶対的な王になる 作:柊咲
「昨日、街を歩いてみてどう感じた?」
「どうもなにも、誰とも話せなかった。ただ静かで誰もいない街中を見て歩いただけだ」
「普段は賑やかなのに残念ね」
「俺が来たからだろ。男という存在が、ここの連中からいかに憎まれているかがよくわかったさ」
「だけど、数ヶ月前だったらここまで酷くなかったと思うわ」
「そうなのか?」
「マリディナに聞いたけど、メリナがリリアに怒ったって」
「女が結界の外から男を連れて来て、女が攫われたって話しか?」
ララフレアは頷き、悲し気に視線を下げた。
「その話ね、ずっと昔のこととかじゃないのよ」
「なに?」
「数週間前の出来事。まだ攫われて、そこまで日数が経っていないの」
「そう、だったのか……。じゃあ、俺たちはその出来事と類似した状況を起こしてしまったんだな」
攫われた彼女たちの気持ちを全て理解できるわけではない。それでも、リリアのようにトラウマを抱えた出来事と同じようなことをすぐに体験したら、ああいう態度になるのも頷ける。
「それなのに、お前は俺をここに呼んだのか? こうなること、わかっていたんじゃないのか?」
傷口を抉ることぐらいララフレアだって百も承知だ。俺が領主であれば、領民にそんな思いさせない。
「ええ、わかっていたわ。それでもあなたを──外の男を呼ぶ必要があったの」
と、ララフレアは指を鳴らす。
その瞬間、俺の周りにあの爆発する花々が咲く。
俺は警戒した。
だが、ララフレアはすぐにそれらを消す。
「これはリーデカルラ領の領主に与えられた力『炎華《ラ・アレフシア》』よ。私が思ったとこに爆発する花を咲かせ、自由自在に発火させる力。その範囲も火力も自由自在。やろうと思えば領内全てを火の海にすることもできる」
あの日の光景を思い出す。
発現から発火までおよそ一秒ほどだった。
あれは見てから回避するのは難しい。そもそも、回避した先にこの花が無いかどうかなんてわからない。
自然と警戒するように全身に力が入る。
「安心しなさい、そんなことしないから。それにそんなことをしたら私自身だって死んじゃうじゃない」
「自分には当たらない……みたいな力ではないんだな」
「そうなれば良かったんだけどね」
そうなったら鍛えた自分が馬鹿みたいだ。
だが、そんな最強の力の説明を受けて疑問が浮かんだ。
「そんな圧倒的な力があるなら、どうしてすぐ助けに行かなかったんだ?」
先程の話に戻る。
ララフレアの炎華《ラ・アレフシア》という力があれば、未然に防ぐことができなかったとしても、処女宮の結界の外に連れ出された者を単身で救いに行くことができたはずだ。
ララフレアはそんな単純な疑問に、悔しそうに答えた。
「この特別な力は、処女宮の結界の中でしか使えないのよ」
「なに?」
「そして、天馬騎士が使っていたあの力も。なんならリリアが乗るペガサスも、処女宮の結界の外は出られない。もし出られていたら、リリアだって捕まる前にペガサスに乗って逃げられたでしょ?」
そういえばそうだったと納得する。
「つまり、お前たち女は結界の外に一歩でも出たら無力になるのか?」
「はっきり言うわね……でも、その通りよ。だからみんな、この処女宮の結界から出たら駄目だと強く言うの。逃げる術も、抗う術も、何もかもを失うから」
ここは、例えで想像した鳥籠よりもずっと強力な鳥籠だったようだ。
「私たちはこの鳥籠の中でだけ自由に羽ばたける。だけどそこから一歩でも出たら、そこはもう鳥が自由に飛べない領域なのよ」
「そういうことだったのか」
「あなたは知らなかったけど、そのカラクリを外の男たちのほとんどが知っている。だから連中はあの手この手を使って、まずは私たちを処女宮の結界の外に連れ出そうと考える。リリアのように何も知らずに出て来たところを捕まえ……」
ララフレアは先の言葉は喋らなかった。
言わなくても先のことはわかったから、俺も聞くことはない。
「それで終わる場合もある。二度と、帰ってこれない場合も。だけど、新しい”鳥を捕まえる罠”への手段にする連中の方が多いのよ」
ララフレアは立ち上がる。
その表情に笑顔も悔しさも苦しさもない。ただ覚悟を決めたような、そんな力強い表情だった。
「実際に見てもらった方が早いわね。付いてきて、マキシム」
部屋を出ると、廊下で待っていたマリディナと他のメイドたちに指示を出す。
「マキシムと共に結界前へ行くわ」
「──ッ!?」
マリディナを除くメイドたちの目が驚きから大きく見開く。
「馬車の用意をして、それとリリアも呼んでちょうだい」
「……ですがララフレア様、あそこは」
「早くしなさい。これも必要なことなの、わかってちょうだい」
「……かしこまりました」
何か言いたげなマリディナへと強引に指示を出し、俺たちは馬車へ。
「マキシムさん!」
「リリアか」
「何かあったんですか?」
「さあな。説明がいつも足りないララフレアの呼び出しだ」
ララフレアの指示で呼ばれたリリアも合流する。
話の流れから、あまり楽しいことが待っているとは思えないが。
用意された二台の馬車。
ララフレアと俺とリリアを乗せた馬車と、マリディナと数名のメイドを乗せた馬車。
真っ直ぐ目的地へ向かう。
その道中、ララフレアは一言も喋らなかった。
賑やかな街中を抜けると、俺の生まれ育った村周辺の平原に似た何も無い場所を走る。
初めてアジュミラルに来たとき周りには湖だけだったが、ここは処女宮の結界まで道が続いている。
「リリア、大丈夫か?」
「は、はい、大丈夫です」
結界へと近付くにつれリリアの表情が強張る。
まるで死刑台に向かうような、そんな苦しそうな表情。
あの日のことを無意識に思い出してしまったのだろう。
彼女の手を握ると、リリアの表情は少しだけ安心したように笑う。
「……着いたわね」
馬車が停まる。
久しぶりに喋ったララフレアは目を閉じ、息を吐く。
「ごめんなさい、みんな」
そして謝った。
その謝罪にどんな意味があるのかわからなかった。それを聞ける雰囲気でもない。
俺たちは馬車を降りる。
目の前を結界が塞ぐ光景を、俺は今まで何年も見てきた。ただ違うのは、目の前が湖だったあの時の景色とは違い、結界の奥すぐに集落のような木で作られた家屋が見えるということ。
そこには人の姿が……。
いや、正確には人ではない。
一切の毛がない裸体に青白い肌。
結界越しでも大きさは3mほどはあるように見えた。
鍛え抜かれた肉体は、一目で俺と同じ男という性別に分別された存在だとわかった。
「あれは?」
「あれはリーデカルラ領に隣接する種族の”一つ”──大鬼族《オーガ》。馬鹿みたいに大きい体と筋力だけが自慢の、低能な種族よ」
熊よりも少しだけ大きい肉体を持ったオーガの一体がこちらの存在に気付く。
会話する声は聞こえないが、他の連中に何かを指示するような反応を見せた。
そしてすぐに、何を指示したのかがわかった……。
「──ッ!?」
家屋から運ばれて来たのは車輪に大きな板を乗せただけの台車だった。
その台車はゆっくりとこちらへと近付いてくる。
ぼやけた結界の景色が徐々に鮮明に見え、その台車に乗せられた存在が見えた。
「たす、けて……ッ! お願い、助けて……ください、ララフレアさまッ!」
「ララフレア、さま……ッ! ララフレア様……ッ!」
台車に乗せられていたのは、生々しい傷痕を剥き出しにされた全裸の人間の女だった。
一人、二人、三人。
横一列に並べられた彼女たちは涙を流し、結界のこちら側にいるララフレアへ必死に助けを求めていた。
「グヒヒ……オラ、モット、ナケ……ッ!」
一体のオーガが手に持っていたこん棒で女の脚を力一杯に殴った。
「いやああああ……ッ! 痛い、痛い痛い痛い痛いッ! ララフレア様、ララフレア様!」
「なんで、どうしてこんな……わたしたちが、こんな目に合わないといけないの! どうしてみんな、そこにいるのに助けてくれないの……ッ!」
「ソウダ、タスケ、コナイト……エイエン、ナグル、ゾ……!」
オーガたちは、牙を剥き出しにして笑っていた。