BIOHAZARD-PALADISE・LOST- 作:秋乃楓
1998年10月2日
1つの街が核ミサイルによって消滅した。
ラクーンシティ...元は小さな田舎町だったが製薬企業アンブレラの工場が郊外に建設された事で
街は飛躍的に発展し瞬く間にし街はやがて都市へと成長を遂げていった。
このまま街は成長し続け更なる発展を遂げるのだろうと思われていたがそうはいかなかった。
アンブレラがラクーンシティの地下に建設した施設で発生したトラブルにより研究されていたウィルスが漏洩、
それが引き金となり街は活気にあふれる豊かな場所から死者が彷徨う地獄へと一瞬で変貌する。
あの街にも人は住んでいて、誰もが当たり前に来る明日を信じて生きていた。
それが未曾有のバイオハザードで全て無に返ったのだ。
あの惨劇をもう繰り返してはならない...そう謳いながらも世界の何処かしらでバイオテロは繰り返され、その度に誰かが泣いて苦しんでいる。全てを無かった事になんて出来る訳が無い、忘れる事も出来はしない。
負った傷はずっとずっとこの先も残り続ける......人々の心の中に。
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マンハッタン国際大学。
そこはニューヨークのとある州にある大学なのだが学校自体の成績は至って普通で
それなりの学力さえあれば入る事が出来るが有り体に言ってしまえば半分は落ちこぼれや成績不振の者が通う様な所で
しかないがそれでも成績が優秀な者は居る。
その学校内にある職員室に1人の女性がスーツ姿の50代の男性教諭と向かい合う形で立っていた。
中に白のノースリーブシャツを着て黒いジャケットを上から羽織り、下は紺色のジーンズに足元は紐が付いた黒のブーツ、
黄金色の髪は肩に掛かりそうな位置でそれを後ろでリボンにより1つに束ねていた。
対峙する褐色肌の男性は眉間に皺を寄せながら呆れた様な口調と何処か怒りが混じった様な態度で彼女へ話し掛けた。
「全く...今月に入って何度警察の世話になった? 」
「...5回目です。ブライアン教授 」
「お前は何か勘違いしているんじゃないのか?此処は学ぶ場所だ。レポート課題もロクに提出せず、オマケに講義には必ず遅刻、それから深夜遅くまで他の連中と遊んでまた同じことの繰り返し。一体この先どうするんだ?私はお前の保護者でも無ければシッターでも無いんだぞ? 」
「...解ってます 」
「......単位が足りなければ当然留年、卒業しないまま此処で多額の学費を払わせるとなればお前の親は一体どういう顔をするだろうな。他の生徒は既に卒業する為に必要な単位の約半分以上を取得している、それに引き換えお前は1年の時点で留年ギリギリで進級し現時点で取得している単位数は未だに30...成績もCかD判定ばかり。やる気がないなら此処を退学し働いた方がまだマシだと私は思うがお前はどうなんだ?リナ・クロフト 」
そう呼ばれた彼女は唇を噛み締め、視線を彼に合わせると呟いた。
「...大学を出ないと就職するのに困るし...父さんと母さんにも迷惑が掛かる......だからその...ちゃんと勉強します、課題もちゃんと期限を守って── 」
最後まで話そうとするもそれは呆れた様な溜息を吐かれたと同時に遮られる。
「その言葉、もう何度お前の口から聞かされたか解らない。お前には将来の夢とか希望する職業は無いのか? 」
「...父さんと同じB.S.A.Aか或いはテラセイブ...後は警察官になりたいと思ってます 」
「やれやれ、抱いている理想だけは立派だな。先に言っておくが今のお前の成績じゃ夢のまた夢、もし本当に変わりたいと思うのなら真面目に遅刻せず毎日勉強し課題を期限までに提出する事だ。少しはお前のお姉さんを見習ったらどうだ?だがその前にお前は夜遊びする仲間達と縁を切る事から始めた方が良いのかもしれないな。反省文3枚、期限は明後日までだ 」
「...解りました。ご迷惑をお掛けしてすいませんでした 」
一礼するとブライアンは右手で払う様に彼女を追い出す、彼女は歩きながら溜め息を吐いて
擦れ違う生徒達を横目で見ていた。その誰もが楽しそうに笑っていて喋り声が聞こえて来るが
リナはそれに耳を傾ける事はせずに学校から外へ出ると足元にリュックサックを置いて中庭にあるベンチに1人腰掛けていた。
「...私は一体どうしたいんだろう。このまま此処に居てロクに勉強もしないで毎晩遊んで...1限のギリギリまで寝ての繰り返し。見習えって言われた姉さんも行方不明なのにどう見習えっての 」
俯いたと同時に後ろから目隠しをされ、「だーれだ?」と声を掛けられる、手を退けると
背後に居たのは赤茶色の髪をした同年代の女性でニコニコと笑っている。
彼女は赤い半袖シャツに対しチェック柄のミニスカートという如何にも若者らしい恰好をしていて顔立ちもまた美形だった。
「...アリアでしょ、解ってるんだから 」
「ならそう言ってよ。折角、大親友の私が来てあげたんだからさ!その顔からしてまた絞られた感じ? 」
「...少し揉めただけ。飲食店で仲間と居たら絡んで来た奴が居て私にケンカ吹っ掛けて来たからグーで一発。そしたらそのまま── 」
「ケンカ沙汰になったんだ。てか私のリナを傷付けるとかマジありえないんだけど... 」
「...で?私はいつからアンタのモノになったの? 」
「それは...ほら、初めてキスした時!それにリナも満更じゃなさそうだったじゃない 」
照れ臭そうにしながら前方へ来た彼女はリナの左側へ腰掛け、距離を意図的に詰めて来た。
その姿はまるで甘えたそうな子猫か小動物の様にしか見えない。
「...それは同じ性別の方が安心出来るから。別に男が完全にダメだって訳じゃない 」
「そういうの、あまり公で言わない方が良いと思うよ?また悪い虫が集って来る...追い払う側だって大変なんだから少しは解ってよね? 」
横を向いたアリアの左手がリナの股下を触れた直後に腹部へ触れ、それがゆっくり上に上がって来る。
程良い大きさに実ったバストへ触れながら顔を左側の耳元へ近付けて行くも左手を払われたと思えば終いには距離を開けられてしまった。
「...今はそういう気分じゃないの 」
「ちぇ、ダメか......。ねぇリナ、怒られたのがそんなにショックだった? 」
「...そうじゃないけど、私って何で生きているんだろうって考えてた 」
「どうしたのそんな急に哲学的な事言い出して 」
「...いつもエルザ...姉さんと比べられて生きて来たから。姉さんは頭が良いし何でも出来て人付き合いだって良かった。それに引き換え私は引っ込み思案で人付き合いもままならないし、頭も良くない。必ず言われるのは姉さんは良くても妹がこれだとか...期待外れだったとか色々。それで気が付いたらこんな事になってた 」
再び溜息を吐いてから彼女はその場に立ち上がった。
リナは自分が何故生きているのかが解らなかった、行方不明となった存在が姉ではなく自分の方が良かったとさえ
思う様になっていた。周囲が期待するのは自身の姉であるエルザであって自分ではない。
それが幼少期から続いていてある意味リナの中ではコンプレックスそのもの、
優秀な姉と比較される出来損ないの妹...そのレッテルは何処に行っても何をしても貼られるばかりで
正直な話ウンザリしているのは間違いなかった。
「リナ... 」
「...ごめん、そろそろ講義始まるだろうからもう行くね 」
立ち上がり、リュックサックを右肩へ担いではアリアの前から去ると校舎の中へ戻る。
教室へ向かう最中に左側に曲がろうとした時に鉢合わせる形で誰かとぶつかって尻餅をつくような形で倒れてしまった。
「悪ぃ、大丈夫か!? 」
「痛たた...大丈夫、だから何も── 」
差し出された右手を掴もうとした時に目の前に居たのはリチャードという同級生。
白い肌に焦げ茶色をした癖のある髪、黒いインナーを中に着ている他に紺色で半袖の上着を羽織り、同色のジーンズをそれぞれ身に付けている。
「...何だ、リッキーか 」
「何だとは何だよ...てかどうしたんだよ、そんなに急いで 」
彼の手を払って立ち上がるとリナは埃を払いながら溜め息を吐いた。
「...ハワード教授の講義に出るの。理工学部に居る以上は必須単位だから 」
「あー、確かウィルス学だろ?アレあんまり真面目に受けてる奴居ないぜ?話長いし...なんつーかつまんないし 」
「...別に良いでしょ、アンタには関係ないんだから 」
「そう言うなよ...冷たいな。それより俺と付き合えよ、丁度講義終わって暇なんだ。これから2人でドライブでも── 」
「...悪いけどそれはパス。どうせ流れでヤる気なんでしょ?この前だって2人きりになったタイミングでキスしようとして来た癖に 」
「うッ...あ、あれはその...偶々だよ偶々!! 」
「...はいはい、偶々ね。じゃあもう行くから 」
軽く彼をあしらいってから教室へ向かう、だがどういう訳かリチャードも共に同行して来ると
2人は大型の講義室の後ろから入ると並んで着席したタイミングで上下グレーのスーツに赤いネクタイを締めた白髪の
50代半ばで白髪交じりの黒髪をオールバックにした男性が入って来る。周囲を見回すと既に何人かは携帯を触り出したり音楽を聴いたりと自由にし始める、だが彼はそれに構わずにマイクを手にし講義を始めた。
「現在でも続くバイオテロは未だに我々の生活を脅かし続けている...中でも1998年にラクーンシティで発生したバイオハザードの原因はネズミを媒介し感染が広がり── 」
彼の話はウィルスの話の他に細菌等の事細かい部分が多く、確かに若い人からすれば退屈で暇なのは間違いないの
だがリナだけは彼の講義を真面目に聞いて珍しくノートへ書き綴っていた。
それから約1時間後に講義が終わるとリナはハワードの元へ訪れて声を掛ける
「...こんにちはハワード教授 」
「ん?あぁ…リナか。どうだ調子は 」
「...まぁまぁかな。コーヒー…飲みに行っても? 」
「あぁ、構わんよ。少し待っててくれ...片付けるから 」
彼はリナから見て叔父にあたる人物で片付けを済ませると講義室を出てハワードが使っている部屋へと赴く。
そこへ入ると彼は鞄を置いてからコーヒー豆の入った袋と茶色いコーヒーミルを戸棚からそれぞれ取り出してから
テーブルへ置く。そして豆を入れてからハンドルを回し豆を挽き始めた。
「エドワードとアリッサは元気か? 」
「...うん、元気にしてる 」
「そうか。...エルザが行方不明になってからもう5年、時の流れは早いものだな 」
「...その事なんだけどこの間メッセージが届いたの。ユートピア...?って場所に居るって 」
「......ユートピア?リナ、本当にエルザからメッセージが来たのか? 」
「...うん。でもまだママには見せてない 」
「ユートピア...確か米国政府が多額の支援金を出して建設した海上都市だったか。彼処は今でも移住希望者は立たない、B.A.C.が建設のバックに就いているから当然かもしれんが 」
「...B.A.C.? 」
「アンブレラ...トライセル......ウィルファーマやA-GUAといった企業に続く新しい製薬企業、お前も耳にした事はあるだろう?今じゃ病
院で患者に配布される薬品も何割かはそこが提供している程だ 」
ハワードは近くに居たリナへ手渡したのは1枚のチラシ、そこには子供と白衣を着た男性がにこやかに微笑んでいる写真が
貼られていて[人々の健康は豊かな自然と共に]という文章が記載されていてそれを見ながら彼女は無言で小さく頷く。
一方の彼はお湯をポットで沸かしてから挽いた豆をドリッパーへ移すと今度は2人分の白いマグカップをそれぞれ別の戸棚から取り出して同じテーブルへと置いた。
「もし仮に...差出人が本当にエルザなら助けに行きたい所だが、彼処は少々厄介なんだ 」
「...どうして?ヒトが住んでるから? 」
「それも十分あり得る...先ずは島と本土を繋いでいるのは長い一本の道路だけ、そしてどういう訳か外との連絡手段が一切無いんだ 」
「...じゃあ...あのメッセージは...どうやって...... 」
「恐らく何かしらの手段を講じたのかもしれんな...ほら、コーヒーが出来たぞ 」
差し出されたマグカップを受け取ったリナはコーヒー独特の香りを嗅いでからそれを冷まして一口だけ飲む、
程良い苦みと酸味が口内へと広がっていった。
「...やっぱり叔父さんの淹れるコーヒーは美味しい。何か安心する 」
「ははは、それは良かった。それとまたブライアンにどやされたそうだな? 」
「...知ってたんだ 」
「私も教授だ、学校の事位は耳に入って来るさ。...リナ、確かに周りにはエルザとお前を比べて物を言う者も少なからず居るだろう、だが気にしなくて良いんだ...お前はお前なのだから好きな様に生きなさい。まぁ勉強も大事だがな 」
ハワードはコーヒーを口へ含むと納得がいく味が出せたらしく幾度か頷いていた。
それから彼は自身のデスクへ赴いて1枚の用紙を彼女の前へ持って戻って来るとそれを差し出した。
「ユートピアにある大学との交換留学を募集しているチラシだ、持っていなさい 」
「...え?でも── 」
それ以上の言葉を言う前にハワードはマグカップを置いてチラシを持つリナの左手を握る、そしてこう続けた。
「さっきの話の続きだが...エルザから送られて来たあのメッセージ、お前はどう思った? 」
「...誰かに助けて欲しい、そう感じた 」
「そうか。私も同行する...だから共にエルザを助けに行かないか?警察がもう動かない以上、後は我々だけでどうにかするしかないだろう 」
「...幾ら何でもそれは流石に無謀過ぎない?それに叔父さん、大学はどうするの? 」
「休暇を取れば問題はない。このチラシに書いてある通り、お前を交換留学生として連れて行く...だから明日までに決めておきなさい 」
「...助け出したらその後はどうするの? 」
「向こうの車両を使って島から逃げる他ないだろう。この件は私からアリッサにも話しておこう...良いか? 」
ハワードがそう話すとリナは無言で小さく頷いた。
コーヒーを飲み終わると彼に別れを告げてからハワードの居る部屋から出ると
大学を後にし帰路へ着いた。
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リナがハワードとの話し合いをして大学を去る頃には既に日は傾いて夜になっていて
通りの外灯も次々に点灯し始めていた。
行き交う人々に紛れながら通りを歩き、自宅まで続く方向の路地へ差し掛かると外灯が殆ど無くなっていく。
現に彼女の家は都市部に近いといえば近いが近隣は普通の住宅街で家々から漏れる部屋の明かりが
外灯の明かりの代わりと言っても過言ではなかった。
近道をしようと本来通る筈のルートから外れて別の通りを歩いていた時に目の前で何かを咀嚼する様な音が聞こえ
足を止める。そこは所謂、ゴミ捨て場の様な場所なのだがあまり人が通る様な場所ではない。
「...何の音? 」
音のする方へ歩みを進め、覗いてみると顔を頭から突っ込んで一心不乱に何かを貪り食っている人物が居た。
格好からして男なのは間違いないのだがその光景はどう見ても異様そのもの、オマケに咀嚼音も相まってか気味が悪い。
彼女は相手の邪魔をしない様にゆっくりと背後を通ろうと歩みを進めた。
「...ごめんなさい、通らせて頂きますね。私の家は此処を抜けた先だから 」
擦れ違う寸前にリナは不意に相手の足元を見てしまう。そこには赤いドレスの様な服を着た若い女性が横たわっていて
腹部にはぽっかりと黒い穴が開いている、そして虚ろな目で天を仰ぐ様な視線をした表情から察するにそれは人間の死体で
男はそれを一心不乱に喰らっていたのだ。その際に足元にあった空き缶に気付かずにそれをうっかり蹴って音を立ててしまう。
「...!?ひ、人を...食べてる...!?」
彼女が漏らした声を聞きつけたそれは顔を上げて振り返る、白く白濁とした両目と血に染まった口元...そして蒼白した肌は
最早人間の肌の色というにはほど遠い。
「ウ...ァ...グァアアアアァァァアアアァァッ──!! 」
「ひぃ...ッ!? 」
それが立ち上がったと思いきやリナを追い掛けて来る、相手は早足で両手を伸ばしながら気味の悪い呻き声を上げて
走って逃げている彼女の背中まで迫って来ていた。特定のとあるウィルスに感染した人間が変貌したそれは最早ヒトではない...完全な化け物という表現が正しいだろう。何とか狭い路地を走り、時には障害物を飛び越えるなどして路地の出口へ差し掛かると
フェンスへしがみついてよじ登る。その時に左足首を化け物に捕まれた事で動きが止まってしまい、引き摺り降ろされそうになるのを必死に耐えながら何とかよじ登ろうとしていた。
「このッ...離して!!嫌だ、こんな所で...こんな所で死にたくない!! 」
脳裏を過ぎるのは先程の女性の姿、自分もああなってしまうのかと思えば尚の事それを本能が拒絶する。
そして相手の頭部を右足で蹴飛ばしてフェンスをよじ登って超え飛び降りると後退しつつ路地の出口へ差し掛かろうとする、
その際に背中に何かが当たって咄嗟に振り返った。そこに居たのは黒い髪を後ろで結んだ赤い瞳の女性で顔立ちからして東洋系の雰囲気があった。服装は胸元が空いた白い長袖シャツに黒のレザーパンツとヒールが付いたブーツを身に付けていて何処か気遣う様にリナを見ていた。
「大丈夫?顔色、かなり悪そうだけど 」
「...貴女、人ですか?化け物じゃなくて?」
「何言ってるの...私は人よ?それとも何か恐いモノでも見た?」
「...ゾンビみたいなのが人を食べてて...それに追い掛けられて......ウソじゃないんです! 」
女性はリナの表情を伺ってから1人で彼女が来た方へ歩いて行く、それを見たリナが慌てて止めようと声を掛ける。
「ちょッ...貴女、正気ですか!?危ないですよ!! 」
「あらそう?可愛い子の言う事は信じてあげるのが私のポリシー...それと危ないからもうお家へ帰りなさい。代わりに見に行ってあげるから 」
それだけ言い残し、女性はリナの頭を軽く撫でてから路地裏へと消えて行った。
リナもまた疑問と違和感を感じつつその場を去ると自宅へと向かって歩き出すのだった。
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リナが去った後に彼女はズボンの左ポケットから小型の端末を取り出し、連絡して来た相手との通話を始める。
「例のサンプルの効果は良好...既に発症して数時間は経つけど今の所問題は無さそうよ?とは言え流石にやり過ぎじゃないかしら?いきなり街で実験するだなんて。あの時は非検体が逃走しアクシデントで警察署内に軽度のバイオハザードが発生......鎮圧するのに10日以上は掛かったけど都市部で試そうならラクーンや蘭祥の時と同等かそれ以上の被害が出る 」
歩きながら淡々と話しつつ、彼女は腰の後ろにあるホルスターから拳銃を引き抜いて進む。
手にしているのは下部に黒色のライトが付いたM&Pでスライドカバーはシルバー、それを片手にフェンスの向こう側に居る
化け物と対峙し足を止めたると女性を視認した化け物は唸り声を上げてフェンスへしがみついていた。
「ええ、解ってる。それから例のデータは後で送るからそっちで確認して頂戴 」
通話を終え、セーフティを手早く外すと銃口を差し向けて口角を僅かに左へ上げて笑った。
視線は真っ直ぐと化け物の眉間を的確に捉えている。
「あら、可愛い子に逃げられて相当お腹を空かせているみたいね。生憎だけど貴方が今から食べるのは──
直後、破裂音と共に一発の弾丸が放たれるとそれが化け物の眉間を射抜いた。
仰け反った直後に赤黒い血液が後頭部から飛散し地面へ背中から倒れると暫く痙攣した後に動かなくなる。
フェンス越しにそれを確認した彼女は踵を返し、セーフティを掛け直すとホルスターへ拳銃をしまってから
再び端末を取り出すと共にデータを確認していた。
「......世界のバランスを大きく覆す為なら手段は選ばない、か。テロリストが言いそうな口ぶりね 」
僅かに振り返った彼女は鼻で笑い、離れに止めてあった灰色のスポーツカーへ乗り込んで
キーを差してエンジンを掛けると慣れた手付きでレバーをドライブに操作しハンドルを握ってアクセルペダルを踏み込むと
エンジン音を上げて走り出し直進して行くとそれは闇夜へ消えていった。