クソ短い。
「ん……」
ヤチヨはゆっくり目が覚めた。午後の気だるさが増してくる時間。瞳だけ動かして時計を見ると、時間は十五時。先程まで愛されていた体が怠い。仕返しに抱きしめてやろうと思い隣を手探る。
「……?」
すると、隣に居るはずの彩葉が居ない。ベッドにはまだ温もりが残っている。先にヤチヨより起きたようだ。リビングの方から何か音が聞こえる。のそのそ起き上がってヤチヨもリビングへ行こうとしたが、自分の格好を見て流石に裸で家を彷徨くのはイケナイでしょう、と首を横に振る。
「これでいいか…」
まだ寝ぼけてい頭で適当に椅子にかけてあった服を一枚羽織る。よく見ると、彩葉の仕事着の白衣だった。
「結構おっきいな。彩葉の白衣」
鏡で自分の姿を見て右へ左へ体を揺らしてみせる。
「んふふっ」
膝下まで丈が伸びている白衣はまるで羽衣のようにヤチヨを彩る。けれどヤチヨにとって一番嬉しいのは彩葉のものだということ。肌で感じて、鼻で吸って、自分で自分を抱きしめる。まるで彩葉に包まれているようでヤチヨは上機嫌になる。生きている自分を感じて、上機嫌のままリビングへ向かった。
「い〜ろは。おはよう」
「おはよう。ヤチヨ…ってもぅ、なんて格好してるの」
リビングで飲み物を啜っていた彩葉が呆れた顔をする。その様子にヤチヨは思っていた反応ではないと口を尖らせた。
「ぶぅ〜、彩葉だって同じぐらい脱いでるじゃん」
「ヤチヨの方が脱いでるよ。私はちゃんと下着つけてるし」
「ふぅん?」
「ちょっとそんなジロジロ見ないでよ………って、それ私の白衣じゃん」
「あ、気づいてくれた?ど〜ぉ?彩葉。今のヤッチョは」
白衣の天使が綺麗なターンを描いて見せた。そりゃあもちろん綺麗だし、可愛い。だけど、白衣一枚だけで後は生まれたままな姿なのはそれ以上見ていると堪えられそうに無いので、あえて彩葉は目を背けた。
「だとしてもあんまりだから、ちゃんと服は着て」
「難しく言う〜。可愛くて見てられないって素直になってくれればいいのに」
「さっきまでヤチヨは何されてたか分かってる?」
「え〜?ヤッチョは赤ちゃんだから分かんないな〜?」
ゆっくりと、彩葉に前かがみで詰め寄った。揺れる髪と胸。何処に目を配っても見えるのはヤチヨのあられもない姿だけ。もう一言言ってやろうと今度は顔を見ると彩葉の事を揶揄いたくてイタズラな顔で笑っている。その子供らしいヤチヨの表情にギャップを感じてしまい、咄嗟に顔を逸らしてしまった。
「っ…ヤチヨ近い」
「ふふ〜ん、彩葉ってばヤッチョの魅力の虜だね〜」
ノリノリなヤチヨに少しムッとして返してしまった彩葉。その余裕な表情や態度が気に食わなくて、それを崩すべく彩葉は無遠慮にヤチヨを抱き寄せた。
「ねぇ、ヤチヨ?」
「え、ちょ…彩葉?」
腰に腕を回して、腕を引く。既にキス直前の距離。
ヤチヨの表情が急に逆転する。さっきまでの余裕はどこへやら、乙女の顔へ変わる。彩葉の瞳はしっかりヤチヨを捉えている。そこに居るのはさっきまでヤチヨを愛していた恋人の顔。決して逃れられない視線。
「そんなに煽ってくるって事はまだ足りなかったって事でいい?」
小さく顎を指で撫でられる。挑発的な態度を返してみると、ヤチヨは途端に慌て出す。こうなると二人の立場は逆転する。逃げ場が無くなった兎は狐の前では無力なのだ。
「ぃ…彩葉、まだ起きたばっかだからさ、ね?」
「へぇ、でも私は元気だよ?」
「ヤッチョの事は心配してくれないのかにゃ〜……?」
「してるよ。ずっとしてる。だから、ちゃんと私のものだって教えておかないとね」
「いろ───んぅ!?」
塞がれた唇。
嬲られる体。
味わうように溶かされたヤチヨはもう既に力が入っていない。彩葉の腕に支えられて、期待に満ちた顔になってしまった。
「ぃ…ぃろは?」
困惑するヤチヨに舌なめずりをする彩葉。その表情はさっきまでヤチヨが見ていた上に被さっている攻めの顔。
「ちょうど良かったよ。今日はやめにしようかと思ってたけど。ヤチヨがまだ元気そうなら、もう少し頑張って貰おうかな。私もまだ足りないし」
梳かした髪を撫でながら、白衣で隠れた肩を出す。
「いい?ヤチヨ」
「………ひゃい」