※この作品はR-18です。

クラス転移したけど、クラスも世界も終わってる   作:稲荷竜

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主人公一人称視点
クラスでの『アサギ戻そう会議』が起きているころ。


8話

 僕が以前、この部屋に来たのは、いつだったか。

 

『忘れもしない』と言いたいところだけれど、僕は、ここに戻って来るまで、ここの廊下がこんなにも……城のエントランスから深部へ続く、あの通路みたいに、真っ白で、調度品まみれであることさえ、忘れていた。

 

 この先には僕にとっての大事な人がいる。

 

 恩人だ。僕の命が今あるのは、彼女の存在が大きい。

 

 僕は第二王子と『魔法的契約』を結んでいる。

 だけれどそれが結べたのは、当時の僕の実力からすれば、奇跡と言ってしまっていい、幸運すぎる結果だった。

 

 その結果を導いてくれた幸運の女神こそが、この先にいる、『第二王女』というわけだ。

 

 ……第二王女、なのに。

 

 この通路は美しく飾り立ててはあるけれど、誰もいない。

 

 僕のような、どこの馬の骨とも知れない異世界人が、これから面会しようというのに、僕を警戒する兵士の一人さえも、存在しない。

 

 ここは、美しいだけの場所なのだ。

 

 奥にいるのは綺麗な尾羽を持つ小鳥にすぎない。もはや鳴くことしかできない、美しいだけの、羽根を切られた、小鳥。

 ただし、見た者の心を捉えて離さず、狂わせるほどに美しい──動けない、小鳥だ。

 

 ……硬い廊下を歩く。

 

 通路の最奥にある扉は、金のあしらわれた豪華なものだった。

 ただし、ノッカーさえもない。その扉を拳でごつごつと叩けば、中の物を守るにはまったく不向きな薄さが、拳骨を通して全身に寒々しく伝わってきた。

 

「お入りください」

 

 ……なんということか。

 僕はこの声を覚えている。だから、こそ、やるせない気持ちが込み上げてきた。

 

 ここにおわすは第二王女。

 

 だというのに、僕のノックに応じる声もまた、彼女そのものなのだ。

 

 ……従者もおらず、警備もおらず。

 ただ美しいだけの場所に置かれている、美しい小鳥。

 

 誰も、ドアを開けようとしない。

 だから僕が、自分で、ドアを開けた。

 

 中には──

 

 真っ白な。

 

 ……まるで、彼女のために、彼女の色に合わせて、すべてを白く整えたような、廊下の先。彼女という芸術品を飾る額縁のような部屋の中……

 鳥籠を模したソファの上に、ちょこんと座る、人形のような少女。

 

 真っ白い髪は美しい布の上に広がって、シーツのようになっていた。

 ……その美しい髪は、一人では移動できないほどに長い。

 

 真っ白い足が、ぶらぶらと、空中を泳いでいる。

 その足首には枷があった。クッションと宝石に彩られた、しかし、部屋からは出られない長さの鎖のついた──魔道具が、あった。

 

 そして、その白い少女の目は、黒い目隠しで覆われていた。

 

 彼女の目は、抜き出されているという。

 それは彼女が──彼女の血筋が、代々、『呪力』を宿した目を持って生まれるからだ。目、そのものが、一種の呪術。この女神に見捨てられた世界において、ほとんど唯一の、『魔力を後から継ぎ足すための材料』──

 

 ──それゆえに、目を抜かれた彼女にはもはや、『美しさ』以外の価値はない。

 少なくとも、ここの王家は、そう思っているらしい。

 

「どちら様でしょう?」

 

 声には少しだけの不安があった。

 

 僕は、彼女を安心させる義務が、自分の背中にのしかかるような気がして、膝をついて、頭を下げた。

 

「お久しぶりです。僕のことを覚えていらっしゃいますか?」

「まあ!」

 

 声が喜びに跳ねている。

 

 ……彼女が僕に会いたがっている、というのは、あの第二王子アンデルセンの口から出まかせでもないらしい。

 

「お待ち申し上げておりました」

 

 彼女は、ぶらぶらと泳がせていた足を、床に降ろした。

 歩くことに不慣れな彼女は、思っていたよりも硬かったであろう床の感触にバランスを崩し、倒れそうになる──

 

 ──当然、支えた。

 

 あまりにも軽い。

 あまりにも、小さい。

 そしてあまりにも、細かった。

 

 ……だというのに、あまりにも、性欲を刺激する、甘い香りがする。

 

 この幼い、いかにも清純そうな白い少女は、生きた媚薬も同然だった。

 

 だからこそ、誰からも隔離されている。

 ……だからこそ、僕だけが、彼女に近寄って、この程度で済む。

 

 彼女は呪われて生まれた。

 

 この世界において、呪力(カース)は淫魔の持つ力だ。

 

 詳しい仕組みを僕は知らないが、この魔法のようなもののない地上で、奇跡のように呪力を持って生まれた彼女は、その存在が淫魔に近いらしい。

 呪力も聖力(ギフト)もない存在は、この力にあてられるだけで、正気をなくすことがある。

 

「ありがとうございます」

 

 彼女が微笑む。

 

 この華奢な体を包む、ふわふわしたドレスを引き裂いて、彼女の平たい胸をしゃぶり、何も知らない股ぐらに指を伸ばし、めちゃくちゃにかき混ぜてやりたい衝動に襲われる。

 ……呪術師の僕でさえここまでの情欲を覚えるのだ。それほどの、存在なのだ。

 

『次』が生まれるまで、誰も近付けない場所で、ただただ美しく……祭壇の中にある御神体として飾り付けられて、何もできずに生きていくしかない少女。

 

 名前さえなく、彼女はあだ名で、こう呼ばれる。

 

 小さな人(クライニー)

 

 ただし、口さがない人は、さらに一単語を加える。

 

 小さな(クライニー)淫魔(トイ)

 

 宮殿で追われ、忍び込んだ先で出会った……

 

 僕だけが向かい合って他愛ない話をすることのできる、かわいらしい、悪魔。

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