芦花の感じってこれで合ってるよね?
いろろかです。
これはかぐやがまだ目覚める前の話。
「芦花、家ついたよ」
「ん…ごめん…ありがと…」
彩葉がリビングの扉を開ける。芦花が目を開けばそこは彩葉の家だった。芦花はフラフラの千鳥足で彩葉に担がれていた。両手を塞がれた彩葉はヤチヨに電気を着けるように呼びかけるが、どうやら、ヤチヨは今はスリープモードらしい。忘れていた彩葉は自分を馬鹿にするようにため息を吐いて、芦花を月明かりの照らすソファにゆっくりと座らせた。
「珍しいね。芦花がこんなに酔っちゃうの」
「ふふ…なんかね。気が抜けちゃったのかも…」
渡された水を飲みながら、ほっと一息ついた芦花。
お互いの生活が落ち着き始めた頃の話。今日は久しぶりに3人で飲みに集まれた日。真実は家の事があるので先に帰ったが、芦花と彩葉は二人で2軒目を回って帰って来ていた。
「まだ酔いが回ってるなら肩貸そうか?」
「ん…お願いしようかな…」
おいで、と彩葉は芦花の頭を自身の方に乗せた。彩葉と二人きりという事実が芦花の気分を上げていた。酒の進みも早かった気がする。二人だけの空間になった事がこんなに自分を逸る気持ちにさせるとは思わなかった。コップの水面に浮かぶ自分の顔はまだ赤い。体温よりも高揚よりももっと別なものでまだ昂っている。
「今日はこのまま泊まっていいからね。明日休みなんでしょ?」
「ありがとう彩葉。何から何まで」
「いいよ。私も久しぶりに三人で飲めて楽しかったし」
どうかこの夢から醒めないで。
どうか時間が止まりますように。
まだ子供の頃の感情を抱えているなんて吐露したら、彩葉どんな顔をするのだろう。飲み終えたコップを置いて考える。うつらうつらと眠たくなるのは、眠気ではない方。一夜の冷たさと彩葉の温もりに当てられて、芦花は自分でもよく知っている醜い感情が滲んできた。
「もうすぐ、かぐやとも会えるし。今の私にはいい事尽くめだよ」
「そっか…かぐやちゃんももうすぐ目覚めるんだね」
そうしたら、彩葉はまたかぐやの居る日常に戻る。全てが元に戻るのだ。それは芦花も真実も応援していた事。そこで自分勝手になって彩葉にこの感情を伝えるなんて勝手すぎる。もしかしたら、彩葉との関係が壊れてしまうのかもしれない。
行かないで。
芦花の頭を撫でてくれる手もかぐやのものになってしまう。そう思うと少しだけ眉間にシワが寄ってしまった。たった数週間一緒に居ただけで、彩葉にここまで影響を与える存在がいる事に芦花は焦りを覚えたこともあった。素直になれなかった日もあった。かぐやの為に頑張り過ぎだ、と責めた事もあった。
行かないで。
だから、そんな風に思っても彩葉はきっとかぐやの為に尽くすだろうと知っていた。かぐやの為に生きていける人になった事も薄々察していた。そのせいで余計に焦り出したのも覚えている。今は仕事に埋め尽くされる事でそれを忘れさせてきた。他のものに埋まれば考えずに済むと思ったからだ。
行かないで。
けれど、まだそれは捨てきれないもので、頭の中でずっと囁き続けている。この刹那もずっと芦花の頭の中を駆け巡っている。一夜の誤ちなどとそんな可愛いもので済むはずがない。見解の相違なんて難しい言葉で済むはずがない。彩葉にはかぐやが居る。覆る事のない事実が芦花の前に立ち塞がっているからだ。
「かぐやに会えたら何かしたい事とかある?」
「ん〜、何だろう。また可愛いコーデとかしてあげたいかな」
その名前を口にしないで。嫉妬に溢れた顔を作ってしまった。けれど、彩葉の方に向かない。顔を見せないで会話する。察せられるのは好きじゃない。察する事は出来るから。彩葉との関係を壊したくないその一心で芦花は今にも暴れ出しそうな感情と動き出しそうな体を抑えている。
「それいいね。芦花がコーデしてくれた服。かぐやも気に入ってくれてたからさ」
「そっか、なんか嬉しいな」
言わないで。言わないで。口に出さないで。
心の中のもう一人。芦花の中で生まれた存在。醜く、ドス黒い、最低なヤツ。彩葉を自分のモノにしたいと願い望んでいるヤツ。ソイツのせいでもうあまり何も考えられなくなっていた。
「芦花、水無いじゃん。持ってくるね」
そう言って、彩葉が立ち上がった刹那───。
行かないで。行かないで。行かないで。
焦る気持ちが、逆に芦花の背中を押した。気づけば芦花は彩葉の上に居た。しかも、キスまでしている。最低な上に、最悪な状況になった。もう戻れない。あの日にも、あの時にも、全てを壊した気がした。全てを投げ飛ばした気がした。何かの開戦の合図がした。押し付けた唇がまだ感触がする前に離してしまった。たった一瞬のキスは二人の世界の時間を止めた。
「芦…花?」
そら見た事か。やっぱりこうなった。分かりきっている時に分かり切っていることをするからこうなる。失敗すると分かっていて地雷を踏むやつがあるか。困惑した彩葉の顔がそれを物語っている。嬉しがってくれる訳でもない、ただ困らせてしまっただけ。思っていた事と違う事が起きると分かっていたのに、瞳からは何かが零れ出す。
「ごめん…彩葉。ごめん」
行かないで。行かないで。行かないで。
ただ、ただ、心がずっと唱えている。目の前にいる好きな人を抱きとめたまま、このまま時間が止まってしまえばいいと芦花は間違いを唱え続ける。悲しい歌を心の中で誰かが歌っている。儚い人よ。私の心をどうか壊しておくれ。拭っても拭っても落ちてくる雫は彩葉の服を濡らしている。
「芦花、落ち着いて。ちゃんと話そう?」
足りない、足りない、足りないよ。彩葉の事が。
触れ合うだけで満足したかったのに、芦花の体と心はずっと何かを叫んでいる。酔った勢いというのは本当に下衆なもので、勢いだけで何かをやろうとしてしまう。曖昧な世界の中で、彩葉を見下ろす芦花の顔は困惑していて熱っぽさを残してる。衝動だけが先走り、芦花の心を焦らせる。この刹那の一夜を逃したら、きっと後にも先にも俯いた自分が映るだろうと確信した。
「………彩葉」
落ちて、朽ちて、枯れてゆく。
芦花の心か。芦花の涙か。心がろ過されるわけでも無く。ただ汚れた水がそこらに溢れている。三十六度の温度がまだ芦花の頬に触れている。彩葉は優しい。どんな人よりも、どんな時も、だからこうして慰めてくれる。優しさを明け渡して生まれてきた彩葉にはきっと今の芦花の気持ちは理解出来ない。何故なら、彩葉にはかぐやが居るからだ。
「好きなの…わたしッ…彩葉のことが好きなの…ッ」
吐露して、泣いて、情けない。
二十代の女が悩みに悩んだ末の行動と告白。あまりにも情けない。もう少しスマートになるはずだったのに、本来は言わないはずだったのに。刹那の一夜が芦花を惑わせる。けれど彩葉はまだ困惑している。
「なんで、私なの…?」
その声色は、本当の疑問符の声だった。嫌だからとか、気持ち悪いではなく、本当に理由を欲しがっているだけの言葉だった。
「ずっと、友達だけでいいって思ってたの…」
隣に居る。友達として隣に居る。それだけでよかった。そう思い始めたのはいつ頃だったろうか。そう思い始めた時、逆に芦花は彩葉の事が好きだと気づいた。友達以上になりたいと思ってしまった。隣に居る、というより、居たいと思ってしまった。自分に振り向いて欲しいと思うようになってしまった。学校で過ごす内に彩葉の優しさに触れて、強さに触れて、弱さを見せない不器用さに触れて、傍に居てあげたいと思ってしまったからだ。だから、芦花はあまり踏み込み過ぎないようにしていた。そんな事をしたら、彩葉が居ないといけない体になってしまうから。行かないで、とずっと唱えてしまうから。
「わたしやっぱり、諦められないよ。だって、最初から好きだったのはわたしの方なんだよ!それなのに、かぐやちゃんが来てから彩葉はずっとあの子の事ばっかりで、わたし……わたし……っ…」
言ってはいけない言葉。ずっとずっと潜めて、飲み込んできた言葉。こんな事を言ったら彩葉は絶対に傷ついてしまう。何故なら、彩葉はかぐやの為に頑張っているのだから。それを踏みにじるような言葉を言ってはいけない。今の彩葉にわたしに振り向いてと言ってはいけない。芦花も重々承知だった。お酒の勢いに任せてこんな事になるなんて。芦花の涙は何処から後悔してるのか分からなくなっていた。
「そっか。私って、芦花の気持ちに気づいてなかったんだね」
落ちる雫を彩葉の指が拭う。
「違う…違うの。わたしがこんな事を考えなければよかったの…だから…」
「どうして?私はその気持ち、嬉しいよ?」
「ぇ…?」
「確かに、かぐやと居たいって言ったけど、別にかぐやと付き合いたい訳じゃないよ」
「え…?え…?それ…どういう…?」
気づけば芦花が下になっている。さっきまで優しく撫でてくれていた手は互いを繋ぐように絡んでいる。
「芦花がそういう風に考えてくれてるなら。私もちゃんと答えないとね」
「い、彩葉?それってどういう───んぅ!?」
今度は彩葉からの答え。今起きている出来事は芦花にとって夢のような瞬間だった。強ばった体から力が抜けて、瞳が自然と閉じてしまった。感覚だけで彩葉を感じ取りたいと腕が彩葉を掴んでいる。
「っは…ま、って…彩葉…んっ…!」
心が急に慌て出す。まさかこうなるなんて思っていなかったから、受け入れ難くも受け入れてしまう。
「その気持ちを伝えてくれて、私は嬉しいよ?」
「へ?」
「ずっと私の事支えてくれてたのは芦花も一緒だもん。そんな友達に対して、何も気持ちを抱かないわけないでしょ?」
「い…彩葉…」
同じ気持ちだったのだろうか。同じ考えを持っていたのだろうか。彩葉の瞳に嘘はない。今の言葉に嘘は感じない。動悸が激しい心臓が、芦花を酔いか覚ましてくれる。けれどまだ醒めたくない。自分からもう一度伝えるまではまだ醒めないで欲しい。
芦花は彩葉の頬に両手を添えて涙ながらに確かめた。
「わたし…っ…いいの?彩葉の事、ちゃんと好きになっていいの?」
「もちろん。私も、芦花が好きだよ」
醒めないで。醒めないで。醒めたくない。
涙を零しながら、高揚した気持ちのまま、彩葉にしがみつくように抱きしめ合う。見つめあった二人はもう止まれない。溢れた気持ちは二人の間を行き交っている。キスだけじゃ足りなくなったお互いは、その興奮を冷ます何かを求めて溶け合った。
・・・・・・*
「は…ンッ、あ…彩葉、そこ…んぁっ…!」
下に組み伏せられた芦花は彩葉にされるがまま。首筋を舐られ、服の中をまさぐられている。かく言う彩葉も段々と余裕がなくなってきているのがその表情から見て取れる。さっきまでしっかり開いていた瞳も段々と目尻が下がってきている。心做しか息も荒くなっているようだ。
「芦花の体ってホント綺麗だよね。触ってて気持ちいい」
「ちょ、変な事言わないでよ…ふぁ…っ!?」
ブラの中に手が入ってきた。まだ誰にも触れられたことの無い場所。一人で慰めた事はあれどその対象から触れられると一段と刺激が強い。
「ここ、弱い?もしかして」
「っ、やめ、言わない…でぇ…っ!」
下から上へ、胸の上に舌が這う。片方は舐められ、片方は摘まれ声が出ないように我慢することしかでしない。口元を抑えて必死に顔を隠す。だが彩葉はそれを楽しむかのように芦花を見つめている。する側とされている側では違うのだから当然だ。
「芦花の我慢してる顔、可愛いね」
「んぅぅぅっ…!」
じゅぅぅぅ、と舐められていた片方の突起が吸われる。彩葉の口に引き上げられるように体が反る。そして、下の方が何かで湿った感覚がやってきた。軽く達してしまった事に気づかれたのか、彩葉は芦花のズボンに手を添える。
「下、着けたままなのヤじゃない?」
「み…見るの?ソコ…」
「だって、このままだと気持ち悪いでしょ?」
「ん……そぅ…だけど…」
芦花が迷っていると彩葉は構わすズボンと下着をずらして、ずぶ濡れになったソコを曝け出す。
「っ…彩葉っ!まっ、て…そこ汚いから…!」
「芦花に汚いの所なんてないよ」
「ひっ!」
溢れて濡れた場所に彩葉の舌が絡む。
もう進む所まで進み過ぎて何が何だか分からなくなってきた。膣の中で舌が這い回り、まさぐられる。今までにない感覚で芦花の瞳が白黒と点滅する。自分の腟に誰かが入ってきている。しかもそれは自分がずっと好きだった人の舌。誰にも触らせた事のないソコは今大好きな人が犯している。
「“コレ”勃ってるね?」
「んゃぁっ!?」
秘裂が開かれて、ソコにある豆が舌で弄られる。
たたん、たたん、と舌で転がすように弾かれて、芦花は下品な声と一緒に体がまた反り返る。彩葉を退けようとしても繋がれた手が離れない。もういっぱいいっぱいな芦花は何もか考えることができず、ただ下からやってくる快感を頭で処理する事で精一杯だった。
「い、いろ、っううぅ…!」
どれだけ強く食いしばっても、やって来る波が強すぎる。
「はぁ…っ…はぁぁぁぁ……!」
どれだけ排熱しても、熱が収まることはない。
弾かれていた場所は今度は優しくあやす様に舐め始めた。もどかしい快感が逆に気持ちいい。甘イキだけを繰り返して頭の中がパチパチと弾けている。
(まだ…まだ、もう少しだけ……)
まだ果てないで。まだ醒めないで。まだ感じさせて。
芦花の考える事はずっと同じだった。この時間が終わって欲しくない。ただそれだけ。もしかしたら、この時間がただの夢で、次の長い針が天井に届いた時、何も残っていないかもしれない。彩葉が居なくなっているのかもしれない。自分はもう要らないものになっているかもしれない。そんな不安すらも抱いている。感じさせてくれるこの時間が明けない夜になってしまえばいいと、芦花は快感に揺さぶられながらも思った。
「はぁ、っぅぅぅぅぅぅぅ…!?」
それでも、彩葉は何もやめてはくれない。逆に芦花の反応のせいで興奮している。舌の動きが止まったかと思えば、今度はその長い指が入ってきた。
「い、彩葉…っ、それ、指っ…!」
「凄いね、勝手に2本も入ったよ」
腟内を弄られて身悶えする芦花を眺めながら、サディストとなった彩葉の顔は何処の誰よりも楽しそうな顔だった。
「まっ、待っていろはぁぁ…!急にそんなっ…ひゃぁっ!!!??」
「え〜、今の芦花凄い気持ちよさそうだよ?」
「だって、いろはが触ってくれるからっ…!」
今にも狂いだしそうな程の指の動き。腟内のありとあらゆる場所に触れられて、芦花の体は何度も跳ねる。
「っひ…や、やだぁ…!」
その否定は何のためか、夢から醒めないためか、それともこの時間が終わるのが嫌なのか。彩葉の指から逃げるようにソファを這いずる。
「こ〜ら、そんな動いたら痛いでしょ」
「ひっ!!」
逃げる体を掴まれて、彩葉の指が一気に奥まで差し込まれる。その勢いは男根そのもの。奥を突かれた芦花はその快感を逃す事が出来ず、縮こまる事しか出来なかった。
「やだっ…わたしっ…も、…っ」
「うん。いつでもいいよ芦花」
ソファに置いてあるクッションがシワになるほど握りしめて、芦花は限界に達した体を解き放った。
「ひ、ぃ、ぁ、あああぁぁぁぁぁ───!!」
・・・・・・*
「ん……んん…」
小鳥が鳴いている。意識を目覚めさせて目を開けるともう外は朝になっていた。
「朝…?」
体を起こすと気怠さがやって来た。心做しか下腹部の辺りが何故かふわふわと浮いているような感覚。そして、辺りを見回すと自分がよく知っている人の家のベッドだった。
「彩葉の家?───っ!?」
そうだ、思い出した。昨日は酒に酔った勢いで色々飛び越してしまった。昨日芦花は彩葉に対して何を言ったのか、何をしたのか、何を願ったのか、何をされたのか、何処まで致したのか、全て思い出した。
布団をめくれば裸、床下を見れば脱ぎ散らかした服、昨日の酒の勢いという名の夢の時間が終わってしまったらしい。
「あ、芦花。おはよう」
「い、いいい彩葉!?ぉ…おはよう…」
と、一人で青ざめていた所に裸ワイシャツの彩葉がコーヒーカップをふたつ持ってやって来た。その姿に見蕩れていると彩葉は構わず芦花の隣に座る。
「はい。コーヒー」
「ぁりがと…ねぇ、彩葉。昨日の事なんだけど…」
「ん?うん。覚えてるよ。芦花が私のこと好きだって言ってくれたこと」
「やっぱり…」
うぁ〜…、と芦花はその場で蹲った。そんな芦花のあまり見ない表情や仕草に彩葉はケラケラと笑っている。
「昨日の芦花、ほんとに可愛かったよ?」
「揶揄わないでよ。も〜ほんとに恥ずかしい…」
「嘘じゃないよ」
「ぇ?」
彩葉はカップを置いて、芦花の髪を少し絡め取る。
「好き。好き。ってずっと私に伝えてくれて、ほんとに私のモノになったんだな〜って感じがして結構良かったよ?」
「そ…んなの…」
「なんなら、もう一回思い出させてあげようか?」
そう言って、絡めとった髪に口付ける彩葉。その仕草だけでも昨日の濃厚な記憶が少し蘇る。
どれだけ求めてしまったか。
どれだけ欲しがってしまったか。
どれだけ貰ってしまったか。
かぐやには言えないような一夜を過ごしてしまった事の罪悪感と彩葉が自分の事だけを見てくれている高揚感が合わさった気分。これはなんというべきなのだろう。芦花は彩葉の手を握って呟いた。
「まだ…夢じゃないって教えてくれるんだよね?」
上目遣いの芦花に彩葉小さく笑い、コーヒーカップを置いた。
「もちろん」