※この作品はR-18です。

BIOHAZARD-PALADISE・LOST-   作:秋乃楓

7 / 10
CHAPTER07 過去と現在

『お兄様、孤児院の件だけれど......この子を引き取る事は出来ないかしら? 』

 

それは些細な興味本位からだったのかもしれない。

数多くの名前と写真が連なる名簿の中から選ばれたのはとある少女で彼女は幼い頃に父親が蒸発し母親は薬物に手を染めた事で育児放棄され、過酷な環境課の中で育った生い立ちを持つ。

支援先の孤児院で育った14歳の少女は暗い過去を背負いながらも懸命に生きていた...それが1人の女性の心を動かしたのか定かではないが彼女は女性の家に引き取られた。

 

『此処なら沢山本がある...温かいベッドも食事も、広いお風呂だって何でもある。だから遠慮せずに過ごして頂戴 』

 

女性は少女と直ぐに打ち解け、まるで本物の姉妹の様に過ごしていた。

中庭でお茶を嗜む事もあれば共に眠る事や本を読んだり共に出掛けたりとその日々は美しく温かい物だった。

 

──そう、あの頃までは。

 

とある晩の事。

少女と義理の姉妹となっていた女性はバスローブ姿で風呂上りに1本の注射器をケースから取り出してそれを眺めていて、

そこに少女が近寄って来てベッドの横へ腰掛けた。

 

『■■■■お姉様...それは何なのですか?もしかして危ないお薬? 』

 

 

『違うわ、唯の栄養剤よ。此処最近はお仕事も溜まっているし忙しいから執事に調達して貰ったの...明日もまた朝から忙しいから 』

 

 

『お仕事なんかしないで少しお休みになられた方が...... 』

 

 

『優しいのね、■■■は。これも我が一族の務め...だから大丈夫 』

 

片手で引き寄せ、少女を包み込む様に抱き締める中で1つの考えが女性の脳裏を過ぎるとこう提案する。

 

『......ねぇ■■■?私の右腕になってくれないかしら? 』

 

 

『どういう意味ですか? 』

 

 

『この国、いいえ...世界を変える為の力になって欲しいの。人間は争ってばかりで進化しようとはしない......肌の色や見た目での差別、貧困や飢餓で巻き起こる戦争...それ等がある限り人々は変わろうとはしない。貴女もそうでしょう?貴女のお父様、お母様の話は院長先生から全て聞いている......それに必ずしも誰かが手を差し伸べてくれる訳ではない、だから世界をより良い方へ導く為の指導者が必要なのよ 』

 

 

『お姉様...... 』

 

 

『...ごめんなさい、難しい話をしてしまって。忘れて頂戴 』

 

だが少女は首を横へ振り、女性の手を握り締めた。

 

『私は■■■■お姉様に引き取って頂けたからこそ今がある...だから今度は私がお姉様に恩返しをさせて下さい!お掃除も家事もお料理でも何でもします、何でも...だから私の事を頼りにして下さいませんか? 』

 

真っ直ぐに見つめる瞳は女性を想う少女の優しさがそこに込められているのが解る。

そして女性は彼女の手を握り返し、微笑み掛けてそれを了承すると2人は口付けを交わした。

約一週間が経過した頃...何もない白い壁と床の部屋にある手術台の上に一糸纏わぬ姿で少女が座っていて

目の前にはドレス姿の女性が居る。そして自ずと彼女は話し掛けた。

 

『■■■...怖い? 』

 

 

『平気です。でも裸を他の人に見られるのは...その、恥ずかしいです 』

 

 

『...大丈夫よ直ぐに終わるから安心して。終わったら...また一緒に居ましょう?愛しているわ■■■、私の大切な義妹 』

 

唇を重ね、キスをする。少し長いキスを交わすと銀糸が2人の合間を引いた。

入れ替わりで入って来た防護服姿の人物4人は少女を囲む形で立つと施術が始まり、ベッドへ寝かせられる。

その様子を女性は防護ガラスの向こう側で眺めていた。

投与実験が完了し約数年と少しの歳月が経過し、リナが少女と遭遇した日。

森の先にある大きな屋敷、そこは島の中心部にある様な観光都市のような近代的な雰囲気ではなく中世的な見た目をしている。白いレンガ造りの壁に対し薄い赤色をした大きな屋根、その左側にはバルコニーが存在し外から島の風景が一望出来る様に

なっていた。そこにある大きな扉が開き、誰かが入って来るとそれはシャンデリアのある大きなエントランス中央にある赤い絨毯が敷かれた大理石の階段を上がって2階にある目的の部屋へと向かう。その足で向かった先にある部屋を訪れるとそこに居た女性は

穏やかな笑みを浮かべてそれを出迎えた。

 

「お帰りなさい。あら...コートが破けているわね、また何処かで遊んで来たの? 」

 

部屋に居たのは腰まで伸びた銀髪と碧眼を持つ紫色のドレスを着た女性で

帰って来たそれをそっと抱き締めてから頭を撫でてその様子を見ていた。

所々破れたレインコートを纏う少女の表情は虚ろで特に変わる様な気配はなく、

女性の手解きでベッドへ座らせられるとレインコートを脱がされ、裸にされる。

そして洗面所からお湯が入った桶とタオルを持って来た女性は少女の両足を拭き始めた。

 

「あらあら...足が泥だらけじゃない。また使用人を困らせる気?でもそれが彼等の仕事だから構わないけれど 」

 

丁寧に両足を拭いた後に今度は別のタオルで身体をしたから順に丁寧に拭いていく。

左右の脛、脹脛と太腿、そして性器から腹部、両胸から左右両脇に両腕、両方の指の先と

まるで大切にしているお気に入りの物を愛でている様だった。

それが済めば今度は一度タオルをお湯で洗ってから再び顔周りを拭き、髪をタオルで拭いてからブラシで解かし、

終わった後に高級なボトルに入った薔薇の成分が入っているオイルを手に広げてそれを少女の身体へ塗っては白い肌の艶を出す形で丁寧に塗った。

 

「これでお終い。お薬注射するから少し待っててね? 」

 

女性は立ち上がって机の引き出しから銀色のケースを取り出し、そこからカートリッジ式の四角い注射器を取り出すと

それを手に戻っては彼女の右首筋へ宛がうと同時に注射して器具を手放した。

 

「集めたモルモットが実験で少しずつ減り始めてる...不足した分はお兄様に頼めばまた集めてくれるから別に良いけど。

XENOの実験で大勢のモルモットが耐えられなくて死ぬか或いは変異して化け物に成り果てるかの何れか......でも今の現状の成果ならラクーン事件のそれ以上を超えられる。ふふふッ...成功させる為にまだまだモルモット達を増やし、沢山実験しないとね......逆らうのであれば死んでもらうしかないけれど 」

 

女性は残酷な言葉とは裏腹ににこやかな笑みを浮かべていた。

この屋敷の地下には島の真相とも言うべき場所が存在し、全てはそこから始まったというのも過言ではない。

そして女性は少女を抱き寄せながらその背を撫でて愛でていた。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

物語の場所は変わり、島から離れた外へ移る。

月日と日付があれから更に経過しリナが島で過ごしす3日目の夜、とある孤児院にレオンは訪れていた。

そこはシルヴェーヌ家が資金援助を行っている孤児院であると同時にB.A.C.という企業の調べを進める中で奇妙な噂を耳にしていた為だった。

 

「...噂が本当なら此処は単なる孤児院じゃない。出来る事なら手早く済ませたいが 」

 

昼間にも視察に来たがそこはごく普通の孤児院でしかなく

彼が話を聞いた院長は温厚な人物で特に疑われる様な印象などは無かった。

子供達もまた年齢は様々であると同時に家庭の事情や経済面の事情等といった現代でも考えられる様な

ケースが多く存在している事も併せてその院長から聞かされていた。

正門ではなく裏口へ到着すると電子ロックが施された扉の前で待機し左耳に付けているインカムのスイッチを入れる。

 

「俺だ。聞こえるか? 」

 

 

[通信感度は良好、そっちの声は問題なく聞こえているわ。 ]

 

 

「...例の孤児院に着いた。電子ロックの解除を頼めるか? 」

 

 

[解った。少し待ってて...ねぇレオン、貴方が清掃員から聞いたって噂話は真実だと思う? ]

 

電子ロックが解除され、彼はドアを開くと施設内へと侵入する。

 

「その事なんだが俺も出来るなら信じたくはないね......シルヴェーヌ家に関して何か解った事は? 」

 

 

[彼の父親のアイザック・シルヴェーヌはB.A.C.の取締役で元アンブレラの関係者、家族構成は息子のルークと下にナスターシャという妹が居て妻は数年前に他界している。家族仲は......良く無さそうね、アイザックは仕事一筋で家庭の事は顧みないタイプだったようだから ]

 

 

「よく聞くありがちなパターンだな 」

 

 

[それから...アイザックは才能のある若者達を自身の会社へ引き入れるスカウト的な事もしていたみたい。主に力を入れていたのが薬品関係で家庭用から医療用等のあらゆる薬品事業に着手していただけでなく並行して自然環境保護にも力を入れているわ。そして学生支援団体のA.S.S.O.も此処と繋がってる...そしてB.A.C.にはもう1つの顔があるの ]

 

 

「......もう1つの顔? 」

 

 

[ウィルスの開発とB.O.W.の開発よ...それに関しては長男のルークが絡んで来る。彼がスカウト部門に居た頃にスカウトした人材の中で天才とも言える学生が居た。それも女子大生で専攻していたのはウィルス関係の学科...その子の名前はエルザ・クロフト、

5年前に失踪届けが警察に出されているけど捜査が難航して打ち切りになっているみたい ]

 

 

「その子が今回の事件と何か関係が? 」

 

 

[E型特異菌に感染した一家によって引き起こされたダルウェイでの事件があったでしょう?

その際に特異菌のサンプルをルークがコネクションの人間を介し受け取っている事まではこれまでの調査データで解ってる......もし仮に彼女と彼の手によってウィルスが完成しているとしたら規模はラクーン事件の比にならないかもしれない ]

 

 

「コネクション...?話がまた随分ときな臭くなって来たな。それよりも問題なのは大規模なバイオテロが起こる可能性があるって事だ、これだけは何としても止めないと 」

 

 

[ええ。全容は定かじゃないけれど何かしらの事件に絡んでいる傾向がある組織なのは間違いないわ。...あの街で起きた惨劇から何も学ぼうとせず、悲劇を繰り返そうとする人達をこれまで沢山見て来た。ねぇレオン...私達の戦いに終わりは来るのかしら? ]

 

 

「...さぁ、どうだろうな。だが誰かが終止符を打たない限り永遠に続く事になる...負の連鎖は断ち切らなくちゃならない、その為に俺達は今も戦い続けている......世界からバイオテロの脅威を排除する為に。終わりが来るんじゃない、終わらせなくちゃいけないんだ 」

 

 

[......そうね。あんな悲劇は何度も繰り返すべきじゃない、終わらせないといけない ]

 

 

「...何かあったら連絡する、バックアップバックは任せたぞ 」

 

そう言い残し、通信を一旦切断した彼はライトを左手に持ったまま孤児院の中を進む。

明かりは落とされていて点いているのは足元を照らす非常灯の橙色の明かり位だろうか。

エントランス付近にある地図を見付け、それを頼りに2階建ての建物の中にある階段を上へ向かって進むと

廊下から明かりが漏れているのに気付く、そしてライトを消してからそこへ忍び足で近寄って壁面を背にし

内部を覗き込んだ。そこには白衣を着た50代の褐色肌の男性と30代の若い白い肌をした男性2名が話している。

 

「...留学生達が本土へ上陸して4日。状況はどうなっている? 」

 

 

「昨晩、校内でB.O.W.侵入によるアクシデントが発生し男女6人が感染し全員が死亡。恐らく── 」

 

 

「エレナの仕業だろうな。間違いないだろう...それより実験をそろそろフェーズ1からフェーズ2へ移行する頃合いじゃないのか? 」

 

 

「......XENOウィルスによる人類の進化か。今度こそ成功すれば良いんだがな 」

 

 

「ダメなら全員廃棄処分、別の被検体を集めれば良いだけの話さ。まぁ...前の様にならない為にもルーク様が色々と導入して下さっているんだから俺達は何も心配する必要なんかない、そうだろう? 」

 

 

「あぁ...そうだな。それに此処の子供達も養子になるとは言っているが何れ他の研究所に売り飛ばされる......全ては明るい未来の為だ、そう言えば解ってくれるさ 」

 

そんな話をして少し経つと白い肌をした男が部屋を出て廊下を歩いて行く、その後をレオンが追って

曲がった角に当たる箇所で彼の口を背後から左手で抑え、腰へ銃口を突き付けた。

威圧感のある声色と共に耳元で彼へ話し掛ける。

 

「...へぇ、そいつは大した未来だな。何の罪もなく身寄りのない子供を裏で売り捌いているって話は本当らしいな? 」

 

空き部屋へ連れ込んだレオンは男を突き放し、鍵を掛けると今度は正面から銃口を向ける。

男は両手を上げながらレオンの方を見て怯える事しか出来なかった。

首元から下げているネームタグには顔写真入りで[スコット]と名前が記載されていた。

 

「お、お願いだ!撃たないでくれ頼むから!! 」

 

 

「なら幾つか質問させて貰おう...此処は何の施設だ?今更、孤児院ですだなんて言い訳が通用すると思うなよ? 」

 

 

「びッ...B.A.C.の...人事育成部門が運営する孤児の養育施設......でも実際は...被検体の確保の為に作られた...そして俺達は此処の...養護員...... 」

 

 

「養護員のフリをした研究員の間違いじゃないのか?それで、預かった子供達は他所の研究所に売り渡される...そうだな? 」

 

 

「...そ、そうだ。でも...ルーク様が視察に来た時だけ気に入った子供が居れば...そのまま彼が引き取り、今度は特別な施設へ連れて行く......。此処の子供達には話しているがみんな、電話やメール...外出も一切禁止だという規則がある。遊べるのは室内か庭だけ......過去に脱走事件があったから...それで...... 」

 

 

「...特別な施設?研究所じゃないのか? 」

 

 

「そこはごく一部の研究者しか知らない...そこは選ばれた者でしか踏み入る事が出来ないんだ。俺達はそこを[[rb:聖域 > サンクチュアリ]]って呼んでいる...... 」

 

 

「昼間、俺は此処へ一度来ている...だがその時には施設の何処にも子供達の姿は無かった。どういう事だ? 」

 

 

「......す、数日前に処分した 」

 

 

「...何だって? 」

 

 

「...此処最近、俺達の周辺を嗅ぎまわっている奴が居るから注意しろと勧告があったんだ。だから早急に移送先が決まっている子供達は全て養子と銘打って売り捌いた...まだ決まっていない子供達は── 」

 

それ以上の事を言う直前、レオンがスコットへ肉薄し彼の胸倉を左手で掴んで背後の壁へ背中から叩き付ける。

眉間に寄せられた皺と共にその瞳には怒りが、表情には憎悪が満ち溢れていた。

 

「お前達は自分が神か何かと思っているのか!? 」

 

 

「ち、違う!俺は指示に従っただけで...! 」

 

 

「......最後の質問だ。答えろ、ルークという男は今何処に──ッ!? 」

 

突然、右横の壁が破壊されて出て来たのは顔や身体には[CAUTION]と書かれた黄色いテープが幾つも貼られた黒い布の様な物で覆っていてその身長は3m以上はあるのではないかと思われる巨躯を持つ何者か。胸部には鈍い色をした腎臓の様な器具が装着されていて筋組織の様な物が所々から露出している。

それは真っ直ぐ2人の方へ歩み寄るとスコットを開放したレオンへ目掛け左手で裏拳を繰り出し彼を突き飛ばしたのだ。

ドアへ激突し突き破ると壁へ叩き付けられ、鈍い痛みが襲った。

 

「ぐぅッ......!な、何だ!? 」

 

そしてそれはスコットの方へ振り返ると彼の頭部を軽々と右手で掴み上げて持ち上げる。

何とかして逃れようと暴れ、もがいたが時は遅くそのままトマトの様に握り潰されると彼の頭部だった物が飛沫し

首から下だけが地面へドサリと落ちてその場に血溜まりを形成し始めていた。

ゆっくりと振り返ったそれの狙いはレオンへと変わる、彼は即座に拳銃を差し向け発砲したが手応えは得られなかった。

 

「デリート......デリー......ト!! 」

 

 

「...おいおい、バケモノの癖に喋れるのか? 」

 

立ち上がったレオンを見た化け物が突然走り出し、右腕を大きく振りかぶって正面へ突き出すと

彼はそれを左へ飛び退いて躱した。壁面が轟音と共に砕かれてコンクリート片が飛散しその間にレオンは

廊下を走って逃げて行くが物音を聞いて廊下を出て来たのは別の研究員で彼と鉢合わせてしまう。

 

「お前、どうやって此処に!? 」

 

 

「早く此処から逃げろ、死にたくないならな!! 」

 

 

「何を言って──ぐぉあぁああぁぁッ!? 」

 

研究員の男の身体を赤黒い触手が刺し貫き、暗い廊下を曲がった奥からそれが歩いて来る。

引き抜かれた触手は闇に消え、研究員は化け物により踏み潰されてしまうが容赦などはなく逃げた男の行方を追って

只管に前進して来る。レオンは正面玄関の扉の鍵へ向けて素早く発砲しドアを蹴破る形で外へ出ると

化け物は扉を突き破って外へと出て来た。舌打ちしたタイミングでインカムへ通信が入る。

 

[ねぇレオン、何があったの!? ]

 

 

「かなり不味い事になった...B.O.W.が出た!恐らくアレは奴だ...何か打つ手は有るか? 」

 

 

[どうして孤児院にそんなモノが!?待ってて...今調べるから! ]

 

 

「...早めに頼むよ。相手はどうやら相当ご立腹らしいんでね!! 」

 

通信中に飛んで来たベンチをレオンは右へ飛んで躱すと発砲し迎撃する。

ネメシスが咆哮する中で彼は着ていたジャケットを脱ぎ捨てると紺色の上着に対しグレーのタクティカルベストを下に付けていて

そこには予備マガジンを始め様々な物が装備されている他に腰の後ろにあるホルスターからナイフを引き抜くとそれを逆手持ちし構えた。

 

「来いよ、遊んでやる!! 」

 

 

「グゥルルォオオオォオオォォォッ──!! 」

 

襲い掛かって来たネメシスが再び拳を真正面へ繰り出すと触手が直線状に放たれ、それをナイフの刃で受け流しつつ擦れ違い様にスライディングして躱し背後へ回り込んではすかさず発砲する。ナイフを収めてから今度はそこへピンを抜いて[[rb:手榴弾 > ハンドグレネード]]を投擲しダメージを負わせた。顔面の布が裂けると共に白く濁った左目が露出する、ネメシスは右手で顔の布を自ら剥ぎ取って振り返るがそれでも容赦せず彼は発砲を続けながらマガジンを交換し立ち回る。

 

「グルルル...ッ...ガァアアアッ!! 」

 

 

「やっと素顔が見えたな。奴の仲間にしちゃ酷い顔だ、雇い主に整形して貰った方が良いんじゃないのか? 」

 

彼の言う通りで布の下にある顔は右目が肥大した側頭部で潰れ、濁った左目と爛れたような皮膚には曲がった鼻の他に唇が無く剥き出しになった赤い歯茎と白い歯が剥き出しになった口は醜い顔そのもの。

文字通り化け物という単語が良く似合うそれは口を大きく開いて叫び、レオンを必ずこの手で殺してやるという明確な意思を示した。今度は付近に生えていた木を強引に引き抜き、それを武器の代わりにしようと右手で掴んでは彼へ牙を剥いて襲い掛かって来る。

 

「おいおい...それは流石に反則だろ!?くそッ...!! 」

 

左からの薙ぎ払いと振り下ろされた一撃を後退し幾度か躱した途端、再び通信が入った。

 

[レオン!孤児院から離れた裏手にガソリンスタンドがあるわ、そこへ誘い込めない? ]

 

 

「随分と無茶な事を...させるな!プロレスごっこの次は鬼ごっこか?良いさ、丁度運動したいと思っていた所だ!! 」

 

彼は大きく半円を描く様に右へ歩くとネメシスの視線を誘導しながら駆け出す。

当然ながらネメシスも木を投げ捨てて彼の背を追い掛ける様に扉をぶち破って走って来る、

重厚感にある足音と不気味な叫び声を背にレオンは路地を抜けて孤児院の裏手へ向かいつつ走ると

正面の建物内にタンクローリーが停車していてそれを見て確信する。辿り着く事は出来たがネメシスが先回りし彼を待っていたかの様に右腕を上げて指先をゴキゴキと鳴らして待機していた。

 

「おいおい...早いじゃないか。まだ遊び足りないか? 」

 

 

「デリー...ト......デリート...!! 」

 

 

「成程、良い返事だ!! 」

 

そしてレオンは相手との間を図りつつ左手で挑発しガソリンスタンドへ向けて並行に駆け出すと

ネメシスもそれに応じついて来る。そしてお互いに入ったタイミングでレオンだけが先に抜けるとタンクローリーの

荷台へ目掛けて発砲、漏れ出したガソリンへ引火し爆発を引き起こした。

その際の風圧で吹き飛ばされはしたが彼は無事で火柱が上がっているスタンドを見ながら安堵し

再び通信を繋げた。

 

「......何とかなったよ。但し、火事のオマケ付きでな 」

 

 

[...消防車と警察に連絡しておくわ。貴方の方は大丈夫? ]

 

 

「あぁ、問題ない。だが研究員と思われる2名が奴に殺された...恐らく口封じだと考えられる。それに俺達の行動はどうやらルークに筒抜けらしい 」

 

 

[それでB.O.W.を送り込んで来た... ]

 

 

「......書類やデータは未だ残っている筈だ、戻って再度調べてみる事にする 」

 

 

[解った。けど長居は避けた方が良いかもしれない ]

 

 

「ご忠告どうも。成るべく手短に済ませてさっさと退散させてもらうよ 」

 

彼は鼻で笑い、孤児院の方へと再び引き返して行くと

その最中に再び声を掛けられる。

 

[ねぇレオン。貴方と話がしたいって秘匿回線でメッセージが来ているんだけど...どうする? ]

 

 

「俺と?...まさか孤児院のお偉いさんか?それとも例のルークって男か? 」

 

 

[どちらもハズレよ。マンハッタン国際大学のハワード・ルイスって人、B.S.S.A.のアドバイザーみたい ]

 

 

「...ハワード教授か。解った、そのまま繋いでくれ 」

 

レオンは再び孤児院へ訪れると彼との通話を試みつつ探索をする事となった。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

ワシントン州にある20階建ての大きなビルの中、そこにある部屋の一角に佇む1人の男。

彼はルークといってエスペランサを始め様々な場所や施設を管理し運営している者であり簡単に言えば取締役

という立ち位置に値する。そしてもう1人、白のチャイナドレスに身を包んだ女性...蘭玲が彼の部屋にあるソファへ腰掛けていた。

 

「どうかした?随分と浮かない表情をしているけれど 」

 

 

「...俺の周辺を米国政府のネズミが嗅ぎ回っている 」

 

 

「......あぁ、そういう事。でも確信へ辿り着いた訳じゃないんだから問題ないでしょう? 」

 

 

「...だが見つかるのも時間の問題だ。この計画は成功させる事にこそ意味がある 」

 

 

「小規模な島で若者達をサンプルに実験し...成功したら次は本土で大規模な実験を行う。そうすれば大勢の人間が犠牲となり街は地獄そのものへ変わり果てる......大企業のお偉いさんでも知らない訳じゃないでしょう?ラクーン事件の事 」

 

 

「...当然。だが進化や革命には痛みが伴う、それは避けては通れぬ道だ。ウィルスによる人類の進化...スペンサーが成し遂げられなかった偉業を成し遂げ、俺はその頂点に立つ。人類を新たな境地へ導く者となるのだ 」

 

 

「妹は新たな世界の支配者......統治者という訳。成程、誰もが一度は考えそうな事ね 」

 

 

「だからこそ失敗は許されん...明日には孤島での実験を最終段階の第3フェーズへ移行させる 」

 

 

「第1フェーズが装着者の監視、第2フェーズはB.O.W.の投入による実験...最後は装着者の感染による大規模パンデミックの誘発。研究員達は? 」

 

 

「...既にインストラクターとして島へ送り込んだ者は退避している。そして新世界の扉はもう直ぐ開かれるのだ...!! 」

 

振り返ったルークは右側の口角を僅かに吊り上げ笑っている。

一方の蘭玲は頷きながら手にしていたワイングラスを覗き、小さな笑みを浮かべていた。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

エスペランサが未だこうなる前...アイラには1人の友人が居た。

試験留学という形で共にこの島へ訪れ、共にこの島で学んだたった1人の友人が居たが行方不明となってしまった。

彼女の名はグレース...彼女が最後に訪れたとされるのは校外から離れた地点にある森林の近くでそこから先は一切解らなかった。

探して欲しいと校長や理事長に幾度も頼み込んだが相手にされず...悪戯に日々だけが経過してしまった。

教員達が信用できないのであればと自分でも探してみたがやはり彼女の足取りは掴めぬままで苦戦し手を拱いていると

救いの手が差し伸べられた。その手の主は自身を気遣い、励まし、共に探そうと微笑み掛けてくれた。

彼女の手は温かく、立ち振る舞いもあってまるで童話に出て来るお姫様の様にも感じられ、

いつの間にかアイラと彼女はやがて親友同士となり学生と貴族という立場を超えて触れ合う程になっていった。

 

──そして彼女から託された。

 

パンドラの鍵と言われている新世界の向こう側へ通じるとされるモノを。

「合わせたい人が居る 」と言われ、少女が執事を呼ぶと部屋のドアが開かれる。そこには居なくなった筈の少女、グレースが居た。胸の下辺りまで伸びたウェーブの掛かった灰色の髪に首から下は白のキャミソール...そしてスカイグレイの瞳。それは探していた友人で間違いはなかった。アイラは立ち上がって嬉しさのあまり思わず声を漏らし泣いてしまった。

再び会えた事が何よりも嬉しかったから...自分の願いが叶ったから。

 

「貴女達は私にとって大切な存在...私が貴女を救済した様に今度は貴女が誰かを救済するのです。そうする事が貴女の使命であり貴女の役割......どうか忘れないでアイラ 」

 

そして自室で1人、アイラは写真立ての写真を眺めてから机の引き出しを開けるとそこにあったタブレット端末を取り出し

画面を起動するとリストの様な物が浮かび上がって来る。そこには学生達や教員、そして留学生の名も連なっていて

バイタルサインも確認出来る仕掛けとなっていた。

 

「......仰せのままに。我がメシア...始めましょう、グレース。先ずはこの学園を変革しなくては 」

 

その声と共に浴室から現れたのはグレースという少女、首から下は学生服だが何処か目が虚ろにも見える。

そしてアイラは彼女を見て小さく笑った。

 

 

事態は新たな方向へと動き出そうとしている......。

 

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