BIOHAZARD-PALADISE・LOST- 作:秋乃楓
この学校は歪んでいる。
私がそう思う様になったのはグレースという行方不明となった女子学生の存在を無かった事にしそれを校内での不適切行為による処分という形で処理したという事。
それだけではない、この学校の風紀は最低最悪でイジメや差別なんて日常茶飯事...此処に居るのは将来エリートとなる
人材や金持のお嬢様達ばかりで少しでも誰かに落ち度や欠点があればそこに漬け込まれて好き勝手される。
弱者を踏み躙る大学を変える為に私は生徒会長になったがマザー・フレイヤという存在が障害となりアダムという校長は彼女にこびへつらう仕草ばかり。彼もまた突然...人が変わった様に立ち回る存在となった。フレイヤという女性がこの学校の副理事として着任してからは特に激しくなった。此処に居る生徒は皆、初等部からの付き合いで多少の違和感やズレなど気にする事は無いまま外の世界の大学生達と等しい年齢まで成長した。だから仲間を疑う真似など絶対にしないのだ、例え外部から来た者にそう指摘されようとも。
『...この学園、そしてこの島で何が起きているか知りたくはありませんか?』
ある日、学園内で起きた暴行事件の件を報告する為に大学の校長室へ訪れた際にそこで彼女と私は初めて対面した。
生徒会長である私が学校の風紀や乱れ...そして行方不明となってしまった親友の事で悩んでいる最中に出会ったのは
この島に多額の支援金を出したという同い年の女性。聞く所によると彼女は名門貴族の生まれであり経緯としてはこの島の建設に対し将来性と未来への希望を兼ねて出資したのだという。それから私と彼女は隣の応接室で話し合う事となった。
『この島の...真実? 』
『ええ。貴女の事は校長先生から伺っております、とても優秀な生徒さんだそうですね?成績も申し分なく、学園の目標的な立場であると 』
『私は...その、少しでも学園を変えたいと思って。生徒会長になったのもその為です 』
『それは何故です、何か成し遂げたい事でも? 』
『......友達を探しているんです。名前はグレース・ベルヴェット、この島へ移住する為に乗った船の中で出会い、意気投合したのが彼女だったんです。でも...私が大学へ進学した1年生の後期に突然行方不明になってしまって...そこからずっと探しているのですが一向に見つからないんです 』
『それはお気の毒に... 』
『ごめんなさい...突然こんな話をしてしまって 』
『いえ...お気になさらないで。米国政府が希望者を募る形で募集したエスペランサ島への移住計画...私も話は存じております、この島は元来自然豊かな場所でそれを用いた海上都市を造ろうというのがそもそもの始まり。過去にテラグリジアという海上都市があったのをご存じですか?このエスペランサ島の開発スタッフの中には嘗てそこの建設に携わった者も居るんですよ 』
『...私達もそれに応募しこの島へ移住しました。父が工業系の仕事でこの島の開発員に選ばれ、それに伴う形で母と私含めて3人で此処に 』
『大元を辿ればエスペランサを観光都市として発展させ、世界中からの観光客を呼び込み、移住者を更に増やし...何れは他の有名な観光スポット達の中の1つとしてこの島が認知される事が私共の願いなのです。...話が脱線してしまいましたね、本題へ戻りましょうか 』
女性は用意された紅茶の入ったティーカップを手にしそれを右手で持つと口へ運ぶ形で
一口だけ中身を飲んでから再度話し出した。
『......この島の表向きの姿は単なる観光地、でももう1つの姿がある...それは── 』
私は彼女の言葉に耳を疑った。
一言一句正確に聞いたがやはり信じる事は出来ない。
何かの間違いか?それとも単なる聞き間違いかと思われたがそうではなさそうだった。
『...その事は他の教師達は知っているんですか? 』
『......存じ上げていません。それに此処の教員らは皆、貴女達生徒と同じで島外部からの人間達ばかり。マザー・フレイヤ...もといフレイヤ・グラニカスという方の親族にこの大学設立に関わった者が居て、どうやら彼女はその方の立場により副校長の座に就いたと関係者から伺っております。そして貴女達が腕に付けているそのリストタグには先程話したモノが仕組まれている...けれどそれを使用するのは悪魔で此方の判断のみ。決して故意に扱う事はありませんからどうかご安心を 』
『あ、貴女は...私達や島の人達を何だと思っているのですか!? 』
その問い掛けに対し彼女は鼻で笑った。そして先程の様な柔和な笑みも無く、彼女は目が据わった様な状態から
此方を見つつ更に話を続けていく。
『態々そんな事を聞かなくても解るでしょう?...貴女が来る約1年と少し前に此処で未曾有の生物災害が発生した。原因は研究段階のウィルスがトラブルで外部へ放出された為、そして約100人もの犠牲者を出す大惨事へ発展し先発として訪れていた移住希望者やスタッフが相次いで感染し全滅した。そして貴女達が移住してからは流出事故は一切無くなった......何故だと思いますか? 』
『......実験の進行度が上がったからですか? 』
『正確に言えば...政府が昨年度から始めた大学生向けの留学制度のお陰でしょう。彼等を被検体代わりに実験を繰り返し、漸く安定化に辿り着いた。原理はTウィルスと同じで感染すれば感染者は仮死状態となり...バケモノへ成り果てる。でも唯一違うのは新陳代謝の向上により四肢が欠損しようが致命傷を受けようが脳幹を破壊しない限り傷口を再生させ復活する...けれど不完全な場合は更に別のバケモノへ変化する事が現段階では解っている。そして支配する側...中枢個体の立場に回れば彼等を操れる事だって容易に可能だという事も含めて進んでいます 』
『...どうして、何故その事を私に? 』
疑問を抱いている私を見た彼女は立ち上がり、背後へ来ると右側から顔を近付けてから
耳元でこう呟いた。
『──壊してしまいましょう?こんな下らない箱庭など 』
『ッ......!?』
『安定など壊してしまえば良い...此処に居る者が例え全員死のうが、校舎が壊されようがまた造り直せば良いのです。たったそれだけの事......幾ら生徒会長という大きな立ち位置になろうが更に大きな権力の前に真実はうやむやにされ、相手にされず、やがて忘れ去られ、全ては闇に葬られるのだから 』
両手が胸元へ降りて来て私の事を抱き締める様な構図となる。
穏やかな吐息と彼女から漂って来る花の様な香りが静寂な空間の中に居る私を包み込んでいた。
その後、私は話した末に彼女からタブレット端末を受け取り...そして私のリストタグにはとある細工が施され、
それから事態は少しずつ少しずつ...前へ進んで行った。
私は素行不良の生徒を秘密裏に呼び出し、彼等のリストタグをタブレット端末で操作し感染させ
その具合を確かめ...そして私は思った。
──安寧というのは簡単に壊れるモノなのだと。
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リナは海岸沿いでエルザと再会を果たすと共に彼女へ会いに来たという事実をエスペランサにある居住エリア内のカフェテリアで
改めて説明した。
自分が叔父のハワードと共にエルザを助けに来た事、成績不良だがギリギリで留学制度に参加出来た事、
両親の現在も含めて。頼んだのはコーヒーとコーラの2つだけでそれぞれ2人の前へ置かれると話を続けていた。
「......そうだったの。苦労を掛けちゃったわね 」
「...ううん、平気...だって姉さんが生きていてくれたから。あのメッセージが送られて来て行かなきゃって思ったから後悔はしてない 」
だがエルザは僅かに眉間へ皺を寄せて首を傾げていた。
「...?バースデーの時にメッセージは送ったけれど、他に何か送った? 」
「...え?ヤバいモノを作ったって自分で送って来たじゃん、忘れたの? 」
「ごめんなさい...何の事?それから迎えに来て欲しいだなんて一言も話してないけど? 」
「...でも、私が動画で見たのはどう見ても姉さんだった!今更誤魔化さなくて良いからちゃんと話して!! 」
「ちょっとリナ、お願いだから声を抑えて。知らないの...間違って送ったのかもしれない......悪い事は言わないから早急にこの島から出た方が良いわ。この島は── 」
何かを言い掛けた時、エルザの携帯が鳴って彼女がそれを手にし誰かと通話を始める。
それから少し経ってエルザは再びリナと向き合った。
「ごめんなさいそろそろ戻らないと 」
「...戻るって...何処に? 」
「NEST-X...この島にある研究機関。近い内に取締役が此処へ来るの、現時点の研究成果を彼に公表しないといけないから。それから貴女と話せて楽しかったわリナ。パパとママには何も問題ないって貴女から話しておいてくれない? 」
「...そんなの自分の口で直接伝えれば良いじゃん、どうして...! 」
「生憎だけど時間が無いの...少しでも長く研究していたいから。代金は払っておくから早く学校へ戻って、問題を起こさずちゃんと期日まで過ごすのよ?良い? 」
カフェテリアを出たエルザの後を追う形でリナは彼女の後を早足で追い掛けて行く。
そして商店街が有る通りの中程で彼女の右手首を掴んでから少々強引に引き止めた。
「ちょっとリナ、そろそろいい加減──!! 」
「...エルザこそちゃんと話してよ!!どうして武装した連中が居るの、あのリストタグの本当の目的は何、何で学校にB.O.W.が出るの!?言ってくれなきゃ...話してくれなきゃ何も解らないじゃない!! 」
2人の間に沈黙が流れるとエルザは髪を少し掻き分けてから振り返った。
「......ついて来て、此処だといつ何処で誰に聞かれるか解らないから 」
その言葉を元に彼女が向かったのは商店街から離れた海岸方面、
人気が少ない砂浜へ来るとエルザは再び振り返って口を開いた。
「武装した連中の正体はB.A.C.が雇っている私設部隊...此処じゃ警察の様な役割を担っているのと並行して様々な事態の対処を行うのが彼等の役目。そして此処から逃げようとする者の処分も彼等の仕事なのよ 」
「...処分?」
「この島で行っている研究を島外へ持ち出そうとした者が処分され、脱走を試みた者も彼等に消された。被検体が脱走した際はその全員が彼等の手で処分された。島民が持つリストタグには高濃度のウィルス薬が仕込まれている他にGPSも内蔵されている。私のリストタグは施設へ出入りする為の物でウィルス薬は内蔵されていないから大丈夫だけど......GPSは有るから常に監視されているに等しいの 」
「...女の子の形をしたB.O.W.が出たのはどうして 」
「......実験よ。仕込まれたウィルスを必然的な恐怖に置かれた状況で投与すればどうなるか...その為の実験。リストタグにはバイタルサインが不安定化しても感染するシステムも備わっている。結果として男女6人が即座に感染しゾンビへ変わり果てた後、対象は何れも彼等が殺処分し死体は燃やした......さっきのメッセージの件だけど私は送ってなんかいない。それは本当の事よ 」
「...よくそんな事を淡々と言えるね。沢山の人達を実験だとか何とか言って殺しておいて!! 」
リナが詰め寄り、エルザを睨み付けるがそれでも彼女はリナを見て話を続けていく。
「......今更、言い訳なんてするつもりはない。もう引き返せない所まで来てしまったから。私が此処で研究員をしていられるのは...代表が私をスカウトしてくれたから、立場と役職をくれたから今があるの。もう話はこれでお終いよ、早く戻りなさい 」
「...エルザ......悪い事は言わない、今ならまだ戻れるから...だからもうこんな事は止めて!!これ以上続けたら本当にエルザがエルザじゃなくなっちゃう、そんなに今の自分の立場が...仕事が大事なの!? 」
「えぇ...大事よ!!常に大勢の人達から期待を寄せられ、何をするにも成功だけを求められ、失敗なんて絶対に許されない立場になった事がない貴女にはこの苦しみが解からないでしょうね。私はね...ずっとそうだった......!!貴女が友達と遊んでいる間...私はずっと勉強ばかり、成績は常にトップじゃないとダメ、2位じゃ誰も相手にしてくれない!!だから私は努力し続けた...私はバカな貴女とは違うの!! 」
「...でも父さんも母さんもそんな事言ってなかった!! 」
「それは2人が...特に母さんが貴女に何も期待していなかったからよ。天才から天才の子が産まれるとは限らないでしょう?父さんと叔父さんは貴女に肩入れしてたみたいだけれど...本当はどうだったのかしら 」
「...ねぇ、それってどういう──ッ!? 」
胸倉を掴もうとした瞬間、リナの身体が急に宙を舞った。
右脇腹へ強い痛みが走った後にその身体は浅瀬へ叩き付けられては
海水により服が濡れると同時に口へ塩気が広がっていくのを感じていた。
「あぐぅうッ!?あ...げほ、ごほッ、ごほぉッ!っぐ...はぁ...はぁッ...な、何...!? 」
「......プロフェッサーへ手を上げるだなんて随分と無礼な方なのですね?とても同じ血が流れている方とは思えません 」
聞き覚えがある声に視線を向ける、丁度海岸を見渡せる通りの上に谷間が出た薄紫色のドレスを着ている
銀髪の女性の姿があった。そしてエルザの直ぐ近くにはあのレインコートの少女が立っていて彼女を守る様にそこに居る。
「...あ、アンタ...確か...歓迎会の時に居た......!? 」
「ふふッ...こうして面と向かって会うのは初めてですね?リナ・クロフトさん 」
「...どうして...私の名前を...ッ...!? 」
打たれた脇腹を抑えながら立ち上がり、相手を睨み付ける。
「どうして?...野暮な事を。私は貴女の事なら何でも知っています。左手のリストタグを捨てた事、旧居住エリアに侵入した事も、そして学校でその子と対峙した事も全部 」
「...ッ! 」
「この島じゃ何もかも全てが筒抜けであり...些細な秘密など直ぐに公にされる。そして聞き分けが無い者、役に立たない者、掟に背く者には然るべき罰が与えられる!! 」
彼女が合図するとレインコートの少女がリナへ襲い掛かる、黒い塊が首へ巻き付いたと思えば彼女を砂浜へ勢い良く背中から
叩きつけた。激痛で両目が見開かれ、苦しそうに横たわっている所へ少女が差し掛かると腹部を右足で蹴り上げては表情1つ変えぬまま黒い塊を四方へ展開し突き放したリナを見据えていた。
「ど...どうして...こんな......ッ...! 」
「...またどうしてと聞く。される事に対し一々理由が必要ですか?...被検体の分際で立場を弁えなさい 」
合図したかと思えば少女がリナの四肢を拘束し話していた女性の方へ投げ飛ばす、
リナの身体がアスファルトの地面へ叩き付けられると彼女はそこへ歩み寄り
屈んでからリナの髪を右手で掴んで強引に起こさせた。
「......黙って従いさえすればそれで済む話でしょう。お姉様の言う事が聞けないのかしら? 」
「...っさい、アンタに...関係ない...でしょう...! 」
「...... 」
すると今度は左手で着ていたシャツとスポーツブラを首元から強引に引き裂くと両胸をはだけさせ、
白い肌を持つ程良い大きさの膨らみへ手を掛けて右胸だけを強く握り潰して来たのだ。
それも中程から力強く...下手をすればもぎ取るのではないかと思う程に強く揉んだり握りながら捻る等しリナの反応を楽しんでいた。一方の相手はその悲鳴を聞いて楽しんでいる様にしか思えない。
「いぎぃいいいぃぃッ、あぐぅうぁあああぁぁぁッ──!? 」
「生意気な子を解らせ、躾けるのは私の得意分野......ふふッ、それにしても良い大きさね...?私の手に収まるか少し上回る程の申し分ない大きさをしているし...…これなら男でも十分に惹き付けられる。いっそこのまま引き千切ってあげましょうか? 」
それが暫く続き、激痛に耐えながらリナは相手を睨むと顔面へ向けて唾を吐き掛けた。
視線を逸らしたのを機に右足で蹴飛ばして強引に離れると爪が立てられたせいで胸元から僅かに出血してしまうも
痛みに堪えながら彼女は拳銃を差し向け威圧すると相手はその場に立ち上がって唾液を拭うと怒りに満ちた表情でリナを睨んで叫んだ。その両目は据わっている状態で明確な殺意すら感じられる。
「......よくも私の顔に…このナスターシャの顔に唾を吐いてくれたわね。被検体の分際で!! 」
「...黙れ!誰もがアンタの言う通りになると思うな!! 」
「プロフェッサー・エルザ...少し痛め付けても宜しくて?大丈夫、殺しはしないわ......服をひん剥いて、可愛がって、許しを請うまで地面に跪かせるだけだから...良いでしょう? 」
砂浜で佇んでいるエルザへそう問い掛けるが彼女は唇を噤んで話そうとはしない。
「……そう。沈黙は許可と取って宜しいですわね?いらっしゃい…エヴァリエル、遊びの時間よ 」
合図と共に砂浜へ居たレインコートの少女が駆けて来て跳躍、リナと女性の合間へ来ると
黒い塊を地面から湧き出しつつにじり寄って来た。
「…この子もアンタが造ったの?」
「……えぇ。素敵でしょう?愛称はエヴァ…私の可愛い義妹、そして私に最も忠実な下僕 」
「…へぇ?良い趣味してるよ、本ッ当…最悪!! 」
「──気が変わった。殺しなさい!!」
合図と共に駆け出し、右手首の半分に塊を纏わせるとそれが刃の様に鋭く鋭利に尖っては
頭上からそれを振り下ろして来る。リナはそれを右へ飛んで躱し発砲するがやはり弾丸は着弾しても効果は与えられない上に
幾ら撃っても直ぐに再生してしまう事から弾の無駄というのが見て取れる。
間髪入れず塊を今度は鞭の様にしならせて振り翳すと通りの一部が大きく抉れて壁面が陥没、舌打ちしたリナは
後退し学校がある方面へと向けて走り出した。
「あははははは!!その子から逃げられると本気で思っているのかしら?鬼ごっこはこの子が一番大好きな遊びなのよ? 」
「ッ…!! 」
背後からは素足で駆ける音が迫り来るがそれでもお構いなしに走り続けると
彼女が逃げ込んだのはB.A.C.の私設部隊が物資保管場所として使用している区域で
フェンスを強引に上ってそこへ侵入、そして物資がある中で見つけたのは武器が置かれた
簡易的な倉庫の様な場所。そこからの他に専用の弾丸を幾つか拾った際に
外から物を薙ぎ倒す様な轟音が響き渡った。
「…やる気満々って事ね。早く何とかして学校に戻らないと 」
その際に彼女は黒い持ち手に銀色の刃を持つ全長約395mmと刃長約95mmのタクティカルトマホークと手榴弾を幾つか手にしそれらを壁面に掛けてあったタクティカルベストを破かれた服の上から着て左腰の後ろ等へ装備し外へ出るとエヴァリエルというB.O.W.と再度対峙する、相手はリナを見て笑った様な気がした。
「見つ…け…た......! 」
「...遊ぶ時間はもう終わりだよ。大人しくお家に帰りな!! 」
エヴァリエルがゆっくりと左へ移動したかと思えば急に駆け出すと右手へ黒い塊を纏わせ、それを武器に跳躍して頭上から襲い来る。対するリナは拳銃を一旦ポケットへ戻してから腰後ろのトマホークを引き抜くとそれを弾き返して応戦し隙が生じた瞬間にそれを振り下ろし叫んだ。
「っだぁあああぁああぁぁぁッ──!!」
勢い任せに振り下ろしたそれが胸元へ命中し肌と肉を引き裂く手応えと共に振り抜かれる。
悲鳴と共に赤黒い血液が噴き出し斜め掛けに付けられた傷を負ったエヴァリエルは飛び退いて今度は塊を鞭の様にしならせ
それを幾度も振り回し攻撃して来る。躱す度にコンテナや地面を鈍い音と共に大きく凹ませて容姿を変化させていく中で
リナは距離を開けつつ今度は担いでいた散弾銃を構え、頭上から来る攻撃を左に躱しつつ正面から来た刺突を右に身体を反らして躱しては自分から接近すると引き金を引いて至近距離で発砲。
3発の弾丸が左肩へ命中し肩の肉を大きく削ぎ落すと肉塊が飛散しエヴァリエルが悲鳴を上げた。
「ぎゃあああぁぁああぁぁぁッ──!?」
「...もう一発!! 」
制止させようと突き出して来た右手ごと再度発砲し手の平ごと吹き飛ばして怯ませる。
吹き飛んだそれが飛散しエヴァリエルはリナを塊を利用し正面から突き飛ばすと距離を取って警戒態勢へ移行する、
負傷した箇所からは白い煙が立ち昇り始めるとそれは再生が始まっている事を現していた。
悲鳴を上げ、ある程度再生した段階のままで再び塊を自身の周囲へ展開しコンテナや資材を投擲すると言った攻撃を繰り出しては攻撃も真下から突き上げる様な攻撃へ変化、更に左手を突き出すと先端が尖った黒い塊がリナへ向け飛散して来る。
「い...た...い......いた...い...痛いぃいいいぃぃぃッ──!! 」
「ぐぅう...ッ!! 」
咄嗟にそれを右へ躱すが地面からの突き上げが躱し損ねた彼女の右肩を刺し貫いた。血が噴き出すも背中から地面へ倒れた状態のままセミオートからフルオートへ切り替えては引き金を引き続け3発の弾丸を同時にエヴァリエルへ向け発砲し続ける。
腹部、右肩、胸元、左足へ相次いで命中する度に彼女は仰け反って後退、再生させない形で追い打ちを掛け続け
弾が切れると立ち上がって慣れない手付きで何とかリロードを済ませて銃口を差し向ける。
「こんのぉ...ッ、いい加減...くたばれぇえええッ──!!」
再生しつつある中、リナは顔を上げたエヴァリエルへ向け発砲、それが顔面へ命中し彼女は背中から地面へ倒れる。
そして息を切らしながらリナは近付いて銃口をエヴァリエルへ差し向けるが彼女は両手で負傷した顔を隠しながら
ゆっくりと言葉を口にする。
「ら...ん......ぼう...し......な…い...で......い、い...こ...に...…する...か...ら...... 」
「...くそッ!! 」
前髪を左手で掻き分けたと同時にエヴァリエルは動かなくなる、そしてリナはやるせない思いを抱いたまま
その場を後にした。
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彼女は学校へ戻って正面玄関から中へ入る。
そこでクレアと出会うと彼女は心配そうな面持ちで近寄って来た。教科書を持っている辺り講義を受けた後なのは
間違いなさそうだった。
「リナ!?どうしたの...何かめっちゃケガしてるじゃん...! 」
「...あー......えっと色々あっただけ。学校は?大丈夫? 」
「うん...兎に角今は部屋に行こう?私、保健室で包帯とか貰って来るから! 」
「......お願い 」
頷いた彼女はクレアの背を見送り、部屋を訪れるとカードキーでドアを開けて
中へと入る。そのままベットへ歩み寄るとベストを外してそのまま倒れ込んでしまった。
ケガの痛みも有るがこうして此処に居る事が何よりの幸福だと感じられたからに過ぎない。
ドアが開くとクレアが来てリナの左側へ腰掛けると目の前に傷薬と包帯を置いた。
「エマ先生から貰って来たよ。...取り敢えず色々持って行けって言われたから 」
「...ありがと 」
身体を起こすとリナは「先にシャワーを浴びたいと」伝え、クレアもそれに付き添う形になる。
脱衣所で互いに服を脱ぐと浴室で蛇口を捻ってシャワーから出るお湯を身体へ当て始めたが
傷口へ当たった事でリナは痛みにより表情を歪ませた。
「...痛ッ! 」
「ほら、無理しないの!肩もケガしてて...脇も何か色変わってるし、膝も擦り剝いてるのにお風呂なんて無茶じゃない? 」
「...汗と海水で気持ち悪かったの。あのまま手当したらもっと最悪だった 」
「そっか...って海入ったの!?本当に何やってんだか...そこに座って、私がやってあげるから 」
「...平気、大丈夫だってば 」
「ケガ人は大人しく言う事聞く!...あたしじゃなくてレイラでも同じ事するよきっと 」
据わる様に促され、観念したのかリナは椅子へ腰掛けた。
傷口を極力避けつつ身体を丁寧に洗い終えるとリナはその場に立ち上がってクレアへ話し掛ける。
「......実はさっき姉さんに会ったんだ 」
「お姉さんに?リナってお姉さん居たんだ 」
「...一応ね。でも雰囲気が全然違ってた、私の事を遠ざけてる...そんな感じがした。まぁ5年近くも会ってないから仕方ない事だとは思うけど......人ってそこまで変わるモノなのかな 」
「それは...ちょっと解らないけど......でもお姉さんだって本当はリナと会いたいって思ってたんじゃない? 」
「...どうだろうね。私は姉さんを探しにこの制度に参加した、此処に行けば会えるってそう思ってた...でも実際に会って姉さんに言われた......私の事嫌いだって。それでも...まだ認めたくないって......そんな自分が居る...どうすれば良いんだろう?会ってもどうせ...嫌われる、嫌な事も沢山言われるだけなのに......私は...ただ、抱き締めて...欲しかった…...姉さんに...久し振りだねって...元気にしてたかって...言われたかった...…でも私は、私は──!! 」
自問自答を始めるリナを包み込む様にクレアが彼女を抱き締めると
そして何も言わずに首を横へ振って背中を擦りつつ耳元で囁いた。
「......もう良いよ充分解ったから。辛かったんだよね、苦しかったんだよね?ずっとずっと...あたしはリナのお姉さんの代わりにはなれないけど友達としてなら貴女を受け入れてあげられる。だから今は好きなだけ泣いて良いから...ね? 」
クレアが再び蛇口を捻るとシャワーノズルからお湯が出て、お互いに抱き合ったままそれを浴びる構図となる。
その間...リナは声を上げて泣いた。それは今まで自分が押し殺し溜め込んでいた感情の全てだったのかもしれない。
暫くしてから2人は浴室の床へ腰掛けていてリナに至っては両足を投げ出したままクレアへ寄り掛かっていた。
「......落ち着いた?」
「...うん。ありがと、もう大丈夫だから 」
「良かった。ねぇリナ?あたし達...生きて此処から帰れるのかな? 」
「...大丈夫。私が姉さん達を止める...ちゃんと向き合って話せば解ってくれるかもしれない 」
身体を起こしたリナは前髪を右手で掻き分けると振り返って何を思ったのかクレアへ顔を近付ける、そして2人の唇がそっと重なった。僅かな沈黙の後に2人の合間に銀糸が引くとリナが離れて先に立ち上がった。
「ね、ねぇ...今のって── 」
「...返事は全部終わってから聞かせて 」
それ以上何も話さずに浴室を出る、そこでレイラと鉢合わせるとリナの身体を隈なく見てから彼女は指を差しながら声を上げた。
「ちょっと、居るなら返事位してくれても──って何そのケガ!?どうしてケガしてるのにお風呂なんか...!!クレアもどうして止めないで一緒に入ってるのよ、何かあったらどうする気!? 」
更に過剰な心配されたリナは2人から少々強引な形だが傷口の手当てをされ、
束の間の安らぎに対し彼女は普段よりも笑っていた。
島の齎す悪夢は依然と残り続けている、それでも今だけは忘れていたいとリナは心の何処かでそう考えていた。