【完結】露蜜のカンバス~メスなボクでも幸せになりたい 作:渦螺しお
「これ、ママから。近所のパティスリーの焼き菓子」
「おっ、ありがとう。んじゃ飲み物はっと……コーラでいいか」
「コーヒーか紅茶がいいかな」
「わかった。え~っとティーバッグどこにしまってたっけ……ちょ、適当に座って、待っててくれ」
住宅街の角地、レンガ調のタイルに覆われた川辺の自宅。
部屋へと上がるなり、川辺は軽くパニックになった様子で慌てて出ていく。リオはフローリングに置かれたクッションに独り座り、部屋を見渡した。
(これが、普通の男の子の部屋なんだ)
本棚には漫画や雑誌が雑然と並び、壁には外国のミュージシャンのポスターが貼ってある。
(何か……いいな、こういうの)
パステル調のかわいい色で整えられた自分の部屋と比べ、好きなものが好きなように詰め込まれているこの空間が、リオには少しうらやましく思えた。
「わりぃ、待たせた」
慣れない手つきでカチャカチャと音を立て、トレーを小机に置く。白磁のティーカップには、浸かったままのティーバッグから、紅茶が色濃く出ていた。
「ありがとう、いただきます」
渋い紅茶も、川辺の気遣いを思えば悪い気がしない。
川辺はスマホからワイヤレススピーカーに曲を飛ばす。気だるいロックをBGMに、焼き菓子をかじりながら、学校のことなど、どこかぎこちなく、とりとめなく雑談が進んだ。
「──あ、この曲、聴いたことある」
「CMとかにも使われてたからな。名曲だぜ。歌ってるのがこのバンド」
今どき珍しいCDジャケットが手渡される。スリーブには小汚いような、オシャレなような外国人が数人、投げやりな調子で写っている。
「ね、どれが歌ってる人?」
「ああ、これ。この真ん中で寝てるやつ」
川辺はジャケットを指さしながら、顔をぬっと近づける。そのまま隣に身体を寄せ、いろいろと説明し始めるも……リオは川辺の息遣いを感じ、肌が紅潮し始めた。
「リオって、前から思ってたんだけど、いい匂いするな」
「そ、そう? シャンプーかな」
「いや、そういうんじゃなくてこう、甘酸っぱいっていうのか」
心拍が上がる。笹川がいつも言っている、
「なあ、手、握ってもいいか」
無言で
「──ひゃっ」
「ごめん、痛かった?」
「う、ううん。びっくりしただけ」
「やわらかいなあ。ずっと握っていられる」
指の間ひとつひとつに、川辺の指が滑り込む。じわり、お互いの手のひらに滲む汗。合わせて、起き上がった
川辺の別の手が、ニーハイの太腿に触れた。その瞬間はっと我に返り、リオはその手を払い、少し後ろへ退いた。
「嫌っ!」
「え、あ……」
いい雰囲気だと思っていたところを拒絶され、ショックを受ける川辺。リオは胸に手を当て、呼吸を整える。そして……伝えなければならないことを、何とか声にした。
「……ひとつ、聞いておきたいことがあるの」
「な、何」
「ボクのことを知って、わかっていて……こういうこと、してる?」
全く要領を得ない顔をする川辺の目を、真っすぐ見る。リオは意を決して告げた。
「ボク、男だからね」
「は?」
沈黙。BGMは鳴り止み、静寂が二人を包む。川辺はふと何かを思い出した顔でつぶやいた。
「そういえば……学校にそういう子がいるって、聞いたことが……それが、リオなのか」
リオは黙って
「なあ、証拠を見せてくれないか」
「……どうやって?」
「胸を、見せてくれるとか」
「ヤダ。そんな恥ずかしいこと、絶対できない」
当たり前の拒否。なのにどこか、許してしまいそうになる自分。川辺は顔をそむけるリオに食い下がった。
「頼む。俺、このままだと頭がバグって、どうしようもなくなる。それに正直、そんなのどっちでもいいんだよ」
「えっ。今、何て」
「俺はリオだから触れたい。リオだからもっと見たい。それだけなんだ」
「ボク、だから……?」
川辺はさっと両手を床について、頭を下げた。
「頼む! 君が好きなんだ、リオ!」
最後の防壁がぐしゃりと崩れる音が、頭の中に響く。きっと、ずっと、言われたいと望んでいた言葉。笹川の言う「
わからぬまま、呆然と。リオの手がニットのボタンにかかる。ぷつ、ぷつと、ひとつずつ。まばたきひとつしない川辺の目に晒されながら。全てを外し、脱ぎ捨てると、キャミソールの裾をつかみ、ゆっくりと胸の下までめくり上げた。
うっすらと桃色に染まった、白い肌。小刻みに震えるそこへ、川辺の手が伸びてくる。
「んっ……」
両手のひらが胸の下に、吸い付くように貼りつく。川辺はその手先を、するりとキャミソールの胸パッドの内側へ滑り込ませた。
「ふあぁんっ」
思わず出た嬌声に、口を押える。川辺の両手が、そのままベッドの縁へリオの背中を押しやる。逃げ場を失ったところで胸の上までめくり上げられ……愛らしくも硬くなった、ピンク色の乳首が現れた。
「はあ、はあ……すごい……すごい綺麗だ」
男性のそれとは明らかに違う、グミのようにぷるぷるとした、大きな乳首。川辺は手のひらで少しふっくらした乳房を揉みしだき、指先でゆっくりと乳首を転がし始めた。
「んぁ、はぁん」
「乳首がぷにぷにして、指先に引っ付くみたいで……触るだけで、何でこんなに気持ちいいんだ。何だよ、何なんだよ、これ」
「──っ、ぁ、あ……」
指先の加減で、時々小さな痛みが走る。それなのに快感は増し続け、吐息の温度はどんどん上がる。
しつこく執拗に両胸を揉みしだき、乳首をいじりつづける川辺。やがてその右手を、リオの股間へと滑らせた。
「!!! ああっ、ダメっ! そこはっ……んあんんっ」
「ほんとだ、俺と同じものが、ここに……小さいけど、ガッチガチになってる。信じられない。なのに……何でこんなエロくて、かわいいんだ? リオ」
川辺はすっかり上気したリオの顔を見つめながら、ショートパンツを突き上げる
「!?!? ダメ、だめだめだめぇっ」
隆起に沿い、粘膜の先端を的確にこすりあげる手。男性として、どこが一番感じるかを熟知した動きで。その奥向こう……
潤みきった琥珀色の瞳。滲む景色の中から、川辺の顔がゆっくりと近づいてくる。艶やかなリオの唇にそよぐ、川辺の息。その唇が、今まさに食いつこうとしていた時だった。
「ただいまぁ~。颯太、お友達が来てるの?」
母親らしい声。耳にするなり大げさに飛び退く川辺。リオもすかさず我に返り、手早く服を整える。パタパタと足音が近づき……ノックとドアを開く音が同時に響いた。
「颯太、返事ぐらい……あら! あらあらあら。こんにちは」
「こ、こんにち……は」
眉間にしわを寄せて覗き込んだ母親の顔は、リオを見るなり満面の笑みへと変わった。
「あらまあ、ちゃんとお茶まで用意して。えっと……」
「井山、理央です。初めまして」
「リオちゃんね。よかったらケーキ食べる? 今買って来たんだけど」
「いえ、その……ありがとうございます。でも、もう帰りますので」
「──! リオっ?」
驚く川辺。リオは何事も悟られまいと平静を保ちながら、立ち上がった。
母親に深々とあいさつし、
「……ここでいい。今日はありがとうね」
「リオ、ごめんな」
悪びれつつ、やりきれない顔の川辺。手に持っていた先程のCDをリオに向かって突き出した。
「これ、貸すよ。返すのはいつでもいいから、またゆっくり聴いてほしい」
「うん……ありがとう。じゃあまた、学校でね」
さっと背を向け、足早に川辺家を後にする。ぐっしょりと濡れた下着が、早足で風にあたるたび冷たく張り付いてくる。
「すん……ぐすん。やだ。ほんっとに、いやだ」
あんなにも流されて──
頬を伝う涙をぬぐいながら、気持ちのやり場が無い自分自身に、ただただ情けなくなるリオだった。
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