最初ササイナナミ寄り
途中からネコイより
元の世界に戻った。
でも、時代が違っていた。
なんとなく原因はわかったので、原因を辿ったら、淫魔に行きついた。
それ以来、淫魔と一緒に暮らしている。
淫魔・オオミシオリ。
ナナミも最初は、この淫魔をどうしてやろうかと思っていた。それは、『どうしてやろう』という表現を使った時に自然と混じる攻撃的な意図ではなく、『どうしたらいいか全然浮かんでいないから、出会ったあと、どうしたらいいんだろう』という、純粋な疑問の意図だった。
正直に言えば、わけがわかっていなかったのは、ナナミも、他のクラスメイトも変わらない。
ただ、ナナミには、他のクラスメイトにはないものがあった。
それは観察力と言っては言い過ぎで、適応力と言うほどには何にも慣れない。自分を変えることもない。ただただ周囲を見る力。微細なものを捉える力。『誰にも怒られない』ように立ち振る舞うために必要な、自分を怒りそうな誰かを探す目が、ナナミにはあった。
その目は自分が戻った『元の世界』に違和感を覚えさせ、そこが元の時代の二十五年前だと確定する前に、ナナミに『違う世界でとるべき偽装行動』をとらせた。
とりあえず、服を着た。
万引きだ。
淫魔の力は失われていなかった。それは、速度も、力もということだ。
だからまずは、触手と化した髪を大人しくさせた。そして、元の世界に連れて帰ろうと大事に抱えていた、ヤナウエ、ウエマツ、キサキの死体をあっさりと捨てた。
ナナミの中には常に『なんとしても』みたいな気持ちが一切存在しない。元の世界に戻り、事情を知るクラスメイトたちがいる中で、ヤナウエたちの弔いをしようという空気になればそのまま保持しただろうけれど、この状況でカラカラのミイラ死体を保持する熱意も理由も、ナナミの視点では存在しなかった。
淫魔の速度で万引きを成功させたナナミは、オオミシオリ(この時点では名前を知らない)の気配を追った。
それ以外にどうしたらいいかわからなかった、というのが本音だ。元の世界の過去に飛ばされてこれから先の身の振り方に困ったのは、クラスメイトたちだけではなく、ナナミもそうだった。
ただ、ナナミはそこでクラスメイトと協力して生きて行こうというのを、まったくちっとも頭に浮かべなかった。クラスメイトたちはこの世界から浮きすぎて、自分がその中で透明になっても、世間から見れば透明足り得ない。誰かに怒られるような状況になる──なんて詳細に言語化できたわけではない。でも、なんとなく察した。『この人たちといても、大変そうだな』と。だからあっさり、捨て去った。ヤナウエたちの死体を捨てたように。
そうして追いついたあと、見つめ合って、一緒に暮らすことにした。
ナナミはその時の気持ちを言語化できない。シオリもまた、同じだった。
ただ、目に似たところがあった。この世界で生きていくのが大変だというのを心の底から思っている疲れ果てた光があった。けれど死ぬのもそれはそれで面倒だなという諦めの微笑が目じりにあった。
何より、互いに互いを見た時、『相手が淫魔として騒ぎを起こしたら、面倒だな』という相互理解があった。
二人は面倒ごとを避けるために協力することにした。
ただ、それだけだ。隔意など、最初からない。ナナミはクラスメイトをさんざん酷い目に遭わせ、妹を酷い目に遭わせ、最終的には──これは情報としては知らないものの──妹を淫魔にして、その中にあったナナミへの劣等感、異物感、怒りを噴出させた、オオミシオリ。その淫魔に対して、なんの隔意もなかったのである。
こうして手を取り合った二人は、世界の中でなるべく透明になれるように相談をした。
ナナミ側から『クラスメイトを探して助けてあげたい』などということは、ただの一度も提案がなかった。はっきり言ってしまえば、ナナミはシオリを探す最中にはもう、クラスメイトの存在をすっかり忘却していたのだ。
だが、今──
──ネコイが不意に現れて、ナナミは『あ、ネコイさんだ』と思った。
その程度だった。今まで離れて何をしていたとか、一度ならず見捨てたとか、そういう罪の意識を覚えられる精神構造ではない。
普通に帰って、普通にネコイがいたから、普通にあいさつをして、普通にネコイの正面に腰を下ろす。
冬場の家の中。暖房の効いた室内は温かく、ナナミは「ふぅ~」と息をついた。
そして、にこにこ笑いながら、ネコイを見ていた。
何一つ、話すべきことが思いつかなかったから。
弁解も謝罪もない。必要性を覚えない。
でも、ネコイにも黙られると空気が悪くなるなと思った。
だから、問いかけた。
「そういえば、ネコイさんはなんでここに?」
ネコイの目は細かった。まるで敵を見るみたいだな、とナナミは思った。
何かしたのか、それとも、何もしていないのに何らかの誤解があるのか。ナナミはこういう時、後者だと思う癖がある。責任感というものがない人間はいつだって、自分に責任がありそうな選択肢を無意識のうちに透明化するものだ。
ネコイはしばらく無言でナナミを睨んでいたが、根負けしたように、低い声を出した。
「……あんたを、捜しに来た」
「そうなんだ? なんで?」
「……クラスメイトでしょ」
「……心配してくれたってこと?」
「知らない! ワタナべが気にしてたから捜しただけだし!」
「そうなんだ。無事だよ」
「………………」
ネコイの抱えた奇妙な思いが、奇妙な視線になってナナミに注がれた。
ナナミは微笑を浮かべたまま首をかしげるだけだった。
応答があるのに、何も会話が進んでいない。
クラスでの友達の会話ではよくあることだ。社会に出て、ネコイにも、わかったことがある。なんの意味もない会話をするのは、『私たちは共通の言語の中で生きていますよ』という確認作業であり、これを怠ると所属している組織の中で居場所をなくす。
そして会話には感触が必要だ。意味のない会話。それの受け答えがあったからといって何が起こるわけでもない会話。情報のやりとりとしても内容のない会話。その中で、リアクションを返して、相手になんらかの感触を渡さなければならない。そういう意味のないことで人間関係は確認され続ける。
だが、ササイナナミの応答には、なんの感触もなかった。
ナナミはただ美しく微笑んでいるだけだ。
多くの人が、それでナナミを許した。
でも、わかる。彼女の応答にあまりにも感触がなさすぎて、許すしかなかったのだ。ササイナナミはどうしたって美しい生き物だから、これに感触のない応答をされるとなんだか申し訳のない気持ちにさせられる。
だから、人は、ナナミからなんの感触も得られないと、退くのだ。そうしてナナミはただ微笑むだけで相手を引き下がらせ続け、クラスで独特な立ち位置を得ることに成功した。
ネコイはため息をついた。
「……ワタナべは、たぶん、心配してたんだと思う」
嘘だった。ネコイは『たぶん』と言えるほどにも、当時のワタナべの内心をわかっていない。
でもそういうことにした。『心配してくれたってこと?』という声の時だけ、わずかに感触があったから。
ナナミは「そっか」と答えた。
それだけだった。
ネコイはじれて、また、言葉を投げかける。
「何、してたの?」
「生活──」
「……」
「──っていうんじゃ、さすがに、不親切だよね。でも、えっと、どう言えばいいのかな……生活以上のことは、本当にしてないんだ。職業で言えば、娼婦になるのかな。掲示板で援助交際ができてね。口座がないから現金でもらえるのありがたいし……」
「それ、相手、無事なの?」
「無事だよ。最近は、コントロールもできるし」
「……娼婦なんか、やらなくても、いいでしょ」
「『娼婦なんか』なんて、だめだよ。職業に貴賤はないでしょ?」
ナナミのたしなめるような口調がたまらなく腹立たしいのは、ネコイが短気だから、というわけではないのだろう。
彼女の口から社会性とか常識とかを背景にした言葉が出ると、胸中に『お前が言うな』という言葉が強くよぎるのだ。……そりゃあもちろん、この時代、この世界では、ネコイもナナミも、社会的信用度やら、法令順守度みたいなものは、そう変わらないのだろうけれど。
それでも、ナナミに常識を語られるのは腹が立つ。
ナナミには強烈に、常識の外側にいる気配があった。
そいつが常識を語っても、『振りかざしている』ようにしか感じられないのだ。
「食べなくても生きていけるんだよね。眠らなくても」ネコイは話題を動かすことにした。「だっていうのに、『生活の糧』なんか、いるの?」
「ネコイさんはどうしてたの?」
「……」
「さっきの、言ってあげなよ」
黙って話を聞いていたオオミシオリが、いらんところで口を挟んでくる。
ネコイは改めて、ここに常識が通じるやつがいないことと、常識が通じない、人の心がわからないやつがこの場では多数派であることを思い知らされた。
「……あたしは、普通に生きることをあきらめてないから。異世界にさらわれて、そのせいで全部ダメになったって、まだ思いたくないから。住む場所と、仕事を求めた。みんなそうだった」
「ニナカワさん、殺人で手配されてるよね」
ネコイは黙ってしまった。
知ってたのかよ! と怒りとともに叫びそうになって、この存在に怒りをぶつけることの徒労感、そうすることでますますストレスが溜まるというのを思い出したからだ。
ササイナナミは相変わらず、微笑んでいた。
クラスにいた時と、容姿も微笑も、何一つ変わらない。
「ネコイさん、私ね、『普通に生きる』ことに何か熱意があるわけでもないし、『死なない』ことに何か理由があるわけでもないの。ただ、面倒だから、続行してるだけなんだよ」
「……」
「あなたたちがそうじゃないなら、何が、あなたたちに、『あきらめる』ことを許さないんだろう。どんな熱意で、『自分たちはダメになんかされてない』って思おうとしてるんだろう。教えてくれるかな?」
ネコイは──
──言葉に、詰まった。
きっとたぶん、ニナカワなら、答えられたのだろう。
あるいはワタナべの中にも、答えがあったのかもしれない。
テイラーなんか、きっともっと明確に答えを持っている。そういう気がする。
でも……
ネコイの中には、答えがなかった。
強いて言うなら『みんながそうしていたから、流されて』としか、言えなかった。
自分が食事も睡眠もいらない、排泄もしない化け物であると、もちろん、知っていた。でも、知っていても、意識していなかった。意識しないように、無意識で、そこを考えるのを放棄していた。
そこを考えてしまったら、こんなふうに辛い目に遭ってでも『普通に暮らす』ことを頑張ろうなんて思えなくなってしまう。
自分たちは異世界に行ったせいですべてがダメになったなんて思いたくない。
じゃあ、なんで、ダメになっちゃ、いけないのか?
……わからなかった。
ネコイは生きる理由を探している。
みんなのために働いていたけれど、性格とニナカワのせいでダメになってしまった。
ワタナべが何年も前にこぼした一言をよすがにササイナナミを探したけれど、ササイナナミを探す理由も、実は、わかっていない。
ネコイが求めていたのは短期目標だった。
長期的な展望を描けない。だから、短期の目標が欲しかった。自分でも達成できるような目標が──達成できずとも、それでも無理はないと思えるような目標が。自分の意思ではなく──責任ではなく、誰かのためになるという言い訳ができる目標が、欲しかった。
生きていく理由なんか考えたくなかったし、自分が化け物だということなんか意識したくなかった。
眠ろうとする。睡眠のいらない生物のくせに。そうすると、色々なことが頭に浮かぶ。苦しい。呼吸ができない。将来は、どうなるのか。人生は、どうなるのか。過去の失敗がいくらでもいくらでも頭の中に浮かんで、将来の暗さが胸を圧し潰すようだった。
でも、生きている。
「私たち、死ねるのかな」
ナナミの言葉に、ネコイの呼吸が止まった。
試したことはなかった。試したくなかった。きっと、クラスメイト全員が、その可能性を意識して、何も言わなかった。
向こうの世界では死ねた。ただチートがあるだけの冒険者は、命が失われる状況であれば、普通に死ねた。ヤナウエが死んだし、ウエマツも死んだ。スドウも死んだ。ネコイはその死にざまを確認してはいないけれど、あれだけ強そうな連中が最後の最後には姿を見せなかったし……
アサギもきっと、死んだ。
だから死ねる、と答えようとした。
でもその瞬間に脳裏に響くのは、オオミシオリの言葉だった。
『この世界は
ヨドガワの容姿が変わらないことを思い出した。
テイラーの容姿も変わっていないことを思い出した。
自分の見た目だって、もう二十代中盤のはずなのに、背が低い、幼い、と嘆いていたあのころから、変わっていない気がする。
ハシグチやハナイの容姿は、変わって見えた。でもそれは、冷静に思い返してしまうと、環境がもたらす苦労が顔に出ているだけで、顔立ちそのもの、若さそのものは、変わっていないような、気がする。
ワタナべが、テレビに出ていたことを、思い出した。
余裕がなかった。それ以上に、見たくなかった。離れた場所で居場所を手に入れていくクラスメイト。ニナカワの指示での単独行動だったのはわかっているけれど、裏切られたような気持ちにもなった。
それはネコイが社会というのに馴染めずに辛い思いをしているのに、ワタナべが、テレビ上のこととはいえ、楽しそうにしていたからでもあっただろう。
その容姿は、変わっていただろうか。
食事も睡眠も排泄もいらない自分たちは、聖力があれば生きていける。
聖力があれば──
──聖力がある限り、生きていくしか、ない?
「試したこと、ある?」
「…………」
「ないよね。死ぬって、怖いもんね。私もないよ。でも、なんとなく、死なないし、老いないんじゃないかと思ってる。たった一つの方法を除いて、私たちの生命は終わらないんじゃないかって、そう思ってるんだ」
「……『たった一つの方法』?」
「聖力による攻撃」
「……」
「まあ、
ササイナナミの『なんとなく思う』という言葉は、かなり重かった。
こいつがなんとなく感じていることはだいたい正しいのではないかという恐怖が、ネコイの中を蝕む。
「だから私たちは、生きていくしかないんだよ。だから私は、生きてるんだよ。生活をする理由は──せっかく戻ったんなら、お金がないとできないことが、たくさんあるからね。そういうの、したいと思うものでしょう?」
あなたたちはそうだよね、という響きだった。
ナナミ本人はそうは思っていなさそうだった。
「ネコイさんがなんで私を捜したのかは、結局、よくわからなかったけど……私を見つけてどうするつもりかは、聞いておきたいな。クラスのみんなに居場所をばらす? それとも、なんだろ。思いつかないや」
「……『ばらす』って、知られたくないの?」
「知られたくないよ? だって、もうみんな、有名人じゃない」
「……」
「ニナカワさんが人を殺して、色々大変だったんだよね。その関係者だって思われるのは、面倒くさいな。だから、黙ってて欲しいんだけど」
あまりにも普通に他人事みたいな発言だった。
でも、今のナナミはもう、他人なのだ。
というよりも。『クラスメイト』という共同体は、最初から『他人の集まり』なのだ。
だから快いものにはみんなで乗る。見ていて不快なものは透明化する。
一つの教室にたまたま放り込まれただけの十代の男女であることは、何かをするモチベーション足り得ない。特に、辛く苦しいことを、我が身を削ってするほどの理由として、『クラスメイトだから』なんていう言葉は、あまりにも弱すぎた。
「……もし、ばらすって言ったら、どうするの?」
ネコイは久しぶりに、『戦い』の準備を心の中でしながら問いかけた。
ササイナナミは、相変わらずの微笑を浮かべていた。
恐らくこれは、何も考えていない微笑なのだろう。
ネコイが本気になって行動を開始した時、その場のノリで動きを決める。そういう、空っぽな微笑だ。
本気になって行動を開始した時、『殺す』という選択肢を含めて、その場のノリで動きを決める。そういう、人を人とも思っていない微笑だった。
行動次第で、死ぬ。
生きる理由はわからない。でも、死を選ぶことはしなかった。死ねないと判明するのが怖かったから。
でも、なんで生きているかを自分に問いかけた時、驚くほど理由を思いつけなかった。だから、ここでナナミの意にそわないことをして、殺されてみるのも、案外、いいかもしれないとネコイは思った。
思って、
思って。
……思って。
死の淵に立っているのだと自分に言い聞かせてみて。
「……死にたく、ない」
初めて、自分が生きたがっていることに気付かされた。
「そっか、生きるのに、理由なんか、いらなかったんだ」
信念も理由も必要ない。人は、生きている。
死地に赴くことにこそ、本来は理由が必要だ。けれど、クラスメイトたちは、理由もなく異世界に拉致されてしまった。その中で、生きるという言葉の意味が、『戦う』という言葉に置き換わってしまっていた。
異世界の感覚がまだ、心身に残っている。
今、ようやく、ネコイは、普通の、学生だったころの感覚を、取り戻した。
死にたくない。
生きて、楽しいことをしたい。
そう思うことに、理由なんか、いらない。人は、デフォルトで、生きたい生物なのだから。
ナナミとシオリが目を合わせていた。
二人の間で、無言のやりとりがあったようだ。
不思議なほど通じ合っていて、まるで魂の双子のような雰囲気の生物たち。
その片方が、口を開いた。
「三人で暮らす?」
「……え?」
「居場所知られちゃったし。でも、引っ越すのも、シオリには普通の仕事とかあるし、面倒でしょう? だから、三人で暮らしていく?」
「……あたし」
「別に援助交際しようって話じゃないよ。私は趣味でやってるみたいな感じだし。食費も生活費も、本来はいらないから、ネコイさん一人増えても、別にそんなに損はしないもんね。ああ、でも、自分の物は、自分で買えるようにはなって欲しいかな……」
「なんで、受け入れようと思ったの?」
「クラスメイトを助けるのは当然でしょう?」
それは良い言葉のようだった。
でもたぶん、ナナミの言葉に中身はない。ペラッペラの、『きっと、みんな、そういう意識を持っているんだよね』というだけの言葉。どこかから借りてきた、意思も信念も責任感もない口だけの言葉だった。
でも、ナナミの言葉は、聞き心地がよかった。
彼女に微笑まれながら優しい言葉をかけられると、救われたような気持ちになる。
……きっと、クラスで独特な立ち位置を確保し、妹のレイナに強烈に嫌われた理由が、今の言葉と表情にはぎっしり詰まっているのだろう。
ネコイは考えた。
でも、考えるのにとっくに疲れていて、ただ『生きる』とか『生活』とか意識せずに生きていく時間を求めていた。
だからネコイは、考えるのをやめた。
「じゃあ、よろしく」
何も考えていなかった。『ナナミを捜しに行く』と言ってヨドガワの祖母から援助されていたことも。ハナイとハシグチが未だに社会の中で頑張っていることも。あらゆる場所から排除されてしまったテイラーのことも。殺人を犯したニナカワのことも──
──ワタナべのことも、考えるのを、やめた。
そうしたら、心が軽くなった。
クラスメイトというものは、ネコイにとって、随分な重荷だった。
だから、クラスメイトを透明化した。
仕方ない、とネコイの胸中に言葉がよぎった。
魔法の言葉だった。何が仕方ないかさえ考えるのをやめた。でも、とにかく、仕方なかった。こうしなければ楽しく生きていけない。自分には楽しい人生を謳歌する権利がある。クラスメイトたちにもある。クラスメイトという言葉を忘れた。自分には、権利がある。
かくしてネコイは東北のある場所で消息を絶った。
後年、その時のことを振り返ったネコイは、自分がクラスメイトという集団を完全に忘却したことを、こう表現する。
『卒業』と。
28日までに思いついたらもう1エピソード書きますが、思いつかなかったら28日で完結です。
最後までよろしくお願いします。