クールな学園の王子様(♀)は童貞オタクに堕とされる ~BSSから始まるイケナイ関係~ 作:九泉
あの秘密の告白から、俺たちの時間はさらに密度を増した気がする。
放課後の準備室は相変わらず俺たちの聖域で、カードを並べる音と、時折交わす他愛のない会話、そして肌が触れ合う熱だけが満ちている。
泉は、あの日以来サポーターを着けるのをやめた。
Yシャツの上からでも分かるその豊かな膨らみは、当然クラスの女子たちの注目の的になった。
泉がサポーターを付けていることは――特に女子たちには――周知の事実だったようだ。だが、あそこまで大きく、形も良い、最高の美乳だとは思わなかったのだろう。
「白崎様、何かあったの!?」「スタイル良すぎ!」などと騒がれては、泉は「ああ、少し気分転換にね」なんて言って、完璧な王子スマイルでひらりとかわしている。
だが俺は知っている。その笑顔の裏で、彼女の耳が真っ赤に染まっていることを。俺と視線が合うたびに、その潤んだ瞳が「君のせいだからな」と雄弁に物語っていることを。そのたびに俺の口元が緩むのを、彼女はまだ知らない。
「なあ大和くん」
「ん?」
カードの片付けをしながら、泉が俺の腕をじっと見つめていた。その視線は、もはやお馴染みになった学術的な探求者のそれだ。
「その、腕の筋肉……。どうすればそんなに硬くなるんだ?」
「どうすればって……まあ、筋トレだな」
「筋トレ……」
泉はこくりと頷くと、おもむろに立ち上がって俺の隣に回り込んだ。そして、ためらうことなく俺のたくましい二の腕を、両手でむに、と掴んだ。
「ひゃっ!?」
「なんでお前が悲鳴上げてんだよ」
「だ、だって……思った以上にすごいんだ。石みたいに硬い……」
うっとりとした表情で、泉は俺の腕を撫で回す。その白い指が俺の筋肉の筋をなぞるたびに、ぞくりとした感触が背筋を走った。正直、くすぐったいし、それ以上に心臓に悪い。
「お、おい、もういいだろ」
「だめだ。これはボクの研究対象なんだ。人体の神秘だよ」
わけのわからないことを言いながら、彼女はさらに身体を寄せてきた。ふわりと、泉の甘い匂いが鼻腔をくすぐる。シャンプーと、彼女自身の肌の匂い。俺の理性を麻痺させる、危険な香りだ。
「筋肉は、いい……」
ぽつり、と泉が恍惚の息を漏らす。その瞳はとろりと蕩けていて、俺の腕をまるで恋人のように慈しんでいた。
こいつ、もしかして。
「泉、お前……筋肉フェチか?」
「ふぇち……?」
きょとん、と泉が顔を上げる。その無垢な表情に、俺は自分が何を言っているのか少し恥ずかしくなった。
「いや、その……特定のモノに強く興奮するっていうか……」
「特定のモノ……」
泉は俺の腕と自分の胸の間で視線を彷徨わせると、何かを理解したように、顔をぼっと赤らめた。
「そ、そんなわけないだろう! ボクはただ、が、学術的な興味として君の身体を……!」
「はいはい、分かったから」
慌てて取り繕う姿が、逆に答えを教えてくれているようなものだった。
王子様の仮面の下には、どうやら密かな性癖が隠されているらしい。その事実が、なぜかどうしようもなく俺を興奮させた。
そんな日々が続いていたある日の放課後。
その日は珍しく、泉の方から「行きたい場所がある」と切り出してきた。
「行きたい場所?」
「ああ。ちょっと付き合ってほしい」
そう言って俺を導いた先は、体育館の二階にある古びたトレーニングルームだった。窓から差し込む西日が、空気中を舞う鉄と汗の匂いを照らし出している。ベンチプレス台に、錆びたダンベル、懸垂用の鉄棒。そこは、俺が普段から人知れず肉体をいじめ抜いている、もう一つの聖域だった。
「なんでここを……」
「君が、ここでいつも一人で努力していると聞いたからな」
どうやらクラスの誰かから聞き出したらしい。俺がここで筋トレに励んでいることは、一部の人間しか知らないはずだが。
「それで? ここで何するんだ?」
「ボクは、見ているだけでいい」
「はあ? 人の筋トレ見て何が楽しいんだよ」
「いいから早く始めたまえ。君の〝努力〟を、この目に焼き付けたい」
気取った台詞でそう言うと、泉は部屋の隅にあるパイプ椅子に腰掛け、優雅に足を組んだ。その姿はまるで、これから始まる演劇を鑑賞する女王様のようだ。
俺はわけがわからないまま、まあいいか、といつものルーティンを始めることにした。まずはウォーミングアップのストレッチからだ。
肩を回し、腕を伸ばし、屈伸をする。その一挙手一投足を、泉の真剣な視線が突き刺さるように追ってくるのが分かった。なんだか、いつもより身体が硬い気がする。
「……ふぅ」
軽く汗が滲んできたところで、俺はベンチプレス台に横になった。
まずは60kgから。ウォーミングアップにはちょうどいい重さだ。
バーベルをラックから外し、胸まで下ろす。そして、息を吐きながら、一気に天井へと押し上げた。
ギシ、と古いベンチが軋む音と、俺の荒い呼吸だけが部屋に響く。
10回を1セット。それを終えてバーベルをラックに戻すと、俺はちらりと泉の様子を窺った。
彼女は、微動だにせず、俺の姿を凝視していた。
その大きな瞳は爛々と輝き、頬は興奮のためか上気している。ゴクリ、と彼女が喉を鳴らす音が、やけに大きく聞こえた。
……やっぱり、こいつ。
俺は確信した。白崎泉は、ガチの筋肉フェチだ。
その事実に気づいてしまうと、なんだか妙な気分になってくる。
見られている。泉に、俺の全てが見られている。
その視線が、俺の身体の奥底に眠っていた何かを、じわりと熱くさせた。
「……次は、100kgだ」
俺は誰に言うでもなく呟くと、プレートを付け替えた。
さっきよりもずしりと重い。これを上げるには、全身の筋肉を連動させ、集中力を極限まで高める必要がある。
「……っ、ふん!」
気合一発。バーベルを持ち上げる。
腕の筋肉が、胸の筋肉が、悲鳴を上げるのが分かる。血管が浮き出し、全身の体温が急上昇していく。
汗が額から、首筋から、滝のように流れ落ちた。Tシャツが肌に張り付き、鍛え上げた身体のラインがくっきりと浮かび上がる。
「はぁ……っ、はぁ……っ!」
呼吸が荒くなる。視界の端で、泉が椅子から身を乗り出しているのが見えた。
その瞳は、さっきよりもさらに熱っぽく潤んでいた。まるで獲物を前にした肉食獣のように飢えた光を宿している。
その視線が、俺の闘争本能に火をつけた。
もっとだ。もっと、こいつに見せつけてやりたい。
俺の、男の力を。
「うおおおおおっ!」
最後の力を振り絞り、バーベルをラックに戻す。
全身が心地よい疲労感と達成感に包まれた。どくどくと脈打つ心臓の音が耳元で鳴り響いている。
俺はベンチに仰向けになったまま、荒い息を繰り返した。
「……すごい」
ぽつり、と泉の呟きが聞こえた。
俺がゆっくりと身体を起こすと、いつの間にか、泉は俺のすぐそばに立っていた。
その顔は、間近で見るとさらに熱を帯びていて、陶然とした表情で俺を見下ろしていた。
「君の身体は……まるで芸術品だな。汗を光らせて、必死に鉄塊を持ち上げる姿……。正直、ぞくぞくした」
「そ、そうかよ」
あまりにもストレートな賛辞に、俺は照れ隠しにそっぽを向く。
汗を拭こうとタオルに手を伸ばした、その時だった。
「待って」
泉が、俺の手を制した。
そして、何を思ったのか、俺の汗ばんだ首筋に、ゆっくりと顔を近づけてきたのだ。
「お、おい、泉……?」
俺の戸惑いを無視して、彼女は俺の首に、すん、と鼻を寄せた。
そして、まるで花の香りを確かめる蝶のように、その匂いを吸い込んだ。
「……はぁ……」
泉の口から、甘く、蕩けたような吐息が漏れた。
その吐息が、俺の首筋を撫で、背筋にぞくりとした悪寒が走る。
「君の匂いを、もっと近くで感じたい……」
泉の熱っぽい吐息が、俺の肌を直接焼いた。
首筋に微かに触れる彼女の唇は、驚くほど熱い。俺は思わず身体を硬くする。彼女の綺麗な黒髪が、俺の頬をくすぐった。
「いずみ……」
掠れた声で名前を呼ぶが、彼女は答えない。
ただ、俺の汗の匂いを確かめるように、何度も、深く息を吸い込んでいる。その行為はどこか神聖で、同時にどうしようもなく淫靡だった。
「ああ……いい匂いだ……。汗と……大和くん自身の匂いが混じり合って……頭がおかしくなりそうだ」
うっとりと呟く彼女の言葉が、俺の理性の
やがて泉は、俺の首筋から顔を離すと、今度は汗で湿った俺のTシャツに顔を埋めてきた。俺の胸板に、彼女の柔らかな頬が押し付けられる。
「この硬さも……この熱も……全部、君が努力して手に入れたものなんだな」
その声は、心からの敬意に満ちていた。
俺が何も言えずにいると、泉は名残惜しそうに俺の胸から顔を離した。その瞳は潤んで、熱に浮かされている。
「ボクは……今まで、自分の身体が嫌いだった」
唐突な告白だった。
「男みたいな顔に、不釣り合いなこの胸。ずっと、コンプレックスだった。でも……君を見ていると、そんなことはどうでもよくなる」
泉の視線が、俺の腕から胸、そして腹筋へとゆっくり落ちていく。まるで俺の身体を隅々まで検分するように。
「君の身体は、君が戦ってきた証だ。誰かに媚びるためじゃない。君自身のために鍛え上げた、強さの象徴だ。それが……どうしようもなく、眩しい」
彼女の白い指が、汗で張り付いた俺のTシャツの上から、腹筋のラインをそっと撫でた。
その指先の感触だけで、俺の腹の奥がずくりと熱くなる。
「だから、ボクも……自分の身体を、少しだけ好きになれた。この胸も、君が喜んでくれるのなら……君が、好きだと言ってくれるのなら……」
そこまで言って、泉は言葉を切った。
彼女の視線が、さらに下へ、下へと落ちていく。
俺の、下半身へ。
トレーニングで全身の血流が良くなっているせいか。それとも、目の前の泉の言動に煽られているせいか。俺の中心は、とっくに熱を持ち始めていた。ジャージの上からでも、その存在が分かるくらいに。
泉の視線が、そこに釘付けになる。
彼女の喉が、こくりと鳴った。
その瞳に宿る色が、変わる。さっきまでの尊敬や憧れではない。もっと直接的で、飢えたような、生々しい欲望の色だ。
「君の……一番、熱い場所も……」
無意識に漏れたような、か細い声。
泉は、まるで何かに導かれるように、ゆっくりと俺の前に膝をついた。
「おい、泉、待て……!」
俺は慌てて彼女の肩を掴む。だが、泉は見上げる瞳で、俺の制止を拒んだ。
その瞳は、もう何も恐れていなかった。ただ、目の前の未知なるものに対する、純粋な好奇心と探求心に満ちている。
「見せてほしい。君のものを」
ここで? とか、今じゃないとだめか? とか、静止の言葉が浮かんだが、その真剣な眼差しに、俺は何も言えなくなった。
素早く周囲を確認するが、幸か不幸か人の気配はない。一階の体育館も今日は使用していないようだ。
泉の震える手が、俺のジャージの紐にかかる。するり、と紐が解かれ、彼女はためらうことなく、俺のズボンと下着を一緒に引きずり下ろした。
西日が差し込むトレーニングルーム。
埃っぽい空気の中で、俺の熱を帯びた欲望が、完全に露わになる。
薄暗い準備室とは違う。今はまだ、日の光が残っている。そのせいで、全てがあまりにも生々しく見えた。
泉は、動きを止めていた。
その大きな瞳が、俺のそれを、まばたきもせずに見つめている。
畏敬、驚嘆、そして少しの戸惑い。あらゆる感情がごちゃ混ぜになった表情で、彼女は俺の息子を観察していた。
「……やっぱり、すごい」
やがて漏れたのは、感嘆の息だった。
彼女の白い頬が、興奮で淡く色づいている。
「こんなにも……生々しくて、力強い形をしているんだな……。ボクの知らない、男の人の……」
泉の細い指が、ゆっくりと俺のそれに近づいてくる。
俺は息を呑んだ。
彼女の指先が、俺の熱の先端に、そっと触れた。
「うっ……!」
背筋を、またあの電撃が走る。
彼女の手の中で、俺のそれはさらに脈打ち、存在を主張した。
泉は、その変化を面白がるように、くすりと小さく笑った。
「ふふ……正直だな、大和くんの身体は」
「……っ!」
意地悪く笑うその顔は、もはや王子様ではない。俺を煽って楽しむ、小悪魔の顔だ。
泉は俺のモノを優しく包むと、まじまじと観察を続ける。そして何を思ったのか、その顔を、ゆっくりと近づけてきた。
「匂いを、嗅いでみてもいいか……?」
「は……?」
俺が呆気にとられている間に、泉は俺の熱のすぐそばまで鼻を寄せた。
そして、くん、とその匂いを確かめる。
「……あ……」
彼女の口から、また甘い吐息が漏れた。
その瞳が、さらにとろりと蕩けていく。
「なんだろう……今まで嗅いだことのない、不思議な匂い……。これが、君の一番奥にある……」
もうだめだ。
こいつの無垢な探求心は、俺の理性を完全に破壊する。
俺が羞恥と興奮で爆発しそうになっていると、泉は顔を上げた。その瞳は、何かを覚悟したように、まっすぐに俺を射抜いていた。
「大和くん」
「……なんだよ」
「ボクは、君を喜ばせたい」
真剣な声だった。
「君は、ボクのコンプレックスを肯定してくれた。ボクがずっと嫌いだったこの胸を、綺麗だと言ってくれた。君のおかげで、ボクは初めて、ちょっとだけ自分の身体を好きになれそうなんだ」
だから、と彼女は続ける。
「今度は、ボクの番だ。ボクが、君の全てを肯定したい。君の身体の、隅々まで……一番だって、ボクが言ってあげたい」
彼女はそう言うと、もう一度俺の熱に視線を落とした。
そして、覚悟を決めたように、その桜色の唇を、ゆっくりと開いた。
俺は息を呑んだ。
目の前の光景が、現実のものだと信じられない。
クラスの誰からも王子と崇められる、孤高の少女。その完璧な唇が、今まさに俺の醜くて汚らわしい部分を、受け入れようとしている。
泉の、桜色の唇が、俺の先端に、そっと触れた。
柔らかくて、濡れていて、信じられないほど熱い。
びくり、と俺の全身が痙攣した。脳の芯を、直接焼きごてで抉られるような、暴力的な快感が突き抜ける。
「ん……っ!」
泉の身体も、小さく震えた。
初めて触れる異物の感触に、戸惑っているのが分かる。だが、彼女は怯まなかった。
それどころか、俺を喜ばせたいという一心で、おそるおそる、俺の熱をその小さな口に含んでいく。
「ん……ぅ……っ」
苦しげな、甘い声が泉の喉から漏れた。
経験などないのだろう。その動きはひどくぎこちなく、拙い。
だが、その拙さが、彼女の懸命さが、どうしようもなく俺の心を揺さぶり、興奮を煽った。
俺のモノが、彼女の口内を埋め尽くしていく。その熱と脈動を、彼女はどんな風に感じているのだろうか。
泉は、戸惑いながらも、どうすれば俺が喜ぶのかを学習していくようだった。
時折、潤んだ上目遣いで俺の顔色を窺う。そのたびに、俺の腰は意思とは無関係に跳ねた。
彼女はその反応を確かめると、少しだけ大胆に、動きを続けた。
「やまと、くん……すごい……。口の中が、君でいっぱいに……」
途切れ途切れの、吐息のような声。
もう、何も考えられない。
ただ、目の前の少女が与えてくれる、背徳的で甘美な快感に、身を委ねるだけだった。
拙いながらも、舌が裏筋やカリの部分を這い回る。
鈴口をほじるように舐められたときには思わず腰が跳ねた。
「いずみ……っ、もう……」
限界が近いことを悟り、俺は掠れた声を上げる。
その声に、泉の動きが一瞬だけ止まった。
彼女は俺の熱を口に含んだまま、すこしだけ小首を傾げる。その瞳は、蕩けて、潤んで、俺をまっすぐに見つめていた。
「
その無垢な問いかけが、最後の引き金になった。
ああ、そうだ。気持ちいい。
気持ち良すぎて、頭がおかしくなりそうだ。
「だめだ……っ、出る……!」
俺の悲鳴のような声に、泉はびくりと肩を震わせた。
だが、彼女は口を離さなかった。
それどころか、まるで俺の全てを受け止めるかのように、最期の瞬間、深く、俺を飲み込んだ。
「……ッ、あああああああああっ! っくうううっ……!」
絶頂。
思考が、真っ白に染まる。
熱い奔流が、俺の身体の奥深くから、泉の口の中へとほとばしった。
俺の腰が、ビクン、ビクンと大きく痙攣する。
泉は、驚きに目を見開いたまま、その全てを、ただ黙って受け止めていた。
長い、長い時間が過ぎたように感じた。
やがて、俺の身体から力が抜けていく。激しい動悸と、骨の髄まで溶かしてしまいそうなほどの、深い倦怠感。
はっ、と我に返った俺の目に映ったのは、口の端から白濁した液を少しだけ溢れさせながら、呆然としている泉の姿だった。
彼女は、口の中に広がる未知の味と感覚に、どうしていいか分からないという顔をしている。
やがて、彼女はそれを、こくり、と喉を鳴らして飲み込んだ。
「……っ!?」
「……これが、大和くんの……味……」
ぽつりと呟いた泉の顔は、耳まで真っ赤に染まっていた。
彼女ははっと我に返ると、慌てて俺から顔を離し、手の甲で自分の口元を乱暴に拭った。
「す、すまない! その、つい……! 汚かっただろうか……!」
「ちが……」
泉が汚いわけがない。
俺は、それ以上言葉を続けられなかった。
ただ、目の前の少女に対する、愛おしさとも、庇護欲ともつかない感情が、胸いっぱいに広がっていくのを感じていた。
俺は無言のまま、その場にへたり込んでいる泉の華奢な身体を、そっと抱きしめた。
泉の身体が、びくりと震える。
だが、彼女は抵抗しなかった。ただ、俺の胸に、自分の額をこてんと預けてくる。
汗と、鉄と、そして俺たちの秘密の匂いが混じり合ったトレーニングルームに、静かな時間が流れた。
「……王子様が、聞いて呆れるな」
しばらくして、泉が自嘲するように呟いた。
「こんな、はしたないこと……。君に幻滅されただろうか」
「するわけねえだろ」
俺は即答した。
「俺は……すごく、嬉しかった」
それは、紛れもない本心だった。
「お前が、俺のために一生懸命になってくれたこと。それが、何より嬉しかったんだよ」
俺の言葉に、泉は顔を上げなかった。
ただ、俺の胸に顔を埋めたまま、その肩が小さく震えているのが分かった。彼女が、泣いているのだと気づくのに、時間はかからなかった。
もう、俺たちの間に、言葉は必要なかった。
俺はただ、彼女のショートカットの髪を、優しく、何度も撫で続けた。
王子様の仮面なんて、もうどこにもない。俺の腕の中にいるのは、不器用で、一途で、そしてどうしようもなく可愛い、たった一人の女の子だ。
その全てを、俺が守りたい。
心の底から、そう思った。
夕闇が、街を完全に支配する頃。
俺たちはどちらからともなく身体を離し、少しだけ気まずい沈黙の中で、乱れた服を整えた。
泉は、俺の顔をまともに見ることができないようで、ずっと俯いている。その赤くなった耳が、彼女の羞恥を物語っていた。
「……帰るか」
「……うん」
二人並んで、体育館を出る。
ひんやりとした夜の空気が、火照った身体に心地よかった。
見上げた空には、頼りない月と、いくつかの星が瞬いている。
「……大和くん」
隣を歩く泉が、ぽつりと俺の名前を呼んだ。
「ん?」
振り向くと、泉は立ち止まって、俺のことをまっすぐに見上げていた。
その瞳には、もう涙はなかった。
あるのは、雨上がりの空のように澄んだ、強い光。
「その……ありがとう」
「なんでだよ、まったく。その、こっちこそ」
はにかむように笑うその顔は、俺が今まで見たどんな表情よりも、可愛かった。
俺はただ、彼女のその笑顔に、心ごと奪われていた。