研究所の人達は口を揃えて言う。彩葉はお酒に強いって。メンテナンスの時に時々研究所の職員の人とお話するんだけど、みぃ〜んな口を揃えて彩葉が『酔って』る所を見たことがないって言う。
かく言うかぐやも、そんな気はしてた。彩葉ってばいつもはしゃんとしてるし、依存性の高いものは全く触れてない。お酒ぐらいかな。でも、そのお酒すらもたま〜に飲むぐらいで全く『酔って』いる所を見た事がない。だけど、今日は違ったみたい。
「彩葉ぁ〜…酔すぎだってば…」
「ん〜?なにがぁ?」
「も〜!ちょっとぉ〜くっつき過ぎ!」
「え〜、いいじゃ〜ん」
今日は何故かべろんべろんに『酔って』いる。彩葉はお酒が入るとスキンシップがやたらと多くなる。今は、まるでスライムのように絡みついてくる。かぐやに体重を乗せてのしかかってくる。もう完全にスライムだ。
「今日は仕事頑張ったんやから、ええやんか~」
「もぅ…」
蕩けた声に、瞼が垂れた艶やかな顔。それに方言まで出てきている。本格的に『酔って』いる。でも、彩葉はお酒に酔わないとこうしてかぐやの近くに『寄って』来ない。
彩葉は、昼間はすごく仕事の出来る人として、夜は理想の彼女として、ずっと自分をよく見せようとしているのが最近わかった。どうやら、それはかぐやが帰ってきたからこそ自分に厳しくなっているらしい。それがどういう理由なのかは分からないけど、場合に『よって』は例外なんだと思う。
そう。今日、今この瞬間みたいに。
「ちゅ〜、しよ〜かぁ、かぐや。ちゅぅ〜」
「んむっ!む〜〜っ!むむ〜っ!」
ねじ込まれるキスに必死の抵抗虚しくかぐやは彩葉についに押し倒されてしまった。ここからはもう彩葉のターン。お酒に『酔って』しまった彩葉はもう止められない。
「ちょ、いろ、はっ…んむっ…んっ……んんっ……」
しっかり組み伏せられて、口の中を彩葉の舌が這い回る。歯型をなぞったり、口内を確認するように隅から隅まで味わうように舐ってくる。お酒を流し込まれてるみたいでこっちまで体が熱くなってきちゃった。
「い、いろはぁ…キス長すぎだってば…」
「ええ〜?お仕事頑張ってきたんやから、これくらい許してや〜」
キスは、行ってきますの時も、おかえりなさいの時も、日頃のスキンシップの意味合いでもしてる。それなのに今日はいつもと違う。何でなんだろう。彩葉がこんなに分かりやすく『酔う』まで飲んだのは始めてみる。
いつもと違う様子を見るとほんの少しだけ心配になる。
「彩葉、なんかあった?」
「ん〜?」
「わっ」
わたしを撫でる手がほんの少し止まったと思ったら、急に抱き上げられて後ろから抱きしめてくれた。そしてまた頭を撫で始めた。
「なんにもあらへんで。ただかぐやがここにおるな〜って思っただけや」
「ほんとに?……んっ」
振り向けばキス。口とほっぺと首筋に。短い触れるだけのもの。なんだか逆に距離を感じる。かぐやに巻き付く腕の力もなんだか強い気がする。なんだか隠し事されているみたいで少し腹が立つ。何も言ってくれない。愛撫で誤魔化そうとしているようなそんな感じがする。
そう思ったわたしは、体を反転させて彩葉と向き合った。
「かぐや?」
「ホントのこと言ってよ彩葉。今日はちょっと様子がおかしいよ」
少し真剣な顔で言ってやった。彩葉は別にキョトンとする訳でもなく、呆然とする訳でもない。さっきまでと同じく蕩けた顔をしている。でも、笑顔じゃない。理性の残っている顔だった。
「ほんとに何でもないよ。私はただこの瞬間を噛み締めてるだけ。かぐやがここに居る。戻ってきたんだって、実感してたいの」
わたしの髪を掬い上げ、耳に掛けてきた。その仕草にわたしの胸は一瞬高鳴る。彩葉はいつもの声色に戻っていた。いつもの優しい彩葉に戻っている。
そんな風に涼しい顔ができるなんて彩葉はずるい。そんなのずるいよ彩葉。かぐやだけずっとドキドキしてるみたいじゃん。かぐやだって彩葉に『よって』変えられた。変えられてしまった。月から離れて、この星の人に変えられてしまった。この体も、心も、彩葉に『よって』変えられてしまった。
「彩葉ばっかりずるいよ」
「なんで?」
首を傾げる彩葉に分からせるために、彩葉の手をかぐやの胸に当てる。
「こんなにドキドキしてる。かぐやばっかり。それなのに彩葉はそんな風に余裕があるのはずるいよ」
「余裕……か」
布が擦れる音。服の上から胸に当てた手がゆっくり下に降りてゆく。
「んっ……」
終いには服の中に手が入ってくる。ほんの少し冷たい手の感触が体に伝わってきて声が漏れてしまう。
かぐや、もしかして自爆した?彩葉の顔が“仲良し”してる時の顔になってるように見える。
「かぐやにこんな事されて、今の私に余裕があると思う?何も付けてないでしょ?これ」
お腹の辺りまで服を捲られて、脱ぎ掛けになるほどズボンを下げられて、よくよく考えたら確かに今のかぐやは彩葉に跨って、自分から彩葉に襲ってくれと言っているようなものだね。それは確かに酒寄所長も余裕なんて無くなるのかな。
「今日はかぐやの色んなトコロに触れたいな」
「うん…いいよ。いっぱい触って。彩葉」
その時は、キスから始めたのか、服を脱ぐ所から始めたのか、もう覚えていない。