BIOHAZARD-PALADISE・LOST- 作:秋乃楓
深夜23時半、寝付けなかったリナはベッドから降りて
洗面所へ向かうのだが微かな物音が廊下から聞こえた為にそのまま部屋のドアを微かに開けて外を覗く。
すると離れの階段から壁を擦る様な音と共に現れたのはゾンビでそれもこの学校の物と思われる灰色の制服と黒のズボンを身に付けていた。フラフラとした足取りで少しずつ迫って来ると咄嗟にドアを閉めて鍵を掛ける。
「…ゾンビがどうして此処に!?きっと何かの間違いで悪い夢でも見てるのかもしれない...ッ 」
自分の頬を右手で軽く抓ると痛みを感じ、これが現実である事を告げられる。彼女は着ていたパジャマから今朝着ていた私服へ着替えるとクレアとレイラを起こしに掛かると身体を揺さぶり始めた。先に目を開けたのはレイラで
目を擦りながらリナの方を見ている。
「んにゃ…何、どうかした? 」
「…早く着替えて、化け物が学校に出た!! 」
「流石にそれは言い過ぎよ…リナ……ふぁあ、もし眠れないなら私が一緒に── 」
突然、ドンドンと力強くドアを叩く音が響く。
悲鳴と共に飛び起きたレイラはリナへ抱き着く様な姿勢となってしまう。
「ね、ねぇ…これって夢だよね...?この後何事も無く目を覚ましたら朝になってるとか…そういう話でしょ? 」
「…悪いけど現実。クレアを起こしたら一緒に着替えて待ってて、私が代わりに見て来るから 」
リナは自分のベッドの下から白いタオルで巻かれた
「よせ、撃つな!! 」
「…アンタの名前は? 」
「俺はカイルだ…カイル・ジョーンズ。お前と同じ留学生だよ。それより何の騒ぎだ?ずっと廊下から変な音がするから見に来たんだが…… 」
「…早く中へ入って、それより変なの見てない?目が濁った人型の…ゾンビみたいな奴 」
「…?そいつなら俺と入れ違いでお前の部屋を通り越してそのまま何処か行っちまったみたいだけど 」
それを聞いたリナは頷くと2人の方へ振り返る。
だが着替えていたタイミングだった為にカイルの身体を後方へ向かせずに洗面所の方へ追いやった。
「お、おい今度はなんだ!? 」
「…今はお取り込み中。ねぇカイル…お願いがあるの、そのリストタグを外してくれない? 」
「これか?でも流石に外したら不味いだろ、そんな事したら幾ら何でも── 」
彼女は無言で洗面台の上にある戸棚からキッチンナイフを取り出し、それの柄を差し向ける。
「…リストタグは付けてたらヤバい気がする。アンタもあの小屋で見たでしょう? 」
「見たさ…でも連中に従っていれば生きて帰れる、そうも言ってただろ? 」
「……多分、私達は歓迎されていない気がするの。絶対に何か隠してる 」
「おいおい…さっき俺が廊下で見たあの化け物が証拠だって言いたいのか?コスプレか何かのイベントかと思ってたけど 」
それに対しリナは頷くと顔を近付けてにじり寄った。
「…カイル、良く聞いて。このタグを付けっぱにしてゾンビに成るか、これを外して人間のまま生きて島から出るか……どうする? 」
「解った...そこまで言うなら外すよ、外した後は? 」
「...適当に捨てておいて。準備したら部屋から出る 」
キッチンナイフを受け取った彼は黒い帯をナイフで裂いて外し、タグをゴミ箱へ放ると続いてナイフを再度手にしたリナが2人の元へ来てそれぞれリストタグを裂いて外した。それから4人はリナとカイルを先頭に部屋から出て廊下を右へ歩いて進む、
今居るのは校舎と長い廊下で繋がっている寮棟という6階建ての建造物の中。女子寮は4階から6階でリナ達の部屋は5階の中程にある。そのまま階段を下りて連絡通路のある3階へ差し掛かると既にそこには男子生徒1人と女子留学生2人の変わり果てた姿があり、1人がリナ達4人を見ると3人が呻き声を上げて迫って来る。身構えたリナが
「...みんな下がって!! 」
震える右手を何とか左手で抑えて深呼吸しつつ後退しながら引き金へ指を掛ける。
その最中にカイルが叫んだ。
「お前...人を撃った事あるのか!? 」
「...ある訳ないでしょ!?私だって出来ればやりたくない!! 」
それでも意を決し引き金を引いて発砲、放たれた弾丸は心臓を射抜いたが軽く仰け反った程度で何も変りはない。
人間の急所である筈の心臓を撃たれても向こうは平然と歩み寄ろうとして来ると舌打ちしたリナは立て続けに発砲したが
やはり効果は無かった。最後の1発を放ったと同時に弾切れを起こし撃てなくなると彼女は「走って!!」と叫んだ。
レイラがクレアの手を引いて駆け出し、カイルもリナも駆け出すとゾンビ達も4人を追い掛けて来る。
その最中に彼が見つけたのは消火器でそれを咄嗟に手に取るとリナと擦れ違ったタイミングでそれを放射、煙幕代わりにした事で難を逃れる事が出来た。階段を更に駆け降りて一気に外へ出たが悪天候のせいか風や雨が横殴りで振り付けて来る上に
雷も鳴り響いていてまさに嵐の様で校舎の方へ向かう最中にリナが呟く。
「...銃が全く効かないなんて、どうかしてる 」
「それよりさっきのアレは何!?アレも学校側の用意したサプライズ!? 」
クレアがリナの右へ来てそう問い詰める、彼女はゆっくりと振り返った。
「...そうだったら良かった。私だってこんなの信じたくない 」
「右手のそれはどうしたの?...まさか最初から持ってたとか? 」
「...違う、これは拾ったの。詳しくは話せないけど...今は此処から逃げる事に専念しよう? 」
「逃げるって......あたしはイヤ、此処で勉強して結果残せれば単位くれるって先生が言ってたんだから!!絶対残る...ねぇレイラもそう思うでしょ?いつも2人でやって来たじゃん、だから...此処で一緒に居ようよ?ね? 」
「...クレア!! 」
「......あたしのお家ね、お父さんが会社の社長なんだ。あたしの上にお兄ちゃんが居るんだけど...いつも頭の良いお兄ちゃんばっかり見向きされて、それに引き換え私はバカで落ちこぼれで......どうしようもないから相手になんかされない。そんな時に見付けたのがこの留学で...此処で良い成績を収めれば将来、就職先に困らないってカウンセリングの先生から聞いた......だから見返してやろうって思って此処に来たの!だから帰るだなんて絶対にイヤ、逃げたいなら2人だけで逃げれば良いじゃん!! 」
足を止めたままの彼女は大声で叫んだ。恐らく此処へ訪れた誰もが将来に向けて此処で学んだ経験や知識を生かして
役立てようと考えているに違いない、その為であれば多少の理不尽には目をつむってしまえばそれで済む。
だが突然この様な事態になり、挙句に島から出ようとなれば話は変わって来る。希望だったモノが打ち砕かれ、
絶望へ様変わりするのは誰しも考えたくはない。
「...危ないから先ずは校舎に入ろう?どうするかはクレアが決めれば良い 」
何とか説得して中庭を抜けて進み、校舎の裏口から中へと入るも廊下は真っ暗で明かり1つ点いていない。
近くのスイッチを入れたがカチカチという音だけしかせず明かりが点く気配が無かった事から
リナはライトを手にしその明かりを元に進んで行く。
「...電気が点かない 」
「雷でブレーカーが落ちたのかもしれないわね。でも何処にあるか...... 」
歩いているといきなり光を向けられ、リナは思わず視界を左手で隠す。
同時に聞こえて来たのは男性の声でライトが下りた後で視線を向けると彼は褐色肌の見た目に対しやや大柄で
白いワイシャツと紺色のズボン、それから頭部には帽子を被っている。
制服の右胸にはロバート・テイラーと英語で書かれたバッジを付けていた。
「お前らこんな所で何やってんだ!? 」
「...寮に化け物が出たからこっちに来ました。明かりは点かないんですか? 」
「配電盤が壊されてた。恐らく誰かがわざとやったんだろう...それに下手に動けばかえって危険だ。警備室へ行くぞ。こっちだ、ついて来い 」
ロバートの案内で向かったのは彼が過ごしているという警備室、そこは学校の1階エントランス付近にあり
そこへ入ると彼は懐中電灯ではなく代わりに入り口傍にあったランタンをテーブルへ置いてそれを明かりの代わりにする。
窓は全てブラインドカーテンが下ろされていて部屋から外は見えなかった。パイプ椅子へ3人が腰掛けていく中でリナだけ彼に呼ばれ、部屋の奥に在る彼の机へ案内された。引き出しを引くと出て来たのは長方形のケース数個で中を見ると弾丸が入っていた。
「...これは? 」
「見りゃ解るだろ、弾だよ弾。それ持ってんなら弾が要るだろ?まさか丸腰で連中とやり合おうって訳じゃねぇだろう? 」
「...知ってるんですか?奴等...ゾンビの事 」
「あぁ、一応な。最初に見たのはフェンスで隔離された旧市街...次に見たのは直ぐ傍の森林の中。今じゃ行方不明になっている生徒は確か10人だったか...でも教職員の誰1人その話を出そうとする者は居なかった 」
「...どうしてです? 」
「決まっている、全てマザーのせいさ... 」
「マザー...って? 」
リナの返答に対しロバートは頷く。
「マザー・フレイヤ...本名はフレイヤ・グラニカス。此処ノートレスは元々彼女の親父さんのモノだったんだが病で他界してな。その後、彼女がこの大学を引き継ぐ形になり、現校長アダム・ルーベンスはフレイヤが外部から雇った。それから少し経って奇妙な噂が流れ出した 」
「...それが生徒が行方不明になったって話ですか? 」
「そうだ。最初に聞いたのは女子生徒同士のケンカ...それも片方が噛み付いて肩の肉を喰い千切ったとか何とかでそりゃ酷いもんだったらしい。それから噛まれた方が手当てを受ける為に医務室へ向かって暫くした後に突然姿を見せなくなった......開いていた窓から出たんじゃないかって話だったが幾ら捜索しても見つからなかった。それが最初の話だよ 」
彼はそう言うと「コーヒーでも飲むか? 」と声を掛け、それからお湯を沸かしに台所へ向かった後に人数分の紙コップにインスタントコーヒーの粉末を入れてそれをランタンの近くへ並べた。お湯が沸いてからそれらに注ぐとコーヒーが出来上がり、各々がそれを口にし
味わっていた。コーヒーを味わってからリナは再びロバートへ声を掛ける。
「...あの、エルザって人を知りませんか? 」
「エルザ?...あぁ、もしかしてエルザ・クロフトの事か?彼女なら結構前に此処へ顔を出していたな。確か島のインフラの完備がどうの...みたいな話をしていた気がする 」
「...会ったんですか!?姉さんに...! 」
「姉さん...まさかお前、彼女の妹か? 」
リナは頷くと食い気味でロバートの方を見つつ頷いた。
「......そうだったのか。だがそれ以上の事は俺も解らんが此処のインフラや島全体の事全てはB.A.C.が管理している、彼女もそこの関係者なのかもしれんな 」
「...B.A.C.って確か製薬企業の? 」
「Biologic-Assessment-Commission、通称B.A.C.。自然保護と人々の健康を謳っている会社でその勢力は嘗てのアンブレラに匹敵するんじゃないかって言われている程だ。此処の医務室にある薬品も全てそこが作っている、まぁ至れり尽くせりって奴だよ 」
椅子へ腰掛けたロバートがコーヒーを1口だけ口にした途端、廊下から悲鳴が聞こえる。
立ったまま咄嗟にリナは机に置いていた拳銃を手にしロバートを見ると彼は再び立ち上がって静かに頷いた。
「くそッ...少し位はゆっくりさせてくれても良いと思うんだがな!いいか、絶対に此処から出るなよ!! 」
「...私も行きます、カイルは2人をお願い! 」
ロバートも引き出しから予備の弾丸、をそれぞれ手にし
しまってから消防斧を担いで戻って来るとリナへ再び話し掛けて来る。
「いいか、嬢ちゃん...奴等が出たら頭を撃て。そこが急所だ 」
「...簡単に言わないでくれます?それと名前はリナです 」
「解ったよリナ。俺達が出たら鍵を掛けろ、何度も言うが生存者以外は絶対に中へ入れるなよ!! 」
そして2人は警備室から廊下へ出て悲鳴がした方向へと駆けて行くのだった。
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悲鳴が聞こえた先。
そこは校舎1階の廊下で男子生徒が1人蹲って壁に寄り掛かっている。
リナがそこへ駆け寄って彼の元へしゃがみこむ、彼は暗闇が拡がる廊下の先を指差していた。
「...大丈夫!?何があったの? 」
「お、女だ...黒い髪の...女...!それが...急に...現れて......それで...く、口に──ごぶぅうぅぅッ!げほッ...おぶぅええぇぇッ!! 」
突如として彼は足元へ吐血し苦しみ始める。何が起きているか解らず見ているとロバートが彼女へ「離れろ!!」と叫ぶ、
リナが離れると生徒は瞬く間に変貌しゾンビと成り果てた。
「グルルゥアアアァァァッ──!! 」
「...嘘でしょ!?そんな...もうゾンビになるなんて...!? 」
食って掛かろうとした所へロバートが介入、リナの服の襟を引っ張って遠ざけると即座に両足を射抜いた直後に生徒が転倒しそのまま後頭部を射抜き生徒を射殺する。リナは座り込んだまま唇を噛み締めつつ彼の方を見ていたが視線に気付いたロバートが振り返った。
「......良いか、何があろうと絶対に躊躇うなよ。その相手が誰であっても 」
気迫を持つ視線を感じた彼女は静かに頷く、左手を差し伸べられたリナはそれを握り返し立ち上がると
再び歩み始めた。その先は食堂で普段なら閉じている筈のドアが開けられていて2人はドアの前へ来て息を殺す、
そして指先でロバートが合図を出すと同時に中へ飛び込んだ。並べられた白い長机があるその奥で物音がし
そこへライトの光を差し向けると女子生徒へ口づけを交わそうと肉薄しているレインコートを纏った黒い髪を持つ少女が居るのが解った。
「...その子から離れて!! 」
先に気付いたリナが即座に発砲、弾が2人の間を突き抜けて壁へ命中すると女子生徒はリナ達の方へ逃げて来ると
ロバートが彼女を後方へ隠し庇う様に立っていた。少女がふらりと振り返ると黄金色をした左目で3人を見つめると僅かに口角が上がった様な気がした。
「...貴女は誰?島の人?それとも学校の関係者? 」
だが少女は黙ったまま何も話そうとはしなかったがゆっくりと口が開いて言葉を話した。
「......いで 」
「...え? 」
「私の...邪魔を......しないで! 」
すると彼女の左右から床がまるで盛り上がるかの様に現れたのは黒い塊の様な物でそれが勢い良くリナの方へ伸びて来る、
彼女とロバートは生徒と共にそれを辛うじて躱し床へ伏せると背後にあった券売機や掲示板へ突き刺さって大きな穴が開いた。
それは人間技ではない、いや...普通の人間にこんな真似が出来る訳が無い、人知の範囲を超えているのは確かだった。
「まさか...アイツB.O.W.か!? 」
「...B.O.W.って確かテロリストがバイオテロの時に使うって聞く奴? 」
「あぁ...簡単に言っちまえば生物兵器。でも俺達の理解出来る域を超えてるのは確かだ、何とかして早く此処から離れるぞ!! 」
リナが先に立ち上がって再び構え、発砲する。放たれた弾が少女の胸元へ命中しレインコートに風穴を開けると
白い素肌が微かに露出したが即座に傷口が白い煙と共に再生したのだ。ならばと今度は頭部へ目掛け発砲したが
黒い塊に阻まれてしまい無意味だった。
すると今度は生物の様に動く塊が今度は鞭の様に変化、勢い良くしなると薙ぎ払う様にそれが振られ迫り来る。
何とかその場に屈んで躱したが柱へ命中し鈍い音を立ててコンクリート片がばら撒かれ散乱した。少女はひたひたと足音を立てて
机の合間を抜けて3人へ近付いて来る。
「...私が囮になるからその子を連れて早く!! 」
「何言ってんだバカ野郎!!死ぬ気か!? 」
「...でもその子を逃さないとこっちもヤバイでしょ!?だから──ッ!? 」
空を切る音と共に振り下ろされたそれが並べられた幾つかの机を一直線に真っ二つに斬り裂いた。
顔を上げてみると3人を見下す様な形で少女が2つ奥の机の上に立っていて胸元の高さまで上げている右手には黒い塊が生き物の様に蠢いている。黄金色の瞳がリナを見て小さく笑った。
「......ぼう? 」
「...今度は何......!? 」
「私と......遊ぼう...? 」
右手を差し向けた途端に伸びて来たそれがリナの顔面へ迫る、背後に居たロバートが先に発砲した事で軌道が反れて
彼女の右頬を掠めただけで難を逃れる。撃たれた個所が再生し塊が引き戻されると彼は舌打ちし背負っていた斧を
左手に構えて立ち上がった。リナも生徒を背後に遠ざけて立ち上がるとロバートが叫んだ。
「お前はその子と先に行け!撃ってダメなら此奴ならどうだ...ボサっとしてないで掛かって来いよこのクソガキ!! 」
「......! 」
合図と共にリナが駆け出した直後に少女は斧を差し向けたロバートへ跳躍し襲い掛かる、発砲され被弾しようがお構いなしに突っ込んで来ると振り下ろされた斧が彼女の左肩へ食い込む形で命中し動脈を切った事もあり夥しい血液が傷口から噴き出すと黒い塊がロバートの巨体を思い切り薙ぎ払う様に突き放し、彼の身体は出口付近の壁へ背中から叩き付けられてしまった。生徒を非難させ戻って来たリナが彼の様子を見て駆け寄る。
「...ロッ、ロバートさん!?大丈夫...ですか? 」
「だ、大丈夫だ...クソッ、派手に投げやがって......!でもまぁ結構なダメージは負わせてやった...だからそう簡単に──ッ!? 」
ボタボタと血液が滴り落ちて床へ血溜まりを作る、裂けて穴の開いたレインコートからは白い地肌が露出しいつの間にか
被っていたフードが取れて素顔が明らかとなった。先程負わされた傷は赤い筋組織から徐々に薄い皮膚が形成され赤みを帯びた状態から完全に元の色へ戻ると割れたガラス窓から吹き込んだ風が彼女の纏うレインコートをふわりと靡かせる。
雷鳴と共に浮かび上がったのは一切の衣類を身に付けていない成長途中の少女の身体、その華奢な体型と相まってその肉付きは薄っすらあばら骨が浮き出る程でしかなく左右の胸もまた膨らみ掛けているのか小ぶりだった。
撃たれようが斬り付けられようが表情1つ変えずに彼女は佇んでいて少し経つと再び黒い塊が地面で蠢き始める。
支えられて立ち上がったロバートは呆気に取られていた。
「マジかよ...再生しやがった......確実に致命傷を与えたんだぞ!? 」
「...ッ!! 」
リナが構えようとした時、少女は何かを悟ったのか背を向けてその場から走る様に立ち去る。
後を追い掛けてリナが外へ飛び出したがその姿は既に何処にも無く雨が降っているだけでしかない。
中庭に置かれているローマ数字が記述された大型の時計の長針がⅫと短針がⅢを示した後に3回程、鐘の様な音が鳴り響くと深夜3時である事を告げるのだった。
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翌朝、事態の収拾が行われたが昨夜発生した事はやはり生徒や留学生達に伝えられる事は一切無く
犠牲となったのは男子生徒4人と女子留学生2人の合わせて6名で何れもその遺体は適切な処置が学校側で行われた。
リナは体調不良で休学すると話してから気晴らしと探索する為に1人でエスペランサの街へ向かって海沿いを歩いていた。
「...エルザ、貴女が作ったって話してたモノのせいか解らないけれど罪のない多くの子が死んでる。それに事実は全て学校側が隠蔽しているから尚の事不安と憶測が広まっている......この島で一体何が起こっているの? 」
楽園と謳われる島エスペランサ、そこで起きているのは間違いな人知を超えた何かである事に変わりは無い。
ましてや昨夜遭遇したあの人型のB.O.W.に関しては当然ながら何も知らない、唯一解っているのはヒトの形をしてはいるが
人ではないという事だけだった。考え事をして歩いていると離れに人影が見えた事から目を凝らしてその方向を見つめると
その人物は女性で黒い眼鏡を掛けている他にバレッタを用いて後ろで纏めた黒い髪を持ち、それに対し首から下は白衣を着ている。リナはその姿に対し見覚えがあり、思わずその名を口に出した。
「......エルザ? 」
その声に呼ばれた相手はゆっくりと振り返る、それは5年前に失踪し行方不明となっていた筈のエルザ本人。
相手もまたリナの方を見たまま固まっていて少ししてから小さく頷いた。
「リナ...?貴女、本当にリナなの? 」
「...そうだよ、私だよ姉さん!ずっとずっと...探してたんだよ......父さんも母さんも...!!もう5年経っちゃったけど......でも良かった...生きててくれて本当に...良かった......!! 」
リナは駆け寄って力一杯にエルザを抱き締めた。
ずっとずっと望んでいた事が今、目の前で起きたのだから彼女にとっては漸く思い肩の荷が下りた気がしていた。
そしてそれはエスペランサへ到着してから4日目を迎えた日の出来事だった。