三人称視点
ササイ姉妹が主人公のところへ行ってから一週間後
12話
ダンジョン攻略は、六人一組で行われる。
これは『ダンジョンの法則』のようなもの──
全員でいっぺんに押しかけてアタックするには、ダンジョンは狭い。
加えて言えば、クラス全員──三十二名が一つのパーティとして連携するというのは、難しい。
彼らは異世界転移した学生でしかない。体育祭などで連携した運動の訓練はしなくもないが、実戦でひと塊の生き物のように連携するには、それこそ年単位の訓練が必要で、状況はそこまでのんびりと、転移した学生たちが『部隊』として仕上がるのを待ってはくれなかった。
……この世界の者が本気で『異世界転移者に、淫魔女王のダンジョンを踏破してほしい』と思っているならば訓練期間をとるべきではある。
しかし、転移者は最終的には淫魔女王に捧げる生贄でしかない。『ある程度』は強くなってもらわなければ困る──あまりにも弱いと
パーティには
このランキング制度が考案されたおかげで、ヤナウエのパーティを不動のトップとしつつ、二位以下での競争意識が高まり、クラスメイトたちは『健全な競争』の中で、モチベーションを維持しつつ攻略に励むことができていた。
……これらすべて、ヤナウエらパーティのメンバーが考案したものだ。
異世界にいきなり呼び出されて、戦ったこともない学生が、ダンジョン攻略なんていう無理難題を押し付けれらた。その状況でこれだけの運用ができるのは、間違いなく才覚であり、実力と言える。
もちろんランキングにはご褒美ありきだ。その『ご褒美』を王宮から引き出した交渉術も含めて、このクラスには、淫魔女王を実際に討伐してしまえるだけのスペックが確かにあった。
それが今、十五階層で足踏みしている。
「ちょっと! ねえ! 行かないでよ!」
薄暗い、鍾乳洞のようなダンジョン。
土や石にしか見えないもので天井や壁が構成され、光源はなく、しかし不思議と視界には困らないこの場所に、今日もアタックするパーティがあった。
クラス内序列は四位。ただし、二位から四位の実力は伯仲していて、入れ替わりが激しい。
そういう状況であるだけに訓練意欲も高いその六人組は、ヤナウエのパーティには敵わない──敵わな
構成メンバーは前衛のワタナベ、カリヤ、ナイトウ。
そこに後衛の攻撃役であるネコイ、補助役のキサキ、それから回復役としてインドウが加わった『前衛三枚、後衛三枚』、しかも攻撃、補助、回復と揃ったパーティだった。
それが、手も足も出ず、我先にと逃げている。
「ねぇってばあ!」
逃げる仲間たちに必死に叫ぶのは、後衛攻撃役のネコイ。
小柄で細い。顔立ちが幼い上に、髪をツーサイドアップにしているので、余計に年下に見える。
制服のサイズは最小だが、それでも袖がちょっと余る。
ダンジョンに挑む際に着ているのは、制服と、それから、ウィッチベレットに、節くれだった木の杖だった。
加えて、指輪。
ダンジョンの中では、このような装備品がドロップする。
それらはモンスターを倒せば出る場合もあるし、宝箱の中から発見される場合もある。
また、滅多に発見できないが、床に落ちていたり、壁に埋まっていたり、というケースもあった。
これは『前回の転移者の落とし物』でもあり、いわゆるところの『ダンジョン資源』の一部でもある。
ダンジョン資源の正体はと言えば、言ってしまえば『淫魔の排泄物』だ。
淫魔たちは
そして溜まった聖力は様々な形状のアイテムとなる。
いわゆるところの『魔道具』だ。
ただし、それら魔道具は、多くの場合、ダンジョンの外では効力を発揮できない。
ダンジョン内に満ちた
そのため王家も、『呪力が漂っている状況でなければ効果がない魔道具』までは回収の対象にせず、結果として、転移者たちの力を底上げする装備品となっている、というわけだった。
そうして整えたいかにも『魔法使い』っぽい装備からわかるように、ネコイは攻撃系の魔法使いだった。
チート……女神の加護は『温度使い』。炎と氷の魔法に適性があり、その職分の名前は『魔法使い』ということになっている──
──この世界に魔法というのはないが、異世界人用の職分分類には、わかりやすく『魔法使い』というものが設定されている。
聖力と呪力というものがある、という事実さえ明かされていないのが、現状だ。なので『呪い』を持った者は『呪術師』という
女神の加護の名前はごまかせないため、『聖』や『呪』を含むものこそ特殊で、通常は魔力という『異世界人ウケがいい力』を使って不思議現象を起こしますよ、というように説明されるのだ。
その『魔法使い』が、取り残される。
「ねえ!!!」
ネコイは遠ざかっていく仲間たちの背中と、自分の足との間を、視線で何度も往復していた。
短いプリーツスカートの先、細い足首には、触手が絡みついていた。
その触手はネコイの力では斬ることができないし、抜けることもできない。
魔法を使えば破壊できるかもしれないが、魔法使いは別に、己の魔法でダメージを受けないわけではない。
モンスターどもを一瞬で炭化させる炎に、一瞬で凍結させる氷。これらを威力に任せてぶっ放す運用がネコイの戦い方だった。その細かなコントロールのできない破壊の力を、己の足首に向けてする気にはなれない。
「サイアク!」
一心不乱に逃げる仲間たちの──仲間だと思っていた者たちの背に吐き捨てながら、ネコイは覚悟を決める必要性をようやく感じ始めていた。
足を犠牲にする可能性が生じても、この、地面から生えた触手をどうにかしなければならない。
どうにかしなければ……
『あいつ』が来る。
「っ、ふー……はぁー……」
少しでも落ち着くために深呼吸をし、杖の先を自分の足首に向ける。
そして、炎を放とうと杖に力を集中させる──
──瞬間。
「あらあら、だめよ」
そっと、杖の先を、掴まれる。
暗闇から伸びて来るのは、真っ赤なマニキュアを塗った、美しい爪を持つ、女の手だった。
「っ!」
ネコイはその手に向けて、全力で魔法をぶっ放そうとする。
それは危機感からの防衛本能の結果だった。こんな距離で全力で魔法を使ったら無事では済まないかもしれない──そんなことさえ頭に浮かばないほど、一気に、危機感がネコイの中で限界値を超える。
……だが。
何も、起こらなかった。
ネコイが杖に込めた『魔法の力』は、するっと……呑み込まれたのだ。
追ってきた者に。
自分たちが背を向けて逃げた相手に。
──十五階層ボスの、淫魔に。
そいつは──
暗闇から姿を現すそいつは、イメージ通りの『サキュバス』だった。
美しい肢体を持つ女。
毛皮なのか下着なのかわからないもので、肌の一部だけを隠した、露出度の高い女。
悪魔の尻尾と、コウモリのような翼、それから、こめかみからヤギのような角を生やした、女──
──女にしか見えない、化け物。
ネコイが魔法使いとして扱っている力は、『聖力』だった。
これは、これを用いて物理現象を起こすならば、確かに淫魔にも通じる『力』になる。
だが、物理現象を起こす前の、そのままの聖力は、淫魔にとっては、エサでしかない。
美しい女にしか見えない化け物は、黒い白目の中にある、濁った黄色い瞳をネコイに向け、微笑んだ。
「あなた、小さくてかわいらしいわね」
「ひっ……」
ネコイは這いずるように両腕で地面を掻いて逃げようとする。
だが、足首に絡みついた触手は強靭で、まったく進むことができなかった。
淫魔は、ネコイの細い太ももに手を這わせた。
「それに、こんなに細い……」
「やめ……」
ネコイは、ササイレイナの状態を見たうちの一人だ。
ヤナウエのパーティと、ネコイのパーティ、二つのパーティで『ボス部屋』の攻略に向かったのだ。
その時に、見せつけられた──直接的な戦闘で、さんざんに弄ばれるほどの実力差。あのヤナウエの剣を真正面から受けて傷一つつかない物理的な頑強さ。
転移によって後衛のさらに後ろに表れたこいつは、レイナを抱きすくめ、キスを交わして意識を奪うと、それを連れ去って、自分たちを強制的に帰したのだ。
そのあと、ヤナウエが再びパーティを編成してレイナを救助に向かったが……
その時に、地面にうち捨てられていたレイナの、
(あんな、馬鹿みたいな姿をさらすのは、イヤ!)
ネコイは必死に逃げようとする。
だが、逃れられない。
淫魔の手がネコイのふとももを這いのぼり、下着のサイドストラップに指先をかける。
ぶつん。
鋭い爪が、ネコイの下着を切り裂く。
「こ、の……炎よ!」
ネコイは杖を放すと、掌を淫魔に向けた。
杖は補助具にしか過ぎない。掌からでも、ネコイは魔法を放てる。
……だが、何も起こらない。
「ごちそうさま」
淫魔がぺろりと、長く、先分かれした舌で、なまめかしい赤紫の唇を舐めた。
淫魔の『食事』は口から行われるものではない。
触れられた時点で、ネコイの扱う聖力は、どんどん、喰われている。
はらりと、下着が地面に落ちる感触があった。
淫魔の指が、ネコイの股に潜り込んでくる。
一瞬の出来事だった。炎が出ずに呆けているその一瞬で、ネコイの膣に、淫魔の指が入って来る。
あの、長く鋭い爪を備えた指──しかし、その感触は、痛いどころか……
「っいいいいい♡♡♡」
ネコイの全身が、びくびくと震える。
喉を反らすようにしながら、ネコイは、絶頂していた。
「かわいらしい鳴き声♡」
淫魔が歌うように言いながら、ネコイの膣の中で指をうごめかす。
その動きは、初めて侵入したネコイの膣の弱点という弱点を知り尽くしているかのようだった。
「この……炎……氷……! なんで、なん、で、出な、いひいいいいいいい♡♡♡」
イかされないように力を込めているのに、簡単にイかされる。
反撃をしようと気合を込めているのに、反撃は形になることはなかった。
「狭くて浅いおまんこね♡ ああ、こことか、気持ちいいんじゃなくって?」
「んいいいいいい♡」
「びくびく震えちゃってかわいい♡ もっと見てたいけど──あんまり吸い過ぎて死なれても、
ぬぽん。
淫魔の指が、ネコイの膣から抜かれる。
ネコイはほんの数分、膣を指でいじられただけで、息も絶え絶え、ぐったりとして、抵抗する力をすっかり失っていた。
はぁはぁと荒く息づきながら、淫魔の方をぼんやりと眺めていれば、淫魔は、ネコイの愛液が絡まった指をしゃぶり、挑発的に微笑んでいた。
美しい女、のようにしか見えない、化け物。
淫魔は、ネコイの愛液を丁寧に舐めつくし、指を唇から抜く。
そうして……
淫魔の唇が、上下に大きく開いた。
唇どころか、頬まで裂けるほど、開いた。
艶めかしい肉の赤の中から、うぞうぞと──赤黒い触手を複数本束ねたようなものが、覗く。
「…………ぁ」
「あなたも帰してあげるわね。ちょっとした
淫魔の口が、ネコイの股の間に潜り込んでくる。
そして……
「いぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい♡♡♡」
ネコイの嬌声が、響き渡った。
◆
「…………くそ」
報告を受けたヤナウエが救助隊を率いて来れば、目的としていたネコイは、ダンジョンの一番浅い階層に送り届けられていた。
ただし、その姿は……
悪趣味な、植木。
そう呼ぶしかない、有様。
ダンジョンの地面に根付いた触手。そこにネコイが突き刺されている。
膣に挿入された触手が子宮を押し上げ、ネコイの小柄で細い体の腹部が『ぼこり』と膨らんでいた。
触手は膣に入る前にいくつもに枝分かれして、分かれた触手はそれぞれ、ネコイのクリトリス、乳首などの突起、それに尻の穴、口の穴に入り込んで、中を愛撫している。
ネコイは脚をがに股に開いたまま閉じられず、両腕を触手によって後ろ手に拘束され、真っ裸だった。
快楽のせいで目が裏返り、肌が真っ赤に紅潮している。
平べったい乳房の頂点にある乳首に吸い付いた触手は透明になっていて、その乳首から母乳が出ている様子を見せつけていた。
股間からは絶え間なく愛液と潮が吹き出し、そのたび口いっぱいに突っ込まれた太い触手の隙間から、ネコイのくぐもった声が挙がっていた。
「……くそ……!」
クラスメイトの痴態。
ヤナウエや連れて来られた者の中には男もいた。だが、誰も、その姿に興奮できなかった。
十五階層。
そのボスと出会ったあとから、ダンジョンが、牙を剥き始めた。
ボスはボス部屋に引きこもることをやめた。
ダンジョンは『傷を負うこともあるが、戦い続ければいつかは勝てそうな場所』から、『負ければ拉致され、凌辱され、見世物のようにされ、戻される場所』になった。
察してしまう。
このダンジョンは、自分たちを殺そうとなんか、していない。
辱めるのが目的だ。
貶めるのが目的だ。
今まではきっと、加減をされていた。最初からこのダンジョンは、敗北=死ではないのだ。死より酷い何かなのだ。
……そして、この姿は、『末路』ではない。
もっと、酷い、これより、上がある。
それでも、この世界で、ダンジョンを攻略しなければならない。
「くそお……!」
ヤナウエは自分たちが『詰んでいる』ことを思い知らされて、嘆く。
嘆くしか、できなかった。