クールな学園の王子様(♀)は童貞オタクに堕とされる ~BSSから始まるイケナイ関係~ 作:九泉
あの地獄のような、あるいは天国のような放課後から一夜が明けた。
結局、俺は熱こそ出さなかったものの、興奮と混乱でほとんど一睡もできなかった。瞼の裏に焼き付いているのは、潤んだ瞳で俺を見つめる泉の顔と、唇に残る柔らかい感触、そして俺の熱を確かめたあの小さな手のひら。その全てが鮮明すぎて、寝ようとすればするほど頭が冴えてしまった。
おかげで、翌朝の教室のドアは、まるでギロチンの刃みたいに重く感じられた。
教室に足を踏み入れた瞬間、空気が違うことに気づく。
昨日までは、俺と泉が親しげに話していたことに対する、女子生徒たちからの嫉妬の視線が主だった。だが、今日は違う。探るような、心配するような、あるいは何かを確信して面白がるような、もっと複雑で粘ついた視線が俺と泉の間を何度も往復している。
原因は、言うまでもなく俺たち自身だ。
俺と泉の間には今、シベリアの永久凍土よりも冷たくて分厚い氷の壁が存在していた。
教室で顔を合わせても、挨拶はない。目も合わない。泉は俺の存在などないかのように振る舞い、俺もまた、どう接していいか分からずに彼女から視線を逸らす。
半径五メートル以内に互いが存在すると、周囲の空気が明らかに歪むのが分かるレベルだった。
「なあ、赤城。お前、王子となんかあったのか?」
昼休み、珍しくクラスの陽キャグループの一人が話しかけてきた。昨日、泉とTCGの話で盛り上がったのを見ていたのだろう。彼らにとって、俺はもはやただの「怖いゴリラ」ではなく、「王子とコネがあるかもしれないゴリラ」にクラスチェンジしたらしかった。
「……別に、何もねえよ」
俺はそう答えるのが精一杯だった。
何があったかなんて、言えるわけがない。「昨日、準備室でキスして舌入れられて股間握られた挙句に逃げられました」などと口が裂けても言えるか。そんなことを言えば、俺は社会的に抹殺される。
授業なんて、まったく頭に入ってこなかった。
ノートの端に無意識に書きなぐっているのは、英単語でも数学の公式でもない。昨日の出来事を整理するための、最低なタイムラインだ。
『カードバトル→負け→「可愛い」発言→事故キス→濃厚キス→股間グリップ→パニック逃走』
文字にするだけで、顔から火が出そうになる。
思い出しては一人で頭を抱え、机に突っ伏す。そのたびに、周囲から「赤城、どうしたんだ?」「また白崎様とのことか?」とヒソヒソ声が聞こえてきて、さらに自己嫌悪に陥る悪循環だった。
ちらり、と盗み見る。
窓際の席で、泉は頬杖をついて、ぼんやりとグラウンドを眺めていた。いつもの完璧な王子様スマイルは鳴りを潜め、その横顔はどこか思い悩んでいるように見える。長いまつ毛が伏せられ、整った唇が固く結ばれていた。
俺のせい、なんだろうか。
いや、俺だけのせいじゃない。そもそも、先に仕掛けてきたのは、どう考えてもあっちだ。俺は被害者と言ってもいいはずだ。あの生殺し状態のまま放置された、哀れな被害者だ。
そう自分に言い聞かせても、心のざわつきは収まらない。
ふと、泉がこちらに視線を向けた。ばちり、と目が合ってしまう。
泉の肩が、びくりと小さく震えた。そして、慌てたようにぷいと顔を背ける。その反応に、俺の心臓も馬鹿みたいに跳ねた。
気まずい。気まずすぎる。
こんな状態が、いつまで続くんだ。
結局、その日は一日中、まともな会話はおろか、視線を交わすことすらほとんどないまま、放課後を迎えてしまった。
もうダメだ。俺たちの奇妙な関係は、たった一日で終わりを告げたんだ。そう思うと、胸の奥にずしりとした重りが沈む。昨日のカードバトルは、あんなに楽しかったのに。
諦めの溜息をつきながら、カバンに教科書を詰め込む。
その時、ふと机の中に何か硬い感触があるのに気づいた。指で探ると、それは小さく四つ折りにされた、ノートの切れ端だった。
いつの間に?
不審に思いながら、俺はそれをそっと取り出し、周囲を窺いながら手のひらで広げた。
『放課後、昨日の場所で待つ。』
そこには、走り書きのような、少し震えた文字が記されていた。
泉からだ。
俺の心臓が、ドクン、と大きく脈打った。全身の血が、一気に頭に上るのが分かる。
これは、何だ?
何の呼び出しだ?
昨日のことを、改めて謝るつもりなのか。それとも、二度と関わるなと釘を刺しに来るのか。あるいは、まさか。
まさか――昨日の、〝続き〟を求めるための呼び出し、なのか?
思考が、ぐるぐると空回りする。
どちらに転んでも、俺の心臓がもたないことだけは確かだ。
だが、行かないという選択肢は、俺の中にはなかった。あの日の出来事を、この気まずい関係を、このまま終わらせたくなかった。
俺は誰にも見られないようにメモをポケットにねじ込むと、カバンを肩に掛け、いつもより少しだけ速い足取りで教室を出た。
目指すは、体育館裏の、古びた準備室。
昨日、俺たちの秘密の場所になった、あの部屋だ。
ギィ、と湿った音を立てて、錆びたドアを開ける。
中は昨日と何も変わらない。埃とカビの匂いが混じり合った独特の空気。窓から差し込む西日が、部屋をオレンジ色に染め上げていた。
そして、その光の中に、泉は立っていた。
窓際に佇み、こちらに背を向けて、カーテンの隙間からじっとグラウンドを眺めている。男子用の制服に包まれた華奢な背中が、やけに小さく、そして頼りなく見えた。
俺が立てた物音に気づいたのだろう。
泉の肩が、ぴくりと揺れる。
「……来たか、大和くん」
ゆっくりと、彼女が振り返る。
夕日を背にしたその顔は、逆光で表情がよく見えない。だが、その声は昨日までの王子様のような芝居がかったものでも、パニックになった時の金切り声でもなかった。
ただひたすらに真剣で、覚悟を決めたような、静かな響きを持っていた。
その瞳が、冗談や照れといった感情を一切排して、まっすぐに俺を射抜く。
俺はゴクリと、生唾を飲み込んだ。
これから、何が始まるんだ?
静寂が、部屋を支配していた。
ただ泉の真剣な眼差しだけが、俺の全てを暴こうとするかのように突き刺さる。
俺は何も言えず、ただ彼女の次の言葉を待つしかなかった。心臓の音が、やけに大きく聞こえる。
やがて、泉は小さく、しかしはっきりと通る声で言った。
「ボクは昨日、君にひどいことをした」
その言葉は謝罪の響きを持っていた。俺は少しだけ肩の力を抜く。そうか、やっぱり謝りに来たのか。
「いや、あれは事故みたいなもんだし……」
「違う」
俺の言葉を、泉は鋭く遮った。
彼女は一歩、俺に近づく。埃っぽい空気の中に、彼女の甘いシャンプーの香りがふわりと混じった。
「事故だったのは、最初のだけだ」
「え……」
「二回目は、ボクの意思だ。君の舌に、自分の舌を絡めたのも。君の……その、熱くなった場所に触れたのも。全部、ボクが望んでやったことだ」
告白は、あまりにもストレートだった。
俺は言葉を失う。目の前のこいつは一体何を言っているんだ。
泉は俺の混乱などお構いなしに、話を続けた。その白い頬が、夕日のせいでない赤みに染まっているのが分かった。
「なのに、ボクは逃げた。君を……あんな状態のまま、一人残して」
彼女の声が、わずかに震える。
後悔しているのか。それとも、恥じているのか。
「だから、今日はその……責任を、取りに来た」
「責任……?」
聞き返した俺に、泉はこくりと頷いた。
「帰ってから、その……
俺は泉の言葉を否定しなかった。だってそうだろ? その通りだからだ!
そして泉は、俺の人生を根底から揺るがす一言を、震える声で紡いだ。
「昨日の……〝続き〟、しないか?」
思考が、完全に停止した。
続き?続きってなんだ。俺たちの間に、そんな約束があったか?
いや、違う。この文脈で言う続きなんて、一つしかない。
昨日、俺の理性が焼き切れそうになった、あの瞬間のことだ。
「な……お前、自分が何言ってるか分かってんのか!?」
俺は思わず叫んでいた。
目の前の少女は正気じゃない。昨日あれだけパニックになって逃げ出したくせに。たった一日で、どうしてこんな結論に辿り着くんだ。
「もちろん、分かっている。だから、ここに来た」
泉の瞳は、もう揺らいでいなかった。
そこにあるのは、どこか神聖さすら感じさせる、強い意志の光だった。
彼女はゆっくりと俺の前に膝をつくと、俺の学生ズボンのベルトに、ためらうように手を伸ばした。
「ま、待て! おい、泉!」
俺は慌ててその手を掴もうとする。だが、泉はそれをやんわりと振り払った。華奢な見た目に反して、その手には確かな力があった。
カチャリ、と金属のバックルが外れる、乾いた音が響く。
次に、ジッ、とファスナーが下ろされる、生々しい音。
俺はなされるがまま、立ち尽くすことしかできなかった。目の前の光景が、現実のものだと信じられなかった。
泉の手が、俺の下着のゴムに触れる。
その指先が、かすかに震えているのが見えた。
彼女は一度、ぐっと唇を噛みしめると、覚悟を決めたように、俺のジャージと下着を一緒に引きずり下ろした。
西日の差し込む、薄暗い準備室。
その中で、俺の醜くも熱を持った欲望が、完全に露わになった。
十八年間、一度も他人に見せたことのない俺のモノが、クラスの王子様の前に晒されている。
羞恥と、背徳的な興奮で、頭がどうにかなりそうだった。
泉は、動きを止めていた。
その大きな瞳が、俺のそれを見つめて、瞬きもせずに固まっている。
彼女がどんな表情をしているのか、俯いているせいでよく見えない。ただ、時間が永遠のように引き伸ばされている気がした。
やがて、ぽつり、と。
感嘆とも驚愕ともつかない、吐息のような呟きが漏れた。
「すごい……おっきい……」
顔を上げた泉の表情を見て、俺は息を呑んだ。
そこにあったのは、嫌悪でも嘲笑でもなかった。
未知の生命体でも発見したかのような、純粋な好奇心と、畏敬の念。その瞳はきらきらと輝き、頬は興奮で上気していた。
「本当に……昨日、ボクが触った通りだ。こんなに熱くて、硬くなるものなのか……」
まるで学術的な探求でもするかのように、彼女は真剣な声で呟く。
その無垢な視線が、逆に俺の羞恥心を極限まで煽った。
もうやめてくれ。頼むから、そんな目で俺の息子を観察しないでくれ。
俺が心のなかで悲鳴を上げた、その時だった。
泉の白く細い指が、ゆっくりと持ち上がる。
そして、俺の熱く膨れ上がった先端に、ためらうように、そっと触れた。
「ひっ……!」
びくり、と俺の身体が大きく跳ねた。
背筋に、今まで感じたことのない種類の電気が走る。
指が触れた部分から、熱が全身に広がっていくのが分かった。
泉も、俺の反応に驚いたように、びくりと肩を震わせる。
だが、その指を離すことはなかった。
それどころか、まるで貴重な美術品でも確かめるかのように、俺の竿を、その小さな手のひらで、優しく包み込んだ。
「……っ、ああ……!」
声にならない声が、俺の喉から漏れた。
柔らかくて、少しひんやりとした彼女の手のひらの感触が、ダイレクトに脳を揺さぶる。
俺のそれは、彼女の手の中で、さらに脈打ち、存在を主張した。
泉は、自分の手の中にある俺の熱を、信じられないというように見つめている。
そして、恍惚とした表情で、小さく呟いた。
「大和くんの、これ……ボクの知らない匂いがする……これが、男の子の匂い……」
泉の無垢な言葉は、もはや俺にとって拷問に等しかった。
俺は奥歯を強く噛みしめる。これ以上耐えれば、脳の血管が焼き切れてしまいそうだ。
「いずみ……っ、もう、やめ……」
俺の掠れた制止の声は、彼女の耳には届いていなかった。
泉は俺の熱を握ったまま、好奇心に満ちた瞳でじっと見つめている。そして、何を思ったのか、その手をゆっくりと、上下に動かし始めた。
ぎこちなく、不器用な動きだった。
どうすればいいのか分からず、ただ俺の竿を握っては滑らせる、そんな頼りない手つき。
だが、その拙さが、逆にどうしようもなく俺を煽った。
「っ、く……!」
初めて与えられる、他人からの快感。
泉の手が動くたびに、脳の芯が痺れるような感覚が全身を駆け巡る。腰が勝手に浮き上がりそうになるのを、必死で堪えた。
「こうか……? こうすれば、いいのかな……?」
泉は、自分の手の中の変化を確かめるように、呟きながら動きを続ける。
その真剣な横顔は、まるで難しい数式でも解いているかのようだ。
王子様然とした普段の彼女からは、到底想像もつかない姿。その完璧な少女が、今、俺のモノを握り、俺のために奉仕している。
その事実が、俺の興奮を限界以上に押し上げていく。
「すごい……もっと、硬くなってきた……。大和くん、気持ちいいのか……?」
ああ、そうだ。気持ちいい。気持ち良すぎて、頭がおかしくなりそうだ。
だが、そんなこと言えるわけがない。俺はただ、荒い息を繰り返すことしかできなかった。
泉の手つきが、少しずつ大胆になっていく。
最初は戸惑いがちだった指の動きが、次第に俺の形を覚え、どうすれば俺が反応するのかを学習していくようだった。
彼女は俺の反応を面白がるように、時折くすりと笑みを漏らす。その笑顔は、いつもの王子様のそれではなく、無邪気で、少しだけ意地悪な少女の顔だった。
「ん……っ、ぁ……!」
もう、限界だった。
目の前が、白く点滅する。
泉の顔が、夕日の中でぼんやりと霞んで見えた。潤んだ瞳が、熱っぽくとろりと蕩けている。彼女もまた、この背徳的な行為に興奮しているのが分かった。
「いずみ、もう、だめだ……出る……!」
俺の悲鳴のような声に、泉の肩がびくりと震えた。
彼女の動きが、一瞬だけ止まる。
そして、次の瞬間。彼女はまるで、俺の最期を見届けるかのように、再び力強くその手を動かした。
「……ッ、あああああああっ!」
絶頂。
熱い奔流が、俺の身体からほとばしる。
泉の驚きに見開かれた瞳と、小さく開かれた唇が、スローモーションのように見えた。
彼女の白い手のひらと、その周辺に、俺の欲望の全てがぶちまけられる。
ビクン、ビクンと痙攣する俺の身体を、泉はただ黙って支えていた。
長い、長い時間が過ぎたように感じた。
やがて、俺の身体から力が抜けていく。激しい動悸と、心地よい倦怠感。
はっ、と我に返った俺の目に映ったのは、自分の手のひらを見つめて呆然としている泉の姿だった。
彼女の手には、俺が放った白濁した液体が、べっとりと付着していた。
泉はそれを、信じられないものを見るかのように、じっと見つめている。そして、指先でそれをそっと掬い上げると、鼻先に近づけて、くん、と匂いを嗅いだ。
「……これが」
その行動に、俺は羞恥で死にそうになった。
「これが、大和くんの……。なんだか、不思議な匂いだ……」
そう呟いた泉の顔は、耳まで真っ赤に染まっていた。
彼女ははっと我に返ると、火傷でもしたかのように自分の手を見つめ、慌てて制服のポケットからハンカチを取り出した。そして、俺のモノと自分の手を、ぎこちない手つきでゴシゴシと拭き始める。その動きはひどく乱暴で、彼女の混乱ぶりを表していた。
「す、すまない! その、つい、夢中になって……!」
「い、いや……」
何を言えばいいのか分からない。
気まずい沈黙が、部屋を満たした。
後始末を終えた泉は、俺のズボンを慌てて引き上げると、何も言わずに立ち上がった。
そして、俺の顔を見ることなく、背を向けた。
「じゃあ」
それだけをぽつりと呟くと、彼女はスクールバッグをひったくり、昨日と同じように、嵐のように準備室から走り去っていった。
バタン、と古びたドアが閉まる音。
またしても、俺は一人、この秘密の場所に残された。
数分前の熱狂が、嘘のようだ。だが、俺の身体に残る生々しい感覚と、鼻の奥に残る泉の甘い香りが、それが紛れもない現実だったと告げていた。
俺は力なく、その場に座り込んだ。
腰が抜けて、立てそうにない。
クラスの王子様の手で、手コキ童貞を卒業してしまった。
手コキ童貞って何だ? あーだめだ、頭が回らない。
情報量が多すぎて、思考がショートする。
……明日、どんな顔をして泉に会えばいい?
答えなんて、出るはずもなかった。
俺はただ、まだ熱っぽさが残る自分の下半身を見つめながら、熱い息を吐き出すことしかできなかった。