※この作品はR-18です。

王位争奪戦-ラスボス婚約者と共にネトリ戦記-   作:ボルメテウスさん

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笑顔の発表会、仕組まれた舞台

 発表会の会場は、まるで夜空を切り取って王城の中へ運び込んだようだった。

 

 天井近くを漂う青白い光球。壁際に浮かぶ半透明の映像。床を走る細い光の線は、来賓席から中央舞台へ向かって、いくつもの星座を描いている。

 

 デビルークの技術と、この国の魔導具を組み合わせた演出らしい。

 

 綺麗だ。

 

 綺麗なのだが、落ち着かない。

 

 光が一つ瞬くたび、俺を見ている目が増えていくような気がする。

 

「背筋」

 

 隣から百さんの声が飛んできた。

 

「伸ばしてます」

 

「肩に力が入っている」

 

「入りますよ、これは」

 

 ちらりと周囲を見る。

 

 王族、貴族、商人、技術者。衣装も身分も違う人たちが、同じ方向を見ている。

 

 舞台ではない。

 

 俺だ。

 

 正確には、俺とララさんの間に何があるのかを見ている。

 

 ひそひそと交わされる声は聞き取れない。それでも、時折こちらへ向けられる視線だけで、話題が誰なのかは分かった。

 

「口を動かしてないで、息を整える」

 

「はい」

 

 息を吸う。

 

 肺に入ってくる空気は、会場の熱気に温められていた。前に訓練場で吸った朝の空気とは違う。乾いていて、人の気配と香水と、魔導機械の金属臭が混ざっている。

 

 吐く。

 

 もう一度、吸う。

 

 肩の力が少し抜けた。

 

「それでいい」

 

 百さんは前を向いたまま言った。

 

 俺も視線を舞台へ戻す。

 

 中央には、銀色の布を被せられた大きな装置が置かれている。その周囲には細身の作業用アームが折り畳まれ、花びらのように並んでいた。

 

 改良型・自動お手伝いくん。

 

 名前だけなら、ずいぶん可愛らしい。

 

 前回は百さんの剣とリンカの短剣を勝手に片付けようとし、書類まで根こそぎ持っていこうとした。

 

 今回は安全確認を入れたらしい。

 

 俺が書いた、あの素人丸出しのメモを参考にして。

 

「緊張してる?」

 

 アーサーが俺の反対側から覗き込んできた。

 

「してます」

 

「素直だね」

 

「隠せる段階を越えました」

 

「大丈夫。今のところ、胃は外から見えてないよ」

 

「見えてたら大事件です」

 

 アーサーは楽しそうに笑った。

 

 その横で、ココさんは来賓席の配置表を眺めている。

 

「商会関係者が多いねぇ。素材の売り込みだけじゃなく、ララちゃん本人の価値まで品定めしに来てる」

 

「言い方」

 

「事実だよ」

 

「分かってますけど」

 

 俺が舞台脇へ視線を送ると、ズヌイ兄さんが主催者席に座っていた。

 

 脚を組み、片手でカップを持っている。

 

 こちらを見ているのか、舞台を見ているのか。一見しただけでは分からない。

 

 けれど、俺が視線を向けた瞬間、カップの縁から目だけが持ち上がった。

 

 目が合う。

 

 前の商談と同じ目だった。

 

 ただ、あの時よりも少し遠い。

 

 商品棚を間近で覗き込むのではなく、店全体の売れ行きを眺めているような目。

 

 俺は顔を背けそうになった。

 

 百さんの靴先が視界に入る。

 

 逸らさない。

 

 そのまま一拍だけ見返す。

 

 ズヌイ兄さんの口元が、ほんの少し上がった。

 

「試されてるね」

 

 アーサーが小声で言った。

 

「実況しないでください」

 

「でも、前より上手」

 

「何がですか」

 

「立つのが」

 

 答える前に、会場の光が落ちた。

 

 ざわめきが広がる。

 

 天井を漂っていた光球が一つずつ消え、最後に舞台だけが青白く照らされた。

 

 軽快な音楽が流れ始める。

 

「みんなー! 今日は来てくれてありがとう!」

 

 舞台袖からララさんが飛び出してきた。

 

 桃色の髪が光を弾き、観客へ向かって両手を大きく振る。

 

 その動きには迷いがない。

 

 王女として見られていることも。ズヌイ兄さんの婚約者として見られていることも。俺との関係を探られていることも。

 

 少なくとも、今は全部どうでもいいのだろう。

 

 自分の作ったものを見てもらえる。

 

 その一点だけで、彼女は舞台の中央に立っている。

 

「今回発表するのは、前よりもっと安全に、もっと便利になった改良型自動お手伝いくんです!」

 

 会場から拍手が上がる。

 

 ララさんは銀色の布を掴んだ。

 

「じゃーん!」

 

 布が宙へ舞う。

 

 下から現れた機械は、前回よりずっと洗練されていた。

 

 丸みを帯びた白い本体。側面には青い発光板。折り畳まれた作業用アームの先端には、それぞれ掃除、運搬、分類、簡易修復用の器具が取り付けられている。

 

 中心部には、青白く輝く魔導結晶。

 

 ズヌイ兄さんが渡したものだ。

 

 光は鼓動のように、一定の間隔で強くなっていた。

 

「ヤマター!」

 

 突然名前を呼ばれた。

 

 肩が跳ねる。

 

 舞台上のララさんが、満面の笑みでこちらに手を振っている。

 

「前に教えてくれた安全確認、全部入れたよ!」

 

 一斉に視線が集まった。

 

 今まで遠慮がちにこちらを見ていた人まで、堂々と顔を向けてくる。

 

「ララさん、今ここで言います?」

 

 もちろん舞台までは届かない。

 

 ララさんは俺の困惑など気づかず、さらに大きく手を振った。

 

 返さないわけにもいかない。

 

 俺は胸元まで手を上げ、小さく振り返した。

 

 会場のどこかで、ざわめきが少し大きくなる。

 

 ズヌイ兄さんがカップを置いた。

 

 アーサーは手で口元を隠している。

 

「笑わないでください」

 

「笑ってないよ」

 

「目が笑ってます」

 

「よく見てるね」

 

 舞台へ戻ったララさんは、胸を張って操作台の前に立った。

 

「それじゃあ、起動します!」

 

 細い指が、中央のスイッチを押し込む。

 

 軽やかな電子音。

 

 装置の発光板が青く灯り、折り畳まれていたアームが静かに開いていく。

 

 拍手が起こった。

 

 最初の動きは完璧だった。

 

 床に置かれた紙くずを拾い、種類ごとに分別する。

 

 倒された空のカップを持ち上げ、専用の回収箱へ運ぶ。

 

 刃物を模した展示品へ近づくと、安全識別機能が働き、赤い光で輪郭を囲んだ後、手を出さずに迂回する。

 

「おお……」

 

 百さんが小さく声を漏らした。

 

「今度は剣を奪われなさそうですね」

 

「当然だ」

 

 口ではそう言ったが、百さんの目は機械の動きを真剣に追っている。

 

 ララさんはこちらを見て、得意そうに笑った。

 

 俺も思わず笑い返す。

 

 前に肩を落としていた姿が頭をよぎった。

 

 あの時から、きちんと直したのだ。

 

 俺のメモなんかより、彼女自身が考えて、試して、作り直した結果だ。

 

 装置が散らばった展示物を順に整理していく。

 

 観客席から感嘆の声が上がる。商人たちは隣同士で何かを囁き、技術者たちは食い入るように動作を見ていた。

 

 舞台の上で、ララさんの笑顔が光に照らされている。

 

 それを見ていると、周囲の視線も、ズヌイ兄さんの計算も、少し遠ざかった。

 

 その時だった。

 

 装置の中心で、魔導結晶が強く瞬いた。

 

 一度。

 

 二度。

 

 鼓動の間隔が早くなる。

 

「……ララさん?」

 

 舞台の上で、ララさんも光の変化に気づいたらしい。

 

 操作盤へ視線を落とす。

 

 青く点灯していた文字列の中に、赤い記号が一つ混ざった。

 

 装置の駆動音が、一段高くなる。

 

 甲高い警告音が鳴った。

 

 会場の拍手が止まる。

 

「え?」

 

 ララさんの口元から笑みが消えた。

 

 作業用アームが一斉に持ち上がる。

 

 青かった発光板が、赤く染まった。

 

『整理対象を確認』

 

 機械音声が会場へ響く。

 

『障害物を除去します』

 

「障害物?」

 

 次の瞬間、一基のアームが来賓席へ伸びた。

 

 先端の回収器具が、貴族の胸元にある勲章を掴もうとする。

 

「うわっ!」

 

 貴族が椅子ごと後ろへ倒れた。

 

 別のアームが、壁に飾られていた儀礼用の剣を引き抜く。

 

「安全識別は!?」

 

 百さんが立ち上がった。

 

 装置の赤い光が、今度は百さんの腰の剣を囲む。

 

『危険物を確認。回収します』

 

「改善されていないではないか!」

 

「今は怒ってる場合じゃないです!」

 

 複数のアームがこちらへ飛んでくる。

 

 百さんが剣を抜いた。

 

 閃いた刃が、最初のアームの側面を打つ。斬り落とさず、軌道だけを逸らす。アームは火花を散らしながら床へ突き刺さった。

 

 同時にリンカが動く。

 

 俺の横を影が抜けた。

 

 投げられた短剣が、別のアームの関節へ突き刺さる。伸びきっていた機械腕が止まり、空中で震えた。

 

「避難」

 

 リンカの声が飛ぶ。

 

「右側通路は使えない。左から」

 

「聞いたね! 走らない、押さない! 商談より高くつく怪我はしないでよ!」

 

 ココさんが椅子の上へ立ち、観客を誘導し始める。

 

「護衛は前へ! 商会員は出口を開ける! 貴族の皆さん、今だけ身分の順番はなし!」

 

 悲鳴と足音が重なる。

 

 ホログラムが乱れ、会場の青い夜空が赤い線で引き裂かれた。

 

 展示装置のアームが次々に動く。

 

 カップ。装飾品。剣。椅子。書類。

 

 目についたものすべてを回収し、分類しようとしている。

 

 整理という言葉が、暴力に変わっていく。

 

「ララさん!」

 

 舞台を見る。

 

 ララさんは操作盤の前に立ち尽くしていた。

 

 指が宙に浮いたまま動かない。

 

 赤い光が、その顔を下から照らしている。

 

「違う……」

 

 唇が動く。

 

「こんな命令、入れてない」

 

 観客の悲鳴が響く。

 

 アームが舞台袖の飾りを掴み、引き倒す。金属板が床へ落ち、鋭い音を立てた。

 

 ララさんの肩が、音に合わせて震えた。

 

 前にも見た。

 

 発明品が失敗した時。

 笑っていた顔から、急に光が抜けた瞬間。

 

 でも今回は、見ている人の数が違う。

 

 王族も、貴族も、商人もいる。

 

 たくさんの目の前で、彼女の作ったものが暴れている。

 

 俺は椅子を蹴って立ち上がった。

 

「ヤマタ君」

 

 アーサーの声が飛ぶ。

 

 何を言われるか分かっていた。

 

 危険だ。

 任せた方がいい。

 舞台へ出れば、もっと目立つ。

 

 けれど、足は止まらなかった。

 

 飛んできたアームが進路を塞ぐ。

 

 その先端には、回収用の大きな籠が開いていた。

 

「ヤマタ!」

 

 百さんが叫ぶ。

 

 直後、重力が床を揺らした。

 

 アームが見えない力に押し潰され、石床へ叩きつけられる。

 

「走れ!」

 

「ありがとうございます!」

 

 俺は舞台へ駆け上がった。

 

 赤い警告灯が目を焼く。

 

 床が振動している。暴走した装置の駆動音が、獣の唸り声のように足元から響いてくる。

 

「ララさん!」

 

 肩を掴む。

 

 ララさんが振り返る。

 

 瞳の中で、赤い光が揺れていた。

 

「ヤマタ……」

 

「止められますか」

 

「分からない。安全機能は全部確認したのに。結晶の出力が勝手に上がってて、命令を……」

 

 言葉が途切れる。

 

 操作盤へ伸ばした手が、途中で止まる。

 

「私、また――」

 

「まだです」

 

「え?」

 

「失敗したかどうかは、止めてから一緒に考えましょう」

 

 ララさんの目が大きくなる。

 

 装置が警告音を鳴らす。

 

 近くのアームが、俺たちを障害物として認識した。

 

『作業妨害を確認。排除します』

 

「排除まで仕事に入れないでほしいんですけど!」

 

 アームが振り下ろされる。

 

 俺はララさんの腕を引いた。

 

 二人で操作台の横へ転がり込む。

 

 直後、金属の先端が床を叩き割った。細かな破片が頬を掠める。

 

「ヤマタ、大丈夫!?」

 

「大丈夫です。たぶん」

 

「たぶんじゃ困るよ!」

 

「今は機械の方を!」

 

 ララさんが操作盤へ飛びつく。

 

 指が動き始めた。

 

 さっきまで止まっていた手が、光の文字列を次々と滑っていく。

 

「通常停止が効かない。動力核と制御系の接続を切らないと」

 

「どこですか」

 

「あそこ!」

 

 ララさんが装置の中心を指す。

 

 赤く脈打つ魔導結晶。その下に、細い光の管が何本も集まっている。

 

「でも、保護装甲が閉じてる。外からじゃ開けられない」

 

「どうすれば?」

 

「緊急解除用の端子を同時に二つ押すの。一つは操作台。もう一つは本体の裏!」

 

「離れてるじゃないですか!」

 

「だから本来は二人で安全確認するようにしたの!」

 

 俺は一瞬、言葉を失った。

 

「そこはちゃんと改良したんですね」

 

「したよ!」

 

「なら使いましょう!」

 

 またアームが迫る。

 

 今度はリンカの短剣が飛び、先端を弾いた。

 

「早く」

 

 舞台下からリンカが言う。

 

「長くは止められない」

 

 百さんは複数のアームを相手にしている。刃を振るうたび、火花が赤い照明の中へ散っていく。

 

 ココさんは避難を続けている。

 アーサーは舞台全体を見渡し、警備へ指示を飛ばしていた。

 

 誰も、こちらへ来られない。

 

「ララさん」

 

「うん」

 

「合図をお願いします」

 

「ヤマタ、本体の裏は危ないよ」

 

「ここも十分危ないです」

 

「でも――」

 

「一人で止めようとしないでください」

 

 ララさんの唇が閉じる。

 

 赤い光の中で、俺たちは目を合わせた。

 

 ほんの一瞬だけ。

 

 それから、ララさんが頷く。

 

「分かった」

 

 俺は装置の横へ走った。

 

 伸びてきたアームを避ける。床へ落ちていた装飾を飛び越える。靴底が滑り、身体が傾く。

 

 倒れかけたところで、背後から声が飛んだ。

 

「右!」

 

 百さんだ。

 

 反射的に右へ跳ぶ。

 

 直前までいた場所を、機械腕が薙ぎ払った。

 

「ありがとうございます!」

 

「前を見ろ!」

 

「はい!」

 

 本体の裏へ回り込む。

 

 外装の下に、小さな赤い端子があった。

 

 俺はそこへ手を伸ばす。

 

 熱い。

 

 指先が焼けるようだった。

 

「ヤマタ! 準備できた?」

 

「できました!」

 

「三つ数えるよ!」

 

 ララさんの声が、警告音の中を通ってくる。

 

「三!」

 

 魔導結晶が強く光る。

 

「二!」

 

 アームが俺へ向きを変える。

 

「一!」

 

 巨大な影が迫る。

 

「今!」

 

 端子を押し込んだ。

 

 同時に、ララさんが操作台へ手を叩きつける。

 

 青白い光が一度、会場全体を塗り潰した。

 

 音が消えた。

 

 迫っていたアームが、俺の顔のすぐ横で止まる。

 

 赤い発光板が明滅し、やがて暗くなった。

 

 折り畳まれていた機械腕が、力を失って床へ落ちていく。

 

 魔導結晶の光も弱まり、細い鼓動へ戻った。

 

 静かだった。

 

 あれほど響いていた警告音も、悲鳴も、駆動音もない。

 

 聞こえるのは、誰かの荒い呼吸と、故障したホログラムが小さく弾ける音だけ。

 

 俺は端子から手を離した。

 

 指先が赤くなっている。

 

「ヤマタ!」

 

 ララさんが駆けてきた。

 

「手!」

 

「ちょっと熱かっただけです」

 

「ちょっとじゃないよ!」

 

 両手で手首を掴まれる。

 

 その指も震えていた。

 

「ごめん。私がちゃんと確認してたら――」

 

「だから、それは後です」

 

「でも」

 

「今は止まりました」

 

 俺は動かなくなった装置を見る。

 

 舞台はひどい有り様だった。倒れた飾り。散らばった書類。床へ突き刺さったアーム。

 

 それでも、誰かが大きな怪我をした様子はない。

 

 百さんが剣を収める。

 リンカが観客席を確認している。

 ココさんは商会員から負傷者の報告を受けている。

 

 ララさんは唇を噛んだまま、装置を見つめていた。

 

「ララさん」

 

 呼ぶと、こちらを見る。

 

「一緒に調べましょう」

 

 しばらく返事はなかった。

 

 会場の天井では、消えていた光球が一つだけ復旧し、弱い青色を灯した。

 

 その光が、ララさんの髪へ落ちる。

 

「……うん」

 

 声は小さかった。

 

 けれど、今度は操作盤へ目を戻した。

 

 舞台下から拍手が一つ鳴った。

 

 アーサーだった。

 

「いい発表だった、とはまだ言えないけど」

 

「アーサー!」

 

「最後まで止めたのは立派だったよ」

 

 百さんが呆れたように息を吐く。

 

「今は拍手をする場面ではない」

 

「そうかな?」

 

 アーサーは舞台へ視線を向けたまま、静かに手を叩いた。

 

 その隣で、リンカも一度だけ手を合わせる。

 

 ぱちん。

 

 ココさんが肩をすくめ、続いた。

 

 観客席から、戸惑うような拍手が少しずつ広がっていく。

 

 ララさんは目を丸くしていた。

 

「これ、拍手されるところなの?」

 

「俺にも分かりません」

 

「ヤマタも分からないの?」

 

「今日は分からないことばっかりです」

 

 そう言うと、ララさんの口元が少しだけ持ち上がった。

 

 その向こうで、ズヌイ兄さんがこちらを見ていた。

 

 立ち上がることもなく。

 拍手をすることもなく。

 

 ただ、止まった機械と、ララさんと、俺の赤くなった指を順に見ている。

 

 目が合った。

 

 今度は逸らさなかった。

 

 ズヌイ兄さんの指が、カップの縁を一度だけ叩いた。

 

 かすかな音だった。

 

 けれど、それが次の何かを数え始める合図のように聞こえた。

 

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