娼婦にされたニナカワ寄りから
(最悪……最悪……最悪……!)
「うーん、異世界の女の子はいいねえ……どこもかしこも、綺麗だ」
ねっとりとしたしゃべり方の男が、ニナカワの尻に話しかけていた。
ニナカワは緩くウェーブした栗色のセミロングヘアが特徴の女子だった。
見た目は悪くはないが、ササイナナミ・レイナ姉妹ほどではない。
スタイルは平均よりは小さいが小柄と言うほどでもなく、胸の大きさも小さくはないが巨乳と言うにはためらわれる、そういうものだった。
ニナカワは自分に魅力はないと思っている。
ただし、ニナカワには『学生』という魅力があった。
若い。それは資産だ。
だから若いうちに色々楽しんで、将来は地味に堅実に生きるという人生設計があった。そのために勉強も頑張っていた。……あまり要領はよくないけれど、『無理をせず、ずっとこつこつやり続ける』という方針なら、自分でも、ちょっと上のランクの進学先を狙える。そう信じて積み上げてきたし、積み上げることだけは得意だった。
順風満帆ではないけれど、堅実な人生を歩むはずだった。
……なのに、今。
「すごい、
ニナカワは、首枷をつけられ、さらに足枷までつけられて、粗末な小屋の中で拘束されている。
当然、服はすべて剥がれて全裸だ。
足枷も首枷も粗末な木製だけれど、ニナカワの力では、全然壊れない。
そうやって不自由な姿勢で暴れれば暴れるほど、相手が喜ぶだけ──というか。
最初、ニナカワはここまでの拘束をされていなかった。
だが、娼婦としてアサギから卸された商品であるにも関わらず、嫌がって、自分を買った相手を攻撃してしまう。
そこで安全措置として、このような拘束具をつけられ、『女』ではなく『設備』みたいに固定されて、男に好き放題されている。
自然、そういう、『暴れて手がつけられないので、拘束されている女』を買うのは、『それ』が良い、とする男だ。
だから、不自由な姿勢で暴れれば暴れるほど悦ぶような男に買われる状況に陥ったのは、ニナカワの責任……と、言えないこともなかった。
「っう……!」
「反応がよくなってきたねえ」
ねっとりとしたしゃべり方の男は、ニナカワの尻の穴で遊んでいた。
異世界の女は、『このあたりの地域にいない人種』『娼婦としては不慣れ』という要素の他に、『特に磨かなくても清潔で綺麗』という点でも気に入られていた。
そういう理由で気に入られる女であるから、尻の穴を好んで刺激するような男に買われる。
ニナカワは……
(もう、何日もっ何日も……! 尻の穴ばっかり、いじりやがって……! 気持ちよくなんか、ないんだよっ……!)
男があまりに自分の尻をいじるので、フラストレーションが溜まっていた。
性器ならまだ理解もできるし、ある程度の覚悟もできる。
だが、尻の穴は……こんな場所をいじられ、広げて見られ、何かを入れられるということには、どうしても慣れない。全裸を見られるより、尻の穴を見られる方が恥ずかしいし、屈辱的──
ニナカワは身動きがとれない状況の中で、その屈辱に耐え続けねばならなかった。
実際、気持ちよくない。
……気持ちよくない、はずなのに。
「何日もずぼずぼしてたら、すっかり指が入るようになったねえ」
「っ……こ、の……」
「うん?」
「変態っ……!」
「あっはあ。そうだよお。おじさんは、かわいい女の子のお尻をいじるのが好きな変態なんだよお」
しゃべり方も、指も、熱気も、においも、何もかも気持ちが悪い。
ニナカワは頭の中で何度も何度も『気持ち悪い』と唱えた。声に出してやると、今みたいに喜ばれて癪だが、『無』になれるほど、ニナカワの精神は強くなかった。
だが頭で何度『気持ち悪い』と唱えても、ただただ事実が確固としたものになっていくだけで、気持ち悪さは解消されない。
こんな変態に好き放題されて、抵抗もできない。
誰も、助けてくれない。
ニナカワは、せめて自分の心を守るために、男の行為を全力で拒絶し、無意味だと嘲笑ってやるぐらいしか、できることがない──
──なかった、のだけれど。
「ニナちゃん、ほら、ここだよねえ」
「っ……」
「あと、ここ」
「こ、の……!」
「それから──ここ!」
「ッア──────」
何日もほぐされたアナル。
しかも、徹底的に、弱いところを解析され──増設されながら、性器として仕上げるために調教を受け続けた尻の穴。
ニナカワは、ついに……
「──っ、っ、っうううう……!」
「あっはぁ。ニナちゃん、お尻でイッちゃったねえ」
「………………ころす……」
「いいよお。殺してみようかあ。どんな感じで殺すのかなあ。こうかなあ?」
「ッオ♡」
男の指が尻の中でぐりんと回ると、ニナカワの腰がびくんと跳ねる。
イかされた。
こんな気持ち悪い男に、尻でイかされた。
その事実に全身に鳥肌が立ち、涙があふれそうになる。
唇を噛んで嬌声と嗚咽をこらえながら、だんだん容赦がなくなる男の指を尻の中で感じ……
(もう、やだ……なんで、あたしが、こんな目に遭わないと、いけないの──)
「ニナちゃん、ほら、ここも好きでしょ」
「っああああ♡」
自分の体が、知らない男に改造されていく。
助けて、とニナカワはつぶやいた。
もちろん……
……彼女を助けるような者は、どこにも、いない。
◆
「三人だけしかいない。……でも、この三人なら、いけるはずだ」
ヤナウエが口にしたのは、自分自身にそう信じさせるための言葉でしかなかった。
ダンジョンの内部。現在いる場所は、第一階層。
『アンデルセン王子に、この世界で暮らしたいと申し出た。そうして承諾をもらって城から出ようとしたところ、気付けばダンジョン内にいた』という状況のヤナウエとウエマツ。
しかも、第一階層にあるはずの『ダンジョンの外につながる扉』が見当たらなくて、帰ることができない──
──おまけに、第一階層で、ササイナナミと合流した。……淫魔による凌辱を受けたと思しき様子の、ナナミと、合流してしまったのだ。
そういう状況だ。
だからこそ、この状況でネガティブな言葉を口にすることの無意味を、ヤナウエはしっかり理解し、空虚でもなんでも、ポジティブな言葉を放つようにした。
「……全部で何階層なのかも、わからない。でも……最奥まで、行く。前衛は、俺とウエマツで。ナナミさんは、回復と補助を頼んだ」
ヤナウエの視線の先には、ブレザー一枚という姿のナナミがいる。
長い黒髪の、美人。スタイルもいい。レイナと同じか、それ以上に。
そんな彼女が、男性ものの特大サイズとはいえ、ブレザー一枚でいるのは、やっぱり、気が散るというか──気になってしまう。
だが、ヤナウエはここで、性欲を表に出すことが、数少ない仲間の信頼を損ねることになると判断していた。
だから、鋼の自制心で、ナナミという『極上の女』に性的な関心が感じ取られないように、細心の注意を払っている。
……とはいえ、ササイナナミは、魅力的すぎた。
ウエマツなどは、ナナミを直視しないように気を付けているぐらいだ。
(……おかしい。いや、美人なのは始めからだし、レイナと同じぐらいスタイルだっていい。でも……こんなに、
うっかり視線を向けると、吸い寄せられて離れないような。
何かの間違いで、つい、手を出してしまいそうな。
……もう、ダンジョン攻略も、元の世界もどうでもよくて、ナナミとまぐわうことができるなら、それで、寿命が尽きるまでいたっていいとさえ、思えるような。
それほどの魅力が、ササイナナミからは発せられていた。
「ヤナウエくん」
ヤナウエはドキリとするのを自覚する。
ブレザーの襟ぐりからのぞくナナミの胸の谷間を凝視していたことがバレたか──そんな思考が、頭の中によぎる。
(……なんだ、これは。童貞の時に戻ったみたいな……)
困惑。
ササイナナミは、優しく微笑んでいる。
「頑張ろうね」
ナナミの口からこぼれた言葉は、それほどおかしなものではなく、特別なものでもなかった。
だが、それを言われるだけで、ヤナウエは──ウエマツも──命さえ懸けても惜しくないような気持が、腹の底から湧き上がってくるのを感じる。
(なんなんだ……なんなんだよ、これ……)
レイナを相手にしていた時には感じたことのない、本能があの女を求めている、という感覚。
そのくせ、求めていることを悟られたり、性的な視線を向けていることに気付かれたりなんか、絶対にしたくないという気持ち。
(これ、まるで……ドラマの中とかにあるような、『恋心』みたいな……)
現実の『恋愛関係』『彼氏、彼女』というものに、そこまでの気持ちがないのをヤナウエは知っている。
人生を懸けても愛せる人、なんていうものは存在しない。ただ話してて楽しくて、かわいい女と、恋人という関係になって遊んだり、セックスをしたりする。互いにマッチしなくなれば乗り換える。そういうのが、恋愛だった。
だが、今の、ナナミに対する気持ちは……
(……俺、ナナミさんのこと、好き、だったのか……)
ヤナウエは、そう確信した。
そして……
(……もしかして、ウエマツも、似たようなこと、思ってるのか?)
ウエマツを見る。
ここまでヤナウエについてきてくれた、親友。
この状況でも、ヤナウエに味方してくれた、無二の友人。
そのウエマツが、もしも、自分と同じように、ササイナナミに『本物の恋心』を抱いていたら──
(──許せない)
まだ付き合ってもいないのに、ヤナウエの中に、ササイナナミに対する独占欲が芽生え始めた。
……ウエマツと、目が合う。
大柄なあの男は、いつもむっつりしていて、周囲を威圧するようなすごみがあって、ワタナべなんかとは違った意味で何を考えているか、わからない。
……だが、今、この瞬間、ヤナウエは、ウエマツが、自分と同じようなことを考えているのではないかと思った。
(……ナナミさんは、俺のものだ。ウエマツ──お前なら、わかってるよな。いつでも、一番良い女は、俺のものにしてきたもんな)
ヤナウエは思う。
ウエマツは、黙ったまま、ヤナウエから視線を逸らす。
男同士の、無言のやりとり。
それを、ササイナナミはにっこりと微笑んで眺め……
……舌なめずりを、していた。
◆
「インドウ、本当にもう戻らないんだね?」
「ああ。……これは、覚悟の問題だ。もう、迷宮を攻略し終えるまで、地上には戻らない。とはいえ──僕は回復役だから、前線に立ってもらうのはみんなだけれど……」
たった四人にまで減った『迷宮攻略班』。
もともと別々のグループに属していた四人は、偶然にも
『この四人ならば、きっと、迷宮を攻略することもできる』──
アサギによるデスゲームの開始。クラスの混乱と、どんどん減っていくクラスメイト。
クラスメイトがクラスメイトを売るという事態。
……その中で、誰も売らなかった、四人。
奇妙な連帯感があった。
クラスの中でもさほど交流があった四人ではなかったけれど、今、自分たちは、無二の親友と言える関係だと、全員が言葉にはしないでも、確信していた。
「インドウが回復してくれるんなら、最後まで頑張れる。……行こう。元の世界に戻るんだ。『間違い』を犯す前に」
四人は無言で見つめ合い、うなずき合い、迷宮に続く扉へ入っていく。
……その先に待ち受ける運命を、彼らはまだ知らない。