※この作品はR-18です。

クラス転移したけど、クラスも世界も終わってる   作:稲荷竜

33 / 70
主人公一人称
ダンジョン内、三階層
インドウたちがスドウの頭部を発見するぐらいの時間


33話

 攻略は快調だ。

 三階層までで問題になるようなシーンはなかった。

 

 もしも問題が起こるならば、それは十五階層以降で、しかもダンジョン攻略難易度的な意味での問題ではなくて、人間関係的な意味での問題かな、というようには予想している。

 けれどもっと早く問題が起こりそうな『種』みたいなものも、いくつかあった。

 

 たとえば、インドウたち、居残った四人が、居住区にいなかったこと、など。

 

 果たして三階層でそんなことを僕が思ってしまったのが、なんらかのフラグとして作用したのか……

 

 進む僕らの行く末には、インドウの姿が見えた。

 

「……アサギさん、どうする?」

 

 ワタナべの問いかけは、『声をかけるなら自分が行く』という意味だろう。

 

 なかなか面白そうな提案だ。

 

 インドウ、ワタナべ、ネコイ、キサキ、それからそこで疲弊しきった顔をしてるナイトウとカリヤ。この六人が、クラスがまだヤナウエのもとでまとまっていたころパーティを組んでいたメンツのはずだ。

 

 ナイトウとカリヤは別グループの女子を売って僕の下についた。

 ワタナべとネコイがキサキ、そして別グループのスドウとニナカワを売って僕の下についた。

 

 インドウは誰も売らず、僕のところへ来なかった。

 

 このインドウとワタナべとの会話には、確かに心惹かれるものがある。

 

「せっかくだ、助け合えるならそうしようか」

「……」

 

 ダンジョンは薄暗いが、だいたい十メートルぐらい先までは見通せるという不思議な視界を確保できる。

 だからワタナべが浮かべた『こいつまたろくでもないこと考えてるな』という顔も、はっきりと見えた。……石の地蔵みたいなこの男も、付き合ってみると、案外、色々な表情を浮かべるものだと思う。

 

 しかしワタナべには申し訳ないが、僕としては、なんらかの企みがあって、インドウに声をかけようとしているわけではない。

 助け合えるならそうしよう、というのも本音だ。

 ただしそれは、僕の下に組み入れられることになる。『生贄』なしで迎え入れてあげよう。それはきっと、クラスメイトたちの関係性を、より複雑にすることだろうから。

 

 ワタナべが僕の許可を得て、歩いていく。

 

 その直後、キサキが僕の横に来て、僕をじっと見つめた。

 

 背の高い、凛々しい顔つきをした彼女が僕を見つめると、だいたい、目線の高さが揃う。

 少し前までなら、『なんか怖いな』と思っていただろうこの視線。今は、恐怖を感じることなく、意図がだいたい察せられる。

 

 僕が顎をしゃくってやると、キサキは小さくうなずき、ワタナべを追いかけて、一緒にインドウの方へと近づいていった。

 

 ワタナベが声をかけ、何かの会話が始まる。

 

 耳を澄ませば聞こえない距離ではないのだけれど、あの冷静で委員長気質なインドウには珍しいことに、発言内容が支離滅裂で、何を言っているかわからない。

 だがそんな中からもワタナベが何かを察したようで、どこかへ視線を向ける。

 

 それから、僕に振り返って、口を開いた。

 

「…………スドウの頭部が、見つかったらしい」

「へえ」

 

 あいつ、死んだんだ。

 

 ……すごいな、なんだろうこの感覚。クラスメイトが死んだんだから、もっと何かあるかなと思ったけど……ニュースでも聞いてるような気分だ。

 人が死んだ。大変なことが起きた。茶化してはいけない。……その程度の気持ちしかわかない。

 

 もっと喜ぶなり、それとも『後味が悪いことになった』と感じるものを見つけるなりできるかと思ったんだけどな……

 スドウの命は、僕に何ももたらさなかった。

 生きている時はマイナスしかもたらさず、生贄として多少のプラスをもたらして、死んだ事実で何ももたらさない。

 

 まあそんなことより、話を進めよう。

 

「それで、どうする?」

「…………えっと」

「インドウたちは、どうする? 僕らはそいつらを無視して進んでもいいのか、それとも、仲間に加え入れるべきか。ワタナべくんに任せるよ」

 

 ワタナベは何かを言いたげだったけれど、それを言葉にすることはなく、インドウに向き直った。

 キサキは……何をしているんだろうな、あれは。インドウ以外の三人のところを順番に回って、声をかけている。

 視線で問われて僕は『行け』と指示をした。その時は、キサキとの間に通じるものがあるかなと思ったんだけれど、僕はキサキの行動を全然わかっていなかったみたいで、なんだかちょっと、面白い。

 

 しばらくして、話し合いがまとまったらしい。

 

 ワタナべではなく、インドウが、こちらに歩いてくる。

 

「アサギ」

「やあ、インドウくん。なんだか久しぶりだね」

「……僕たちを、馬鹿にしているのか?」

「え、なんで?」

「……いや。今のは……僕が悪かった」

 

 インドウは眼鏡をずり落としかけたままだったことに今気づいたみたいに、眼鏡のブリッジを押し上げた。

 

「ワタナべから聞いた。……ダンジョン攻略を始めたみたいだな」

「そうだね。そっちは?」

「僕たちも、そうだ。……元の世界に、帰りたい。そのためには……これ以外に、やれることが、思いつかなくてな」

「なるほど。じゃあ、目的は同じなわけだ。それで、どうする?」

「……………………」

 

 インドウは方針を決めて僕のところに来たわけではないようだった。

 まだ悩んでいる。まあ、悩んでいるということは、迷うところは、あるのだろう。

 

 しかし。

 

「インドウ! そんなヤツと協力なんかするな!」

 

 インドウら四人の中の、男子が叫んだ。

 あいつ誰だっけ。最近はなんだか、クラスメイトたちのことや、学校生活が、遠い昔のことみたいに感じられて、さして交流がなかった連中について思い出すのに、ワンテンポかかるようになってしまっている。

 

 あいつは──そうそう、タイナカか。

 あの『少年』というよりも『悪ガキ』みたいな感じの背の低い男は、タイナカだ。

 割と身軽で運動神経がよかったから、前衛かな。斥候かもしれない。

 

 そうか、あいつ、居残ったんだ。

 そんなに『生贄を捧げたくない』みたいな性格とも思えなかったけど、人は見かけによらない、ということ──ああ、ダメだ、笑ってしまう。見かけによらないよな、そりゃあ。ヤナウエなんか、モデルもやれてるぐらいだもんな。

 

 たぶん僕より背が低いタイナカは、げっ歯類みたいな素早い足運びで、インドウに──つまり、僕らのところに、近寄ってきた。

 

「インドウ! オレたちはアサギなんかと手を組まない! そうだろ!」

 

 そうだろ、と言われたインドウの方は、迷っているようだった。

 僕はタイナカの言葉を聞いてみることにして、黙って続きを待つ。

 

「……それは……でも……」

 

 インドウはどうにも、『四人では早晩、攻略に詰まる』ということがわかっているようだった。

 というかわからない方がどうかしてる。フルメンバーでローテーションをしながら攻略をしてて、十五階層で足踏みしてたんだよな。それがたった四人になって攻略なんて、『志』とか『想い』とか『絆』とかでなんとかなるわけがない。

 

 あいつらが四人なのに対して、僕らは今、僕を含めて十八人いる。

 苗床レイナと娼婦たち、それからパーツの残りかすを置いてきているだけで、フルメンバーだ。

 ゲームでは四人。ヤナウエたちは六人。このローテーションで挑んだけれど、普通に考えてフルメンバーで行った方が安定する。人数は火力だからだ。

 

 その方針がなんでとられなかったかと言えば、精神的・肉体的疲労を鑑みた結果だろう。

 

 僕らはダンジョンを攻略しなければ元の世界に戻れない──と思うように王宮に誘導されていたはずで、じゃあ全員が懸命に専心して、寝る間も惜しんで攻略を続けるべきだと、そういうようにも、思われる状況にあった。

 しかし、現実的には、そんなことできないのだ。やれたとしても、早晩、潰れる。

 だからヤナウエはローテーション式にして、『長めの休日』をみんながとれるようにした。ましてあの時点でヤナウエたちはダンジョンが何階層かも知らなかったし、『長く続けられるようなシステム作り』は理に適っている。

 

 クラスが健全であればきっと、僕らはなんの問題もなく、ダンジョンを攻略できただろう。

 それだけのスペックの持ち主が、僕らのクラスには集っていた。ヤナウエのやり方を振り返るたび、強くそう思う。

 

 まあ僕は長く続ける気もないし、クラスメイトの精神的負担も考慮してないので、全員率いて中に入って、しかも攻略を終わるまで出られない状況に追い込んでいるけれど。

 

 単純に『四人』のインドウたちが、『十八人』の僕らと相対した時、感じる人数差ゆえの重圧というのは、大したものだと思う。

 

 僕らが本当にインドウたちを潰そうと思っているなら、僕が今ここで『かかれ』とクラスメイトに号令すればいいだけだからね。

 

 それを前にして『こんな連中と組まない!』と言ってのけるタイナカは大したものだと思う。勇気があるか、馬鹿かのどっちかだ。

 たぶん後者なんだろうな。

 

「インドウ! オレたちは……オレたちは、アサギのやり方に反発して、ああして残ったんじゃないのかよ!」

 

 自分が『何も行動できないまま、誰にも誘われないまま、余った』という事実って、こんなに綺麗に言い換えられるものなんだ。

 インドウとタイナカと女子二人、恐らくだけど、とても相性のいいパーティなんじゃないかな。全員引っ込み思案で、そのくせクセが強くて声をかけにくい。半端にやり返して来そうな嫌さがあってさらったり騙したりするのも厄介。

 同族ということで嫌悪する場合も多いけれど、たぶん、こいつらは互いに共感を覚えている。『ちょっとはぐれた自分たち』に酔ってる──とも、言えるかもしれない。

 

 インドウの顔は苦々しかった。

 どうにもこの四人の中だと、比較的まともなんだろう。『四人だけじゃこの先やっていけない』ことがわかってはいるようだ。

 どう取り成すか──まあ、ちょっとだけ見ておくか。

 

 と、僕はインドウの方に注意していたのだけれど。

 ……タイナカの行動は、僕の予想を超えてきた。

 

「みんなもそうだろ!? 売られたっていうのに、そんなヤツらと仲良くしてんじゃねえよ! こっちに来い! オレたちと一緒に来いよ!」

 

 すごい、この状況で僕のパーティから引き抜きを試みるのか。

 互いの死亡確率を増やすだけの愚行だと思うんだけれど、『何か』で目が曇っていて、そのあたりの現実的な問題は理解できてないんだろうな。

 

 あとたぶん、普通に算数ができてない。

 

 売ったやつらはワタナべ、ネコイも含めて十四人もいる。

 僕らは十八人で、つまり、僕を除くと売られたやつはキサキを含めて『僕が直々に強化した三人』しかいないということになる。

 そのへんを加味しなくても、普通に考えて『二人が売って、一人が売られた』の構造なら、売られたやつの方が少数だというのはわかるはずなんだけどな。娼婦とか苗床を連れて来てたとしたって、売られたやつのが圧倒的少数だ。

 

 圧倒的少数を、たった四人の勢力で引き抜く。

 死人を増やすだけの愚行にしか思えないけれど──どうなるかな。少し、面白いかもしれない。

 

 それともまだ『誰も死なない』と思ってるんだろうか?

 スドウの頭部が見つかったっていう状況のはずなのに、どうなっているんだろう?

 

「どうした!? アサギのところでやってくのか!?」

 

 タイナカは『誰かしら乗るだろう』と確信して呼びかけているようなんだけど、僕からはその確信の根拠がさっぱりわからない。

 でもああも『絶対に来る!』みたいな顔だし、何か、僕にわからない根拠があるのだろう。

 

 世の中は、僕にはわからないことが、たくさんある。

 僕がいじめられていた理由だって、今もまだ、僕にはわからないままだ。

 

 だから、僕以外の人にとっては、『明らかなこと』というのは、きっと、たくさんあるんだろう。

 

 そして実際、『明らかなこと』はあったようだ。

 

「た、タイナカ、あ、っと……インドウも……その……俺らも、いい、か……?」

 

 最初に声を挙げたのは、カリヤだった。

 それに追従するように黙って手を挙げるのは、ナカムラ。

 

 元、インドウのパーティのメンバーで……

 他のグループの女子を売った二人。

 

 ちなみにこいつらに売られた女子は、僕の強化を受けて随伴している。

 ……ああ、なるほど。そういう感じか。

 面白いな。

 

「インドウ、俺、やっぱり、間違ってた! クラスメイトを売るべきじゃなかったんだ……! いくら、アサギが怖くても……」

 

 これはたぶん、笑ったらいけないところなんだろうな。

 

 反省なんかしてないくせに。

 罪悪感から逃げたいだけのくせに。

 その罪悪感だって、僕が、こいつらにさらわれた女子を強化して、側近みたいに扱ってなかったら、抱かなかったもののくせに。

 

 どうして『自分が悪かったんです、反省してます』みたいな顔を、しかも本人自身が心の底から信じ込んでるみたいな顔で言えるんだろう?

 しかも『アサギが怖かった』を理由にしてる。すごいな、ここまで清々しい他責思考があるんだ。

 

「ナイトウ、カリヤ、考え直せ」

 

 ワタナべが声を発する。

 たぶんそれは思いやりがあっての発言だったんだろう。元同じパーティの仲間を、あんな死にそうなインドウたちの方に行かせたくない、そういう優しさがワタナべにはある。

 でも逆効果だよな、普通に考えて。

 

「ワタナべ! お前は……やっぱり、間違ってるよ。お前もネコイも、間違ってる。俺たちは、インドウみたいに、アサギに怯えず、ダンジョンを自分たちで攻略に行くべきだった。それが、正しい道だったんだ……」

「誰かを売ってこっちに来る前にその言葉が言えたなら、俺は胸を打たれたかもしれない。でも……もう、遅いんだよ。カリヤ、遅いんだ」

「やり直せる! 俺たちは……間違ってる方には味方できない!」

 

 馬鹿じゃないの、と口走ってもいいのかな、これは。

 まあいいか。もう見世物として楽しいのは終わったかな。

 

「二人の気持ちはわかった。僕は止めないから、他にも、インドウたちについて行きたい人がいたら、行くといい」

「アサギ……!」

 

 インドウが『やめろ』という顔で僕を見て鋭く声を発するけれど、僕が返せるのは微笑みだけだった。

『身内の馬鹿を調教できなかった責任をとって、まとめて死ね』という微笑だ。

 

「……いや、あるいは、君たちの方こそが、ダンジョンを最奥まで攻略できるかもしれないね。何が起こるかわからない。異世界だから。……全員、インドウについて行きたい人は、ほら、行くといい」

 

 なんと、この僕の発言に従って、ナイトウ、カリヤの他に、三人も続いた。

 十八人の中の合計五人がインドウのパーティに移籍だ。……もっと行けばよかったのに。

 

 面白いのは、この移籍を希望した五人、全員が『売った側』ということだ。

 

 まあキサキたち売られた側でここに連れて来てるのは、僕から離れないだろうけれど。それにしても、五人か。

 

 かくしてインドウのパーティは九人になり、僕らは十三人に減る。

 

 先にここにいたのがインドウたちなので、僕らは彼らに先を譲ることにした。

 一緒に歩くと総勢二十二人のパーティみたいになってしまうからね。それじゃあ、移籍の意味がない。

 

 ロールの確認をして、仲間たちを引き取ったあと、重い顔をしたインドウに、一つだけアドバイスをしてあげることにした。

 

「インドウくん、気を付けてね」

「…………ああ」

「それと、このダンジョンは全三十階層で、五階層ごとにボスがいる。十五階層は人型で、()()()()辿()()()()()()()二十階層は触手の化け物みたいなやつだよ」

 

 その時、インドウが下がっていた顔を弾かれたように上げた。

 インドウ側についた連中も、半数ぐらいは、こちらを驚いた顔で見た。

 

 僕はこいつらに、僕がこの世界の知識を持っていることを言っていない。

 

 今初めて、はっきりわかる形で──それでもわからないやつはいたようだけれど──この世界の知識を開示した。

 

「そこから先は必要かどうかわからないから、言わないでおくよ」

「……………………………………」

「じゃあね。ほら、行きなよ。行けって」

 

 インドウたちが、追い立てられて、去って行く。

 インドウ側についた中で、僕の発言の意味に気付いたやつが後悔するようにこちらを見たが、手を振って追い立ててやる。

 

 去るのは自由にしたらいい。

 でも、去った者を受け入れることは、二度としない。

 

「………………アサギさん」

 

 ワタナべが何かを言いたそうに、僕を見ていた。

 

 その無言の問いかけ──あるいは抗議に答えてやる必要性を、僕は覚えなかった。




街に居残り
苗床 レイナ
娼婦 ニナカワ、ハナイ、女2
パーツ 男1
──────────────
          総計6人

現在のクラス内役割内訳
アサギパーティ
アサギ、ワタナべ、ネコイ
??枠 キサキ、女2
売ったやつ ナカイ、男3、女3
──────────────
         総計13人

インドウパーティ
インドウ、タイナカ、女2
ナイトウ、カリヤ、男2、女1
──────────────
          総計9人

ヤナウエパーティ
ヤナウエ、ウエマツ
ナナミ
──────────────
          総計3人

死亡
スドウ
──────────────
          総計1人

生き残り
──────────────
        総合計31人
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。