※この作品はR-18です。

王位争奪戦-ラスボス婚約者と共にネトリ戦記-   作:ボルメテウスさん

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アーサーへの疑問

アーサーの説明は、最初から少し悪意があった。

 

応接室の空気は穏やかなはずだった。窓からは中庭の光が入り、机の上には紅茶と焼き菓子まで置かれている。

けれど、アーサーが楽しそうに口を開くたび、俺の肩はじわじわ重くなっていった。

 

「まずリアスだね。理想に疲れていたところを、ヤマタ君が拾った」

 

「言い方」

 

「次にリンカ。暗殺に失敗して見捨てられたところを、ヤマタ君が拾った」

 

「だから言い方」

 

「ココは笑顔の奥を見抜かれて、面白がってこちらに来た。ジャンヌは聖女候補として苦しんでいたところを、ヤマタ君が逃げ道を作った」

 

アーサーはそこで満足そうにカップを持ち上げる。

向かいに座るモモさんは、静かに俺を見ていた。表情は崩れていない。だが、視線だけは少し鋭い。

 

「聞き方によっては、君の婚約者は随分と危険な男だな」

 

「俺も今の説明だけ聞いたらそう思います」

 

「でも全部事実だよ?」

 

「事実でも並べ方に悪意があるだろ!」

 

アーサーはくすくす笑っている。

本当に楽しそうだった。俺が胃を押さえそうになっているところまで含めて、完全に遊んでいる。

 

モモさんは、紅茶に口をつけず、俺の顔を見続けていた。

 

「君は、相手の弱みにつけ込んでいる自覚はあるのか」

 

「弱みにつけ込んだつもりはないです。ただ、困ってるなら放っておけないというか」

 

「それは王位争奪戦では甘すぎる」

 

「でしょうね。俺も向いてないと思います」

 

「では、なぜ続ける」

 

そこは、少しだけ答えに詰まった。

別に王になりたいと大声で言えるほど、腹が決まっているわけじゃない。

けれど、俺の周りにはもう、勝手に増えた縁がある。放り出して逃げたら、多分そっちの方がずっと怖い。

 

「逃げたら、俺の周りに来てくれた人たちまで巻き込むからです」

 

モモさんの目が、わずかに細くなった。

 

「責任感はあるのだな」

 

「あるというより、逃げた後の方が怖いだけです」

 

「ね、変でしょ?」

 

アーサーが嬉しそうに言う。

 

「そこで嬉しそうにするな」

 

モモさんは、今度はアーサーへ視線を向けた。

 

「君は、こういう男を王にしようとしているのか」

 

「うん」

 

「君とは正反対に見えるが」

 

「だからいいんだよ」

 

アーサーの返事は軽い。

けれど、その軽さの奥には、変な揺るぎなさがあった。

 

モモさんは、納得していない顔で俺に戻る。

 

「君は、アーサーの策を止めたくならないのか」

 

「なりますよ。しょっちゅう」

 

「ひどいなぁ、ヤマタ君」

 

「いや、実際止めたくなるだろ。かなり物騒なことを笑顔で言うし」

 

「本当にひどい」

 

「でも」

 

そこで俺は、少しだけ言葉を選んだ。

 

「アーサーが俺を勝たせようとしてくれているのは本気です。そこは疑ってません」

 

モモさんの視線が止まる。

アーサーも、ほんの少しだけ笑みを変えた。

 

「本気なら、危険な策でも許すのか」

 

「許すというか、止める時は止めます。でも、全部否定するつもりもないです」

 

「なぜ」

 

「俺だけだと見落とすものを、アーサーは見てくれるからです」

 

言ってから、妙に気恥ずかしくなった。

アーサーは嬉しそうに目を細めている。

 

「ヤマタ君……」

 

「ただし性格は悪い」

 

「そこを付け足さなくてもよくない?」

 

「大事なところだろ」

 

モモさんは、静かに息を吐いた。

呆れているようにも見える。けれど、初対面の時より、こちらを見る目の硬さは少し薄れていた。

 

「分からないな」

 

「何がですか」

 

「君とアーサーは、明らかに性格が正反対だ」

 

モモさんの声は淡々としていたが、そこには本気の疑問があった。

 

「君は人を見捨てられない。アーサーは必要なら人を盤面に置く。君は後味を気にする。アーサーは結果を取りに行く。君は他人の痛みに踏み込むが、アーサーは笑いながら急所を突く」

 

「褒めてる?」

 

「褒めていない」

 

「そこは俺も同意です」

 

アーサーが少し唇を尖らせたが、反論はしなかった。

 

モモさんは、俺たちを交互に見る。

 

「なのに、なぜ君たちは一緒にいられる?」

 

部屋が少し静かになった。

 

すぐには答えられなかった。

正直、俺自身もきちんと考えたことはなかった。アーサーに振り回されて、助けられて、怖がって、信用して。いつの間にか隣にいるのが当たり前になっていた。

 

「……正反対だから、じゃないですか」

 

「正反対だから?」

 

「俺が見えないものを、アーサーは見る。アーサーが切り捨てそうなものを、俺が拾う」

 

言葉にしてみると、妙にしっくり来た。

 

「多分、どっちかだけだと駄目なんです」

 

アーサーが、ふっと笑った。

いつもの悪役みたいな笑みではなく、少しだけ静かな顔だった。

 

「私はそう思っているよ」

 

モモさんは黙ったまま、紅茶へ手を伸ばした。

カップを持つ指先に、さっきまでの鋭さはない。

 

「君たちは、似ていないのではない。噛み合っているのか」

 

「そんな格好いいものかは分かりませんけど」

 

「少しだけ、分かった気がする」

 

「何がですか」

 

「アーサーが君を選んだ理由だ」

 

アーサーが得意げに笑う。

 

「でしょ?」

 

「調子に乗るな」

 

「ひどいなぁ」

 

モモさんは、改めて俺を見る。

まだ警戒は残っている。けれど、それは危険人物へ向けるものではなく、未知の相手を見極めようとする目だった。

 

「まだ妃になる気はない」

 

「それは安心しました」

 

「だが、君という男を見極める価値はある」

 

「結局、胃が痛い流れなんですね」

 

アーサーは楽しそうに笑い、モモさんは静かに紅茶を飲んだ。

 

俺はその二人を見て、今日もまた面倒な人間関係が増えたことを悟った。

しかも今回は、アーサーの親友だ。

 

絶対に簡単には終わらない。

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