※この作品はR-18です。

王位争奪戦-ラスボス婚約者と共にネトリ戦記-   作:ボルメテウスさん

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発明の恋

「ズヌイ」

 

 ララさんの声が、壊れた舞台の上をまっすぐに進んだ。

 

 大広場を満たしていた拍手が止んでいる。

 

 風に鳴る王国旗。停止した機械兵から漏れる熱。騎士たちに連行されていく実行犯の足音。

 

 少し前まであれほど騒がしかった場所なのに、今はララさんが息を吸う音まで聞こえそうだった。

 

 ズヌイ兄さんは主催者席の前に立っている。

 

 服には戦闘で飛び散った埃がついていた。けれど、払おうとはしない。片手に閉じた帳簿を持ち、もう片方の指で、その表紙を一度だけ叩いた。

 

「何だ」

 

 いつもと変わらない声だった。

 

 ララさんは掌に載せた機械部品を見下ろす。

 

 自動お手伝いくんから外れた、小さな制御部品。表面には傷が走り、端が黒く焼けている。

 

 その部品を一度握りかけ、やめた。

 

 指を開いたまま、ズヌイ兄さんへ顔を上げる。

 

「私、ズヌイとの婚約をやめたい」

 

 広場に息を呑む音が広がった。

 

 貴族席からざわめきが起きる。

 

「ララ王女が……」

 

「この場で婚約破棄を?」

 

「デビルークとの交易はどうなる」

 

 細い声が重なり、波になって舞台へ押し寄せる。

 

 ララさんは振り返らなかった。

 

 ズヌイ兄さんの指が、帳簿の表紙の上で止まっている。

 

 表情は変わらない。

 

「理由を聞こうか」

 

「ズヌイが嫌いだからじゃないよ」

 

 ララさんはすぐに答えた。

 

「欲しい材料も用意してくれたし、発表会も開いてくれた。今日だって、一緒に犯人を捕まえてくれた」

 

「なら、何が不満だ」

 

「私が何を作りたいかより、それを使って何ができるかばっかり聞かれたから」

 

 ズヌイ兄さんの目が、わずかに細くなる。

 

「王族の婚約だ。本人の趣味だけで成り立つ関係じゃねぇ」

 

「うん。分かってる」

 

「分かってねぇ顔だな」

 

「まだ全部は分かってないよ」

 

 ララさんは、そこで言葉を切った。

 

 発明品の残骸へ視線を落とす。

 

「でもね。この子が暴れた時、みんなが最初に見たのは、これがどれだけ危ないかだった」

 

 彼女の指が、焼けた部品の傷をなぞる。

 

「それは正しいと思う。危ないものを作ったなら、直さなきゃいけないから」

 

 その指が止まる。

 

「だけどヤマタは、最初に私を見たの」

 

 不意に名前を呼ばれ、背中が伸びた。

 

 大勢の顔が、今度は俺へ向く。

 

「ララさん」

 

「発明が失敗したかもしれない時も、私が悪いって決めなかった。止めてから一緒に考えようって言った」

 

 観客の視線が刺さる。

 

 逃げたくなる。

 

 けれど、百さんに教えられた通り、肩の力を抜いた。息を吸い、顎を上げる。

 

 ララさんは俺を見ていなかった。

 

 ズヌイ兄さんを見たまま、自分の言葉を続けている。

 

「私の発明を使って何ができるかじゃなくて、私が何をしたいのかを聞いてくれた」

 

「だから婚約を切るのか」

 

「それだけじゃないよ」

 

「なら?」

 

「私が、次にどこへ行くかを、自分で決めたいの」

 

 風が吹いた。

 

 ララさんの桃色の髪が頬へかかる。

 

 彼女は空いた手で髪を耳へかけた。

 

 その動きはいつもより遅い。けれど、目はズヌイ兄さんから逸れなかった。

 

「私、ずっと面白いものを作りたいって思ってた。でも、作ったものを誰に見せたいかは、あんまり考えたことなかった」

 

 掌の部品を胸元へ寄せる。

 

「今は、見せたい人がいる。失敗した時も、直した時も、すごいって言ってくれる時も。全部見てほしいって思う人がいる」

 

 最後の言葉だけ、少し小さくなった。

 

 けれど、大広場には十分届いた。

 

 俺の隣で、アーサーが小さく息を漏らす。

 

「これは予想以上だね」

 

「何がですか」

 

「ヤマタ君、後で鏡を見た方がいいよ」

 

「どういう意味です?」

 

「顔が真っ赤」

 

「暑いんです」

 

「今日はそんなに暑くないよ」

 

 反対側から百さんの視線が刺さった。

 

「二人とも黙れ」

 

「はい」

 

 俺とアーサーの声が重なる。

 

 ズヌイ兄さんは、しばらく何も言わなかった。

 

 閉じた帳簿を脇の机へ置く。

 

 一段ずつ、壊れた舞台へ上がっていく。

 

 砕けた装飾を踏まず、偽造された商印の横を通り過ぎ、ララさんの前で止まった。

 

「婚約を切れば、デビルークとの交易条件は一から組み直しだ」

 

「うん」

 

「今日の事件が解決しても、商会の中にはデビルークの技術を警戒する奴が残る。お前の発明事業へ出していた資金も止まるかもしれねぇ」

 

「うん」

 

「王族同士の約束だ。お前と俺だけが了承して終わる話でもない」

 

「それも分かってる」

 

「本当に?」

 

 ズヌイ兄さんの声が、少しだけ低くなる。

 

「さっき、自分で全部は分かってねぇと言っただろ」

 

 ララさんは返事を急がなかった。

 

 焼けた部品を見て、次に観客席を見る。

 

 集まった人々。

 不安げな貴族。

 様子を窺う商人。

 デビルークの随行員。

 

 一つずつ確かめるように視線を動かす。

 

「分からないことは、これから勉強する」

 

 声に迷いはなかった。

 

「今までは、ズヌイが考えてくれるなら任せればいいって思ってた。でも、それだと私が決めたことにならないから」

 

「勉強すれば損失が消えるわけじゃねぇ」

 

「消えないよ」

 

「お前のせいで職を失う奴も出るかもしれない」

 

 ララさんの指が、部品の縁を強く押した。

 

「だったら、新しい仕事を一緒に考える」

 

「簡単に言うな」

 

「簡単じゃないから考えるんだよ」

 

 ズヌイ兄さんの口元が、ほんのわずかに動いた。

 

 笑ったのか、呆れたのか。

 

 それだけでは分からなかった。

 

「次の男へ乗り換えるだけなら、選んだとは言わねぇぞ」

 

 その言葉で、広場の視線が再び俺へ集まった。

 

 今度こそ逃げたい。

 

 足元を見ると、虫ちゃんがいた。

 

『携行食料を要求』

 

「今は無理です」

 

『緊張状態に糖分は有効』

 

「誰のせいで緊張してると思ってるんですか」

 

『回答不能』

 

「そうでしょうね」

 

 小声でやり取りしていると、ララさんがこちらを振り返った。

 

 目が合う。

 

 さっきまでズヌイ兄さんへ向けていたまっすぐな目が、俺を捉えた途端に少し揺れた。

 

 唇が開き、閉じる。

 

 彼女は一度、胸元の部品へ視線を落とした。

 

 それから舞台を降り始める。

 

 一段。

 

 もう一段。

 

 壊れた床には金属片が散らばっている。ララさんは正装の裾を持ち上げ、慎重にこちらへ歩いてきた。

 

 観客の囁きが遠くなる。

 

 桃色の髪が風に揺れるたび、陽光が細く跳ねる。

 

 俺の前で止まった。

 

「ヤマタ」

 

「はい」

 

「私が、そっちへ行ったら嬉しい?」

 

 声は大きくなかった。

 

 けれど、広場にいる全員が聞いている。

 

 アーサーが息を殺している気配がした。

 

 百さんは俺の半歩前から、少しだけ横へ移る。間に立つのではなく、俺がララさんと向かい合える場所を空けるように。

 

 答えなければならない。

 

 そう思ったのに、言葉がすぐには出なかった。

 

 ララさんの目が、ほんの少し細くなる。

 

「嬉しくない?」

 

「違います」

 

 慌てて否定する。

 

「来てくれたら、俺は嬉しいです」

 

 ララさんの表情が明るくなる。

 

 けれど、次の言葉を続ける前に、俺は一度息を吸った。

 

「でも、今ここで俺を選んでほしいとは言えません」

 

 明るくなった目が止まる。

 

 周囲から、戸惑うような声が上がった。

 

 アーサーの「へえ」という小さな声も聞こえる。

 

「どうして?」

 

 ララさんが聞く。

 

「今は事件が解決したばかりです」

 

「うん」

 

「ズヌイ兄さんとの婚約をやめたいと思ったばかりです」

 

「うん」

 

「そんな時に俺が来てほしいと言ったら、ララさんが本当に行きたい場所を考える前に、答えを決めさせてしまうかもしれない」

 

「でも、ヤマタは私に来てほしいんでしょ?」

 

「はい」

 

「じゃあ、言えばいいじゃん」

 

「言いたいですけど」

 

「言いたいんだ」

 

 ララさんの口元が少し緩む。

 

 俺は言葉に詰まった。

 

 アーサーが後ろで笑いを堪えている。

 

「笑わないでください」

 

「笑ってないよ」

 

「肩が揺れてます」

 

「ヤマタ君が正直すぎるから」

 

 百さんが静かにアーサーの肩を掴んだ。

 

「黙っていろ」

 

「はい、モモちゃん」

 

 ララさんが俺を見たまま、続きを待っている。

 

 俺は掌を開いた。

 

 百さんから教えられた。

 爪を立てるほど手を握っている時は、一度開け、と。

 

 呼吸を整え、もう一度ララさんを見る。

 

「事件を解決したからでも、ズヌイ兄さんと別れたからでもなく、ララさんが行きたい場所を選んでください」

 

 ララさんの髪が、風で頬へ触れる。

 

 今度は払わなかった。

 

「その答えが俺たちのところなら」

 

 口の中が乾く。

 

 それでも、目を逸らさない。

 

「今度は、ちゃんと迎えます」

 

 風が止まった。

 

 大広場に大勢いるはずなのに、何も聞こえない。

 

 ララさんの指から、焼けた部品が滑った。

 

「あっ」

 

 俺は反射的に手を伸ばす。

 

 部品が地面へ落ちる前に受け止めた。

 

 ララさんの手も同時に伸びてきて、俺の手の甲へ重なる。

 

 指先が触れた。

 

 彼女の手が止まる。

 

「大丈夫ですか?」

 

「……うん」

 

「部品、壊れなくてよかったですね」

 

「そっちじゃなくて」

 

「え?」

 

 ララさんは俺の手の甲に置いた指を見ている。

 

 すぐに離すのかと思った。

 

 けれど、指は動かなかった。

 

 それどころか、少しずつ滑り、俺の指の間へ入り込んでくる。

 

「ララさん?」

 

「ヤマタって、ずるいね」

 

「何がですか」

 

「来てほしいって思ってるのに、来てって言わない」

 

「それは、ララさんに選んでほしいからで――」

 

「そういうところ」

 

 ララさんが顔を上げる。

 

 頬が、少しだけ赤い。

 

 陽の光のせいではないと思う。

 

 たぶん。

 

「私、ずっとヤマタって面白い人だと思ってた」

 

「褒められてます?」

 

「失敗しても怒らないし、危ない時は変なこと言うし、虫ちゃんには好かれるし」

 

「最後は俺の長所ですか?」

 

「あと、すぐ囮になる」

 

「それは長所じゃありません」

 

「うん。やめた方がいいよ」

 

「なら最初から入れないでください」

 

 ララさんが笑う。

 

 いつもの、見た人まで明るくなる笑顔だった。

 

 けれど、今日は笑った後も俺から目を離さなかった。

 

「でも今、面白いだけじゃないって思った」

 

 握られた手に、少し力が加わる。

 

「私がどこに行くかを、私より大事そうに考えてくれた」

 

「ララさんの人生ですから」

 

「そういうことを普通に言うんだもん」

 

「おかしいですか?」

 

「ううん」

 

 ララさんは首を振る。

 

 桃色の髪が肩を滑った。

 

「たぶん、好き」

 

 広場の時間が止まった。

 

 少なくとも、俺の中では止まった。

 

「……誰がですか?」

 

「ヤマタが」

 

「何を?」

 

「そういうところを」

 

「俺の?」

 

「もう!」

 

 握られていた手が、大きく振られる。

 

「どうしてそこで分からないの!?」

 

「確認しないと、勘違いだったら困るので!」

 

「今、かなり分かりやすく言ったよ!」

 

 アーサーがとうとう吹き出した。

 

「ああ、これは駄目だね。ララちゃん、完全に落ちた」

 

「アーサー!」

 

「本人に聞こえている」

 

 百さんが冷静に指摘する。

 

「聞こえるように言ったんだよ」

 

「余計なことをするな」

 

「モモちゃんも気づいたでしょ?」

 

 百さんは答えなかった。

 

 ただ、俺とララさんの繋がれた手を一度だけ見る。

 

 それから静かに目を細めた。

 

 ララさんもアーサーの言葉を否定しなかった。

 

 握っていた俺の手を少し持ち上げ、自分から繋いだことに今さら気づいたように目を見開く。

 

「あ」

 

「どうしました?」

 

「手」

 

「はい」

 

「繋いでた」

 

「そうですね」

 

「いつから?」

 

「部品を落とした時からです」

 

「どうして言わなかったの!?」

 

「離したいのかと思って」

 

 ララさんの指が一度緩む。

 

 離れるかと思った。

 

 けれど、次の瞬間には前より強く握り直された。

 

「離さない」

 

「え?」

 

「今は、離さない」

 

 頬を赤くしたまま、ララさんが舞台へ向き直る。

 

 俺の手を引き、壊れた舞台の中央へ歩き始める。

 

「ララさん、どこへ?」

 

「決めたことを言うの」

 

「もう決めたんですか?」

 

「全部じゃないよ」

 

 ララさんは振り返らずに言う。

 

「婚約をどうするかは決めた。でも、これから先のことはまだ分からない」

 

「それでいいと思います」

 

「だから、ヤマタの近くで確かめる」

 

 俺の足が止まりかける。

 

 引かれた手が伸び、ララさんも立ち止まった。

 

 肩越しにこちらを見る。

 

「私が何を作りたいのか。どこにいたいのか。ヤマタのことを、本当に好きなのか」

 

「さっき、好きって」

 

「たぶんって言ったでしょ」

 

「そうでした」

 

「だから、もっと確かめるの」

 

 ララさんの目が細くなる。

 

「嫌?」

 

「嫌ではありません」

 

「嬉しい?」

 

「……はい」

 

「よろしい!」

 

 満足そうに笑い、また俺の手を引く。

 

 俺はその後ろを歩いた。

 

 追いかけているはずなのに、不思議と置いていかれている感じはしなかった。

 

 壊れた舞台の中央へ戻る。

 

 ズヌイ兄さんは、その場から動かずに待っていた。

 

 俺たちの繋がれた手を見る。

 

 指先が、帳簿の表紙を叩くように一度動いた。けれど今は帳簿を持っていない。

 

「答えは出たか」

 

「うん」

 

 ララさんが頷く。

 

「私は、ズヌイとの婚約を終わらせたい」

 

「その後は?」

 

「まだ全部は決めない」

 

 俺の手を少し引き寄せる。

 

「でも、ヤマタのところへ行く」

 

 観客席が再びざわめく。

 

「第五王子の陣営へ?」

 

「婚約を乗り換えるのか?」

 

 ララさんは周囲の声へ顔を向けた。

 

「ヤマタのものになるんじゃないよ」

 

 はっきりと言った。

 

「私が、自分でそっちへ行くの」

 

 繋いだ手を持ち上げる。

 

「ヤマタの近くで、私が何を選びたいのか確かめる。私の発明も、私の行く場所も、今度は自分で決める」

 

 ズヌイ兄さんはしばらく黙っていた。

 

 ララさんを見る。

 

 次に俺を見る。

 

 最後に、繋がれた手を見る。

 

「デビルークとの正式な協議は必要だ」

 

「うん」

 

「交易条件も組み直す」

 

「うん」

 

「俺の商会から出していた資金も、同じ条件では続けられねぇ」

 

「それも考える」

 

「そうか」

 

 ズヌイ兄さんは、それ以上何も言わなかった。

 

 背を向ける。

 

 舞台を降りる前に、一度だけ足を止めた。

 

「ヤマタ」

 

「はい」

 

「お前、人を手に入れるのが下手だな」

 

「手に入れようとしてませんから」

 

「それで向こうから来るんだから、質が悪い」

 

 吐き捨てるような言い方だった。

 

 けれど、声に棘はなかった。

 

「ララ」

 

「なに?」

 

「後悔するなら、自分で選んだことを後悔しろ。誰かに選ばされたとは言うな」

 

「うん」

 

 ララさんの返事を聞き、ズヌイ兄さんは舞台を降りた。

 

 その背中を見送っていると、アーサーが隣へ寄ってくる。

 

「最高に盛り上がったね」

 

「最初からこれを狙ってたんですか?」

 

「場所だけはね」

 

「ララさんの答えまで?」

 

「それは知らないよ」

 

 アーサーはララさんを見る。

 

 繋がれた手。

 

 少し赤い頬。

 

 俺を見るたびに、すぐ別の場所へ移る視線。

 

「でも、想像よりずっと面白くなった」

 

「俺は頭が追いついてません」

 

「そのままでいいんじゃない?」

 

「よくないです」

 

「ヤマタ」

 

 百さんが呼ぶ。

 

「はい」

 

「いつまで手を繋いでいる」

 

 言われて、俺もようやく気づいた。

 

 式典中だ。

 

 大勢が見ている。

 

 ララさんと手を繋いだまま、舞台の中央に立っている。

 

「あの、ララさん」

 

「なに?」

 

「そろそろ手を――」

 

「離さないよ」

 

「まだですか?」

 

「まだ」

 

「いつまで?」

 

「決めてない」

 

 ララさんは前を向いたまま答えた。

 

 指だけが、もう一度俺の手を握り直す。

 

 百さんが小さく息を吐く。

 

 アーサーは隠そうともせず笑っている。

 

 リンカが俺たちを見て、ぽつりと言った。

 

「捕獲」

 

「何がですか?」

 

「今度はララが、ヤマタを捕まえた」

 

「俺は虫ちゃんじゃありません!」

 

『呼称を確認』

 

 足元から機械音声が響いた。

 

『飼育対象ヤマタを登録します』

 

「登録しないでください!」

 

「いいね、それ!」

 

 ララさんが笑う。

 

「よくありません!」

 

 大広場に笑い声が広がった。

 

 止まっていた拍手も、また少しずつ戻ってくる。

 

 壊れた機械兵の金属面に、並んで立つ俺とララさんの姿が映っていた。

 

 風が吹く。

 

 床へ散らばっていた配置図や偽造帳簿の紙が、舞台の端から空へ舞い上がる。

 

 誰かが決めた位置を示す赤い印も、風に攫われて遠ざかっていった。

 

 ララさんの手は、まだ離れない。

 

 俺も、無理に離すことはしなかった。

 

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