君の身(からだ)は。〜入れ替わる体温と、忘れない快楽〜 作:坂本太郎
【憧れと嫉妬の境界線】
イタリアンレストラン「IL GIARDINO DELLE PAROLE」でのバイト帰り。
瀧(中身は三葉)は、ひょんなことから奥寺先輩と二人きりで夜の街を歩いていた。街灯に照らされた奥寺先輩は、いつも以上に大人びていて、その横顔を見るだけで三葉(中身)の胸はキュッと締め付けられる。
「ねえ、今日の瀧くん、なんだかすごく……優しいね」
先輩がふっと足を止め、瀧の顔を覗き込む。都会の夜の匂いと、先輩が愛用する香水の甘い香りが混ざり合い、三葉(中身)の脳を痺れさせた。
三葉は瀧の身体で、必死に動悸を抑えようとする。けれど、この肉体は三葉の意識とは裏腹に、先輩の柔らかな微笑みに強く反応していた。
(ダメだよ、私は三葉なんだから。……でも、瀧くんはこの人のことが好きなんだよね?)
三葉の心の中に、黒い感情が芽生える。それは、自分を置いてけぼりにして先輩に惹かれている瀧への嫉妬か。あるいは、自分もこんな風に綺麗になりたいという憧れか。
「先輩、俺……あの……」
瀧の声で言葉を紡ぐたび、自分が瀧の「恋」を横取りしているような背徳感がこみ上げる。しかし、先輩は優しく瀧(三葉)の手を取り、自分の柔らかな胸元へと導いた。
「瀧くんが本当は私をどう見てるのか、教えてほしいな」
その瞬間、三葉の理性は千切れた。瀧の身体が求める熱と、三葉自身が抱く先輩へのコンプレックスを埋めたいという衝動。二つの欲求が混ざり合い、三葉は瀧の腕を力強く使い、先輩を夜の陰へと誘った。
【魅了と背徳の狭間で】
都会のネオンが遠くに霞むホテルの一室。キングサイズのベッドの上で、奥寺先輩は瀧(中身は三葉)の上着をするりと脱がせた。三葉は瀧の肉体が持つ鍛えられた腹筋や逞しい肩幅を意識せざるを得ず、自分が今まさに「男」になろうとしている事実に眩暈を覚える。
「瀧くん……シャワー浴びる? それとも……このままがいい?」
先輩の指が瀧の鎖骨を撫でる。その感触に瀧の身体がピクリと反応し、三葉の意思とは無関係に下半身に血が集まっていく。
「……先輩の好きなようにしてください」
瀧の声で絞り出すように言うと、先輩は妖艶な笑みを浮かべて彼をベッドに押し倒した。瀧の肉体の重みと、先輩の柔らかな圧迫感。三葉の意識は混乱の坩堝に陥る。
(これ……本当に私がやってることなの? 瀧くんだったら……きっともっとスマートに……)
思考がまとまらない内に、先輩の唇が瀧の首筋に吸い付く。甘い吐息と共に感じるチクリとした痛みに、瀧の喉から勝手に呻き声が漏れた。
「ん……先輩……」
「ふふ……可愛い声。でも今日は君が私を気持ちよくしてくれるんでしょ?」
先輩はそう言うと、瀧のベルトを慣れた手つきで外していく。ファスナーを降ろされ、下着越しに形がはっきりと浮き出た剛直を指でつうっとなぞられた瞬間、瀧の腰が反射的に跳ねた。
「うっ……あぁ!」
「すごいね……もうこんなになってる。瀧くん、溜まってたの?」
揶揄うような言葉とともに、先輩は瀧の下着を一気に下ろす。曝け出されたそれは既に硬く屹立し、脈打っている。三葉は自分の意思でこれを制御できないことに焦燥感を覚えた。
(ダメ……見ないで……でも……止まらない……)
「やっぱり若い男の子は元気よね」
先輩はうっとりとした表情でそれに顔を近づけ、舌を伸ばした。ぬめった温かい感触が先端に触れた途端、瀧の肉体全体を電流が駆け巡る。
じゅる……ちゅぱっ……
「あぁっ! 先輩……やめてください……こんなの……」
三葉の理性が制止しようとするが、瀧の肉体は正直に快楽を享受してしまう。先輩はわざと音を立てながら竿を舐め上げ、カリ首を重点的に責める。
れろれろ……ぐぷっ……
「ひっ……くぅ……そんな……汚いですよ……」
「瀧くんの身体じゃない。君のカラダは全部綺麗だよ」
先輩が言う「君」が指しているのが三葉なのか瀧なのか判然とせず、三葉の混乱は深まる一方だ。しかし快感の波は容赦なく押し寄せる。睾丸をやわやわと揉まれながら亀頭を激しく吸われると、視界がチカチカと点滅し始めた。
ジュポッ! ジュポッ! ビュルッ!
「先輩……もう……ダメです……出ちゃいますから……あぁぁっ!」
懇願も空しく、先輩はラストスパートと言わんばかりに喉奥まで一気に飲み込んだ。その瞬間、溜め込まれた欲望が一気に堰を切る。
ドビュッ! ビュルルルッ!!
「あぁぁーーっ!!」
瀧の腰がガクガクと震え、大量の白濁が先輩の口中へと迸る。三葉は生まれて初めて「口内射精の快楽」を経験し、そのあまりの強烈さに目の前が真っ白になった。
長い放出の後、ようやく解放された瀧は荒い息を繰り返す。先輩はごくりと全て飲み干すと、満足げに微笑んだ。
「いっぱい出たね。すごかったよ、瀧くん」
(私が……先輩に……飲ませたの……?)
三葉の心は罪悪感と奇妙な達成感でぐちゃぐちゃだった。しかしそれも束の間、先輩は自分の衣服を脱ぎ捨てると瀧の上に跨った。露わになった成熟した肢体が瀧の肉体を刺激する。再び下半身が疼き始めるのを感じた。
「次はこっちで気持ちよくなりましょう?」
先輩は瀧の手を取り、自分の秘裂へと導く。指が触れたそこは既に熱く潤っていて、三葉は本能的な欲求を抑えることができなかった。
クチュッ……ニュルッ……
「あんっ……瀧くんの指……やっぱり男の子ね」
先輩の甘い喘ぎ声に煽られ、三葉は瀧の身体を使って先輩の弱い場所を探り始める。Gスポットを探り当てると、先輩は腰を浮かせて激しく悶えた。
「そこっ……! 瀧くん……すごいわ……!」
先輩が堪らず瀧の顔の前に自らの秘部を差し出す。眼前に広がる卑猥な景色に息を呑みながらも、三葉はおそるおそる舌を伸ばした。
ぴちゃっ……れろぉ……
「んんっ……そう……上手よ……もっと舐めて……」
言われるがままに奉仕を続けると、先輩の甘い蜜が口の中に広がる。三葉は自分が今「男性として」女性を喜ばせている事実に、奇妙な興奮を覚え始めていた。
(私……今…先輩を喜ばせてる……?)
クチュクチュッ! れろれろぉぉ~っ!
三葉の舌が先輩の一番敏感な蕾を捉えると同時に、瀧の指が内部を抉る。その相乗効果に耐えきれず、先輩の腰がガクガクと震えた。
「あぁぁんっ!! 瀧くん……もっと……激しくしてぇっ!!」
先輩の要求に応えるべく、三葉はより一層の集中力を高める。指で膣壁を擦り上げながら舌先でクリトリスを強く弾けば、先輩の喘ぎ声が一段と大きくなった。
グリグリッ! ジュルルゥゥッ!!
「ひぃぃんっ! 来ちゃう……イクゥゥッ!!」
ビクンッ!! 先輩の体が大きく跳ね上がり、秘所から潮が噴き出る。その熱い液体を浴びながら、三葉は生まれて初めて「男性として女性をイかせた」という実感に打ち震えた。
(すごい……私…先輩を気持ち良くできたんだ……)
しかし喜びも束の間、先輩は再び瀧の上に馬乗りになると、硬さを取り戻した剛直を自らの入口へとあてがった。
「ねえ……入れていい? 今度は私の中であなたを感じたいの」
潤んだ瞳で懇願され、三葉に断る術はない。先輩がゆっくりと腰を落とすと、熱く柔らかな肉襞に包まれていく感覚に瀧の肉体が歓喜の声を上げた。
ズブ……ズブブッ……
「あぁぁっ……先輩の中……あったかい……」
「うんっ……瀧くんのも……硬くて……素敵よ」
完全に挿入されると、先輩は貪欲に腰を動かし始めた。上下運動だけでなく円を描くような動きも加わり、様々な角度から刺激され瀧の剛直は限界まで膨張する。
パンッ! パンッ! グチュグチュッ!
「あっ! あんっ! 気持ち良いわ……瀧くん……」
先輩の艶やかな声と肌がぶつかる音が室内に響き渡る。三葉の意識はほとんど夢うつつで、ただひたすら押し寄せる快楽の奔流に身を任せていた。
(もうダメ……何も考えられない……気持ち良すぎて……おかしくなる……)
それでも先輩は容赦なく腰を使い続け、瀧の性感帯を的確に刺激してくる。耐え切れなくなった三葉は無意識のうちに下から腰を突き上げていた。
ドスンッ!!
「きゃあんっ!? 急に突き上げちゃ……んんっ……ダメェ……!」
予想外の反撃に先輩がバランスを崩す。その隙を突いて三葉は起き上がり、対面座位の体勢に移行した。お互いの顔が至近距離で向き合う。
「先輩……僕も……我慢できません……!」
三葉の声に被せるように瀧の低音が重なり、二人の声が混ざり合う。その奇妙な響きが何故かとても愛おしく感じられ、三葉は先輩の唇を奪った。
「んむっ……ちゅぱっ……瀧くん……もっと……」
キスを交わしながら激しく腰を打ち付ける。結合部からは絶え間なく卑猥な水音が漏れ出し、室内に淫靡な空気が充満していく。
パチュッ! パチュッ! ジュブジュブッ!!
「あぁっ! もうダメ……イっちゃうわ……! 瀧くんと一緒に……!」
「僕もです……先輩……一緒に……!」
二人はお互いを強く抱きしめ合いながら絶頂へと駆け上がる。三葉の脳裏では自分が三葉であることすら忘れ去られていき……
ドビュッドビュルルルーッ!!!
「あぁぁぁーーーっ!!」
「くぅぅぅっ!!」
ほぼ同時に達した二人の身体が弓なりに反り返り、大量の精液が先輩の胎内へと注ぎ込まれた。三葉は生まれて初めて経験する本物の中出し射精の快感に翻弄されながら、先輩と一体となった幸福感に浸っていた。
【解けない魔法】
都会の喧騒から切り離されたホテルの一室。
瀧(中身)は、隣で心地よさそうに目を閉じる奥寺先輩の肩を、瀧の大きな手でそっと撫でた。
「……ふふ、瀧くん。あんなに熱くなるなんて、思わなかった」
先輩が目を開け、いたずらっぽく笑う。その瞳には、紛れもなく「男としての瀧」への愛情が宿っていた。それを見た瞬間、三葉(中身)の胸を鋭い痛みが突き抜ける。
先輩が抱きしめていたのは、中にいる自分(三葉)ではなく、あくまでも瀧の肉体なのだ。
「先輩……すみません。俺、なんだか……」
言葉が続かない。行為を終えた後の充足感は凄まじかったが、それと同時に「自分は何者でもない」という虚無感が三葉を襲う。
けれど、奥寺先輩は瀧(三葉)の頬に優しくキスをした。
「ありがとう。……なんだか不思議ね。今の瀧くん、まるで女の子に抱きしめられてるみたいに、すごく温かかった」
その言葉に、三葉(中身)の瞳からポロリと涙がこぼれた。自分という存在が、瀧の身体を通してわずかに先輩に届いたような気がしたからだ。
先輩はそれ以上何も聞かず、瀧の胸に顔を埋め、静かな寝息を立て始めた。
三葉は、瀧の身体に残る先輩の熱を感じながら、いつまでも天井を見つめていた。
この一夜が終われば、自分はまた糸守の三葉に戻る。この贅沢で残酷な時間は、瀧にも三葉にも一生消えない「美しい傷跡」として残るだろう。
「……瀧くん、ごめんね。でも、先輩は本当に……素敵な人だったよ」
三葉は心の中でそう呟き、瀧の身体で、愛おしそうに先輩の髪を一度だけ撫でた。