※この作品はR-18です。

王位争奪戦-ラスボス婚約者と共にネトリ戦記-   作:ボルメテウスさん

32 / 71
アーサーの交友関係

本格的に兄たちが動き出す前に、アーサーと話しておくべきだと思った。

 

ヨルムン兄さんは豪快に笑って去っていったが、最後に残した言葉だけは妙に重かった。

アイダ兄さんとクル兄さん。

ここから先、本当の意味で厄介になるのはその二人だと、あの人は確かに言った。

 

俺の部屋では、アーサーがいつものように紅茶を飲んでいた。

紫の髪を肩から流し、青い瞳だけで机の上の資料をなぞっている。

一見すると優雅な婚約者だが、頭の中ではたぶん何人かを盤面に並べている。

 

「ヨルムン兄さんに言われたよ。ここからはアイダ兄さんとクル兄さんが本格的に動くって」

 

「うん。そうなるだろうね」

 

返事は早かった。

驚きもない。

むしろ、その話題を待っていたような顔だ。

 

「特にクルは、もう君をかなり警戒しているよ」

 

「リアスの件があるからか」

 

「それが一番大きいね。自分の陣営にいた妃候補を、君に持っていかれた形だから」

 

「持っていったって言い方、やめないか」

 

「外から見ればそう見えるよ、ヤマタ君」

 

アーサーはカップを置く。

陶器が机に触れる音は小さいのに、妙に耳に残った。

 

「クルは感情で怒鳴るタイプじゃない。けれど、内側ではかなり計算し直しているはずだよ。リアスの時点で、君は“予測不能な危険要素”になった」

 

「俺が?」

 

「うん。しかも、本人にその自覚が薄いのが厄介」

 

「それ、最近やたら言われるな」

 

「事実だからね」

 

にっこり笑われても、まったく嬉しくない。

俺は椅子の背にもたれ、天井を見上げた。

 

リアス、リンカ、ココ、ジャンヌ。

改めて並べると、確かに周囲からどう見られているのかは分かる。

相手の陣営にいた女性が、いつの間にかこちらへ来ている。

俺にそのつもりがなくても、結果だけ見ればかなり危ない王子だ。

 

「じゃあ、次にクル兄さんの妃候補を狙うのは難しいってことか」

 

「難しいね。彼は同じ失敗を繰り返さない。接触経路は絞るし、君が話しかける前に相手の心を閉じさせる準備くらいはしてくる」

 

「嫌すぎる」

 

「頭脳戦なら、あの子はかなり面倒だよ。こちらの動きを読んで、読む前提でさらに罠を置く」

 

「それを嬉しそうに言うなよ」

 

「だって面白いじゃない」

 

そう言って微笑む顔は、婚約者というより悪役側の参謀だった。

いや、実際かなり近いのかもしれない。

 

「でも、クル兄さんのところを直接狙えないなら、どうするんだ?」

 

「直接狙わなければいい」

 

「また嫌な言い方をするな」

 

アーサーは口元に指を添えた。

その目が楽しそうに細くなる。

 

「クルが守りを固めるなら、その外側から盤面を壊せばいいんだよ」

 

「外側?」

 

「うん。彼の管理下にある妃候補へ手を伸ばすのではなく、彼の計算そのものを狂わせる札を置く」

 

「……アーサー」

 

「何かな?」

 

「その顔、かなり嫌な予感がする」

 

アーサーは、これ以上ないほど楽しそうに笑った。

まさしく、罠の入口に花を飾っている人間の顔だった。

 

「失礼だなぁ。私は君のために、とっておきの札を出そうとしているだけだよ」

 

「その“とっておき”って言葉が一番怖いんだよ」

 

「実はね、ヤマタ君にぴったりな妃候補がいるんだぁ」

 

その声が甘い。

甘いのに、背筋が冷える。

 

「……今度は誰なんだ」

 

「私の親友でね、一緒にいるととっても面白いと思うんだぁ」

 

「親友?」

 

「うん。斎賀百。こちらではモモ・サイガと呼ばれているよ。盟友国の公爵家当主代理で、帝国の将軍でもある、とっても強くて、とっても面倒で、とっても美人な子」

 

「情報量が多い」

 

「強力な重力魔法と剣術を持っていて、指揮官としても優秀。男に言い寄られることには慣れているけれど、その全てをばっさり断っている。男嫌いと言われるくらいにはね」

 

「なんでそれを俺に薦めるんだよ」

 

「だって、君ならきっと面白いことになるから」

 

嫌な沈黙が落ちた。

俺はアーサーを見る。

アーサーは笑っている。

親友を心配している顔ではない。

獲物と罠を同時に用意した人間の顔だった。

 

「……アーサー」

 

「何かな、ヤマタ君」

 

「親友を売る気か?」

 

「売るなんて人聞きが悪いなぁ。紹介だよ、紹介」

 

「その顔で言われても信用できないんだよ」

 

「大丈夫。モモは私の親友だからね。きっと、君のことを気に入るよ」

 

「それ、俺が無事で済む保証にはなってないよな」

 

「もちろん」

 

「もちろんじゃないんだよ」

 

背中に冷や汗が伝う。

クル兄さんとアイダ兄さんが本格的に動く前に、アーサーはさらに面倒な札を切ろうとしている。

 

盟友国の公爵家当主代理。

帝国の将軍。

男嫌い。

そして、アーサーの親友。

 

どれか一つでも十分厄介なのに、全部乗せで来るらしい。

 

「……また面倒なことになりそうだな」

 

「うん。だから面白いんじゃない」

 

アーサーの笑みは、最後まで綺麗だった。

綺麗すぎて、完全に悪役そのものだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。