BIOHAZARD-PALADISE・LOST- 作:秋乃楓
あれからリナと別れたエルザは研究室へ戻っていた。
部屋の机にはノートPCや数多くの書類を始め、飲み掛けのコーヒーが入ったマグカップが置かれていて
他には簡易的なベッドがある位。椅子へ腰掛けると彼女は僅かな溜め息を吐いて天井を見上げていた。
此処はNEST-Xといってエスペランサの地下に存在する極秘研究エリアでもあって島の様子や被検体達のデータも閲覧する事が
可能となっている事からこの島は文字通り単なる研究施設の1つにしか過ぎない。
ノートPCに1件の新着メールが来ていて、彼女はそれを開くと中身を閲覧し始めた。
「フェーズ3への移行要請...とうとう始める気なのね、代表は 」
髪を右手で掻きながらエルザは承認する為の返信を返そうとメッセージを入力し始めた時。
『これ以上続けたら本当にエルザがエルザじゃなくなっちゃう!! 』
その言葉が彼女の脳裏を過ぎった。
幾ら突き放そうが、何をしようがあの子は昔から私にべっとり付いて来たが
家族や周りから期待される一方でリナは何1つ要求せず...ずっと傍に居てくれた。
(私は...リナの居るこの国を...世界そのものを壊そうとしている......。でも此処まで来れたのは...... )
メッセージの最後を打ち終えた彼女は送信ボタンへカーソルを合わせる。
これを押せばメッセージ派代表のPCへ送信される...だがエルザの中にある良心が、リナの抱く自分への想いが
それを止めていた。
「私は...... 」
唇を噛み締めたまま、彼女は画面と向き合っていた。
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同じ日、リナは用務員室へ訪れるとそこに居たロバートへ声を掛ける。
彼はリナを快く部屋へ迎え入れると耐熱ガラスのポットに入ったコーヒーを紙コップに淹れ、それを彼女へ差し出した。
「ありがとう...ございます 」
「礼には及ばんさ。そのケガ...どうやら相当酷い目に遭わされたらしいな 」
「...エルザを説得したら断られちゃって 」
「......無理もないさ、B.A.C.に入社すれば天国の様な暮らしが保証される。困る事は何1つ無いしオマケに給料だってそこら辺の会社より貰える。例え自分の命がどうなろうと連中は最後まで縋り続けるだろうさ 」
「...ナスターシャって人、何者なんですか? 」
「ナスターシャ?あぁ...あの城のお嬢様か 」
リナは城という言葉に対し耳を疑う。
「城?この島に城が有るんですか!? 」
「この学校の裏側、森林を抜けた先に大きな城がある...そこに住んでいるのがそのナスターシャって奴さ。この学校にも多額の支援金を寄せた金持ちの家のお嬢様だよ。エスペランサの開発支援にも多額の寄付金を寄せていてな、教員達もこの島に住む連中も皆彼女とその家に対し頭が上がらないんだよ 」
「...その人ってどういう人なんです? 」
「どういう人?うーん...誰よりも優しくて慈悲深い感じだな。金持ちはほら、自分の立場とか財産をみせびらかしたりするだろう?そういうのを一切せず、それ相応の立ち振る舞いを常に心掛けている。まぁ華やかだった中世の貴族みたいなもんさ 」
「...貴族 」
あの時見た彼女の様子はどう見てもその貴族というイメージからかけ離れている。
まるで弱者を痛ぶる事に対し何の躊躇いも無ければ、平気で誰かを蹴落とす...そんな風にリナには見えていた。
「...そのお城って直接森を抜ければ行けるんですか? 」
「え?行けない事は無いが...シルヴェーヌ家のご令嬢だ、会うにはアポが必要だぞ?それにマザーの許可も必要......そう簡単に許可は出してくれないだろう。ましてや相手が島外の留学生なら猶更な 」
「...またマザーって人ですか 」
「嫌いか? 」
「...嫌いというか苦手です。初めて会った時、高圧的な態度で人を見下している様にしか見えなかったから 」
そうリナが口にするとロバートは僅かな溜め息を吐いた。
「前にも話したが...この学園が彼女の居場所なのさ。例え誰に恨まれ、憎まれようと彼女は此処を守り続ける...此処に通う生徒達全員を含めてな。でもまぁ俺も彼女の事をあまり信じちゃいない......学園の為なら不都合な真実は何でも隠して無かった事にしようとする。だから信用ならねぇのさ 」
「...もし仮に此処で
「島民は全滅...それからこの学園も大惨事になるのは間違いない。規模は恐らくラクーンのそれに匹敵するかもしれないだろうな
......この前出たあのゾンビはお前さんが言う通り、此処に通ってる生徒で後に解ったんだが男女合わせて6人が死んだ。そういや留学はどうなるんだ? 」
「...今は自由行動で授業に出るか否かは生徒が選べます...そうするってこの間、校長が話してました 」
「そうか...そういや今日は学園祭だったっけか。 」
確かに外から聞こえて来る花火の音と賑やかな声に関してリナもまた疑問に抱いていた。
「学園祭...? 」
「まぁそうは言っても島の中だけでやるイベントだよ。島外からなんざ人を呼べやしねぇからな...それと後で学校裏に来い。話がある 」
「...話?」
「あぁ。今から...2時間後だ。それまで楽しんで来いよ。...楽しめたらだけどな 」
彼は苦笑いしそう伝えるとリナは頷く。そして彼女は彼の元を去った。
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同じ頃。レオンはロバートが勤務しているマンハッタン国際大学へと訪れていて
そこに有る彼の書斎で話を伺っていた。
「ハワード教授、俺に話が有ると伺いましたが? 」
「すまない...D.S.O.も暇ではないのは解っているんだが、キミの力を貸して貰いたくて連絡した 」
「......例の島の話ですね? 」
「...そうだ。私の孫がこの間そこへ向かってから日数がかなり経過した...本来なら引率する筈だったのだがインストラクターに断られてしまい、それが叶わなかった 」
「その孫の様子を代わりに俺に見て来いと?...秘匿回線で呼び出す様な事ではないでしょう 」
「あれから私の方でも色々気になって調べたのだが...やはりあの島は奇妙だ。一体米国政府は何を隠している? 」
「先ずは落ち着いて。調べて解ったのは米国政府に対しシルヴェーヌ家という名門貴族が多額の資金援助を行っているという事...そして貴方が話した学生支援団体とも繋がりがあった......オマケにB.A.C.という企業がバックとして付いているがその実態はB.O.W.の開発やウィルス開発にも着手しているということ。更にコネクションという組織が一枚噛んでいる可能性も避けられません 」
「じ、じゃあ...リナや他の学生は...... 」
「...新型ウィルスの実験体。そう見るのが妥当かもしれないでしょう 」
ハワードは無言で頷く。そしてレオンは再度口を開いた。
「島へのアクセス手段が確立出来たら現地へ向かいます。それからもう1人...エルザ・クロフトも今回の件に関わっている可能性が高いかと 」
「エルザが!?そ...そうか、生きていたのか...... 」
「...また連絡します 」
彼はそう話し、書斎を出て廊下を歩いていると中年の清掃員の男性が声を掛けて来る。
振り返った彼は足を止めた。
「あ、アンタ...あの島...エスペランサへ行くんだろう!? 」
「...盗み聞きしていたのか? 」
「それは謝る...俺はダニエル・ベルヴェット、娘を探しているんだ 」
そういうと彼は一枚の写真をレオンへ見せて来る。そこには学生服を着て灰色の髪をした美しいスカイブルーの瞳を持つ
少女が微笑んでいた。
「...名前は? 」
「グレース・ベルヴェット...友人と共に島へ行ったきり帰って来ないんだ 」
「2人で向かったのか? 」
「あ、あぁ...友達と共に試験留学に行って5日間滞在したら戻る予定だったんだが戻らなくて...... 」
「解った。丁度同じ様な話をしていた所だ、合わせて探してみるよ 」
レオンはそれを引き受け、安堵した様子のダニエルを見てから再び歩みを進める。
しかし無事で居るという保証は何処にも無い...それだけは敢えて伝えなかった。
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あれからリナは屋上で1人、学園祭の様子を眺めていた。
此処に居る生徒と留学生として訪れた生徒らは各々が打ち解けたのか仲良さそうに話し合っているのが目に入る。
彼女の元へ訪れたのはカイルで気配に気付いた彼女は振り返った。
「...何か用? 」
「いや、別に。学園祭...行かないのか?レイラとクレアがお前の事探してたぞ 」
「...私はパス。そういうの苦手だから 」
「俺も同じだよ、騒がしいのは好きじゃない 」
「...そう。私からすればあんな事が起きたばっかりなのに平然として居られるのが不思議だよ 」
「知らない方が良いって事も有るんだろうさ...理事長と校長が集会で話してただろう?何も気にしなくて良いってさ 」
「...無理だよ、見ちゃったし私は現に殺されそうになった 」
「平気か? 」
「...平気なワケ無いでしょ。向こうは本気で隠し通すつもりなのかもしれないけど、それも何時まで持つか解らない 」
リナは眼下の生徒達を見ながら溜め息を吐いた時、電子音の様な音が聞こえた様な気がした。
それから再び電子音が鳴り響いては悲鳴が上がった。
「なぁ今のって── 」
「...行こう!! 」
リナが先陣を切って学園祭が行われている場所へ訪れ、付近に居た男子生徒へ話し掛けるのだが彼は既に手遅れで
ヒトならざる者へ変貌していた。
「グルルォオオオッ!! 」
「ゾンビ!?どうして...ッ!! 」
掴み掛られる前に右足で蹴飛ばすと咄嗟に拳銃を引き抜き、発砲体制へ映る。そして顔を上げたと同時に
躊躇いなく引き金を引いた。破裂音と共に放たれた弾丸が眉間を穿つと後頭部から血液と脳髄が入り混じった
何かを放出し倒れる。
「り、リナ...! 」
「...嫌な予感がする 」
相手が倒れた際に足元に落ちていたリストタグを見るとそこから発せられていたのは電子音声で
それも女性の声で同じ内容だけが延々と繰り返されている。
[警告。あなたは本土における立ち入り禁止区域へ侵入した事が正式に確認されました、これより処置を開始します、このシステムは如何なる命令コードでも解除する事は出来ません。警告。あなたは── ]
「...どういう事!?学校内は禁止区域じゃない筈なのに! 」
「誤作動か何かじゃないのか? 」
「...それにしたって幾ら何でもタイミングが── 」
リナの疑問符は女子生徒の悲鳴で掻き消され、その場から学園内の広場へ来ると既に同様の音声が相次いで流れては
もがき苦しみ出す生徒らが出始めていた。それだけではない、外部から来た留学生達も相次いで同様の症例が巻き起こり始めていた。
「何だよ...これ......何が起こってるんだ!? 」
「...
付近に居た男子生徒が警告音が鳴り出したそれを嵌めていて、2人へ助けを求めて来ると
リナは咄嗟にキッチンナイフでバンドを切断し放り投げて足で踏み付ける。するとそこから青色の液体が滲み出て来た。
原因であるウィルスがそこに含まれていたのを悟ると今度は襲って来た男女らに対し拳銃を差し向けて身構える。
「...カイル、早く戻って2人を探して!! 」
「お前はどうするんだ!? 」
「...出来る限りの事はする!! 」
別れたリナは周辺に居た生徒達へリストタグを外せと叫んでどうにか食い止めようとする、
何人かは外して免れたもののそれでも感染者の数は増えていくばかり。
その光景はまるで地獄というのに相応しく、彼女はハワードから聞いていた事を思い出していた。
「...おじさんの言う通りだった、ウィルスは下衆な考えを持つニンゲンよりも怖くてタチが悪い...ッ!! 」
眉間や胸部等を立て続けに撃ち抜いては慣れた手付きでリロードし何とか生存者を非難させようと
する、不意を突かれて組み付かれた彼女は左手に持っていたキッチンナイフを女子生徒の首元へ突き刺すと右足の正面蹴りで
突き放す。その最中に視線を感じたリナは銃口を自身から見て正面へ差し向けるとそこに居たのはこの学校の制服を着ている灰色の髪をした少女で目が合うと微かに笑った様な気がした。
「...誰?あの子...... 」
そして彼女は右手の指先を鋭利な爪が付いた物へ変貌させると一直線にリナへ襲い掛かって来たのだ。
右へ飛んで振り下ろしを躱すと付近に居た男子生徒の身体が斜め掛けに斬り捨てられ、
風に靡く髪とスカイブルーの瞳が再びリナを捉えると今度は真下から掬い上げる様な形で襲い掛かって来る。
「...くッ!! 」
咄嗟に後退し距離を置いて発砲すると弾丸が左胸、右脇腹、そして眉間へ命中するとその場で動きが止まった。
致命傷を与えた訳ではないがその隙に彼女も駆け出して校舎へと向かう。背後から聞こえて来た足音に対し振り返ろうとしたが
「振り返るな!! 」という声が前方から聞こえた。それはロバートの物で彼はリナが校舎内へ通じる通りの中へ飛び込んだタイミングで追って来たそれの両足を射抜いて転倒させる、そして扉を閉めると鍵を掛けた。
「無事か!? 」
「な、何とか...ッ......! 」
「......マザーがお呼びだ、お前さんを連れて来いとな 」
「...私を? 」
頷いた後にロバートから差し出された手を握って立ち上がるとリナは理事長室へと訪れる。
そこには呼び出した当の本人とアイラの他に校長であるアダムの3名でフレイヤは此方を見ると
口を開いた。
「間違いないのですね?この者が騒ぎを引き起こしたのは 」
「はい...マザー、間違いなく彼女の仕業です。彼女が...リナ・クロフトが一連の騒ぎを引き起こしました 」
何処か神妙な面持ちのままアイラがそう話すとリナは耳を疑った。そして詰め寄ると弁解すべく彼女は口を開く。
「...どういう事!?私は何も──!! 」
「......リナ・クロフトさん。貴女が我が神聖な学園を気に入らず、騒ぎやトラブルを引き起こし他の生徒や留学生の気を引きたいというのは先程の事態で解った通りまごう事無き事実です。よって貴女を要注意人物と見なし監禁します、連れて行きなさい 」
するとフレイヤの傍に居た短い黒髪と丸レンズのサングラスをした上下黒のスーツ姿の男性が近寄るとリナの右手から拳銃を取り上げた。
「ッ...それを返して!! 」
「ダメだ。これは没収する...ヒーローごっこもこれでお終いだ 」
そしてリナは彼と別の教員により連れて行かれ、その最中にロバートへ助けを請う。だが彼は助ける様な素振りは見せず
話始めた。
「...学園の均衡を保つ為だ。その為には絶対的な存在としてマザーが必要なのさ、悪く思わないでくれよ? 」
「じ、じゃあ...さっき見たアレは──!! 」
「[[emphasismark:何も無かった、何も見なかった事にする > ﹅]]。それでこの話はお終いだ 」
「く...ッ...... 」
リナが連れて行かれたのは学生寮の中にある一室でそこは使っていない空き部屋。
眼鏡の教員が彼女に対しボディチェックを施すとリナをそこへ追いやった。
「監禁部屋といってもトイレとバスは備わっているから安心していい。食事は届ける...何かあればそこの電話で呼ぶんだ 」
「...名前は 」
「私はイアン。イアン・リーだ 」
「...解った 」
「他に何か質問は? 」
「...私はいつ此処から出られるの? 」
「それはマザー次第だ。私が決める事ではない...暫く大人しくしていれば此処から出られる筈だ 」
そう言い残し、イアンはドアへ施錠し立ち去ると残されたリナは壁を力一杯殴り付ける。
じんとした痛さが拡がって来る中で彼女は歯を食い縛ってやり場のない感情を抑え込んでいた。
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リナが監禁された後。外に居た何者かは大きな人型の銅像前で立ち尽くしているグレースへ近寄ると彼女へ端末を見せる。
「...マザーはリナさんが騒ぎを起こしたと認識している。でもこれで彼女の目は欺けたはず 」
落ちていたリストタグを拾い上げ、鼻で笑うとそれを投げ捨てた。
もうこの場所は安全ではない...何時まで彼等、彼女等は此処へ縋り続けるのか...あの聖域の主に従い続けるのかと
思えば思う程滑稽でたまらない。
信じられるのは自分の友達を助けてくれたメシアとも言うべき存在のみ。
「もう直ぐ...もう直ぐこの聖域も終わりを告げる......私は私の戦いをします...どうか見ていて下さい......我がメシア 」
グレースへ見せた端末にはリナや残る3人以外の生徒の名があった。
そしてゆっくりと2人は寄り添いながら学生寮へと戻って行った。